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~~ 水のはたらき ~~

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[ 月刊ボディビルディング 1973年2月号 ]
掲載日:2017.10.03
野 沢 秀 雄

<人間は昔、魚であった>

 アポロが月に着陸して、生物がまるっきり存在しないことがわかって以来どうして地球にだけ、われわれのような生物が誕生したのか、ますます不思議がられている。

 生物学者は「地球がまだ火の玉のように燃えていたときに、ある小さな反応がおこって有機化合物ができ、それが発達して三葉虫というプランクトンのような物質になった」と説明する。そして、かなり長い年月の間、この生物は海の中にすんでいたに違いない。それが何より証拠には、われわれの体内がいつも海水と同じくらいの濃度になっていて、海にいる魚たちとまったく同じだからである。

<水は運搬人>

 水さえあれば40日間断食しても生命に別条ないが、水の摂取をとめると、2日以上はどうしても生きられない。それほど水の役割は大きい。

 では、その役割についてもう少し詳しく述べてみよう。

(1) 水は多くの物質をとかす。そして表面張力が大きいので、体内のどんな隙間にも到着することができる。

 消化管から吸収された栄養物は、水に溶けた状態で血液に乗り毛細血管まで運ばれる。また、トレーニングなどで生じる疲労物質や、老朽化して古くなった体の組織は、水(リンパ液)に溶けてリンパ管から静脈に入り、最終的には尿に溶けこんで体外へ出ていく。

(2) 水は暖まりにくく、さめにくい物質だと学校で習ったことをおぼえているだろう。体内の65%が水分だということは、体温を37℃前後に保つのに都合がいい。体重60kgの人なら約39Lが水なのだ。しかもこのうち3.5L(約1割)が血液で、のこりの35.5L(約9割)がリンパ液であることを記憶しておいてほしい。リンパ液のおそるべき役割については、いつか説明したいと思う。

(3) 体内で複雑な化学反応が常におこなわれている。タンパク質がアミノ酸に分解したり、アミノ酸からタンパク質が合成されたり、というように。そして、このような化学反応は水がないと進行しない。水は化学反応の場である。
記事画像1

<1日に体内を流れる水の量>

 さて、1日に体内を流れる水はどのくらいなのだろうか。概算であるが、唾液が1日に1700ml、胃液2500ml、膵液700ml、胆汁500ml、腸液3000mlで、合計8400mlの水が消火液として流れている。われわれの体内で血液やリンパ液も常に流れ続けているのだから、表面の静止した状態からはとても想像しきれない。

 次に、体外へ出ていく水の量はどれくらいだろうか。尿として出ていく量が1500ml、便に含まれる水の量が100ml、皮膚と汗腺から汗として出る量が600ml、肺から蒸発してでる量が400ml。合計して約2600mlの水分が毎日失われていく。

 誰でも経験しているように、夏は汗になって出る量が多いので尿として出る水分は少ない。反対に、冬は汗にならないかわりに尿となって多く出ていく。また当然ながら、子供たちのようによく動きまわったり、激しいスポーツをしたときなどは、体内でものすごい化学変化がおこなわれ、その結果、必要とする水分も、汗として出ていく水分もずっと多くなる。だから子供やスポーツマンはのどがかわき、水をほしがるのだ。

<年令と水の関係>

 子供はみずみずしく、老人はひからびている。外見ばかりでなく、体内の生きた細胞の水の量がちがっているからだ。年令の若いうちは、細胞内にたっぷり水が含まれていて、細胞が膨張してピーンと張りつめているのに対し、年をとるにつれ、細胞内の水が減り、細胞外液が増えていく。老化とはこのように悲しい化学変化でもあるのだ。

 細胞内の水が減少すると、筋力が衰えるばかりでなく、頭の働きも鈍くなり、最後にボケてくる。いわゆる「恍惚の人」だが、スポーツを続けてさえいれば、老化はずいぶんと遅らせることができる。

 暮しの手帖の最新号に、体操を続けたおかげで90才でもシャンシャンしている人の話が出ていた。われわれビルダーも尊敬される美しい老人になることを目指して明日もがんばろうではないか。
[ 月刊ボディビルディング 1973年2月号 ]

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