日米トップトレーナー”超”対談!「最高のコンディションで競技に臨むためには?」講演参加レポート
2024年12月1日、スポーツ業界全体の活性化を目的とした会員制オンラインサロン「スポ超」にて「日米トップトレーナー”超”対談!最高のコンディションで競技に臨むためには?」の講演が行われた。
日本の複数のプロやナショナルチームをサポートし続ける泉氏と、東京五輪で日本人で唯一アメリカ選手団のドクターとして帯同した仲野氏をゲストスピーカーに、アスリートのコンディショニングに関する考え方や体制づくり、日本とアメリカの環境の違いや可能性など選手を取り巻く環境の変化や課題について議論した。聴講者を含め非常に高いレベルとなった対談をハイライトでレポート。
仲野広倫 氏(TOKYO2020アメリカ代表ドクター)
東京2020大会、パンアメリカ競技大会のアメリカ五輪チーム(TEAM USA)ドクターとして帯同し世界最多の金メダルに貢献しアメリカオリンピック委員会医師団として活動。パリ2024大会をはじめ多くのトップアスリートやハリウッドスターなど著名人をクライアントにする。米国政府公認カイロプラクティックドクター(DC)、全米でも350名のカイロプラクティック認定スポーツ医(DACBSP)を取得しニューヨーク、マンハッタンで自身のクリニックであるTIAカイロプラティックの院長として日々の治療にあたり活躍。アメリカ最新医学、機能運動医学を世界で伝えるために出版しシリーズになった書籍「世界の最新医学が証明した究極の疲れないカラダ」を執筆。
https://king-gear.com/articles/454
世界最大のプロスポーツ育成機関や複数ナショナルチームのフィジカル強化、東京2020、パリ2024、ロス2028世代のオリンピック・パラリンピックのアスリートを指導。NSCAジャパン最優秀指導者賞、アメリカスポーツ医学会(EP-C)取得、ナショナルトレーニングセンター強化施設医・科学サポートプロジェクト委員、JOC医科学強化スタッフ委嘱をはじめJRA日本中央競馬会・競馬学校・トレセン騎手実践課程フィジカル育成強化を担う。NSCAジャパンエリアディレクターとして後進の教育、行政のSDGsウエルネスプロジェクトにも力を注ぐ。書籍には国際オリンピック委員会より注目された1252プロジェクトから出版された「女性アスリートコンディショニングエキスパート検定」の運動処方パートを執筆。
https://the-ans.jp/course/445893/3/
東 信幸
株式会社HATHM(はずむ)代表取締役
株式会社相模原プロセス代表取締役
運動音痴から運動センスを身につけた経緯から、運動センス開発トレーニング「バネトレ」の指導・普及活動を行う。子供からオリンピック選手まで、年間3000回のパーソナルレッスン指導。2020年、プロバスケットボールチーム「相模原プロセス」の立ち上げ中。
高橋 成美
フィギュアスケート・ペア ソチオリンピック日本代表
2012年世界選手権では3位となり、日本人史上初メダリストとなる。引退後は松竹芸能に所属し、松竹芸能初となる元オリンピック選手タレントとして幅広く活躍している。
日本⇔ニューヨーク 特別対談で中継 ゲストスピーカー仲野広倫ドクター、泉建史フィジカルトレーナー 司会進行の東 信幸代表、高橋 成美さん
スポ超:スポーツ指導者やトレーナーに留まらずスポーツに携わるすべての人に、他の競技の知識やスポーツに共通する考え方を共有することであらゆるスポーツの競技レベルの向上とスポーツ業界全体の活性化を目的とした会員制オンラインサロン。300名以上のトップアスリートや指導者・専門家が在籍。
トップアスリートに関わる経緯
最初はボランティアから入って関わって。それを何度も繰り返しているうちに呼んでもらうようになりましたが膨大な年数を要しました。
ただ、アスリートに関わる現場は派手になりがちで、運営側としても「お金出さなくてもやりたいやついるだろう」の姿勢でい続けるのは良くないとも思っています。
最初に「オリンピックに関わる」というゴールを決めておいて、この段階でこれくらいの位置にいないと、ここに関われていないとだめだなと年単位で進捗を管理しました。長い道のりでした。
オリンピックにスタッフとして関わるには本拠地に関わって行くか、各競技に関わってついて行くかのどちらかです。
選手だと成績等である程度実力は測れますが、トレーナーの指標はないので選考や申し込みではありません。
役割としてメンタルよりはフィジカルのサポートがメインで、怪我を治すこともありますがそれよりはまず怪我をさせないことが大事だと思います。
TOKYO2020開会式 仲野広倫ドクター(2021.8)
PARIS2024大会会場 泉建史フィジカルトレーナー(2024.8)
サポート体制や環境、方向性に関して
山奥や砂浜を走るような原始的なメニューを行う事もありますが、デバイスをつけて睡眠の質や時間を見たり、免疫が落ちていないかを測定することもあります。またJUMPの質(スピード、高さ)、バイクテストなどの体重比パワー測定などもします。担当する採点系競技から持久競技、アーバンスポーツまでこのあたりを行いフィジカル戦略を組み立てます。
競技によっても違いますが、運動時間や運動強度、走行距離などから算出して独自の指標を持っているチームもあります。こういったことは各分野の専門家と協力して方向性を決定したりプログラムを組んでいきます。
仲野氏:数値化とは逆ですがアメリカは手技があまり盛んではないので、すべてはカバーできませんが手での治療(手技)ができると便利だと気付きました。
