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クロミウム(クロム)とインスリン

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掲載日:2020.11.12
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クロミウムは人体に必須と考えられているミネラルの中ではもっとも微量に存在します。自然界に存在するのは三価クロムですが、人工的に生産される六価クロムというものもあり、これは毒性が強いため公害として問題になりました。
アメリカでは六価クロムを長期に渡って垂れ流していた企業があり、巨額の賠償金支払いの最初のケースとして映画化も(エリン・ブロコビッチ)されました。

クロミウムは小腸から吸収されてトランスフェリンと結合し、肝臓に運ばれます。通常の食事内容では不足することも過剰になることもありませんが、インスリンの働きを高めるため、糖尿病の人がサプリメント(もちろん三価クロム)として摂取するのは有効だと思われます。

ちょっと複雑になりますが、クロミウムがどのようにしてインスリンの働きを高めるかについて解説しましょう。インスリンが分泌されると、細胞膜表面にある「インスリンレセプター」に結びつきます。
インスリンレセプターは「αサブユニット」と「βサブユニット」が結合したもので、インスリンとはαサブユニットが結合します。αサブユニットにインスリンが結合すると、βサブユニットの中にある「チロシンキナーゼ」という酵素が活性化し、IRSsと呼ばれるタンパク質が「チロシンリン酸化」されます。
そしてIRSsはPI3キナーゼという酵素を活性化します。

PI3キナーゼが活性化されると、GLUT4と呼ばれる「ブドウ糖の運び屋」が細胞の表面に出てきて、ブドウ糖の取り込みを行います。ここでクロミウムは「クロモデュリン」と呼ばれるオリゴペプチドの構成物質となります。クロモデュリンはチロシンキナーゼの活性を増強する働きがあるのです。

クロミウムの結合していないアポ型クロモデュリンもあるのですが、これにはチロシンキナーゼ活性化作用がないため、クロミウムが不足すると耐糖能が低下します。またクロモデュリンには脂肪細胞の細胞膜にあるホスホチロシンホスファターゼを活性化する働きもあり、クロミウムは脂質代謝にも関係しています。

糖尿病患者にクロミウムとシステインの化合物を摂取させたところ、酸化ストレスや炎症が軽減され、インスリン抵抗性が改善しています。(※91)
また糖尿病患者にビール酵母としてクロミウムを摂取させたところ、HbA1Cの値が改善し、中性脂肪やLDLの値も改善しました。(※92)

さらにピコリン酸クロムのサプリメントを12週間に渡って摂取させたところ、高齢者の神経変性や認知機能が改善したという報告(※93)や、過体重の子供25名を対象に400μgの塩化クロミウムを6週間に渡って摂取させたところ、インスリン感受性が向上して体脂肪が減少し、除脂肪体重が増加したという報告(※94)もあるため、インスリン抵抗性のある方はサプリメントとしてのクロミウム摂取を検討すると良さそうです。

この場合、エビオスなどビール酵母サプリメントから摂取するのが効果的です。ビール酵母のクロミウムはナイアシンと結合した形(ニコチン酸クロム)であり、安定した形で吸収が良くなっており、血中脂質改善作用が期待できます。(※95,※96)ピコリン酸クロムなどのサプリメントも市販されており、摂取量としては一日に200~400μgで十分でしょう。
※91: Effect of chromium dinicocysteinate supplementation on circulating levels of insulin, TNF-α, oxidative stress, and insulin resistance in type 2 diabetic subjects: randomized, double-blind, placebo-controlled study. Mol Nutr Food Res. 2012 Aug; 56( 8): 1333-41. doi:10. 1002/ mnfr. 201100719. Epub 2012 Jun 6.

※92: Beneficial effect of chromium supplementation on glucose, HbA 1 C and lipid variables in individuals with newly onset type-2 diabetes. J Trace Elem Med Biol. 2011 Jul; 25( 3): 149-53. doi: 10. 1016/ j. jtemb. 2011. 03. 003. Epub 2011 May 12.

※93: Improved cognitive-cerebral function in older adults with chromium supplementation. Nutr Neurosci. 2010 Jun; 13( 3): 116-22. doi: 10. 1179/ 147683010 X 12611460764084.

※94: Effects of short-term chromium supplementation on insulin sensitivity and body composition in overweight children: randomized, double-blind, placebo-controlled study. J Nutr Biochem. 2011 Nov; 22( 11): 1030-4. doi: 10. 1016/ j. jnutbio. 2010. 10. 001. Epub 2011 Jan 8.

※95: Effects of niacin-bound chromium and grape seed proanthocyanidin extract on the lipid profile of hypercholesterolemic subjects: a pilot study. J Med. 2000; 31( 5-6): 227-46.

※96:Effect of chromium nicotinic acid supplementation on selected cardiovascular disease risk factors. Biol Trace Elem Res. 1996 Dec; 55( 3): 29
  • 山本 義徳(やまもと よしのり)
    1969年3月25日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
    ◆著書
    ・体脂肪を減らして筋肉をつけるトレーニング(永岡書店)
    ・「腹」を鍛えると(辰巳出版)
    ・サプリメント百科事典(辰巳出版)
    ・かっこいいカラダ(ベースボール出版)
    など30冊以上

    ◆指導実績
    ・鹿島建設(アメフトXリーグ日本一となる)
    ・五洋建設(アメフトXリーグ昇格)
    ・ニコラス・ペタス(極真空手世界大会5位)
    ・ディーン元気(やり投げ、オリンピック日本代表)
    ・清水隆行(野球、セリーグ最多安打タイ記録)
    その他ダルビッシュ有(野球)、松坂大輔(野球)、皆川賢太郎(アルペンスキー)、CIMA(プロレス)などを指導。

  • アスリートのための最新栄養学(上)
    2017年9月9日初発行
    著者:山本 義徳


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