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第五十七回 新サプリメント・トピックス 不飽和脂肪酸

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[ 月刊ボディビルディング 2014年10月号 ]
掲載日:2017.09.20
 私はスポーツニュートリションが日本での市場規模はともかくとして、サプリメントの最先端をいくものであると認識しています。そしてボディビルダーはサプリメントを使う側としての、これも最先端をいく人たちであることは間違いないでしょう。

 テレビで放映されるようなメジャーな競技であっても、いまだにプロテインの摂取タイミングを質問するアスリートは当たり前のようにいますし、BCAAの存在すら知らない選手も珍しくありません。

 現在、国をあげての高齢者対策の一つとして、ロコモ(ロコモティブシンドローム)という言葉がさかんに使われます。講演などの依頼も数年前のメタボから一気にロコモへと変わってきています。まだまだ検証不足の感は否めませんが、クレアチン、BCAA、HMβといったスポーツサプリメントど真ん中の素材がロコモ対策として注目を集めつつあります。

 またアメリカでは既に定着した感のあるNO系と呼ばれるサプリメント。これも元々はボディビルダーがパンプアップがしやすくなるといった理由で火がついていった素材です。しかし一般の人たちのニーズに落とし込んだ場合は、血管の拡張による、心血管疾患向けの対策として普及しています。

 そういった点においてスポーツニュートリション、そしてボディビルというジャンルを研究し追いかけることは、やがてより幅広く愛用されるサプリメントの根源に通じているものだと考えます。

 しかしそんなボディビルダーたちの中でも、関心度の高い素材とそうでないものが存在します。単純に言えば、筋肥大に通じる素材は大変人気があり、健康に良いとされる間接的な効果の素材はあまり浸透していきません。分かってはいるものの、関心が今一つあがっていかない素材の代表は不飽和脂肪酸ではないかと思っています(もう一つは抗酸化素材)。

 現在、消費者庁を中心に進められている「食品の新たな機能性表示に関する検討会」は幾つかの課題を抱え議論を繰り返しながらも前進しています。この号が出る頃には恐らく新表示検討会は予定の8回を終えて、報告書が提示されているかと思います。これによって、本当に近い将来様々な健康食品の機能性表示が解禁されていくことになります。その中でも恐らく筆頭に挙げられる機能性の確かな素材が、不飽和脂肪酸とりわけω3系と呼ばれる不飽和脂肪酸でしょう。
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 もう少し細かく分類するならば、DHA、EPA、αリノレン酸(亜麻仁油、エゴマ油)などに分けられます。酸化しやすいこともあって、なかなか摂りにくい油ですが、一日で2gほどの摂取が推奨されています。

 以前に消費者庁が行った「食品の機能性評価モデル事業」の結果報告の中で、DHAやEPAは心血管疾患リスクの低減、血中中性脂肪低下作用、関節リウマチ症状の緩和といった機能について明確で十分な根拠があるとされていて、αリノレン酸も同様に心血管疾患リスクの低減について肯定的な根拠があるとされており、どれも高い評価を報告されています。

 ちなみに名前を噛みそうな名称ですが、ドコサヘキサエン酸(DHA)のドコサは22という意味で、ヘキサは6を意味します。つまり炭素数が22でその内、二重結合が6つあるという意味です。同様に、エイコサペンタエン酸(EPA)のエイコサは20、ペンタは5なので、炭素数が20で二重結合が5つです。ヘキサゴンは六角形という意味で、クイズ番組のヘキサゴンは元々回答者が六角形の椅子に座っていたからだそうです。ペンタゴンはアメリカの国防総省ですが、これも五角形の建物から来ています。

 前述の通りこれまでは動脈硬化をはじめとする心血管疾患リスクの低減や、血中中性脂肪の低下などがω3系に期待される機能でありましたため、健康なあるいは若いアスリートやトレーニーにとってはあまり刺激的な栄養素ではなかったかもしれません。しかし赤血球の柔軟性を高めたり(赤血球変形能)、一酸化窒素(NO)の産生機能機構を改善するなどの機能が認められ、結果として最大酸素摂取量がかなりダイレクトに増大することが分かってきました。赤血球の直径は毛細血管よりも大きいため、その先まで赤血球が行くためには風船のように、形を歪に変えて行く必要があります。しかし加齢も含め赤血球の柔軟性は徐々になくなり、毛細血管の先まで行けなくなってきます。そこでこの赤血球変形能が向上することと、NOによる血管拡張が合わさることで、特に持久系の競技にはパフォーマンスの向上に直結していくのです。

 ボディビルダーが減量に入ると、息切れを起こして運動強度が下がってしまうということは仕方ない側面があると諦めていたかもしれません。しかし最大酸素摂取量を増やすことで、更に粘れるトレーニングをすることも可能になるかもしれません。

 このように今後は単に健康素材の栄養素としてのみならず、ボディビルダーを始めとするアスリートにも更なる注目を浴びるでしょう。最大のネックは摂取が難しいこと。それも酸化しやすいために食べ物からの摂取が難しいのです。そういった点においてもサプリメントが役に立ちそうです。
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[ 月刊ボディビルディング 2014年10月号 ]

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