フィジーク・オンライン
  • トップ
  • フィットネス
  • 日本代表チーム/フィジカルトレーナーに聞く子供のトレーニングと体力づくり#3

日本代表チーム/フィジカルトレーナーに聞く子供のトレーニングと体力づくり#3

この記事をシェアする

0
掲載日:2020.12.25
記事画像1
2020年、環境の変化により、子供が十分に運動できずに不安を抱える親も多い。こういった未曽有の状況に際してどうすべきか。ジュニア選手を含む、各スポーツ競技のトレーニングをサポートをする日本代表のトレーナー陣(フィジカルコーチ)にビデオ通話にて話を伺った。
(協力:東大阪アリーナ/東大阪市)

泉 建史(いずみ たけし)
(体操/トランポリン 他複数競技)
日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学/コーチング)
ナショナル強化医科学支援チームPTC/フィジカルコーチ
複数ナショナルチーム強化兼任 体操/トランポリン・新体操・ウエイトリフティング他
ナショナルトレーニングセンター強化拠点/高地トレーニング/
飛騨御嶽高原高地/医・科学サポートプロジェクト委員
街のスポーツ健康プロジェクト/東大阪/HOSスポーツ健康教育アドバイザー
NSCA JAPAN最優秀指導者賞


松田 浩和(まつだ ひろかず)
(テニス)
日本オリンピック委員会専任メディカルスタッフ/強化スタッフ(医・科学)
日本テニス協会ナショナルチーム/デビスカップ・フェドカップ日本代表チームフィジカルコーチ
日本テニス協会強化本部テクニカルサポート委員会委員
DRESS BODY PROGRAM代表


栄徳 篤志(えいとく あつし)
(アーティスティックスイミング)
日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学)
※日本水泳連盟・日本体操協会より委嘱
アーティスティックスイミング日本代表チーム フィジカルコーチ
医療法人はぁとふる 運動器ケアしまだ病院
Top Athlete Support team Heartful:「TASH」所属 理学療法士

指導に際して重要視すること、考え方、指導法

松田浩和氏

松田浩和氏

松田:まず「なぜトレーニングをやるか」という目的や意義、コンセプトを明確にして共有することを徹底しています。もう一つは、できるだけ即時的な効果を出す事。その場で効果や変化を実感させることを重要視しています。

追い込むことは簡単なのですが、結果を出すのは難しい。そこは指導者の腕の見せ所なのですが、ジュニアに関してはトレーニングするモチベーションを保つ目的もあります。目的を達成するための手段として「やらされてる感」から脱却してもらうためにもちゃんとロジカルに説明する必要があります。

トレーニングは中長期的に取り組まないと結果が出にくいものですが、ジュニアはそんなに長く待てません。ちゃんとウォーミングアップをすればこんなに変わるんだ、楽にうごけるんだと実感させる。もしくは数字で見せる。トレーニング後にジャンプをしたら高く跳べたなど、「変わったな」と思わないとやってくれません。「なぜやるか」の共有と、やったことによる変化に関しては大人よりも意識しています。
栄徳篤志氏

栄徳篤志氏

栄徳:ASは8人いるので、毎回のトレーニングセッションで順位をつけて競わせるようにしています。例えば、マシンを使ったウェイトトレーニングの場合では、身長や体格を考えずにどの程度の重量を持ち上げたのかという記録のみを見てしまうとポジションにより体格差があり不平等になるので、身長比や体重比も提示するようにしています。その日の「頑張り度」にコーチ間で点数をつけたりもしながらその日のうちに結果速報として選手にフィードバックしています。
それを始めたことにより、〇〇選手は〇〇kg持ち上げているから次はこうしよう。などと選手のモチベーションが上がるといった正の効果が出ています。このことにより、コーチ間では能力を評価しやすくなるというメリットも生まれ、選手間では競争心が生まれ、チーム全体の最低ラインの底上げが図れています。

泉:初期はあまり難しく考えずに運動して身体が動きやすくなる楽しさや分かりやすさを知ってほしいというのがあります。先ほどの競い合いに近いですが、お互いに触発されつつ学習できれば理想です。長所や短所、時期的なもの、他人との差異など自分自身を知ることで伸びしろや可能性を知ってもらいたいです。
アカデミックな面では、成長するに伴って身長や体格指数が変化します。わかりやすいパフォーマンス測定などの指標も活用して柔軟性・バランス・筋力・持久的な要素やテクニカル要素も一覧にして「トレーニングの目的やテーマを作る」必要性などを段階を得て紹介していきます。
その中でもちろん「熱を伝えること」「共に歩むこと」などは欠かせない指導材料になります。
将来的に日本を代表していく取り組み、「世界一の取り組み、世界一の志」へとジュニアからシニアへ繋げていきたいです。

怪我の予防に関する注力

泉建史氏

泉建史氏

泉:トレーニングでは「減速や加速」などの緩急をつけた制御学習や「立ち姿勢、座り姿勢でのトレーニング、仰向け、うつ伏せ、横向き」の5つをそれぞれ動的と静的に分けて実施するなど姿勢づくりに即したパターンを元に発展させています。
ジュニアでもトレーニングを意識する年代で「準備期」における「着地演習がメインのプライオメトリクス、回復を促すLSD、バランスを伴う柔軟性づくり」も推進しています。またナショナル強化医科学支援チームとしての動きでは各スペシャリストの連携を大切にしています。フィジカルトレーナー(フィジカルコーチ)とフィジカルコーディネーターを兼務しているので、全体の育成強化のマネージメントをして各専門職(医科学・栄養・映像・戦略)と「強化と回復」のファシリテーションをして長期的な計画を立てていきます。


