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NSCAジャパン トップアスリート特別講座 世界レベルのアスリートに聞くスポーツ・運動の「する・観る・支える」後編

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掲載日:2018.07.20
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2018年6月10日、千葉県流山市キッコーマンアリーナにて「NSCAジャパン トップアスリート特別講座×流山市スポーツボランティア講座」として、フリースタイルスキーモーグル男子日本代表、2018年平昌オリンピック銅メダリストの原大智選手と、モーグル日本代表トレーナー 米澤和洋コーチ(NSCAジャパン副理事長)による講演会が開催され、多くの聴講者が熱心に耳を傾けた。

体脂肪を4%まで落としてみる

原:今の体脂肪は9%くらいですが、去年の7月に一時期、4%になったときがありました。 
そこまで落とすことでパフォーマンスにどう変化が出るか知りたくて試しました。コーチや栄養士の方にそうするよう言われたわけではありません。

甘いものが好きで太りやすい方なのですが、その時は食事管理を徹底的に行なって、練習内容も相まって基礎代謝の数倍近いカロリー消費量だったので比較的落としやすかったです。

それでいざ体脂肪を4%まで落としてみたら、全くだめでした。
持久力も落ちて、思ったように身体が動きませんでした。自分の身体にとって、4%の体脂肪はあまり合っていなかったということがわかりました。

米澤:食事に関して、元々の食べる量が本当に半端ではなくて、1食でご飯とラーメン、チャーハン、うどん、サラダ、肉、魚、ヨーグルト… それを毎食です。先の話で、食べる量を減らしたと効くと皆様お茶碗一杯分くらいを想像されるかもしれませんが、減らした時期でも人並みの食事より多いくらいです。

無理に、もしくは無為に痩せてパフォーマンスが落ちるだけならばまだ良いのですが、減量の影響で怪我をしたり病気になったりすることは最悪の事態です。栄養士の方ともそのあたりに留意してもらいながら相談をしています。

とりあえずやってみて手探りする

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原:トレーニングのメニュー自体は米澤先生に作ってもらったものに基づいて行っているのですが、それ以外は自分で勝手にやっていることも多いです。減量に関しても自分から提案して、やってみようというようになりました。
結構頻繁に相談をするのですが、それらの提案を否定されたことは今まで一度もないです。とりあえずやってみようということ。

米澤:選手にとって何が本当に良いのか、やってみないとわからないものもあります。
どのくらいの体脂肪率がベストかについても、体脂肪率が男性だと20%、女性だと25%を上回るとあまり良くないかと思いますが、下限だと男性だと4%、女性だと10%を切るのも望ましくない。その間のどこが理想かがはっきり分かっていないので、どのあたりが最適かを探していく必要があります。
それと同時に、モーグル選手のデータも少ないので、色々なことに挑戦しながら反応を見つつ手探りで進めていくしかない部分もあります。

普段の練習の取り組みが明暗を分ける

原:チームでやる合宿と個人でやる練習は全く違います。個人でやる場合は練習予定を自分で決めて進めていくのですが、チームだと技術練習自体は5~6時間で、それからトレーニングやミーティングを行う場合もあります。 

選手自身がどれだけ 自分に合った練習量で頑張れるか。
やらされる感じではなくて、これだけやれば自分は強くなれる、うまくなれると思って練習をしていくことが大事だと思います。すごく辛かったですがそういう想いで乗り切りました。
個人練習もやらなければ技術も筋力も落ちてしまうし向上もしない やれば強くなる、やらなければ弱くなるという考えで取り組みました。

米澤:トップ選手とそうでない選手の違いは、やるべきことをきちんと決めてやるか、それを習慣としているかです。
自分で考える能力を持った選手になってもらうために、各スタッフも情報を共有していく。なぜこれが必要か、どうしてこういうことが必要かと。
やらなければいけないことを自分で見出して、それをやる習慣をつけていく。これをしっかりと行うか否かが、トップ選手とそうでない選手との差だと思います。

今もうすでに次のシーズンも始まっていますが、原選手はオリンピックの時に培った筋力が残っています。それを次にどう結びつけていくか。
調子がいい時期があればその反動で調子が悪い時期も必ずどこかで出てきます。

それをうまくコントロールするために トレーニングをしたり練習をしたり回復をしたり。これらを1セットで考えていかなければならなりません。どうすれば次に繋がるか、どうすれば新たな可能性を見つけることができるか、選手や監督と相談しながら進めている状態です。
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ストレスマネジメントについて

