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NSCAジャパン トップアスリート特別講座 世界レベルのアスリートに聞くスポーツ・運動の「する・観る・支える」前編

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掲載日:2018.07.18
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2018年6月10日、千葉県流山市キッコーマンアリーナにて「NSCAジャパン トップアスリート特別講座×流山市スポーツボランティア講座」として、フリースタイルスキーモーグル男子日本代表、2018年平昌オリンピック銅メダリストの原大智選手と、モーグル日本代表トレーナー 米澤和洋コーチ(NSCAジャパン副理事長)による講演会が開催され、多くの聴講者が熱心に耳を傾けた。
原:スキーを最初に始めたのは3歳の頃です。両親がアウトドア好きで、中学くらいになると頻繁にスキー場へ行くようになってきて、色々と技をやった中でもジャンプが特に楽しく、様々な特性が合わさっているということでモーグルを始めました。

モーグルの見どころはターン、ジャンプ、スピードで、ターンは60満点、ジャンプは20満点、スピードは20満点というようにそれぞれの部分に評価点があり、いくらターンだけが良くてもスピードとジャンプが悪いと良い点が取れません。全長250m程のコースを、男子選手だと時速70キロ程で20秒前後で降りてきます。

オリンピックは多くのボランティアに支えられている

原:国をあげての大会というだけあってやはりオリンピックは特別で、通常の大会に比べて規模の大きさや注目度、会場の独特の雰囲気が全く違うことに驚きました。

米澤:周囲の道の規制もかかります。平昌の町に流れる川が凍るのでそこに雪を持ち込んで雪祭りをやっていたりなど、町が全体的にオリンピックを楽しめるようにもなっていました。現地では選手村に入れる人数枠が決まっているため、町外れに宿を借りて自分達で会場へ向かうということもしました。

こうした大きな大会の開催には多くのスポーツボランティアの方の協力が必要です。
それらは試合の成績に直結するような部分ではなくて、選手を支える立場や大会の運営をする立場の人をサポートしてくださる人です。言葉の部分や交通誘導、現地で物を調達する必要がある時に細かい情報の提供など、多くの部分で支えられて成り立っています。

選手からしてみると、ボランティアの方に支えられていることは終わってみないと本当にわからないのです。今から行う競技にのみ集中しているため、そのときではわからない。 

それでも、ボランティアの方がいないと成り立たないのが現状です。
応援するサポートや運営をサポートするボランティアの方や、テレビで観戦する我々も含めみんなのオリンピックなんです。みんながいるからこそオリンピックができる。今までいくつか経験してますが、いずれも必ずそう言えます。

世界大会レベルのコンディショニング

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原:前日までは自分では空回りしていた感がありました。
少し体を痛めてトレーニングができなかったり、試合の間際に風邪を引いたり。随時トレーナーの方と話し合って対処や方針を決めていました。そういった、やってしまったことは仕方ないので、それを次にどうするかというのが大事かと思います。

普段はあまり緊張しないほうなのですが、オリンピックの予選のときはすごく緊張しました。
その競技で一番最初に滑ることになったので、自分から始まって、自分がスタートすればその競技が始まるというプレッシャーがありました。逆に決勝はあまり緊張せず、すごく楽しめて滑ることができました。

オリンピックに関わらず、大会全てが必ず楽しいわけではないです。
自分のペースでスキーをしていればそれは楽しいですが、多くの人が見ていて成績を出さなければいけないという不安もあります。

会場では大体どこも雪は硬くて、柔らかいのは日本くらいです。平昌の会場の雪もカチカチでしたが、あまりそこは気になりません。それよりはコースの形状やジャンプ台の飛びやすさなどに影響を受けます。 

足腰の強化が重要な課題

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米澤:私は2年前にモーグルチームに合流しているのですが、怪我をしている選手がすごく多かったです。怪我をさせないためにはどうすれば良いかを考えたり調べたりするのですが、モーグルは競技人口が少ないのでデータも少なく、細かく調べにくい。

