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パフォーマンスを高めるための回旋系トレーニングの理論と実践 #2

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掲載日:2018.11.05
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日本最大級のスポーツ・健康産業総合展示会であるSPORTEC 2018内にて開催された、株式会社ベストパフォーマンスラボラトリー代表 桂 良太郎氏による講演「パフォーマンスを高めるための回旋系トレーニングの理論と実践 -Spinal EngineとCoiling Coreの観点から-」をレポート!

まずは評価から始める

身体の原理・原則としては非常に有名な「ジョイント・バイ・ジョイント」アプローチという理論があります。体にとって安定させるべき関節と可動させるべき関節という役割が決まっているというものです。

例えば、胸椎はモビリティジョイント。可動性が優先される関節です。
反対に、腰椎は安定性が優先される関節です。

例えるなら、タイヤが回転する時に真ん中が安定していないとちゃんと回転しない。中心が安定しているから周りが動く。コマもシーソーも鞭も同じです。

止まるべき場所がしっかりと止まっているから、動くべき場所がしっかりと動くことができるのです。
体の中でも同様に役割通りに動くことが大切であり、海外のアスレティックトレーニング界や理学療法界では当たり前の考え方になってきています。

これらはスポーツの現場で選手を指導されている方や、ボディメイクでコンテストに出ている方など全員に必要です。
なぜならこの原理・原則を守れていないとターゲットにしている筋を肥大させることが難しかったり、筋トレ中に怪我をするリスクが高くなります。選手のパフォーマンスを安全に向上させる為にも必要な考え方の一つです。

例えば右手をバンザイのように挙げる時には、胸椎が伸展して右回旋しているわけです。そして肩甲骨の動きは内転・下制・上方回旋・後傾・外旋の5つです(近年、肩甲骨の内旋・外旋という概念が認知されてきています)。この肩甲骨の5つの動きを実現させるには、もっと近位にある胸椎が伸展+右回旋していなければなりません。

これらの動きが上手くできていなかった場合には、肩甲上腕関節や回旋筋腱板になにかしらの違和感や障害が起こってしまう危険性が高くなります。トレーニングで身体を痛めてしまう場合は、痛めるべくして痛めているのです。

私は普段ベンチプレス180kg程を扱いますが、正しく体を動かせていればトレーニングの中で肩を痛めるようなことはありません。スクワットもデッドリフトも同様です。負荷をかける以前に、正しく体を動かせているかどうかが大変重要なのです。

適切に動かすべきところを動かし、安定させるべきところを安定させる、それらを統合して本来の関節構造の役割通りに動かすことが必要なのです。

自分では動かすことができない範囲があったとしても、動かし方を変えると即時的に可動域が出ることがあります。
その場合、部位の硬さが原因ではなく、正しく動かせていないことが原因です。
脳は単一の筋に指令を出しているのではなく、動作に対して指令を出しているのです。

エクササイズで適切な可動性と運動制御を身に付けてから、正しく効率的な動作をトレーニングをする事で、対象筋に効かせやすくなったり、何より安全に効果的なトレーニングが可能になります。

今日はスパイナルエンジンとコイリングコアに関連したダイナミックムーブメントの話をさせて頂きますが、それはあくまで体の各パーツの可動性と運動制御が獲得されていて、適切に動かすことができるという前提の話になります。

ブレーシングコアとコイリングコア

話を本題に戻しまして、腹圧をかけて体幹部を安定させる「ブレーシングコア」をご存知でしょうか。

フィジークやボディビルでは、ウエストを細くしたいので別ですが、トレーニング中にドローインをするという方はあまりいないと思います。
自分のお腹を凹ませた状態で人に持ち上げてもらうのと、自分のお腹を太く張り出した状態で持ち上げてもらうのでは明らかに後者のほうが重く感じます。

後者は質量中心が低くなり安定するのです。

こういったブレーシングはトレーニングをする時にとても大事になります。この腹圧を高めることができないと高いパフォーマンスが発揮できません。
ウェイトトレーニングをしっかりやっている選手でも相撲のように組み合わせて戦わせると極度に弱かったりします。筋力があっても腰が軽いような選手はブレーシングの方法、呼吸に問題が見られるかも知れません。

しかしスプリント(短距離)などにおいて、軸である剣状突起と恥骨結合をずらさずに走ることが最も効率的なのかというとそうではありません。

効率良くスプリントを行うにはコイリング(サイドベンディング)がないといけません。いかに効率良くエネルギーを使って移動するか。

必要以上に力を入れたり、どこかの筋肉を過剰に使わなくても少ない力で効率よく前に行ければ良い。トップアスリートは共通してそういう走り方をしています。

サメとイルカの泳ぎ方に見る背骨の動き

面白い例を紹介します。
サメは体を横に動かす側屈(サイドベンド)をする事で泳ぎます。爬虫類の進化の過程もこれで、トカゲなども同様に側屈です。
それに対してイルカは屈曲・伸展で動く上に側屈も回旋もできます。人間も同様で、この動きは哺乳類に共通しています。

そしてサメとイルカでは、泳ぐ速度は圧倒的にイルカのほうが速いのです。
つまり一面だけで動かしているサメと、三面でうねらせながら泳ぐイルカではイルカのほうが速い、これが今日の大きなキーワードです。先程の、軸を全く動かさずに走る人が速いわけではないということと同じです。

ウサイン・ボルト選手のスプリントのフォームに関しても、スプリント中にサイドベンドしている様子が見られます。ちなみに、ボルト選手だけでなくガトリン選手やマイケル・ジョンソン選手もスプリント中にサイドベンドを起こしています。

そして頭が足の真上に来ている状態である「ヘッドオーバーフット」の状態であるということがポイントです。スタートの映像を正面から見ると、接地した足の上に頭が来るように頭が左右にスライドしています。

高速で上手く走る人はそういう体の使い方をします。サメのように1面での動きではなく、イルカのように3面、つまり三次元で動くということです。頭が左右に動いて足の真上に来るヘッドオーバーフットの状態だと、結果として背骨も三次元で動くことになります。

スプリントにおける爆発的な股関節の屈曲・伸展に伴い、屈曲している遊脚側の骨盤は引き上げられ、前に出ます(アップ&フォワード)。同時に同側の肩は下がり、後ろに引かれます(ダウン&バックワード)。

結果として身体をコイルのように捻じることで力が発揮されるこの動きはスパイナルエンジン、またはコイリングコアと呼ばれています。
ちなみにラグビー日本代表のスプリントコーチを努めた世界的なスプリントコーチのフラン・ボッシュ氏は同様の動きを「ヒップロック」と表現しています。

地上最速の動物であるチーターが走る映像をスローでよく見ると、足が地面に着くタイミングが四足ですべて違うことがわかります。前足と後ろ足の接地は全く揃わずに、縦、横、捻りを三面で上手く使うことで最高速度を生み出しています。
これは脊柱にうねりとねじれが生じることで高い力を生み出している点で、前述の原理に当てはまります。

続きは近日公開!