原:選手がスタッフの方に対してあまり良くない態度をとってしまうことがあります。
強烈な反抗期のようなもので、結果が良くなかったりするとポジティブになれず、感情の起伏が激しいトップ選手もいます。
一方、スタッフの方はそれを知ってくれているので、ストレスを減らすようなアプローチをしてくれていることを感じます。それに救われてトレーニングや練習に集中できる、ということもあります。

米澤:結果を出すためには日々の練習が大事になります。練習の質を考えていく場合には選手も集中力を持って臨まないといけません。しかし、選手も日常生活の中で色々な出来事があるので集中しきれないこともあります。

それで怒っても何も変わらないので、視点を変えていくことで良い方へ目を向けさせて行く。
気持ちの部分は非常に難しい部分で、選手とコーチだとどうしても、教える側と教えられる側という、管理された立場に見えてしまうと思いますが、コーチとしては選手を自立へ導いていかないといけません。

平昌オリンピックの時、大会の一週間前くらいに現地に入りました。選手たちは、自分たちの生活の軸を確保するために周囲の環境に慣れようとします。こちらは、いつトレーニングさせようとばかり考えていましたが、まず生活を安定させないことには練習もトレーニングもできない。実際、現地でのトレーニングの予定が数時間押すこともありました。それでも現地の方々が施設を最後まで開けておいてくれて、支えてくれていました。

原:怒られている選手はあまり成績がのびていないように思います。
実際、オリンピックに行ったメンバー4人は誰も一度も注意も叱責も受けていません。自分から行動できる人は周りも見ていてくれるように思います。怒られてしまうと愚痴も増えてしまいますし、それにより周りの空気も悪くなってしまいます。

米澤:「怒る」というよりはいい方へ向かえるように「提案」をすべきだと思います。

また、これは持論なのですが、自分のやっているスポーツの楽しいところを3つ言えますでしょうか。もし言えなければ指導者やコーチとしてはどうかと思います。それぞれの人が思う色々な楽しさがあって、そういった楽しいことを伝えていくことでいい影響をもたらすことも大事だと思います。

私達は例外なく、健康を維持するために運動をしていかなくてはなりません。脳血管障害や糖尿病も、運動で改善されるということが分かってきています。選手は障害を予防したりパフォーマンスを上げるためにやりますが、その中でもやはり足の筋力は特に重要になってきます。

今皆さんが座っている状態から、手を胸の前に組んで片足で立ち上がることはできますでしょうか。もしこの動きができなければ、現状のままではこの先、長く歩き続けることは難しい状態です。

やはり私たちは歩かなければいけない。そのためにも足の力を鍛えなければなりません。その場でできるものだと、椅子に座った状態から、まずは両足の裏で床を押すようなイメージで立ち上がることから始めます。それができたら、立った状態からゆっくりしゃがんでいって、椅子にお尻がついたらすぐにまた立ち上がる方法などがあります。あとは、筋力だけでなく判断能力を高めていくようなものを取り入れていく必要があります。

クールダウンについて

原:激しい運動の後にはクールダウンが必要で、30分以上ジョギングをしてからストレッチやストレッチポールで、大腿を中心にして全身をほぐしていくようにしています。

米澤:同じくらいの強度の運動をやらせたサッカー選手達に三種類の方法を行わせて、どれが一番疲労がとれたかを調べた研究があります。
アイスバスに三分間、ストレッチ、マッサージ、一週間ごとに交代して三週間統計をとる。その結果、アイスバスが一番疲労が抜けて、次がストレッチ、最後にマッサージの順です。

それを元に自宅で行うにはどうするかと考えると、冷たいシャワーを浴びてからストレッチをしていくという方法が一番良いのではと考えています。アイスバスのためには氷が大量に必要になるのですが、冷水でもさほど効果に差はないと思います。

山でトレーニングをした時には必ず川に浸かってもらいます。長野の白馬なのですが、夏でも3分も我慢出来ないほどに冷たいです。自然環境があればこういった活用をしています。

サポートの本質

原:僕はトレーニングに関しては素人なので、自分でやってみた感覚しかわからないのですが、自分の体は自分が一番知っておかなければいけないと思っています。
自分に何が必要かというのを探し出して行くために相談をしたり、試行錯誤を繰り返していくので、やはり各分野専門のスタッフの方にいて頂いたほうがありがたいです。

しかし、選手が信頼をしなければせっかくの存在も無駄になってしまいますので、お互いの信頼関係が大事だと思います。

米澤:「今こんなことを考えている」と選手から相談を受けた時に、自分たちができることは何なのか。こちらが思っていることも伝えつつ、常に選手が良い方へ向かうように選択していく。この積み重ねが育成であり、今後に繋げるために非常に重要な部分だと思います。