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大豆とホルモンの深い関係

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掲載日:2018.05.21
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大豆イソフラボン(Soy Isoflavone)

大豆の成分に含まれるイソフラボン類は、女性ホルモンに似た作用を持つことから、ファイトエストロゲン(=植物エストロゲン)とも呼ばれ、更年期障害の緩和に関与しています。最近この、ファイトエストロゲンという名称をよく聞くようになりましたが、ここで言うファイトとは、"頑張れ! "の時に使っているものとは違います。

エストロゲン(女性ホルモン)は骨の形成を促進し、骨の溶出を抑制する働きを持ちます。溶出とは、骨から大事な栄養成分(カルシウムなど)が溶け出すことをいいます。

カルシウムの項で「骨吸収」とお話ししたのも、同様の症状です(骨から出てくるのに「吸収」という、一見正反対に聞こえる使い方をしている、とご説明しましたね)。
カルシウムのときにもお話しましたが、もう一度おさらいの意味でご説明しましょう。

人間は口から食べたカルシウムを骨に貯金します。カルシウムの一番の働きは、「動かす」。これはあなたが起きている時も、寝ている時も、生きている限りです。意識して動かす時も、意識しないで動かしている時も、両方ともです。食べたら勝手に消化してくれる、寝ている時も心臓を動かしてくれる、これらは全てカルシウムの働きです。

ですから、カルシウムの血中濃度を一定にしておかないと正しい働きができません。摂取量が多かろうが少なかろうが、血中濃度を一定に保っておかなければなりません。これも生体恒常性の大切な働きです。

しかし、摂取量が少ない日々が続いたら、どうでしょう。血中濃度を一定にするために、どこかからカルシウムを調達して来なければなりません。そこで、口からカルシウムが入ってくるまでの辛抱と、骨からカルシウムを出し続ける事になります。
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でも、あまり使いすぎると骨の強度を保てなくなるので、エストロゲンが“少し使い過ぎを控えるようにしなさい"と、調節してくれるのです。
しかし、エストロゲンが出ているのは、女性の場合は子宮の活動がある有経の時期だけ。閉経時期になると出にくくなります。骨量は30代半ば頃をピークにして、男女ともに少しずつ減っていきます。しかし女性は、エストロゲンの出なくなる50代の閉経を境に、骨量はがくんと激減します。

もちろん、骨はカルシウムだけで作られている訳ではありません。骨の事を考えたらマグネシウム、ビタミンD、ビタミンKやイソフラボンの摂取も欠かせないという事になります。

更年期とホルモン

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更年期とは閉経の50歳を中心とした前後の5年間頃、だいたい45歳頃から55歳頃の事を言います。
この頃に卵巣機能が低下しますので、ホルモンのバランスが乱れ、更年期障害と呼ばれる症状が色々と出始めます。
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エストロゲンと非常に化学構造式が似ている大豆イソフラボンにはエストロゲンに似た作用があるので、この時期にイソフラボンを摂取することで、更年期症状が緩和され、閉経が先送りされる方も多い様です(家森幸男他編、(2002)大Eイソフラボン(幸書房)、Godin B.(l992)Lancet.339.1233)。

更年期障害は、大豆をよく食べるアジアより、余り食べない欧米の地域の方がひどく症状が現れると言われています。
欧米では最近まで、大豆は家畜の飼料で人間の食べ物じゃないと考える人もいた様ですが、この大豆イソフラボンの働きが注目される様になってからは、少しずつ大豆や大豆食品の摂取が増えているようです。
また、更年期の症状は、血液検査データにはあまりはっきりと現れません。でも症状は人によって強く現れる事もありますので、なかなか周囲の人にその辛さが分かってもらえない事があるようです。症状も多彩で、今日と明日では違う症状が現れる、なんて事も良くあります。そうなるとご本人も周りの方々も混乱しますよね。

私の経験則では、症状が現れてから大豆イソフラボンの摂取を始めても、余り改善しなかったり、改善に時間が掛かったりする方が多い気がします。やはり栄養素の働きはリンクしていますから、その他の栄養素も一緒に摂取し、体内の栄養バランスが改善されなければイソフラボン効果も出にくい、というのもあるのでしょう。

現代の女性に取って更年期という時期は、子育ても一段落して自分の時間が持てる、人生でとても充実した時期だとも言えます。その大切な時期に、更年期障害と言う症状に悩まされて楽しい人生を遅れないのは、もったいないと言えるでしょう。人生設計をする時に、この対策も是非入れておいて頂きたいと思います。

男性にも!

ここまでお話ししますと、イソフラボン摂取を考えるのは女性だけと思う方もいらっしゃるかも知れません。実はイソフラボンはホルモン依存性のガン予防に効果的と言われています。
ホルモン依存性とはつまり、ホルモンバランスの乱れによって起こりやすいということです。女性でいえば子宮ガン、卵巣ガン、乳ガンなどです。男性は最初のノコギリヤシエキスの時にお話ししました、前立腺ガンです。

ですから女性だけでなく、ある程度の年齢になったら、男女ともに積極的に摂取を心がけて戴きたい栄養素です。
日本の昔からの食生活には、大豆そのものを調理する他に、豆腐、納豆、醤油、味噌など、大豆をたくさん食べる日常がありました。今一度、食生活の見直しをしたいものです。
また、筋肉の肥大だけを優先的に考えたら、乳プロテインや卵プロテインを選ぶ方も多いでしょうが、大豆プロテインもこのような働きの一端を担っているのですから、いろいろ使い分けて摂取するのが良いでしょう。
  • 星 真理(ほし まり)
    栄養整合栄養医学協会認定 分子栄養医学管理士
    栄養学の専門家として老若男女を問わず、一般人からトップアスリートにいたるまで、あらゆるニーズにも対応した栄養指導/栄養セミナーを個人、競技チーム、学校、企業を対象に行っている。
    著書「アスリートのための分子栄養学」(体育とスポーツ出版社)
    分子栄養学(正式名称:分子整合栄養医学)
    Ortho-Molecular Nutrition and Medicine
    ノーベル賞を2つ受賞した米国人生化学者ライナス・ポーリング博士(1901~1994年)が、栄養学と医学とを融合させて研究し、分子整合栄養医学として確立した栄養医学。

  • アスリートのための分子栄養学
    2014年3月31日初版1刷発行
    著者:星 真理
    発行者:橋本雄一
    発行所:(株)体育とスポーツ出版社


[ アスリートのための分子栄養学 ]

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