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第五十一回 新サプリメント・トピックス
パンプアップ

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[ 月刊ボディビルディング 2014年4月号 ]
掲載日:2017.09.05
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 トレーニングでもっとも大切なことは継続だと確信しています。

 トレーニング、とりわけ大人になってからのトレーニングは、自らが自身に課したハードルであり、いわば大人の宿題ともいえます。そのハードルは時には自身の限界を見せつけ、一方で時に小さな成功体験も味あわせてくれます。そして限界からは謙虚さを学び、成功体験は自信を持たせてくれます。

 しかし子供の頃の宿題とは違って、自らが課しているわけですから、言い訳もしにくいし、途中で止めても叱られることはありません。そんな中マンネリ化など、一つ宿題への取り組み方を誤ると、モチベーションが下がってしまい、やる気は一転して義務や苦痛へと変わってしまいます。

 そんなマンネリ化を避けるための有効なポイントはいかにトレーニングを体感できるかということでしょう。もちろん、筋肉が増えたとか、挙がらなかった重量が挙がるようになったとか、より本質的な要素があればいいのですが、日々の中ではそれほど短期間に体感できるものではありません。そういった意味において、パンプアップは比較的手軽に体感できる方法としても役立つかもしれません。

 高強度でトレーニングをしていくと乳酸などの代謝物が作られていき、それを中和するように血液が流れ込んで筋肉がパンパンに膨らんだ状態になります。この状態がパンプアップであり、コンテスト直前の控室では、各選手がパンプアップに精を出します。また日常的にも仕上げの種目として、やや軽めの重量を使って回数をこなすことでパンプアップさせる人もいます。

 しかしそもそもパンプアップは、一時的に筋肉が膨張しただけなので、決して本質的な筋肥大とは異なります。とはいうものの、明らかに一回り大きくなった自分が鏡の中にいるのですから、体感という意味においては非常に満足度が高いのです。

 また数ケ月後の自身をイメージするという効果もあるかもしれません。つまり本来の目的とは若干ずれますが、この体感という観点からパンプアップを使うことでトレーニングを継続するモチベーションがあげてみてはいかがでしょうか。鏡に映しだされた一回り大きくなった自分は、あくまでも一時的なものでありますが、このパンプアップすること自体は紛れもなく本物の体感です。

 トレーニングの要素以外で、あるいはトレーニングとの組み合わせでパンププアップ効果をあげる方法はあるのでしょうか。

 最近、アメリカなどではNO系サプリメントと呼ばれるサプリメントが流行しています。NOとは一酸化窒素のことで、自動車の排ガスなどの成分でもあることから有害なイメージがありますが、人の生体内での生理機能としてはいたって有用な効果を発揮します。その一つがトレーニングをした時のパンプアップ効果の促進です。

 そのNOの基質となる素材は「アルギニン」というアミノ酸で、アルギニンが体内で一酸化窒素合成酵素(NOS)の反応によってNOを作り出しています。そしてこのアルギニンの前駆体となるのが「シトルリン」というアミノ酸で、シトルリンはアルギニノコハク酸を経て、アルギニンに変換されていきます。

 では何をどれくらい摂取するとNOが作り出されて、パンプアップの効果が出るのかについてです。実はアルギニンは小腸で吸収される過程で、大きく消耗されてしまうアミノ酸なのです。その結果、血中への移行率は3~4割程度と言われています。

 一方前駆体にあたるシトルリンはほぼ100%が吸収されて、肝臓での代謝を受けずにそのまま腎臓へと運ばれていき、約7割程度がアルギニンへと変換されていきます。パンプアップ効果を上げるNOの直接的な基質はアルギニンなのですが、その消耗率や代謝率から考えるとむしろシトルリンの方が効果が高かったりするという結果になります。

 ちなみにシトルリンの有効推奨量は800㎎程度で、実際に800㎎の単回摂取で体表面の温度上昇の効果が認められており、また8週間の長期摂取では血管弾性の改善のデータもあります。

 アルギニンに関しては、その消耗度の観点からも少々多めの摂取が必要なようで、場合によってはグラム単位での摂取となるようです。そして、吸収率や変換時間の関係から、その併用がもっとも効果が高いということになります。

 そこでサプリメントとしては、アルギニンとシトルリンの組み合わせという発想が生まれてきます。

 NOの体内での役割ですが、NOは血管を緩ませて動脈を拡張させるため血流量が増えていきます。更には血球が血管壁に接着するのを抑制したり、血管の肥厚抑制、悪玉コレステロール(LDL)の酸化抑制など、動脈硬化の予防に効果が高いといわれています。

 更に、血管が拡張して血流が促進することで、体の隅々まで栄養素や酸素を運搬してくれるため、一般の健康増進という観点からも注目を集めています。そして神経伝達にも関与していくために、集中力ややる気などの精神的な面への研究も進んでいます。

 またNO産生以外にも、アルギニンには成長ホルモン分泌を促進したり、免疫力を高めたりと様々な効果が期待できるアミノ酸ですので、非必須アミノ酸でありながらも、健康増進やボディメイクに大きな期待ができます。アミノ酸はタンパク質を構成する最小単位の物質ですが、それ以外に個々に様々な生理活性機能を発揮したりします。

 必須アミノ酸でありながら、バリン・ロイシン・イソロイシンの3つのアミノ酸(BCAA)は血中のトリプトファンを抑えて集中力の維持をさせたり、m - TORという筋肉を合成させる酵素を活性化させたりします。

 非必須アミノ酸のグルタミンは、タンパク質を構成するアミノ酸であると同時に単独では小腸が唯一エネルギー源とするアミノ酸です。

 人が本来エネルギーとしにくいアミノ酸ですが、逆に小腸だけはグルタミンをエネルギーとします。

 このような様々な生理活性機能がある中で、アルギニンやシトルリンのNO(一酸化窒素)という新たな効果に注目が集まっています。

 パンプアップのテクニックとアルギニンやシトルリンというアミノ酸を活用して、トレーニングをもっと実感してみてはいかがでしょう。


江崎グリコ株式会社スポーツフーズ営業部
桑原弘樹
[ 月刊ボディビルディング 2014年4月号 ]

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