フィジーク・オンライン
  • トップ
  • フィットネス
  • コンディショニングの習慣形成はジュニア期から -望ましい習慣の形成の道程は長い- #1 篠田邦彦 NSCAジャパン理事長 新潟大学名誉教授

コンディショニングの習慣形成はジュニア期から -望ましい習慣の形成の道程は長い- #1 篠田邦彦 NSCAジャパン理事長 新潟大学名誉教授

この記事をシェアする

0
掲載日:2018.08.06
記事画像1
特定非営利活動法人NSCAジャパン ストレングス&コンディショニングフォーラム2018より、NSCAジャパン理事長、新潟大学名誉教授 篠田邦彦氏の講演をレポート!

スポーツが変える、未来を創る

まず結論から言えば、人生の長い間を健康的に生活していくためには今すぐに望ましい生活習慣とコンディショニングを形成する必要がある。
そして今後の我が国のスポーツ施策の具体的な方向性を示すものとしてスポーツ庁による「第2期スポーツ基本計画」として以下が挙げられる。

1.スポーツで「人生」が変わる!
スポーツをすることでスポーツの価値が最大限享受できる。スポーツを生活の一部とすることで、人生を楽しく健康で生き生きとしたものにできる。

2. スポーツで「社会」を変える!
スポーツの価値を共有し、人々の意識や行動が変わることで社会の発展に寄与できる。スポーツは共生社会や健康長寿社会の実現、経済、地域の活性化に貢献できる。

3. スポーツで「世界」と繋がる!
スポーツは多様性を尊重する世界、持続可能で逆境に強い世界、クリーンでフェアな世界の実現に貢献できる。

4. スポーツで「未来」を創る!
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等を好機として、スポーツで人々がつながる国民運動を展開し、オリンピックムーブメントやパラリンピックムーブメントを推進。
本計画期間においては、スポーツ参画人口を拡大し、スポーツ界が他分野との連携・協働を進め、「一億総スポーツ社会」を実現する。

運動習慣と体力の二極化傾向

全国体力調査において一週間の総運動時間を平日、土日別に算出した結果、一週間の総運動時間において二極化が起きていることがはっきりと示された。

中学生は男女とも、運動やスポーツの実施時間がi一週間に60分未満の生徒の割合が最も多く、男子では9.3%、女子では全体の1/3に近い31.1%が一日に平均して10分足らずしか体を動かしていないという実態が示されている。

この傾向が特に女子に多く見られるということは、将来母親になったときにその方に運動習慣がなければ、その家庭はほとんど運動をしなくなってしまう可能性があることを意味する。

運動習慣がついていない家庭が増加していることや、結果として医療費も高くなってきていること。
そこに我々も気づかなければいけない。

子供の体力は昭和60年から現在まで低下の一途を辿っている

肥満傾向の子供の割合が増加する一方で、痩せすぎの子供が特に女の子に多い傾向がある。
そして痩せ型傾向の女の子は、さらに痩せたいという願望を持つことが多く、ちゃんとした栄養知識や運動習慣を持っているわけもなく、生活も乱れている。

子供の体力の低下は、豊かな人間性や、自ら学び、考える力といった「生きる力」を身につける上で悪影響を及ぼし、創造性や人間性、豊かな人材の育成を妨げる等、社会全体にとって無視できない問題である。

子供の体力の低下の原因

保護者をはじめとした国民の意識の中で、子供の外遊びやスポーツの重要性を軽視するなどにより、子供に積極的に体を動かすことをさせなくなったことが一因にある。

子供を取り巻く環境の変化や生活の利便性向上により、子供の生活は日常的に体を動かすことが減少する方向へと変化し、スポーツや外遊びに不可欠な要素である時間、空間、仲間が減少した。

また、発達段階に応じた指導ができる指導者が少ないことも要因として挙げられる。
学校の教員等に関し、経験不足や専任教員が少ないことなどにより、楽しく運動できるような指導の工夫が不十分との指摘があり、それらに加えて偏った食事や睡眠不足など、子供の生活習慣の乱れも見られる。

表面的な対処では根底は改善しない

データ化が叫ばれている昨今、一つの指標として、特に記録が下がっている50m走とボール投げの記録を伸ばそうという試みがあるとする。ならば、50m走とボール投げの記録を伸ばす練習をしようとなる。

しかしそれは氷山の一角であり、「50m走」と「ボール投げ」といった種目に限定することなく、そのベースとなる部分を向上させるべきなのである。

行動体力、つまり体力が落ちているということは生存能力が弱くなっているということ。
調査や分析の指標となっている部分だけではなくて、なぜ体力が落ちているのか、根本的な部分に気がつかないといけない。そしてその部分を我々指導者が改善していかなければいけない。

成長期にある児童生徒の生活実態

今の児童、生徒の生活習慣は「動いていない」「寝ていない」「誰かと食べていない」傾向が強い。

平成22年度に文部科学省が全国の小学校5年生と中学校2年生の男女を対象にした調査だと、男子で一週間の運動時間が0時間と答えた子供が圧倒的に多く、それに近い環境に身を置く子も非常に多く分布している。

それに加えて女子はもっと極端で、運動時間が0時間と答えた女子は男子の倍以上もいるという結果になっている。また、一回の運動で一時間動けない子も増えてきているという点も非常に深刻な現状である。

休養に関しても、小学生のうちは8~9時間睡眠が望ましいのですが、男女とも約15%は睡眠時間が7時間未満となっている。

ではその分何をしているのかと言うと、四角いもの、要はスクリーンを見続けている。
パソコンやテレビや携帯電話などを見る「スクリーンタイム」が長いほど就寝時刻が遅くなり、睡眠時間を短くする大きな要因となる。

栄養、食事に関する「3つの8」

小学生では一人だけで食事をすることは少なくなっているが、対象的に高校1~3年生において平均10人に一人が朝食、夕食のいずれも一人で食べているという調査結果が報告されている。

そしてライフスタイルを組み立て直すことを契機に生体リズムの正常化を図るため、「3つの8」という考え方がある。

①腹八分目:運動量に合わせて八分目。その時のきぶんで満腹まで食べてしまうことのないように、よく噛んで食べる。野菜を先に食べるなどの工夫も大事。

②8時間睡眠:きちんと連続で8時間寝ることに加えて、遅くとも10時までに寝ることで成長ホルモンの分泌も促す。

③夜8時以降ものを食べない:生活全体の組み立てを見直し、家族ぐるみで改善を図る。

4色の運動

運動の特性別に色に例え、わかりやすく分類したものが下記である。

赤:持久性 - 小さい力、長時間の運動 - 動き続ける力

白:筋力、パワー - 大きな力、瞬発力 - 体を支える、物を持つ

青:柔軟性 - 関節の可動範囲 - 動きやすい身体

緑:神経-筋協応能 - 動きの調節、巧みさ - 思い通りに動く

子供の頃にはこれらのどれか一つに特化するのではなく、多くの種類の運動を経験しておくべきである。

這い這い時期の短縮、欠如による姿勢への影響

出生後の赤ちゃんは這い這いをすることで重力に対抗する能力、筋力を身に着けていく。
這い這い状態から首を起こす事で頚椎前彎が発生して、脊柱の長軸に対して垂直に負荷がかかることで腰椎の前彎が発生し、それと同時期に、肩関節や股関節周囲の筋の使用開始、骨盤前傾が起こる。

這い這い時期の短縮や欠如は、その時期に形成されるべき能力や神経、筋の発達が不十分になってしまうことが考えられるため、それが後々運動能力を発揮できない要因の一つになっているとも考えられる。


続きは近日公開!