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「感情について」 筋肉ドクターの健康道 第九回

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(小島 央・こじま ひさし) 誕生日:昭和45年12月28日(38歳) 住所:京都市伏見区 職業:整形外科医 趣味:健康(筋トレ)、ボディビルディング 初出場の2007年ミスター京都でベストルーキー賞受賞 資格:医師、日本体育協会認定スポーツドクター 現在、外来診療の他にセミナー活動、腰痛・膝関節痛のある高齢者に運動指導、(オリジナルマシーン製作計画中)、等をしている。 ホームページアドレス http://ironclinic.com/ 文/ 小島 央[ 月刊ボディビルディング 2009年10月号 ]
掲載日:2017.05.30
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第九回 感情について

前回の心の話の続きで、今回は意識や記憶に影響する″感情″というものについて考えてみましょう。

ロボティクス的に単純に精神・心を考えると言っていましたが、この感情というのも超意識のインスピレーションや第六感と同様に、生物に特有のもので機械には出来ないことだと思っています。

そして、感情というのは大きく分けるとプラスとマイナスに分けられます。プラスは″楽しい″とか″うれしい″とか″面白い″とか″良い″とか″美味しい″とか″やる気がある″とか、積極的思考と呼ばれたりしています。マイナスは″悲しい″とか″つまらない″とか″退屈″とか″不味い″とか″悪い″とか″やる気がない″とか、消極的思考と呼ばれたりしていることで、陽性感情、陰性感情と言うようです。

この感情ですが、先ほど述べた個人的制約なわけですから、個人によって異なるわけです。どんな出来事でも必ずプラスに考える人とマイナスに考える人がいるのです。例えば、人に殴られるということは多くの人にとってマイナスの出来事ですが、SM好きの方などはある意味プラスの出来事なわけです。ですから、この世に起こる出来事全てに意味は無く、出来事に陽性感情や陰性感情を連想している繋がり、自動思考と言うそうですが、これによって出来事に感情的意味付けをしていると考えられます。

ところで、一般的に言われているストレス、正確には心理社会的危険因子と言いまして、ストレスは万病の元といわれている心理的ストレスですが、これは結局マイナスの感情ということになります。トレーニング意欲にしても、やろうと思うけれどもやる気が出ないというのは、マイナスの感情のためと考えられます。

そして、何々がストレスだとか何々があるから今日はやる気がしないとか、皆さん外部の出来事がストレスだと考えていますよね。しかし、この世に起こる出来事には、上記のように感情的意味は無いのです。その出来事のためにストレスであったり、やる気が出ないといった陰性感情を抱くように自分が作りだしているわけです。

実際、心理社会的危険因子が取り立たされている腰痛に関しても、仕事がストレスだと言って仕事を辞めるとかえって腰痛が治りにくくなるといった統計学的事実があるようです。要するにストレスを作り出している自分をそのままに、出来事を無くしたところで解決しないということです。よく、ストレス発散とか言いますが、気分転換は重要かもしれませんが、ストレスを作り出している自分をそのままに、いくらストレスを発散しても無意味だと以上から私は考えています。

このように、感情をマイナスにすることは、自分が不快感な感情を抱く以上に、病気になりやすくするという二重の損害があるということになります。こう考えますと、陰性感情を抱くことに利益は皆無、百害あって一利無しと考えられます。

そして、問題解決法や感情のコントロール法、悩みの克服法など、自己啓発や精神医学、心理学などで、様々な陰性感情を除去する方法が紹介されていますが、結局のところは陰性感情を抱かないようにするほうが自分にとって利益があるということをまず理解することが重要だと思います。

この陰性感情ですが外来診療をしていると、自分で陰性感情を抱いているかどうか分かっていない方が結構おられます。ストレスが原因となると言われていると説明すると、「ストレスはありません」と言いながら、何か他に原因があるに違いないと取り越し苦労をされている方をよく見かけます。

大体において病院の外来を受診するという時点で、不安感を抱いて受診するものですから、その時点でストレスを感じているはずです。しかも、自分の症状を悪いものと連想しているわけですから、今の症状というストレスの上に不安感を増長する取り越し苦労というストレスを上塗りして受診されているわけです。

