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貧血④<鉄需要の増大/鉄喪失>

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掲載日:2016.11.09
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鉄需要の増大

貧血の原因のもうひとつとして、需要の増大が考えられます。ではどんな時に需要が増大するのでしょう。

①発育期(生後5ヵ月~3歳位まで)
母体にいる赤ちゃんは、胎盤というところから母親の栄養を十分貰います。胎盤は素晴らしい機能を持っていて、母親に少ししか栄養が無くても、優先的に赤ちゃんに栄養が送られるようになっています。しかし、母体にあまりにも栄養がないと、しっかり貰うことが出来ず、未熟児として生まれることになります。生まれてから生後3ヵ月は母乳しか貰えませんから鉄が不足しやすく、これは脳障害やアトピー性皮膚炎などを生じる可能性が高まります。

②成長期(12~20歳位まで)
急激に成長する思春期から青年期は、体内血液量も増加します。しかし、女性は月経によって鉄を失います。不適切なダイエットもさらに鉄不足を促進させます。生理が始まっても、しっかり栄養が摂取できていれば、身長も伸びる筈です。

③妊娠期
妊娠中は、優先的に胎児に栄養が供給されます。その為、妊婦は貧血になり易く、更に、母体の鉄量が危機的状態にまで減少すると、早産する恐れがあります。

④慢性疾患患者
慢性関節リウマチ、悪性腫瘍(ガン)、慢性感染症(肝膿瘍、肺結核など)がある場合は、体内での鉄の再利用が有効に行われにくく、貧血が生じやすくなります。

⑤スポーツ選手
特にマラソン、水泳、エアロビクス、自転車など持久系のスポーツ選手は、鉄の消費量が増大します。成長期、そして女性だったら、更に拍車をかけることになります。

出血や溶血による鉄喪失

最後に、貧血の原因として出血や溶血による鉄喪失が考えられます。

①月経による喪失
女性に特有な月経による鉄の喪失、特に月経過多である場合は、約1.5mg/日にもなります。実は、成人女性の鉄欠乏性貧血の、成因第一位です。1つの目安として、月経血の中にレバーのような血液の“かたまり”がある場合、月経量が多いと考えてください。月経血を溶かす成分であるプラスミノーゲンの分泌量を上回って月経血が出ていると、すべてを溶かしきれず、血液が“かたまり”となって出てきます。

②消化管からの出血
女性も閉経後は男性と同じ喪失量になりますが、男性と閉経後の女性の貧血の最大の原因は、消化管からの出血です。胃や大腸などの疾患が考えられます。痔なども消化管出血の原因のひとつです。このような部位からの出血は便に交じってしまうため発見が難しく、症状がかなりひどくなってから発見されることが多いようです。

③足の裏に衝撃の多いスポーツ
裸足で踏み込む剣道や、叩かれたり蹴られたりする格闘技などは、その衝撃によって赤血球の膜が壊れる状態になります。これを溶血といいます。

④その他
怪我や鼻血、献血などによる血液の喪失も鉄欠乏を招きます。しかし、この④は、急に血液量が減るので不定愁訴や症状を感じやすいですが、①~③は感じにくいことが多いです。身体が環境に慣れてしまうからです。生理の前や生理中に頭痛を感じる人は、貧血による酸欠が考えられます。頭痛薬を常用する前に、貧血改善を考えてください。
  • 星 真理(ほし まり)
    栄養整合栄養医学協会認定 分子栄養医学管理士
    栄養学の専門家として老若男女を問わず、一般人からトップアスリートにいたるまで、あらゆるニーズにも対応した栄養指導/栄養セミナーを個人、競技チーム、学校、企業を対象に行っている。
    著書「アスリートのための分子栄養学」(体育とスポーツ出版社)

    分子栄養学(正式名称:分子整合栄養医学)
    Ortho-Molecular Nutrition and Medicine
    ノーベル賞を2つ受賞した米国人生化学者ライナス・ポーリング博士(1901〜1994年)が、栄養学と医学とを融合させて研究し、分子整合栄養医学として確立した栄養医学。

  • アスリートのための分子栄養学
    2014年3月31日初版1刷発行
    著者:星 真理
    発行者:橋本雄一
    発行所:(株)体育とスポーツ出版社


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