なので、今までの知識と映像、選手の話を合わせて二年間の計画を立てました。

その計画では足腰の筋力を上げることを重要な課題の一つとしました。
原選手はスクワットで自分の体重の2.4倍の重量の重さを扱います。自体重の2.3倍を目標にしていたのですが、それを上回ることができました。非常に重く思えますが、それくらいの重量を扱える筋力がないと自分を守れないのです。自分のパフォーマンスを支えるための身体が持たずに怪我をしてしまいます。

それを、世界選手権に向けて身体能力のピークとどう合わせるかということも重要です。
メニューの一例として、例えばスナッチに関しては体重70kgくらいで90キロ位を頭上へ差し上げます。自転車を使って持久力も高めていきます。持久力に関して、競技自体は22秒で終わるとしても、それでも非常に高い疲労度があります。それを一日で3~4本、練習も含めると6~7本やっていかなければなりませんので、必然的に求められるものになります。

そうすると持久力をつけて回復能力も高めていって、その中で筋力を発揮させることをしないといけません。そうしないと先述のように、競技をやっていく上で自分の身体を守ることができず、そうするとパフォーマンスを発揮することができません。なので、日頃のトレーニングは相当追い込んでいます。

スナッチは瞬間的に大きな力を出すという事と、頭上に持ち上げるための動作の効率を求めていますが、それらはジャンプに対してというよりは着地に活かすことが目的です。
モーグルはコブを「滑る」というよりは「落ちる」ような動きです。主観でだとコブの下が見えないので、着地の衝撃に素早く反応して次の動作を行わなければいけません。そのため、スクワットやスナッチのようなトレーニングが必要です。

カナダで得た「自分で考える」こと

原:中学を卒業して高校進学でカナダへ留学しました。モーグルはカナダ人が表彰台を独占するくらい強豪なので、カナダに行けば強くなると思っていました。環境的にスポーツをやらざるを得ない環境で、トレーニングの設備も充実していました。

カナダにいたときは練習も筋トレも全部自分でやらなければならなかったのですが、そこで初めてトレーニングをしてその楽しさを知りました。
そこから、これがどういう筋肉でどうパフォーマンスにつながるかということを考えてやってきたので、それらの経験が今に生きていると思います。
筋トレに関しては、重量が上がれば筋力も上がっていて、パフォーマンスに活かしやすいとシンプルに考えていました。

トレーニングと言っても、自分としては技術系のトレーニングと筋力系のトレーニングに分けて考えていて、どちらも行うべきだと考えていて、一番必要だと思っているのは体幹だと思っています。

米澤:体幹というのはベースです。体幹だけ鍛えたらそれで全ていいかと言えば、決してそんなことはない。
例えば原選手がスクワットで190kgを持ち上げた時のほうが、一般的なプランクよりもよほど体幹部に負荷がかかっています。

手や足を動かす等、全ての動きの前に腹部に力が入って体幹部が固まるという性質があります。
したがって、体幹トレーニングだけやっていれば良いというイメージがあるかもしれませんが、それはウォーミングアップになっているだけです。

原:ジャンプ中は体幹を固定することも大事ですし、滑っている最中は動かすことも大事ですので、固定することも動かすトレーニングも大事です。どれか一つだけやれば良いわけではなくて、何を目指すかでやり方も変わってくると思います。

米澤:モーグルの選手の中でもカーブを得意とする選手やジャンプを得意とする選手など様々なのですが、いずれも体幹部だけでなく下半身の強さが共通しています。

空中での感覚に関して

原:まずトランポリンで空中での感覚を掴んで、その次に滑っていってプールに飛び込むという練習法をしています。何が良いかは自分自身も良く分かっていません。
手本に忠実でなくても、自分の個性やスタイルが出ていれば良いのではというように考えています。

米澤:それも選手の技術の一部です。空中で練習した動きを映像で観て、どうすればもっときれいになるかというのを一緒に試行錯誤しています。


後編は近日公開!