DCかPT、ATC、SCなどライセンスによって専門分野が明確に分かれているのが日本と違うところに感じます。日本だと整形外科でレントゲンを撮り、それを元に治療のメニューを組む流れになりますが、アメリカだとその流れがシームレス。
日本のクリニックは壁で部屋が分かれていて専門家も部屋ごとに区切られていますが、アメリカのクリニックは壁がない広い空間で部屋にも分かれていません。それぞれの専門家が一人の選手を同時に見られるから連携や議論がすごくスムーズに行われます。
壁があるかないか。たったそれだけの単純なことですがその違いが非常に印象的で、そこが強みの一つかなと。
大きな規模の大会になるほど各分野のスペシャリストがいるので自分の仕事は減っていきますが、怪我をしそうなアスリートがいたときには今の状況を選手自身で理解させてあげたいです。
仲野氏:各チーム、予算に合わせてスタッフを連れてきます。大きなチームだとマッサージはマッサージで専門の人がいて。マイナー気味なスポーツはなかなかドクターを連れてくるのも難しい。
予算があれば良いですが、予算がないほど自分達で何でもやらなければなりません。フィジカル専門の人と競技スキルを教える人、最低でもこの二人は必要かなと。
他の人ができないような得意分野を持っておくことが強みになると思います。資格で言えば、例えばNSCAライセンスは海外の内容を日本語でやっているだけなのでレベルとしては変わりなく、SCを探す時にNSCAライセンスを持っている人はすごく信頼できます。
パフォーマンスピラミッドとリカバリーピラミッド
リカバリーピラミッドはNSCA スポーツ科学の基礎知識 Duncan N. French, Lorena Torres Rondaでも紹介されており、ゲストの泉建史氏から「指導現場で活用するパフォーマンスピラミッドとリカバリーピラミッドのバランス」に関する提言。
怪我をせず健康な状態でいるのが何より大事なので、数値化も重要視する一方で身体と対話することも重要視しています。日本でもトータルコンディショニングを大切にしてセルフマネージメント教育などが広がっている印象です。
仲野氏:リカバリーピラミッドの一番底、まず寝ること。調子が悪い選手に話を聞くとシンプルに寝てなかったりもする。パフォーマンスピラミッドでは土台がしっかりできていないのに高い力を出そうとすれば壊れてしまいます。
自分の専門分野ならば負けませんが、逆にアメリカでは自分の専門分野以外は物事を調べた選手の方が詳しかったりしますね。
例えば飲んでいる薬の事とか、英語情報だと簡単に膨大な量の情報にアクセスできます。
あとは良いと思った事をすぐに取り入れる思考の柔軟性が高いです。変化が早い、どんどん変わっていきます。
泉氏:アスリートに言える事ですが自分の知識や教養の土台がないと情報の適切な「選択」ができません。自分で情報を判断する能力を身につけるようにとジュニアの時期から伝えるようにしています。
仲野氏:アメリカでリハビリを処方する時に選手から「これは自分には合わないから違うものを」と言われる事もあって、選手側も経験則から善し悪しを知っています。アプローチとしては自分の特技を押し付けるのではなくてベストコンディションを作るために常に選手個々のトリートメントを行っていく必要があると考えています。
泉氏:最高のコンディショニングで競技に臨むためには様々な専門分野の協力が必要になります。(JOC情報・科学部門長の杉田正明先生、国立スポーツ科学センターの清水和弘先生はじめ情報発信していただいている先生方も多く)こういった情報はスポーツ分野だけでなくウエルネス分野をはじめ様々なシーンで輪が広がって欲しいと思います。
(公益財団法人日本オリンピック委員会 情報・医・科学専門部会)2016
https://www.joc.or.jp/games/olympic/riodejaneiro/pdf/conditioning_guide_rio2016.pdf
■免疫コンディショニングガイド
(独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター研究部 清水和弘)2018
https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/hpsc/guidebook_HPSC3.pdf
■NSCA JAPANストレングス&コンディショニング
エクササイズ動画・静止画一覧
https://nsca-japan.or.jp/video-cat/resistance/
■1252女性アスリートコンディショニング
https://spo-tome.com/12/05/2023/14163/
■WANS ACADEMY女性コンディショニング
https://w-ans-academy.the-ans.jp/women-interview-column/1986/
国内だと専門分野が細分化されず「トレーナー」でくくられてしまっており、特に昨今ではその「トレーナー」の多くがボディコンテスト、ボディメイク的なイメージが先行して競技パフォーマンスに繋がる指導者としての方面のイメージが持たれにくいように感じているというもので、かなり的確な提言に思う。
世界で活躍する日本選手でもトップ層になるとサポートや環境、連携の点でまだまだベースとして差があるように感じた。この差を埋めるためにはハードとソフトの両面から長い時間をかけたアプローチが必要になるように思う。
また、リカバリーピラミッドの概念は初耳であった。あらゆる競技に通じる概念であるため積極的に取り入れていきたい。
スポ超では多分野の競技において名実ともに兼ね備えた著名人による講演を多く開催しており、飛躍的に知見を広げてくれる。興味をお持ちの方はぜひ覗いてみてほしい。
取材・文 せきぐち