フィジーク・オンライン

ゴールデンタイムを逃さない ~ホエイプロテインの種類~

この記事をシェアする

0
掲載日:2018.11.15
記事画像1
筋肉が大量のタンパク質を欲している時間帯があり、これを「ゴールデンタイム」と呼びます。ここでいかに大量のタンパク質を「注入」してやるかが、筋肥大のポイントとなるのです。

筋肉はトレーニング直後から早くも筋タンパク合成能力が亢進しており(※16)、トレーニング終了後3時間ほどにわたって持続します。(※17)しかしトレーニング直後に肉や魚などを食べても(これ自体が大変ですが)、ゴールデンタイムには間に合いません。またトレーニング前に大量に食べたりしたら、胃もたれしてしまって、ハードにトレーニングするのはとても無理です。

しかしプロテインなら消化吸収も早く、胃腸への負担もなく、ゴールデンタイムに大量に「注入」することができます。
記事画像2

血中アミノ酸レベルを高くできる

また肉や魚を大量に食べたとしても、消化吸収がゆっくりであるため、アミノ酸は徐々になだらかに血中に放出されます。(※1)
しかしプロテインを摂取した場合、血中アミノ酸レベルを一気に高くすることができます。
この一気にアミノ酸レベルを高くすることこそが、筋肉をアナボリックな状態に持って行くことを可能とするのです。(※18、※19)

肉の場合だと2時間ほどかけて徐々に最高レベルに到達しますが、ホエイプロテインの場合は次のグラフのように、60分ほどで一気に最高レベルになるのです。

ホエイプロテインプロテインの原材料には様々なものがあり、目的に応じて使い分けるようにします。ただし多くの場合において、ホエイプロテインを選ぶようにするといいでしょう。

ホエイプロテインは大きく次の三つに分けることができます。

WPC(WheyProteinConcentrate)

現在もっとも多く市場に出回っているホエイプロテインが、このWPC(濃縮ホエイプロテイン)です。

まずは牛乳をカゼイン(牛乳に含まれるタンパク質の一種。消化吸収が悪く、あまりプロテインの材料としては向いていない)とカード(凝乳。ヨーグルトのこと)に分離します。

このカードを酵素処理し、水を抜いて行くとチーズが出来るのですが、その抜かれた水にホエイが含まれるのです。

ヨーグルトを食べると、上澄み液を見ることがありますが、それがホエイです。そこから水分を抜いて精製したものがWPCとなります。WPCのタンパク含有量は、平均して100gあたり70~80gです。

WPI(WheyProteinIsolate)

WPCには乳糖や乳脂、灰分などが含まれるのですが、それらを取り除いてタンパク含有量をさらに高めたものがWPIです。WPIのタンパク含有量は100gあたり90g以上にまでなります。

また精製度が高い分、WPCよりも消化吸収速度は早くなります。
なおWPC→WPIとするときの処理方法として、「フィルター膜処理」あるいは「イオン交換樹脂処理」などがあります。
フィルター膜処理の方はタンパク質を低温で処理できるというメリットがあって、熱による変性の心配がありません。

しかし余計なものを除去して純粋なタンパク質だけを取り出すという点では、イオン交換樹脂処理の方が優れており、タンパク含有率の高さを求める場合にはイオン交換樹脂処理が勝っています。

WPH(WheyProteinHydrolysate)

WPCに酵素を働かせ、アミノ酸の細かい繋がりにまで分解したものがWPHです。別名、ホエイペプチドとも呼びます。すでに消化されている状態のため、胃腸への負担は少なくなります。

消化吸収もWPCやWPIに比べ、少し早くなります。ただしフィルター処理やイオン交換樹脂膜処理はしていないため、タンパク含有率としてはWPIよりも低くなります。また価格も高くなります。

WPHはペプチドにまで分解されていますが、ペプチドといっても大きさはいろいろです。アミノ酸が2個のジペプチド、3個のトリペプチドにまで分解されていれば非常に消化吸収が早くなりますが、もっと大きな分子の場合、WPIと比べてそれほど違いはありません。
45gのWPIとWPHを比較した研究でも、そのような結果が出ています。

ただし25gのWPIとWPHを比較した研究(※21)では、ネガティブエクササイズからの回復においてWPHのほうが良い結果を出しています。

またトレーニング中のドリンクに溶かす場合はWPHのほうが胃もたれせずに良いと考えられます。体重1kgあたり0.15gずつの糖質とWPHを運動中に飲んだ研究では、糖質のみの群と比べてタンパク合成が高くなっています。(※22)
それほど違いはないと言っても、微妙な消化吸収速度の違いがインスリンの強い反応を引き起こし、このような効果を導き出している可能性があります。

ちなみにカゼインを細かく砕いた「ペプトプロ」などは、かなり細かく砕かれたペプチドで消化吸収も早いようですが、後述のとおりカゼイン自体のアナボリック作用がホエイよりも低いことや、現時点ではあまりに高価であることから、今のところはお勧めできません。

