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専門的エクササイズの考え方と設定方法

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掲載日:2018.02.19
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専門的エクササイズの動作や条件の設定は図2-4のような手順で行います。設定方法の詳細についてステップごとに紹介します。

STEP1 :強化課題の抽出と分析

1 )強化すべき動作と個人的課題の抽出

①強化すべき動作の抽出
専門的エクササイズを設定するための最初の作業は、「スポーツのどんな動きを強化するのか?」を明確にすることです。陸上競技やスピードスケートのように特定の動きを反復する動作の場合には、強化対象が比較的限定されていますが、球技種目については、きわめて多様な動作がみられるため、強化すべき動きを絞り込む必要があります。例えば、バレーボールの場合には、さまざまなプレーの中から、パワーやスピードを改善したい動作として、サーブ、スパイク、ブロック、トス、レシーブ、といった動作を抽出します。


②個人的課題の抽出
a. 形態・体力の課題
専門のスポーツ種目において、目標とするパフォーマンスを発揮するために必要な形態や体力が備わっているか、また、どんな体力要素をどのレベルまで改善すべきかについて検討します。

b. 技術・戦術の課題
多くのトレーニング目標を同時に達成することはきわめて困難なことです。そこで、選手個人の特徴や、「この選手はこのプレーがうまくなれば代表選手になれる」といった技術・戦術的課題を抽出し、重点的に強化すべき動作や体力要素を絞り込むようにします。

2 )強化対象となる競技動作を分析する

強化すべき動作が特定できたら該当する競技動作について、実際の練習や試合を観察したり、ビデオ映像や連続写真などを用いたり、選手自身に動きを再現してもらったりしながら、次のような観点で分析します。

①身体各部の動きと動作パターンは?

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競技動作中に力を発揮する方向や、身体各部の動きについて観察します。例えば、砲丸投げの場合には砲丸を投射する角度や軌道から、実際のトレーニングで力を発揮する方向を決定します。

その他、競技動作特有の動作パターンとして体重支持の形態(両脚支持、片脚支持、空中での動作など)、左右の動作パターン(左右同時、左右交互、片側のみなど)、パワーの伝達パターン(下肢から上肢へ、上肢から下肢へなど)についても観察します。

②姿勢や関節角度、可動域は?

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競技動作中の姿勢や重心位置について検討します。例えばすもうの「突っ張り」の動作では、直立姿勢で上肢は正面に押す動作を行い、アルペンスキーのターン動作では、しゃがんで斜めに傾いた姿勢で下肢は横斜め下方向に蹴る力を発揮しています。このような情報をもとにして、エクササイズの動作中の姿勢を決定します。

競技動作中に力を発揮する関節角度や動作の可動域についての分析も必要です。例えば野球のキャッチャーは、相手チームの一塁ランナーが盗塁した場合、完全に膝を曲げてしゃがみ込んだ姿勢から素早く立ち上がって二塁に送球する動作を行います。一方、陸上競技の走り高跳びゃバスケットボールのランニングシュートの踏切脚の膝関節角度は軽く曲げた程度になっています。

③特に使用される筋肉は?

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競技動作を分析し、特に使用される筋肉(主働筋)について把握します。例えば、砲丸投げの場合には、斜め前上方に砲丸を押し出す動作を行うことから、大胸筋の上部や三角筋の筋力強化が必要であり、野球のバッティング動作やゴルフのスイング動作では体幹の回旋が行われることから、外腹斜筋を中心とした体幹の筋力強化が必要となります。その他、主働筋とともに働く共働筋や、姿勢を保持するための筋などについても分析し、強化すべき部位を検討するための資料とします。
コラム・・・選手とともに創り上げていく醍醐味

専門的エクササイズの動作や条件の設定方法には、本書で示すような原則やガイドラインがあり、これに則ってトレー二ング方法を検討していけば、失敗する確率は低くなります。しかし、どんなに知恵を絞って考え抜いたトレーニング方法でも、選手が実際に行ってみるとうまくいかないことが多いのです。

トップ選手の競技用のシューズをオーダーメイドする過程を考えてみましょう。最初に、選手の足形をとり、選手の要望を聞いた上で試作品を作ります。この試作品を選手に履いて試してもらい、形状や固さ、通気性など、さまざまな部分の微調整を何回も繰り返して、シューズの完成度が高まっていきます。

選手に合った専門的エクササイズを考案する過程もこれとよく似ています。選手のニーズや競技特性を熟慮して作り上げたエクササイズであっても、選手に試してもらうと「実際の動きとは感覚が違う」、「どうも違和感がある」といった感想が聞かれることがあります。このような選手の感想や要望に応じて、工クササイズの内容に調整を加えては試してもらう作業を繰り返すことによって、その選手にとって本当に効果的な工クササイズへと仕上がっていくのです。


また、どんなに効果的なエクササイズでも、末永く良好な効果が上がり続けるわけではありません。選手の技術や戦術は、競技経験や年齢を重ねるにつれて、どんどん進化していきます。トレー二ング方法についても、これに応じて変化させていかなければならないのです。

効果的なエクササイズを考案する過程は、選手とともに行なう「創造」といえるものであり、多くの時間と労力を要するものではありますが、パフォーマンスが向上したときには、大きな喜びと醍醐味が実感できるものなのです。
  • 競技スポーツ別 ウエイトトレーニングマニュアル
    著者:有賀誠司
    発行所:(株)体育とスポーツ出版社

[ 競技スポーツ別 ウエイトトレーニングマニュアル) ]

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