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コンディショニングの習慣形成はジュニア期から -望ましい習慣の形成の道程は長い- #2 篠田邦彦 NSCAジャパン理事長 新潟大学名誉教授

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掲載日:2018.08.08
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特定非営利活動法人NSCAジャパン ストレングス&コンディショニングフォーラム2018より、NSCAジャパン理事長、新潟大学名誉教授 篠田邦彦氏の講演をレポート!

コンディショニングとは

NSCAジャパンでは、「スポーツパフォーマンスを最大限に高めるために、筋力やパワーを向上させつつ、柔軟性、全身持久力など競技パフォーマンスに関連するすべての要素をトレーニングし、身体的な準備を整えることです。」としている。
しかしそれ以前の問題として、人間の機能を最大に引き出す準備ができていなければいけない。
NSCAジャパン南関東アシスタント地域ディレクターの澤野博氏によると、高度な戦術・戦法・技術で戦うには、高度な練習ができるだけの体力がなくてはならない。
それにはトレーニングにより「疲れにくい体」を作る必要がある。強さを作るのは「タ・テ・コ・ス・マ」。

タ:タクティクス(方策 駆け引き)
テ:テクニック(技工、技法)
コ:コンディショニング
ス:スキル(技術)
マ:マテリアル(道具)

「疲れにくい体」を作ることは、身体に学習させる事、要するに習慣化。コンディショニングは学習して習慣化させる必要がある。
コンディショニングにも短期、中期、長期があり、いずれも身体機能が正常に働くことが前提となっている。
そして、健全に生命維持できるよう機能するためには闘争、逃走、興奮などエネルギー消費を高める働きのある交感神経と、休息と消化活動を行う副交換神経の2つからなる、自律神経の働きが重要になる。

ヒトは生理的早産である

ヒトは完成されないまま生まれてくる。
お腹の中で完成されて生まれてくる動物は、生まれて数時間で立ち上がって自分で食事を摂るが、ヒトは何もできないまま生まれてきて、生まれてきた環境に適応した発育、発達をするようになっている。
暑い地方に生まれればそういう適用が起き、活動的な家族の中で生活すれば活動的な身体ができる。

地球の一日は24時間、人間の体内時計の周期は25時間。
なので放っておくとどんどん後ろへ、夜型にずれていってしまう。この現象を「フリーラン」と言う。

そこで、生体リズムがずれていかないように「朝の光」、「食事」、「生活環境」で毎朝リセットをかける必要がある。
例えば、食事は起床から1~2時間以内に最初の食事を摂ること。そして起床から就寝までの13時間以内に、なおかつ睡眠の2時間前までに摂る方が良い。

先述の「夜8時以降ものを食べない」というのにもかかってくるが、6時に起きたら、13時間後は19時なので、20時までに食べ終えれば良い。
太らないためには、食事が終わってから2時間を空けて寝ること。

しかし今の社会のシステムはこれが難しく、朝ごはんを食べなかったり、その分夜ご飯が極端に多かったりしているためにリセットをかけることができず、体内時計がどんどんずれていってしまっていることが考えられる。

人間は習慣の束である

成長発達の過程で、脳内では神経細胞同士がつながるだけでなく、ある行動をする時に助け合って働くようになり、ネットワークを作っていく。

スコットランドの哲学者、デイヴィッド・ヒューム氏(1711~1776年)「人間の悟性に関する探求」より、「人間は習慣の束である」という言葉にもあるように、望ましい習慣の形成が成長期の課題であり、健全な生体リズムを作ることが健やかな身体機能の発揮を可能にすると説いている。

アライメント・チェック

身体活動、運動の世界で用いる「アライメント」は「身体各部位の位置関係・整列具合・歪み具合」を指す。したがって、「アライメント・チェック」とは身体各部位の整列具合をチェックすることという意味になる。

