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ビタミンAの働き

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掲載日:2017.06.12
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ビタミンAの働き
ビタミンAの働きは、大きく分けて3つあります。

①細胞の増殖や分化
人間の身体は60兆個の細胞で出来ています。細胞の集合体であるという事は、身体中どこでもビタミンAが必要だという事ですね。

ひとつの細胞は分裂して2つになり、その時形を変え、最終的に必要な形に変わっていきます。この事を分化と言います。正しい分化をすれば、必要な形の細胞が必要な数だけ作れるという事になりますね。ビタミンAはこの正しい分化を誘導します。例えば、肌の分化に働けば、キメの整ったスベスベお肌になりますが、不足すると肌荒れが起こります。

コラーゲンの働きに、肌の水分量やハリを保つ、というのがあります。また、ビタミンCはシミを消してくれますし、コエンザイムQ10はシワを薄くしてくれます。ビタミンAはたん白質と結びついて働き、肌のキメを整えます。

何だか美容の話ばかりの感じですが、それだけではありません。

皮膚の細胞、粘膜の細胞、そのどれもが正しい分化をするように働いています。

ですからビタミンAが不足すると肌荒れだけでなく、ニキビ、イボ、ウオノメなどの原因となってしまうのです。酷くなればアトピー性皮膚炎の発症にもつながります。

身体の外にニキビや湿疹が出来るのと同じように、粘膜に出来るのがポリープやガンです。粘膜は身体の内側にあり見えにくいので、かなり悪化するまで見つけられない事が多く、注意が必要です。ニキビとガン、というと遠い存在に聞こえますが、どちらもビタミンAが関わっていると考えると理解し易いですね。

さて、ここで読者の皆さんに質問があります。皮膚は身体の表面を覆っている大きなバリヤーですが、では粘膜はどこにあるでしょう?口?鼻?目?肛門?

はい、全て正解です。でもそれだけ?実は粘膜は、身体の穴という穴、どおからでも良いですが、穴から入った身体の中の全てが粘膜です。口から入って口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、そして肛門を出るまでの粘膜は、身体の表の皮膚と繋がっていますね。

では、胃の中は身体の内側でしょうか?それとも外側?

よく考えると、「食道の中」「胃の中」「腸の中」は、実は身体の「外側」だという事が理解出来ます。身体の中に長い長い空洞が通っているんですね。

ビタミンAは、この空洞を含めた身体の「外側」全てを守ってくれる、大切な栄養素です。皮膚バリヤ、粘膜バリヤはビタミンAの守備範囲です。余談になりますが、食事をして胃の中に食べ物が入ると、もう自分の身になったと安心するかもしれませんが、胃は食物のストック場所(倉庫のようなもの)です。実は小腸の中(身体の外)から「体内」に吸収されて、初めて身になったと言えます。

②視覚作用
明るい所から暗い所に急に行った時、一時的に目が見えにくくなる事があります。その時、暗さに目が慣れて見えてくる事を暗順応(あんじゅんのう)と言います。ビタミンAは、この暗順応を良くしたり、視力低下を抑制したりします。車を運転される方はよくご存じだと思いますが、夕方の夕陽が眩しい時間帯から、日没になると一転、急に暗くなり始めます。交通課のお巡りさんに「魔の時間」と言われているそうですが、暗順応が悪いと暗さに目が慣れるのに時間が掛かり、急に出てきた歩行者や車への瞬時の対応が遅れ、交通事故が最も起き易くなる時間帯だそうです。

という事は、暗順応の良し悪しが、もしかしたら生死を分ける事になるかもしれません。

大げさな、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、先ほどのニキビやポリープも同じ事です。ポリープは良性の腫瘍、ガンは悪性の腫瘍です。良性と悪性を分けるのは、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質を普段からどれだけ摂っているか、細胞の分化を誘導するビタミンAをどれだけ摂っているか、生活習慣でどれだけストレスを溜めていないか、などなのです。ローマは一日にしてならず、です。

③ガン抑制作用
粘膜を守り、細胞の分化を誘導する、と来れば、当然といえば当然かも知れません。

福島の原発事故以来、放射能汚染に敏感になっている方も少なくないでしょう。放射線を恐れなければならない大きな理由は、放射線が細胞の核に入り込み、核の中の電子を奪う事です。

ご存知のように、細胞は電子を2つ持っています。この2つという状態は、細胞を安定させています。細胞は電子を1つ奪われると不安定になります。だから簡単に奪われないように、細胞の核は固い殻で守られていて、簡単に何でも入れないような造りになっているのです。しかし放射線は、この核を壊し、中に入り込んで電子を奪うのです。そこで電子を奪われた細胞は、安定する為に他の細胞の電子を奪います。奪った細胞は安定するでしょうが、今度は奪われた細胞が不安定になり、同じように他の細胞の電子を奪い、安定しようとします。この様に次々と電子の収奪を繰り返していくと、細胞の正しい分化が出来なくなります。この途中に、正しい分化でないガン細胞がうっかり出来てしまい、それが何年もかけて増殖すると、ガンになってしまうのです。

ビタミンAは、このガン細胞の増殖を抑制してガンを防いだり、今あるガン細胞が正しい分化をする様に誘導し、ガン細胞を小さくしたりします。

何だかガンの話ばかりになってしまいましたね。
  • 星 真理(ほし まり)
    栄養整合栄養医学協会認定 分子栄養医学管理士
    栄養学の専門家として老若男女を問わず、一般人からトップアスリートにいたるまで、あらゆるニーズにも対応した栄養指導/栄養セミナーを個人、競技チーム、学校、企業を対象に行っている。
    著書「アスリートのための分子栄養学」(体育とスポーツ出版社)

    分子栄養学(正式名称:分子整合栄養医学)
    ノーベル賞を2つ受賞した米国人生化学者ライナス・ポーリング博士(1901~1994年)が、栄養学と医学とを融合させて研究し、分子整合栄養医学として確立した栄養医学。

  • アスリートのための分子栄養学
    2014年3月31日初版1刷発行
    著者:星 真理
    発行者:橋本雄一
    発行所:(株)体育とスポーツ出版社


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