栄徳:ASは、水中での技術練習の時間が非常に長いです。
水中競技の利点で、関節に重力負荷がかからないため長時間練習が可能というこということが背景にあります。
朝9時に入水したらプールから上がるのが午後の2時前。昼食後は午後3時半から入水して午後8時まで。夕食後に午後9時半から遅ければ午後11時ほどまで、一日10時間ほど練習しているのでトップの選手になってくると食事を摂っていても朝(練習前)と夜(夕食前)で体重が1.5㎏くらい減ってしまいます。1日摂取カロリーは3食の食事と補食を足して2500kcal~7000kcalで、チーム平均では4000~4500kcal程になります。
その練習の強度に耐えられる身体のコンディショニングが重要です。筋量や脂肪量(身体組成)や技術力よりもさらに根底となる部分。練習に耐えられるだけの栄養摂取ができているか、睡眠をしっかりとれているか、日々の疲労を溜めこまないセルフケアができているかというコンディショニングの部分です。ここが崩れてしまうと傷害が発生してしまうことにつながってしまうので、私としては朝一番の挨拶での声のトーンや表情、練習前のウォーミングアップでの各選手の行動など普段と変わりがないか目を光らせています。

松田:パフォーマンスの最大化と安定化を並行させたいです。
ジュニアは浮き沈みが激しく、先週は優勝したが今週は一回戦負けということがあるので最大化しつつ安定化させたい。
大きい屋根(パフォーマンス)を支えるためには柱が必要です。
柱の一本はフィジカル。もう一本はコンディション。この二本柱で屋根(パフォーマンス)を支える。一番起こしたくないのは肩の障害です。オーバーヘッド動作で左右非対称ということもあって肩に対する障害発生率は高くなってきます。それをいかに防ぐかという点はS&C(ストレングス&コンディショニング)職の観点で根本から取り組むべき所だと思います。
S&Cやフィジカルコーチと聞くと追い込むのが仕事と思われがちですが、どちらかというと怪我をさせないという事が土台にあります。練習は一生懸命取り組んでいるにも関わらず睡眠や食事が雑になることでパフォーマンスが効率よく支えられないということもあるので、小手先ではなく根本的な部分が重要です。

ジュニアの選手や保護者に伝えたいこと

松田:練習を見に来るご家庭ほど選手の成長が良いという印象があります。保護者の方にはできるだけ選手の練習を見に来て応援して頂きたいです。
昔、水泳のトレーニング指導にも関わっていたのですが、ジュニアの選手はゴーグルの下で保護者の姿を探しています。なるべく近くで一緒に応援してもらうことが子供たちのモチベーションや成長につながります。ビデオを撮ったり、関連する雑誌の購入や講習会などへの参加も大変に良いサポートです。

その一方で、過干渉はしないでほしいとも考えています。応援することと過干渉することは違います。あくまで決定権は子供本人にあるので、そのバランスのとり方を考えていきたいと思います。

栄徳:一言で言いますといろいろなことを経験してほしいと思います。運動やスポーツもそうですし、学校や集団の場など普段の生活の中でも多くの経験を積んでほしい。
昨今は早い段階で競技を一本に絞る早期専門化や若年化傾向があり、競技に特化した専門性の強いトレーニングを行う傾向にあるかと思います。それはいい事でもありますが、一方でそれに特化しすぎて他の能力の成長が疎かになっているようにも思います。
ASで言うと 走れない、飛べない、投げられないといった選手に遭遇することは稀なことではないです。別にこれが悪いと言っているわけでは決してありません。
良いか悪いかはさておいて競技に特化したトレーニングはもちろん必要ですが、私はそればかりに執着せず、例えばOFFの日には違うスポーツをしてみたりして、他の能力が向上することによる専門的能力の向上ということが起こりうるのではないかと考えています。もし、スランプに陥った時、技術力が伸び悩んだ時、自分の中の感覚の引き出しが多い方が解決の糸口をつかむのに良い方向に近づきやすいのではないかとも思います。

泉:いまお二人から話に出たように、自分もいろいろ経験をしてほしいと思います。
環境の変化に関しても当初は余儀なくされてしまったことではありますが、「いつもと違う工夫」「学習機会・情報を得る」こういった経験を通して、最終的には選手自身でメニューを提案できたり考えたり練習に取り組んだりできるくらいに自己管理ができるようになれば嬉しく思います。

成長と共に色々な経験をすることは将来的な引き出しにつながります。多くの情報が入る昨今ですが、「個別性も配慮して」子供自身で考えて決定するサポートができるように寄り添えると良いかと思います。
フィジカルコーチ(左から松田氏・泉氏・栄徳氏)日本代表トレーナー陣 取材協力 「子供のトレーニングと体力づくり」

フィジカルコーチ(左から松田氏・泉氏・栄徳氏)日本代表トレーナー陣 取材協力 「子供のトレーニングと体力づくり」