身体活動や運動をアライメント・チェックを行いながら実施することで以下の効果が期待できる。

①姿勢を正す
②歪みの軽減
③身体活動・運動効率の工場
④怪我の予防効果


また、何よりも本人の身体(運動)への気付きを促し、その後の活動性、活動範囲の拡大が期待できる。

生活不活発病

座りっぱなしなど、動かないでいるとまず何が起こるか。

地震などの避難所の調査によると、環境やストレス等により不活発が生じ、生活習慣病、フレイル(虚弱、老衰、脆弱など体がストレスに弱くなっている状態のこと)、メタボリックシンドローム、ロコモーティブシンドロームなどの様々な症状が出てきてしまう。

しかし、普段から動いていない者にも同じ症状が出ている。もちろん、大人だけでなく多くの子供にも起こっており、子どもたちの体力低下問題はその一端と考えられる。

不活動状態での不適切な姿勢が続くと

椅子での不適切な姿勢、加齢や長時間の床の長座、胡座などで起こりやすい姿勢変化としては猫背、胸椎後湾、腰椎後湾、骨盤後傾、膝屈曲などがある。
「スマホ首」にかかる負荷

「スマホ首」にかかる負荷

骨盤の適度な前傾

骨盤の適度な前傾

半世紀前との姿勢比較

19-22歳の男子大学生83名を対象に脊柱湾曲の時代的変化を調査したところ、1956年代と比較して脊柱の湾曲や前傾が強くなっている、要するに現代と半世紀前の大学生と比較して姿勢が悪化している傾向にあったという研究結果が報告されている。(男子大学生の矢状面における脊柱湾曲の時代的変化 中尾美喜夫 楠本秀忠) 

こうした要因として、生活の西洋化を始めとしたライフスタイルの変化と、栄養摂取と運動のバランスの変化に起因する肥満傾向や脊柱起立筋の背筋力の弱化が背景にあることが考えられる。

長時間座位のパソコン作業により肩甲骨が外転した状態が続くと、前面の筋肉は緊張し硬縮を起こしやすくなり、後面の筋肉は伸張し筋力低下を起こしやすくなる。偏った身体の使い方を長期間継続することにより身体が歪んでくる。

運動に影響が出る例として、肩甲骨が前傾、外転していると肩関節の伸展を制限するために腕を後ろに振れなくなるために肘の伸展で代償することや、脊柱が「Cの字」になり骨盤が後傾状態で広背筋が拘縮状態になると腕の前方挙上を制限し、歩く際に腕が横振りになる。

筋力と早期死亡リスクは関連している

また、青年期に筋力が弱かった男性は早期死亡リスクが高い(16~19歳辞典の膝伸展筋力と握力が弱かった男性は、55歳前に死亡するリスクが有意に高い)という研究結果※1や、歩行速度が高齢者の生存と密接な関係があることを示唆する研究結果※2が報告されている。

さらには、歩行距離と認知症発症率との関連性として、歩行距離が一日に400m未満だと認知症発症リスクは1.9倍、アルツハイマー病発症リスクは2.2倍にも上るという報告もある。

※1 S.Studenskietal JAMA,January5,2011-Vol305,No.1
※2 AbBott RD et al,JAMA,2004;292;1447-1453

望ましい習慣形成の道程は長い

ここまで述べてきたような子供や若者の実態は、日常生活活動(ADL)ですら低下傾向にあって、その根は深いことを示している。
したがって、現状では生命維持するのが精一杯な状況のため、ほとんどの人はスポーツを実践することが困難ですらある。
本来人類が持つ「スポーツ権」を享受するには、現在のライフスタイルを根本的に見直す「コンディショニング」計画が必要となる。


すでに現代文明の中で多くの時間をすごして「過剰適応」した多くの者は、ライフスタイルの改善に多くの時間が必要となる。
そのような人々に支援の手を差し伸べるのが、エビデンスに基づき、確かなコーチングができる専門職の存在である。

最後に、NSCAにおいてもこれまで以上の研鑽と、国民の健康維持増進に貢献すべく邁進したいとして講演を終えた。