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日本水泳連盟 飛込委員会 JOCエリートアカデミー強化担当 毒島泰士 #1

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掲載日:2019.01.23
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極度の緊張感の中、高く繊細な技術で競われる飛び込み競技。
(公財)日本水泳連盟飛込委員会 JOCエリートアカデミー強化担当、(公財)日本オリンピック委員会 専任コーチ[情報・科学]として将来的にオリンピックや国際大会で活躍できる選手の発掘と育成を行う毒島泰士氏に、「フィジカル×トレーニング」をテーマに話を伺った。
私は技術やマネジメントを中心に担当しています。
エリートアカデミーに所属する前は群馬県の前橋育英高校の教員として勤務していて 水泳、飛び込み選手を中心に指導をしていました。
自分で勉強したり今まで選手として活動してきた経験や知識を使っていましたが、今はフィジカル専門のトレーナーさんがいるので技術面の指導に専念しています。

飛び込みの魅力、見てほしいところ

2つお伝えさせて頂きます。
映像で見るのと実際で見るのでは、特に音に大きな違いがあります。

実際に演技をして入水する時の音という意味もありますが、観客も含めた会場の雰囲気、選手が飛び込む前の一瞬の静けさ、演技した後の盛り上がりなど、非常に大きな歓声の波があります。
映像とは大きく違う会場の一体感をぜひ体感して頂きたいです。

もう一点は、得点を積み上げていくことによるプレッシャーや駆け引き、緊張感も見ていただきたい部分です。

国際大会では原則女子は5本、男子は6本飛んでその合計得点で競います。
飛び込む演技を一本だけ見て終わるのではなく、点数を見て誰とどのように争っているのかをリアルタイムで見ながら、最後の一本では「あと何点を取れば何位に入ることができるか」という事も簡単に分かるようになっていますので、そういった駆け引きも魅力の一つかと思います。

我々は皆、完璧を求めますが実際はそうは行きません。
女子は5本で男子は6本、それぞれ全て違う種類の演技で飛び込まなければいけないというルールがありますので、得意な演技もあれば不得意な演技もあり、その中でより点数を積み上げていかなければなりません。

合計点数で競っているので、失敗した後の次の演技の意気込みや、切迫した状況で競っているときにどれくらい落ち着いているかなど、テレビに映らない部分もありますが演技以外の部分にも注目してみると面白いかと思います。

水に入る時の角度や水しぶきの量などの非常にわかりやすい部分ももちろんですが、それと合わせて得点の累計状況を見ながら演技を見て頂ければと思います。

世界における日本の飛び込みのレベル

オリンピックにおいて日本が飛び込みで獲得したメダルはまだありません。
1936年に柴原さんと大沢さんの両名が4位に入賞して以降は入賞レベルに留まっています。最近はどうかと言うと、直近のリオオリンピックで女子選手が7位入賞といったレベルです。

世界ジュニア選手権等やFINA(国際水泳連盟)の公式大会では、いくつか優勝やメダルの獲得をしている大会もありますが、必ずしもその大会に強い選手が出場しているわけではありません。

世界と日本を比べたときに、さほど大きな違いはないと思います。
ではなぜ上位へ入れないかというと、演技の成功率や安定感がまだ少し不安定なのです。合計得点を競う競技なので、失敗が1つでもあるとメダルや入賞のラインから遠のいてしまいます。

安定感や成功率を上げるためには強い心や自信等があるかと思いますが、それには練習量と飛込にかける時間が必要です。
量と時間をかけて飛び込みの本数を積み重ねていかないと、いかに良いものを持っていたとしても本番で実力を発揮しきれません。

指導者や環境にもよりますが、現状、日本では飛び込みの練習に選手もコーチも徹底的に専念しきれていない部分があります。
より良い環境を与えられたらいいのですが、まずは監督やコーチ、選手が飛び込みにかける時間の確保が必須だと思っています。

トップの選手になるためには

飛び込み競技においては、非日常的な動作が多い種目ですので、体操競技やクラシックバレエなど、高い柔軟性が求められます。頭が逆さになるような動きなどが含まれた運動をしていた人は成長が早いと思います。
体操やバレエ、フィギュアスケートなど子供の頃から始めることが多いかと思いますが、飛び込みも同様で早く始めたほうが有利です。
身体を指先から足先まで意識を行き渡らせて、早めに非日常的な動きを体得していくことが大事かと思います。

体型的には頭が小さくて手足が長く、細身でひょろっとしている方がいい演技に見えやすく点数が出やすいと思います。そこからどう筋力をつけていくかが課題です。

飛び込むこと自体が基本的な練習ですが、「ドライランド」と呼ばれる陸上でのトレーニングを行って、宙返りやトランポリンをしたり、頭を逆さにする動きを取り入れたり体を鍛えていくということも並行して行っていきます。最近ではそちらの方が多くの時間をかける必要があるとされています。

通常、プールでの練習は2時間半を設定して、それ以外にアップに1時間、クーリングダウンに30分かけていますので合計4時間ほどです。
2時間半のプールでの飛び込み練習ではおよそ70~100本の飛び込み本数で、高飛び込みですと登るのに時間がかかりますので、その2/3くらいの本数になります。

伸びる選手の心がけ

個々それぞれ良いところを伸ばしていくことが大事だと思うので特筆したこだわりはないのですが、ここでは、2つ。
1つ目は、練習量をしっかりこなせる選手は上達も早いですし「量」が多い選手はしっかり体に感覚が染み付いているので本番での安定感もあると思います。

2つ目は、前向きなアウトプットができる選手です。
何が必要で何が足りないか、そして何が無駄かということを判断し、効率良く練習を積み重ねていける選手です。自分の意思をコーチやスタッフに伝えることができ、ともに、「どうしたいか」について「課題」と「無駄」を常に洗い出していけることです。
効率的な練習は、同じ1日24時間を生きる我々にとって非常に大切なことですよね。

続きは近日公開!