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「スポーツサプリメントの安全性(アンチ・ドーピング)」Mr.テランス・オローク 国際スポーツ栄養学会 東京大会(ISSN Tokyo)レポート#5

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掲載日:2022.04.07
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2022年2月26日にオンラインで開催された、国際スポーツ栄養学会 東京大会(ISSN Tokyo)におけるMr.テランス・オローク氏による講演「スポーツサプリメントの安全性(アンチ・ドーピング)」のレポートを掲載。

インフォームドチョイスとインフォームドスポーツの実効性やメリットに関して

インフォームドチョイスとインフォームドスポーツのアンチ・ドーピング認証を提供するLGC社はイギリスとアメリカに分析機関を備え、20年以上の分析経験と年間2万件以上の分析をこなしている。

LGC社は2004~2007年までWADA(世界アンチ・ドーピング機構)の分析機関でありアンチドーピング規定に沿ってヒトの検体の分析をしていたが、WADAでは分析機関がヒトの検体とサプリメントの両方を分析することが認められておらず、サプリメントの分析に専念するためWADA認定を放棄した経緯がある。

IOC(国際オリンピック委員会)は規定だけでなく禁止物質を取り入れることでの健康面に関しても明言しており、これらのリスクに対して世界アンチドーピング機構がスポーツでの使用を禁じている物質が入っていないか分析と認証を行う、2007年頃に生まれた世界的な認証プログラムがインフォームドチョイスとインフォームドスポーツである。

禁止物質混入(コンタミネーション)の3つのリスク

① 原材料や成分から取り込まれる
合成成分だけでなく天然由来の成分も含まれるので複雑化してきている。

② クロスコンタミネーション
禁止物質を扱っている製造施設で混入防止の隔離に不備がある場合。医薬品を取扱う施設では製造工程が厳密に区分けされ禁止物質が混入しないか、230種類を超える禁止物質の検査を行っている。

③ メーカーが意図的に混ぜる
特定の禁止物質を含む製品の需要を知る悪徳メーカーが混入させる。

意図せずに禁止物質を摂取してしまう「うっかりドーピング」は栄養士など専門職のサポートを受けていても起きている。サポートがなければなおさらそのリスクは高まり、それらが起きた場合にはキャリアと名声を失うことになる。
インフォームドチョイスとインフォームドスポーツのライセンス認証はそのようなリスクの解消と保護を行い、アンチドーピング違反のリスクを最小限に抑えることを推奨している。

すべての責任は自らが負う

WADAにおける「厳格責任の原則」では、違反したアスリートはすべての責任は自らが負うことになっている。
体内に何が入っても自身の責任であり、ドーピング違反を起こすリスクを抑えるためにどんな注意義務や努力を行ったかを証明することも求められる。
それらに際してインフォームドチョイスとインフォームドスポーツで認証されている製品を選ぶことが重要である。

もし、製品に混入が発生した場合には別のサンプルを分析して自身のドーピング違反がその製品の混入に起因することを立証することが必要となる。これらは薬を服用する場合も同様。

プログラムの認証を受けるためには

製造メーカーが原料をどこから仕入れてどのような管理をしているか、施設内で審査や点検をしているか、梱包や機械の洗浄方法も確認する。
さらに製品の製造工程が変更されていないか、新しい原材料を使用していないか、実際には別の施設で製造されていないかなど、混入のリスクを最小限に抑えるためにあらゆる部分をチェックしている。

プログラムの認証後は全ロット、または月一回の頻度でLGCが市場から無作為に製品を購入して未開封状態で受け取り、235種類以上の禁止物質を分析する。特定のロットを飛ばして任意の都合のいい製品だけを分析することは許可しておらず、どのロットを分析にかけるかはメーカー側は指定できない。
そうした検査を経て認証を受けたものはインフォームドチョイスとインフォームドスポーツのサイトに掲載されて製品検索ができる。
現在は150か国で約460の認証ブランドと約1770の認証製品を扱っているためほとんどの国で認証製品が入手できる。

認証プログラムでできる事とできない事

製品の分析を一回しただけで全ロットの製品に混入がないと推測したり宣伝することをLGC社では認めていない(他社では認可しているところもある)。
製造ロット間での変動も考えられるため分析は定期的に行う必要があり、単発の検査では十分とは言い切れない。製造メーカーが「100%禁止物質フリー」と誤解を招く表現をサイトやラベルに記載することも認めていない。そのような表示の製品を信用してはいけない。

その他の薬物検査

イギリスの軍や刑務所でのステロイドの濫用検査や、職場や校内での薬物濫用検査なども行っている。
現在流行している40種類の禁止物質の分析に加えて、今後リスクをもたらす可能性のある物質の検査も実施している。

1gあたりナノグラム(ng)の精度で分析し、これは50mプールにスプーン一杯分の禁止薬物が混ざっても特定できる精度である。ヒトの検体においてもそれと同等レベルの分析精度が求められる。

最後に

アスリートの意図しないドーピング違反を防ぐためにスポーツサプリメント製造メーカーはここ15年で品質管理基準を大幅に改善しているが、それでもまだ混入のリスクがあることも事実。
多くの場合、製造メーカー自体が事情を把握していないために起きている。
混入製品が発覚した場合そのブランドは大きな影響を受けるため、年に一度程度の検査では不十分である。高いレベルでの継続した分析検査が必要不可欠となる。
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