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” 食事あれこれ ”

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[ 月刊ボディビルディング 1973年12月号 ]
掲載日:2017.11.14
野 沢 秀 雄

< 郷ひろみの食事 >

 ”なにか体にいいことやってる?”とテレビのCMで、いかにも健康そうに語りかける郷ひろみ。ところがその食事をきいてみると、朝食はオートミールと牛乳と果物のパパイヤ1個。昼食は朝が遅いので抜き。夕食はおかゆを茶椀八分目、だしまきタマゴ、梅干、たくわん、オレンジジュース。たったのこれだけ。カロリーはおよそ1500カロリー、純タンパク質約30gで、これでは身長171cm、体重51kgの体はとうてい維持できない。こんな食事法をしている限り「2年もたたないうちに声がかすれて出なくなる」などと言われるのは当然である。毎日三度三度食べる食事によって、われわれの体がつくられ、エネルギーになることを基本知識として知っておきたい。

< コンテスト出場選手の食事 >

 コンテストのたびに出場選手はきびしい状況にさらされる。直前1カ月前くらいから、コンテストを目的としたはげしいトレーニング生活が続き、コンテスト前日やコンテスト当日にその頂点に達する。舞台に登場する直前におこなうパンプ・アップまで自分の限界ぎりぎりまでの努力をつづけるが、このときのエネルギーの集中と消耗は想像するよりもはるかに大きなものである。

 ところが、選手たちに出される弁当といえばたいてい寿司の折り詰。大会の役員や記録係などとまったく同じ物である場合が多く、ざっと計算して約600カロリー、純タンパク質20g足らずである。これではコンテストの試練に耐えるスタミナに不足して、バテてしまう。対策として朝食に納豆・タマゴ・肉・魚・缶詰・チーズ等をたっぷり食べることである。そうすればタンパク質が有効に筋肉に到達するばかりでなく、燃焼する熱のために、少しくらい寒い日でもコンテストに耐えることができ、気力が充実するのである。
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< 昔の武士たちの食事 >

 新しく剣道の雑誌が、体育とスポーツ社から発行されるので、剣道と栄養に関する調査をおこなっているが、昔の武士たちは現代のわれわれよりも、はるかに体格がよく力も強かったと思われる。これは大阪城などにある鎧や甲冑などを見て想像するのだが、現代人が着たら、ダブダブであり、そのうえ、刃や槍、鉄砲などを装備したらたいへんな重さになる。約15キロはあるようなウェイトをつけ、1日に何キロも野山の坂道を走りつづけるのだから相当の体力が要求されたのにちがいない。

 当時の武士たちの主食は玄米・玄麦・あわ・ひえ・あずき・大豆などで、今日のように牛肉、タマゴなどはあまり食べなかった。なぜそれだけで効果があったのだろうか?一つは自然にあるものをまるごと食べるので新鮮なビタミンやミネラルなど、生命活動に必要な栄養素が欠けなかったこと。また、ときにはいのししや、きじ、魚などの動物性タンパク質のごちそうが与えられたこと。さらに、野草や木の実、果実など血液をアルカリ性に保つ食品を知らず知らずのうちに食べており、これらが体力をつくるのに効果があったのであろう。

 結局日本人の体格が小さくなったのは江戸時代に戦争の必要がなく、野山をかけまわってトレーニングする人が少なくなり、その代わりに文化文明をたのしみ、甘いまんじゅうなどをつくりあげ、やたら人口をふやした結果によるものであろう。以来明治時代まで、飢きんのたびに食料不足になり、満足な栄養バランスがとりにくくなったことが原因ではないだろうか。

< 現代人の食事 >

 ここ数年の物価上昇はとくにいちじるしく、3年前にくらべて2倍に上昇したものさえある。与えられる給料は必ずしも比例せず、窮屈な生活を余儀なくされるが、人びとが先ず最初にカットしようとするのが「食費」のようである。食事の内容を落として、ごはんとみそ汁に魚1匹ぐらいですませることができるが、それによって引きおこされるのは、貧血や息ぎれ、体力不足などである。

 これに加えて、白米・白砂糖・精製塩・化学調味料に見られる純粋物質のはんらんで、昔の人たちが食べた微量栄養素が除去されている。また野草や果物には、これでもかこれでもかというように何重となく農薬が散布されている。また加工食品には、安全性についてデータが少ない食品添加物が使われているものもあり、われわれが安心して食生活をおくれる状況では決してない。

「でも平均寿命が伸びているじゃないか?」という人がいる。だが寿命が伸びたのは乳児の死亡率が減ったためであり、決してわれわれの誰もが75才まで生きられることを意味しない。

 さてそれではどんな食事法をすればいいか。ごちそうを食べすぎると肥満・高血圧・心臓病・糖尿病におちいる。したがって、食事分析をおこなって、自分のエネルギー消耗に見合った食事をとることだ。また植物性の油脂は血中のコレステロールを下げたり、鉄の多い食品は貧血をなおしたり等、積極的な効果の出る食品が多いことも事実である。これらの知識を豊かにすることが、自分と、そのあとに続く人たちの生活を有意義にする一つの方法ではなかろうか?
[ 月刊ボディビルディング 1973年12月号 ]

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