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貧血③<体内の鉄の動き/鉄の摂取不足と吸収低下>

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掲載日:2016.10.24
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体内の鉄の動き

体内の鉄の総量は3~4gで、その殆どがタン白質と結合し、安定した状態で存在しています。体内の鉄の約2/3が赤血球中のヘモグロビンにあります。ヘモグロビンは杯で取り入れた酸素を体内組織に運びます。

残りの約1/3は、貯蔵鉄として肝臓や脾臓に存在します。これは金庫の様なもので、体内のヘモグロビン量が不足すると、金庫内の貯金を崩して使います。
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通常、食事から1日に吸収できる鉄の量は約1mgと言われています。また、汗や尿、便などで排泄される量も約1mgです。

しかし、女性はそれと別に、月経によって1ヵ月に約30mgもの鉄を失います。つまり女性は男性の2倍の量の鉄を失うことになるのですが、摂取量は2倍とはいきません。だから、女性に圧倒的に貧血が多いのです。

摂取する鉄の量が不足すると、まず臓器などに貯金されている組織鉄が減っていきます。

次に貯蔵鉄であるフェリチンが減少しますが、このフェリチン値を調べない限りは、貯蔵鉄が減っているかどうかはわかりません。このとき、不定愁訴と言われる様々な症状が出現し始めます。貯金が目減りしてきたサインです。しかし、通常の検査では生活費であるHb(ヘモグロビン)やHt(ヘマトクリット)しか調べませんから、“貧血はありませんね”と診断され、“じゃあこの症状はどこから?”と悩んだ末、精神科の戸を叩く方も少なくありません。

鉄の摂取不足と吸収低下

貧血の原因である鉄の摂取不足ですが、原因は以下のようなものが考えられます。

①偏食
肉や魚には多くの鉄がタン白質と一緒に存在しています。


②鉄製調理器具の使用が減少
私が子供の頃は、鉄のフライパンや鉄の包丁を使っていましたから、台所を手伝った時に、洗ったフライパンや包丁をすぐ拭かないと「錆びるでしょ」と怒られました。現在、家庭では殆ど見られない光景でしょう。

③農業形態の変化
昔は“こやし”を撒いていました。化学肥料に一本化された昭和50年頃を境に、土壌からの鉄分はどんどん減少しています。

④加工精製食品(インスタント食品)の摂取量の増加
これらの食品には鉄分は殆ど含まれていません。
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次に吸収低下ですが、これには以下のようなものが考えられます。

①摂取した鉄の種類による
動物由来のヘム鉄は10%~30%ですが、植物由来の非ヘム鉄は1~5%です。

②吸収を妨げる食品を摂取している
日本茶、紅茶、コーヒーなどに含まれるタンニンや、穀物の外皮、玄米、豆類に含まれるフィチン酸、食物繊維は鉄の吸収を妨げます。また、プルーンは鉄分豊富な食品ですが、残念ながらペクチンという食物繊維の中にくるまれていて、吸収出来ません(人間は食物繊維を吸収できません。)
プルーンで鉄分補給は望めないと考えてください。逆にビタミンCや肉、魚などと一緒に食べると、吸収力がアップします。

③胃腸障害、胃酸の分泌低下
胃腸障害の原因には、ヘリコバクターピロリ菌の感染なども考えられます。先進国の感染者数は日本がダントツで、60代以上の方の感染率は何と80%を超えています。
また、胃酸分泌低下の原因には、胃薬の飲み過ぎなどが考えられます。

実はピロリ菌が原因で胃の状態が良くない方が、その事を知らずに(調べずに)胃酸抑制剤などを服用しているケースも少なくありません。胃の状態が良くないのは、もしかしたらピロリ菌感染が原因かも知れません。ピロリ菌抗体の検査は是非一度、受けてみて下さい。

また、胃を切除された方も、吸収力は低下します。もちろん、ストレスから胃腸トラブルを引き起こす方はとても多いですね。

④ストレスによる自律神経の乱れ
胃腸の運動は自律神経(副交感神経)によって支配されています。胃の状態はストレスにとても影響されやすい臓器です。
ストレスを上手に解消しましょう。



この様な事から、鉄はなかなか吸収されません。
食品中の鉄含有量がすべて吸収されるわけではありませんので、どれだけ含有しているかに注意を払うことも大切ですが、どれだけ吸収されたのか、の方がもっと大切です。
  • 星 真理(ほし まり)
    栄養整合栄養医学協会認定 分子栄養医学管理士
    栄養学の専門家として老若男女を問わず、一般人からトップアスリートにいたるまで、あらゆるニーズにも対応した栄養指導/栄養セミナーを個人、競技チーム、学校、企業を対象に行っている。
    著書「アスリートのための分子栄養学」(体育とスポーツ出版社)

    分子栄養学(正式名称:分子整合栄養医学)
    Ortho-Molecular Nutrition and Medicine
    ノーベル賞を2つ受賞した米国人生化学者ライナス・ポーリング博士(1901〜1994年)が、栄養学と医学とを融合させて研究し、分子整合栄養医学として確立した栄養医学。

  • アスリートのための分子栄養学
    2014年3月31日初版1刷発行
    著者:星 真理
    発行者:橋本雄一
    発行所:(株)体育とスポーツ出版社


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