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酵素とコラーゲンの真実

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掲載日:2019.01.10
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私たちの身体は60兆個もの細胞から作られています。
そして細胞の外には細胞どうしをくっつける接着剤のような物質が存在し、それを「細胞外マトリックス(ECM)」と呼びます。
「体内のタンパク質」でコラーゲンは構造タンパク質だと書きましたが、コラーゲンはこのECMの主成分なのです。

しかし30代を境に身体の中のコラーゲンはだんだんと減少していき肌や髪、爪などコラーゲンが主な材料となっているところに老化のしるしが顕れてきます。肌のたるみやシワ、髪のツヤの不足や髪が細くなる、爪が割れやすくなる。こういったものはみんな、コラーゲンの不足を示すサインなのです。

コラーゲン合成のために

コラーゲンは主にグリシンやプロリン、ヒドロキシプロリン、アルギンなどのアミノ酸から構成されるタンパク質です。
ヒドロキシプロリンとはプロリンを水酸化したもの。体内でコラーゲンが合成されるとき、最初の原料はプロリンになります。

そしてコラーゲンがおおかた出来上がったところで、その中のプロリンに酵素が働き、ヒドロキシ化(水酸化)されます。このヒドロキシ化(水酸化)を行うためには、ビタミンCが重要な役割を果たします。ですからコラーゲンを体内で合成するときには、ビタミンCが欠かせません。

グリシンやプロリンは普通にタンパク質を摂取していれば、まず不足することはありません。しかしアルギニンは不足する可能性があります。
特にコラーゲンを体内で生成する際、コラーゲンの構造は「Y」に似た形をしているのですが、Yのちょうど分岐している位置を形成するためにアルギニンが必要とされるのです。
なおアルギニンの成長ホルモン分泌作用やNO(一酸化窒素)産生作用も影響してきます。詳しくは第九章に譲りますが、アルギニンを摂取することでコラーゲンの合成が促され、ケガからの回復が早まったという報告もあります。(※72,※73)

サプリメントとしてのコラーゲン

十分なタンパク質に加えてビタミンCやアルギニンを摂取することで、体内におけるコラーゲン合成は十分に高まってきます。しかし30代以降はそれに加えて「外部からの摂取」も行うようにしたいところです。

さて、コラーゲンを摂取してもアミノ酸にまで分解されてしまうため、カラダのコラーゲンにはならないという意見があります。しかし、そうではありません。
最近の研究によれば、コラーゲンを摂取することで、それが体内でプチドに分解され、そのペプチド(特にプロリンとヒドロキシプロリンのジペプチド)が様々なシグナルを送ることにより、体内におけるコラーゲン合成がさらに高まるという報告がされています。

実際にコラーゲンを摂取することにより、皮膚の弾性が改善し、シワが減ったという報告もあります。
またコラーゲンペプチドを毎日10g、2か月に渡って摂取したところ、変形性膝関節症の患者半数に改善がみられています。(※74,※75)

コラーゲン由来のジペプチドである「ヒドロキシプロリン+グリシン」が、筋芽細胞の分化や筋管の肥大を促すという研究(※76)や、コラーゲン由来のトリペプチド(グリシン+プロリン+ヒドロキシプロリン)が体内に十分吸収されるという報告(※77,※78)、コラーゲンペプチドがセルライトの改善に役立ったという報告(※79)、肌のバリア機能や弾力、保湿機能を高めるという報告(※80,※81)、コラーゲン加水分解物の摂取により肌のコラーゲンが増えたという報告(※82)などなど、コラーゲンの経口摂取による効果の報告は最近になって続々と出てきています。

なおアルギニンとBCAA、あるいはアルギニンとグルタミンを組み合わせることによって、コラーゲンの合成速度が高まったという研究結果が味の素から出されています。

この報告によれば、経口にて成人一日あたり、5~12gのアミノ酸混合物(BCAAとアルギニン、グルタミン)を摂取することによって、コラーゲンの合成が促進される可能性があるとのこと。また医薬品でも使われているもので、「3gのHMBと14gのアルギニン、14gのグルタミン」をミックスした製品があります。この配合においては7~14日間の摂取によって、コラーゲンの合成が飛躍的に高まったことが示されています。(※83)

さらに高齢者がトレーニングと同時に15gのコラーゲンペプチドを摂取したところ、除脂肪体重や筋肉量、筋力に顕著な改善を認めたという報告もあります。(※84)

コラーゲンを強くするトレーニング

余談になりますが、コラーゲンを強くするトレーニングというものもあります。それが「エキセントリック・トレーニング」いわゆるネガティブです。
某メジャーリーガーが「腱や靱帯はウェイトトレーニングしても強くならない」と発言していましたが、それは違います。特に腱はトレーニングによって強くなることが数々の研究によって報告されています(※85,※86,※87)

ここで紹介した論文では、「腱」の修復がネガティブトレーニングに」って促進され、コラーゲンの合成や血管の生成が高まったとされています。アキレス腱断裂などに悩まされているアスリートは、リハビリのある段階でネガティブエクササイズを取り入れていくべきかもしれません。
また、通常時からネガティブトレーニングを適宜採用することによて、怪我をしにくい強靭な脚をつくりあげることが可能になると思れます。
72: Arginine stimulates wound healing and immune function in elderly human beings.
Surgery. 1993 Aug;114(2):155-9; discussion 160.

