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「エビデンスに基づいたスポーツサプリメント 最新のサイエンス」Dr. ホセ・アントニオ 国際スポーツ栄養学会 東京大会(ISSN Tokyo)レポート#1

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掲載日:2022.03.15
2022年2月26日にオンラインで開催された国際スポーツ栄養学会 東京大会(ISSN Tokyo)におけるDr. ホセ・アントニオ(国際スポーツ栄養学会創設者・CEO)氏による講演「エビデンスに基づいたスポーツサプリメント 最新のサイエンス」のレポートを掲載。

まず最初に、鈴木志保子(日本スポーツ栄養協会 理事長)氏による基調講演「日本におけるサプリメントの利用と問題点」が行われた。
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日本におけるサプリメントの利用と問題点

日本における栄養学は病気の回復や予防のイメージがあるが、より健康的に生きていくためには日常に根付き、スポーツ栄養学を身近なものにする必要がある。

スポーツ栄養学の対象としてわかりやすいのはパフォーマンスの向上や試合や練習に合わせた栄養摂取を行うアスリート。練習の開始時間や強度など、エビデンスを個人向けにアレンジして栄養を管理することが望ましい。

身体活動量が多いと必要エネルギーや栄養素も増えるが、運動中は交感神経が優位になり消化吸収が抑制されるため、運動時間が長くなると消化や吸収を効率的に行う時間が短くなることを踏まえて戦略的な栄養摂取を考える必要がある。

日本では「栄養は食事から摂るべきもの」でありサプリメントを使ってまではどうかという考え方もあるが、運動量が高ければ食事だけでは賄えなくなるためサプリメントを適切に活用していくことが重要である。

一方で、JADA(日本アンチ・ドーピング機構)のガイドラインに則った原材料や生産工場であっても禁止薬物の混入(コンタミネーション)によるドーピングのリスクが絶対にないとは言い切れず、もしサプリに禁止薬物が含まれていてドーピング違反となった場合でも選手自身の責任となることを強調した。


続いてDr. ホセ・アントニオ(国際スポーツ栄養学会創設者・CEO)氏による講演「エビデンスに基づいたスポーツサプリメント 最新のサイエンス」が行われた。
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最終的な判断は個人に託される

サプリメントの規制は各国が独自で基準を定めており、米国では栄養表示教育法(DSHEA)という法律によりサプリメント業界が規制されている。

コマーシャルを見て謳い文句を科学的根拠と思い込みやすいが、それはエビデンスとは別物である。肥満の人が対象なのかアスリートが対象なのか、大学アスリートにおける研究結果をトップアスリートに適用していいのか。データをどのような相手に適用するかを考える必要がある。

また、動物実験の結果をそのままヒトに適用できるとは限らない。動物実験はサプリメントが作用するメカニズムの解析には役立つが、ネズミに効いてもヒトに効かないものもあるため、研究報告を一概に鵜吞みにせず、データの解釈や論文の読解力を上げることが重要となる。
それらの研究は品質が保証された場で発表されているか、結局は個々がデータを判断しなければならない。

サプリメント効果の等級付け

ISSN(国際スポーツ栄養学会)では研究結果に基づき、サプリメントを以下の3段階に分類しており、ISSNはⅢに当てはまるものを推奨していない。

Ⅰ.有効性を裏付けるエビデンスが強力かつ安全
(クレアチン、EAA、プロテイン、βアラニン、カフェイン、HMBなど)

Ⅱ.有効性を裏付けるエビデンス限定的、または相反する結果が混在している可能性がある
(BCAA、シトルリン、タウリンなど)

Ⅲ.有効性と安全性を裏付けるエビデンスが全くないかほとんどない

HMBは感情的な議論を呼ぶかもしれないが、データを見れば有用性があると言えるため一概に否定するのは誤りである。特に高齢者にはかなり効果があるが、一日6g以上増やしても効果は変わらないようである。

カフェインは多くの能力の向上に役立つ。クレアチンは徐脂肪体重や筋力以外にも認知や記憶など脳機能にも貢献する。なおクレアチンローディングの必要はなく、毎日5gほど摂っていれば十分である。

ホエイに比べてEAAの方が急性アナボリック反応は優れているが、EAAでもホエイプロテインでもそれ以外のものでも、一時的なものではなく長期の効果を考えて使用することが望ましい。

栄養素別の摂取量について

炭水化物は体重1㎏あたり5~10gが必要となる。ケトジェニックダイエット(炭水化物を可能な限り避ける食事療法の一種)を実践する人は効果があると言っているが明確なエビデンスはない。しかしそれも個人の自由選択である。また、消化速度の違いから様々な種類の炭水化物を摂取することも重要である。

たんぱく質は体重あたり1.4~2gが必要。高強度のトレーニングを行うなら2gが推奨される。なお3gを超えても体組成は改善され、害はない。
運動による同化作用は24時間、もしくはそれ以上続くためたんぱく質は3~4時間おきに継続して摂取すべき。
脂質は一日のエネルギー総摂取量の30%が目安。運動中と運動前は炭水化物とカフェインが、運動後にはプロテインの摂取が推奨される。

エルゴジェニックエイド(運動能力に影響する可能性のある栄養素や成分)ではないが、一般的な健康を考えた場合にはプロバイオティクスも重要となる。ファストフードやジャンクフードもたまにはいいが、全体的な栄養バランスを重視すること。

また、睡眠もリカバリーに大きく貢献するためアスリートは「なんとなく寝ようかな」ではなく良い睡眠を8時間取るよう心がけることが大切。

より高いレベルを目指すならばいろいろと試してみるべきだ

スポーツ栄養学やサプリメントの分野はデータの変化が非常に早く、1年間文献を読まないと時代遅れになってしまう。
サプリメントと効果に関して、エビデンスが明確でなくても相違する結果が混じっていても自身の役に立つ可能性があるならば試してみると良い。それで効果を感じれば継続し、感じなければ止める。少なくともデメリットはないだろうと、自身の見解を述べて講演を終えた。


取材・文:せきぐち
ホセ・アントニオ氏の引用した文献の和訳がSPOBEN(すぽべん)のHP「アーカイブ」ページからダウンロードできます。
https://www.spoben.com/
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