こういったマイナスの感情というのは常から自分でリサーチするようにしておかないと、意外と抱いているものだと、私は自分でも感情をリサーチするようになってから実感しております。

ちなみに、″後悔″というものですが、仏教の開祖のお釈迦様も「後悔なんてしてはいけません」とおっしゃっているそうです。過ぎ去ったどうしようもない過去のマイナスの感情を抱いた出来事について現在マイナスの感情を抱くことに時間を浪費するという二重のマイナスの感情を抱いているということで、全くの無駄ということです。2千年も前から言われているのに未だに何も知らずに後悔したりしている我々は進歩していないものだと思いませんか。

また、先程も述べた″取り越し苦労″ですが、起こるかどうかも分からないマイナスの未来について心配するということですから、これもまた無駄な思考だと言えます。

とりあえず、胃潰瘍、腰痛、うつ病、癌、関節リウマチ、狭心症、脳梗塞、メニエル病等、ストレスが原因と言われている慢性疾患をあげればきりがありませんが、これらを予防するという意味では、現在、今の時間に陰性感情を持たないように、前向きで楽しい感情で満たす、または感情を抱かない、いわゆる無の状態にすることが重要だということです。

そして、過去の記憶もまた感情を伴った記憶がほとんどですから、この過去の記憶のマイナスの感情のマーキングを、出来事に意味が無くて自分で悪いことと決め付けているということをしっかり理解して、沸いてくる過去のマイナスの感情の記憶もせめてニュートラルにするようにした方がマイナスの連想を断ち切るのに効果的です。

現在、情報化社会と言われ、必要無いマイナスの情報も大量に自分の中に流れ込んでくる時代ですから、そういうものに恐怖心を煽られてかえって自分の精神を病ませている方も多く見られます。情報の真偽も確かめずに不安感を持っている方は、最初から情報を断つのも一つの方法だと思います。私も出来るだけマイナス情報を最近は自分に入れないようにしていますが、職業柄そういうわけにもいかずマイナスの情報には陰性感情を伴わせないようにしています。

ボディビル的に言えば、ストレスがかかる状態というのはKIS原則的ではありませんが、交感神経が刺激された状態になりカタボリックになるわけですから、アナボリックの状態にする意味でもトレーニングする時以外は陽性感情を持つ方がより成長が刺激されると予想されます。ということは、トレーニングの効果を高める意味でも陽性感情を持つことが勧められます。

と、このように、意識、記憶、感情と精神(心)のどの部分の問題についての話かと、様々な精神に関する本を読むと、今、どの部分の話をしているのだなと、色々な気付きが私は持てました。例えば、認知療法というものは、認知と表現していますが、要するに感情にマーキングされた記憶のマーキングを変える作業ですし、自己啓発などで心に使われていると言ったりされている方もおられますが、このときに表現されている心というのは感情のことなんだろうなとか、言葉の使い方の違いも分かってきました。

先ほど触れた無の状態というのも、私は感情を抱かない状態という意味ではないかと考えています。一般的に意識を無にすると思いがちですが、常に顕在意識は一つのことをするわけですから、起きている限り意識はゼロにはならないですし、潜在意識なんて常に様々な活動をし続けているわけですから。

心理学や精神医学などで複雑な精神構造と捉えられているものも、KIS的なこの考え方を使えばより簡単に見えてくる気がしてきています。まだまだ心の問題は私自身も研究中ですが。

ということで、今回の感情のお話を終了したいと思います。
  • (小島 央・こじま ひさし)
    誕生日:昭和45年12月28日(38歳)
    住所:京都市伏見区
    職業:整形外科医
    趣味:健康(筋トレ)、ボディビルディング 初出場の2007年ミスター京都でベストルーキー賞受賞
    資格:医師、日本体育協会認定スポーツドクター 現在、外来診療の他にセミナー活動、腰痛・膝関節痛のある高齢者に運動指導、(オリジナルマシーン製作計画中)、等をしている。
    ホームページアドレス http://ironclinic.com/

文/
小島 央
[ 月刊ボディビルディング 2009年10月号 ]

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