X73 : Temporal expression of different pathways of 1-arginine metabolism in healing wounds. J Immunol. 1990 May 15;144(10):3877-80.

74 : Role of collagen hydrolysate in bone and joint disease. Semin Arthritis Rheum. 2000 Oct;30(2):87-99.

75 : Nutraceuticals as therapeutic agents in osteoarthritis. The role of glucosamine, chondroitin sulfate, and collagen hydrolysate. Rheum Dis Clin North Am. 1999 May;25(2):379-95.

76 : The collagen derived dipeptide hydroxyprolyl-glycine promotes C2C12 myoblast differentiation and myotube hypertrophy. Biochem Biophys Res Commun. 2016 Sep 23;478(3):1292-7. doi 10.1016/j.bbrc. 2016.08.114. Epub 2016 Aug 21.

77 : Absorption and Urinary Excretion of Peptides after Collagen Tripeptido Ingestion in Humans. Biol Pharm Bull. 2016;39(3):428-34. doi: 10.1248/bpb.b15-00624.

78 : Orally Available Collagen Tripeptide: Enzymatic Stability, Intestinal Permeability, and Absorption of Gly-Pro-Hyp and Pro-Hyp. J Agric Food Chem. 2016 Sep 28;64(38):7127-33. doi: 10.1021/acs.jafc.6b02955. Epub 2016 Sep 13.

79 : Dietary Supplementation with Specific Collagen Peptides Has a Body Mass Index-Dependent Beneficial Effect on Cellulite Morphology. J Med Food. 2015 Dec;18(12):1340-8. doi: 10.1089/jmf.2015.0022. Epub 2015 Nov 12.

80 : Oral collagen-derived dipeptides, prolyl-hydroxyproline and hydroxyprolyl-glycine, ameliorate skin barrier dysfunction and alter gene expression profiles in the skin. Biochem Biophys Res Commun. 2015 Jan 9;456(2):626-30. doi: 10.1016/j.bbrc.2014.12.006. Epub 2014 Dec 8.

81: Oral supplementation of specific collagen peptides has beneficial effects on human skin physiology: a double-blind, placebo-controlled study. Skin Pharmacol Physiol. 2014;27(1):47-55. doi: 10.1159/000351376. Epub 2013 Aug 14.

82 : Collagen hydrolysate intake increases skin collagen expression and suppresses matrix metalloproteinase 2 activity. J Med Food. 2011 Jun;14(6):618-24. doi: 10.1089/jmf.2010.0085. Epub 2011 Apr 11.

83 : Effect of a specialized amino acid mixture on human collagen deposition. Ann Surg. 2002 Sep;236(3):369-74; discussion 374-5.

84 : Collagen peptide supplementation in combination with resistance training improves body composition and increases muscle strength in elderly sarcopenic men: a randomised controlled trial. Br J Nutr. 2015 Oct 28;114(8):1237-45. doi: 10.1017/S0007114515002810. Epub 2015 Sep 10.

85 : Increased mRNAs for procollagens and key regulating enzymes in rat skeletal muscle following downhill running. Pflugers Arch. 1999 May;437(6):857-64.
791 : Role of leucine in the regulation of mTOR by amino acids: revelations from structure-activity studies. J Nutr. 2001 Mar;131(3):8615-865S.

86 : Eccentric training improves tendon biomechanical properties: a rat model.J Orthop Res. 2013 Jan;31(1):119-24. doi: 10.1002/jor.22202. Epub 2012 Jul 30.

87 : Eccentric rehabilitation exercise increases peritendinous type|| collagen synthesis in humans with Achilles tendinosis. Scand J Med Sci Sports. 2007 Feb;17(1):61-6. Epub 2006 Jun 19.
  • 山本 義徳(やまもと よしのり)
    1969年3月25日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
    ◆著書
    ・体脂肪を減らして筋肉をつけるトレーニング(永岡書店)
    ・「腹」を鍛えると(辰巳出版)
    ・サプリメント百科事典(辰巳出版)
    ・かっこいいカラダ(ベースボール出版)
    など30冊以上

    ◆指導実績
    ・鹿島建設(アメフトXリーグ日本一となる)
    ・五洋建設(アメフトXリーグ昇格)
    ・ニコラス・ペタス(極真空手世界大会5位)
    ・ディーン元気(やり投げ、オリンピック日本代表)
    ・清水隆行(野球、セリーグ最多安打タイ記録)
    その他ダルビッシュ有(野球)、松坂大輔(野球)、皆川賢太郎(アルペンスキー)、CIMA(プロレス)などを指導。

  • アスリートのための最新栄養学(上)
    2017年9月9日初発行
    著者:山本 義徳


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