どれが一番良いかではなく目的に合わせよ

なおホエイプロテインには免疫グロブリンやラクトフェリンなど、免疫を向上させてくれるものが多く含まれているのですが、これらは加工によって壊されてしまいます。

特にペプチドにまで分解するWPHには殆ど含まれません。ですからホエイプロテインによる免疫向上効果(※23、※24)を狙うのであれば、WPCを選択するのがベストとなります。

ただしWPCには乳糖がかなりの割合で残っており、牛乳を飲むと下病してしまう乳糖不耐性の人の場合、WPCでもやはり下痢する傾向にあります。

この場合はWPIを選ぶようにしましょう。価格はWPIよりも少し高くなりますが、タンパク含有率が高いことを考慮すると、タンパク質1g当たりでの価格は大差ないものです。

WPHは価格が高く、免疫向上物質も期待できません。しかし少しでも消化吸収が早いと言うことは、トレーニング直後や起床直後に摂取するうえで、大きなアドバンテージがあります。

ただしあまりにも消化が早いため、浸透圧性の下痢を引き起こしてしまうということもありますので、他のプロテインと組み合わせて飲むという方法も考えられます。

浸透圧性下痢とは

浸透圧性下痢とはなんでしょうか。
吸収されていない物質が腸の中に高濃度で存在するとき、体液が腸の中に出て行くことによって腸の中の水分を増やし、濃度を調節しようとします。

しかし腸の中の水分が増えることは、下痢の原因ともなってしまうわけです。
例えば乳糖による下痢も、浸透圧性下痢の一種です。乳糖を消化できない人は、腸内に吸収されない乳糖が蓄積していきます。
そして体液が腸の中に出て行って濃度を調節する→腸内の水分増加→下痢という流れになるわけです。人工甘味料の摂り過ぎによる下痢も、これと同じメカニズムです。

同様に、WPHやアミノ酸のように消化吸収が非常に早いものを大量に摂取すると、腸の中の濃度が急速に高まってしまうため、この浸透圧性下痢を引き起こしてしまいがちなのです。

ただしこれらは吸収されない物質というわけではありませんので、少しずつ小分けにして飲むようにすれば大丈夫です。
濃度が急速に高まらないため、浸透圧性下痢を引き起こすこともありません。
その代わり、WPHやアミノ酸の持つ「消化吸収の早さ」のメリットも失われてしまうことになりますが。

【引用文献】
※1: Amino acid levels following beef protein and amino acid supplement in male subjects. Asia Pac J Clin Nutr. 1997 Sep;6(3):219-23.

※18 The digestion rate of protein is an independent regulating factor of postprandial protein retention. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2001 Feb;280(2):E340-8.

※19 Dietary protein digestion and absorption rates and the subsequent postprandial muscle protein synthetic response do not differ between young and elderly men. J Nutr. 2009 Sep;139(9):1707-13. doi: 10.3945/jn. 109.109173. Epub 2009 Jul 22.

※21 Supplementation with a whey protein hydrolysate enhances recovery of muscle force-generating capacity following eccentric exercise. J Sci Med Sport 2010 Jan;13(1):178-81. doi: 10.1016/j.jsams.2008.06.007. Epub 2008 Sep 2.

※22 Coingestion of carbohydrate and protein hydrolysate stimulates muscle protein synthesis during exercise in young men, with no further increase during subsequent overnight recovery. J Nutr. 2008 Nov;138(11):2198-204. doi: 10.3945/jn. 108.092924.

※23 Effect of whey protein isolate on intracellular glutathione and oxidant-induced cell death in human prostate epithelial cells. Toxicol In Vitro. 2003 Feb;17(1):27-33.

※24 The influence of dietary whey protein on tissue glutathione and the diseases of aging. Clin Invest Med. 1989 Dec;12(6):343-9.
  • 山本 義徳(やまもと よしのり)
    1969年3月25日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
    ◆著書
    ・体脂肪を減らして筋肉をつけるトレーニング(永岡書店)
    ・「腹」を鍛えると(辰巳出版)
    ・サプリメント百科事典(辰巳出版)
    ・かっこいいカラダ(ベースボール出版)
    など30冊以上

    ◆指導実績
    ・鹿島建設(アメフトXリーグ日本一となる)
    ・五洋建設(アメフトXリーグ昇格)
    ・ニコラス・ペタス(極真空手世界大会5位)
    ・ディーン元気(やり投げ、オリンピック日本代表)
    ・清水隆行(野球、セリーグ最多安打タイ記録)
    その他ダルビッシュ有(野球)、松坂大輔(野球)、皆川賢太郎(アルペンスキー)、CIMA(プロレス)などを指導。

  • アスリートのための最新栄養学(上)
    2017年9月9日初発行
    著者:山本 義徳


[ アスリートのための最新栄養学(上) ]