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テアニンの効果L-Theanine

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[ 月刊ボディビルディング 2014年3月号 ]
掲載日:2017.08.29
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あなたの筋発達は、いかに良い睡眠を得られるかにかかっている!

リラックスしてデカくなれ

 ボディビルダーである読者諸君にとっては、トレーニングは諸君の生活の中で最も重要な活動であり、デカくなることは諸君にとってのゴールに他ならない。そして月ボ読者の諸君にとって、「筋肥大がジムで起こるものでない」ことは既に常識となっているはずだ。諸君の筋肉は、休息中に肥大を起こすのだ。

 今回は、筋の回復を助けるサプルメントとして、アミノ酸の一つである「テアニン」を紹介したい。テアニンはまた、あまり知られていないサプルメントだが、筋肉の回復に大きな違いをもたらすことができ、簡単にそして比較的安価で入手できるありがたいサプルメントなのだ。

 読者諸君の多くは、トレーニングを深く愛し、そして諸君にとって、トレーニング中の強烈なパンプアップほど、精神的にも肉体的にも深い満足感を与えるものはないことだろう。またサプルメント事情に詳しい諸君の多くは、サーモジェニックサプルメントを摂取して、より強度の高いトレーニングへと自分自身を日々プッシュし続けているに違いない。しかしながら、そんな日々の努力にも関わらず、諸君が経験している筋発達は、諸君が望むそれよりも遅く、そしてその結果は安定したものではないのが現実ではないだろうか。

 もし諸君が限られたレベルやスピードでの筋発達を経験しているとしたら、それにはいくつかの理由が考えられる。諸君の栄養摂取に問題がないのであれば、諸君の筋発達を妨げている理由は恐らくオーバートレーニングだろう。そして多くの場合、サーモジェニックサプルメントの定期的な服用がオーバートレーニングのきっかけとなり、オーバートレーニングを助長する結果となってしまっているケースが多いようだ。多くのサーモジェニックサプルメントは非常に効果的だが、その反面、使い方を間違えると、マイナスの効果ももたらす「両刃の剣」でもあるのだ。

 またたとえ諸君がサーモジェニックサプルメントを摂取していなくても、熱心なボディビルダーは比較的簡単にオーバートレーニングに陥ってしまうものだ。そのため、自分のトレーニングをしっかり管理し、トレーニングの記録をつけて諸君の身体が発する「信号」に耳を傾けることが非常に大切なのだ。

 そしてトレーニング間の休息を、トレーニングと同じくらい真剣に管理することもとても重要だ。それには、まず何と言ってもきちんと休息をとること。そして理想的な休息を得る為の食事やサプルメントを心がけることだろう。これが今回、「テアニン」を諸君に紹介する理由に他ならない。

東洋の知識

 アクティブな生活を送っているアメリカ人の中で、本当の意味で「リラックスする」ことを知っている人達というのは、少ないものだ。結果アメリカではストレスが原因である疾患を患う人々が年々増え、また薬物への依存も増加の傾向を示している。しかしながら、他の文化に目をやれば、必ずしも誰もがストレスの高い毎日を送っているわけではない。

 多くのアジア諸国において、お茶、特に緑茶は、毎日の生活の一部として摂取されて来た。例えばティーセレモニー(お茶会)は、一つの芸術、そしてエンターテイメントとして発達し、人々がリラックスし、リフレッシュする助けをする役割を遂げてきた。そして現在でも、多くの人々が日々、仕事中や午後の「お茶の時間」に緑茶を飲み、リラックスする時間や、仕事仲間や友人、家族との会話を持つ時間を毎日の生活の一部としている。

 東洋の茶の道を究めた茶人のように、ボディビルダー諸君も、いかにして休息をとり、回復をもたらすかを綿密に計画する必要がある。これは言うまでもなく、より効率の良い筋発達をもたらすために他ならない。そして、この計画の中で重要な役目を果たすのが、緑茶の中に含まれる、幾つかの主なる含有物なのである。緑茶の主な含有物は、ポリフェノール、カフェイン、各種のビタミン、ミネラル、アミノ酸、そして幾つかの窒素系の物質と、少量の炭水化物と水分だ。緑茶の中にはたくさんの身体的に重要な栄養素、例えばポリフェノール、テアニン、カテキンなどが含まれている。ポリフェノールは様々な効用を持つ物質で、効酸化物質であるばかりではなく、癌、虫歯、歯茎の炎症を抑える働きを持ち、消化器官内のバクテリアの成長を助け、体内の「匂い消し」の役割まで果たす。テアニンは、お茶系の植物の中だけに高い量が含まれているという点で、ユニークな物質だ。テアニンはお茶系の植物内の主なアミノ酸であり、お茶のほのかな甘さは、この物質によるものだ。アミノ酸と言うと、もっぱら「たんぱく質の材料」という風に考えがちだが、それだけがアミノ酸の役割ではないのだ。

 市場には幾つかの種類の緑茶が出回っている。そしてテアニンの含有量の高い緑茶ほど、高価である傾向にある。例えば質の高い抹茶は、テアニンの含有量が最も高い緑茶だ。抹茶に次いでテアニンの含有量が高いのは、玉露茶と煎茶である。これらのテアニンの含有量の高い緑茶には、一杯に26から46㎎のテアニンが含まれている。

 しかしその精神的、肉体的効用が広く知られているのにも関わらず、つい最近まで、高いコストをかけずにテアニンだけを生産する方法は開発されていなかった。しかし1990年代に、日本の科学者達がこの問題を解決し、グルタミン、エチルアミン、そしてスドーモナスニトロリデューセンズという物質を使ってテアニンを生産する方法が考えだされた。発酵の必要のない緑茶とは異なり、テアニンを生産する過程では時間をかけた発酵が必要で、従ってテアニンの生産には4ヶ月近い時間が必要となる。

 ともあれ我々にとって重要なのは、たとえ諸君に緑茶を飲む習慣がなかったとしても、現在ではテアニンをサプルメントとして購入できるということだ。
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テアニンでリラックス

 それが良いか悪いかの議論は別として、多くの読者諸君が、サーモジェニックサプルメントやその他のエネルギーをもたらしてくれるサプルメントを、なんらかの形で摂取していることだろう。殆どのサーモジェニックサプルメントやエネルギー補充の為のサプルメントには、なんらかの形のアルファあるいはベータアゴニスト(エフェドリンかシネフリンのどちらかか、両方)が、キサンチン(カフェイン、テオフィリン、そしてテオブロミン)と組み合わされたものが含まれている。アルファ・ベータアゴニストとキサンチンは、神経細胞の末端と副腎からのノルエピネフリンの分泌を引き起こす。ノルエピネフリンなどの興奮状態を引き起こす物質の分泌の増加は、トレーニング前には良いことだが、トレーニング後のリラックスして回復しなければいけない時には話は別だ。刺激物はトレーニング中の緊張や筋収縮を助けるが、その半面トレーニングが終わった後でも、長時間にわたって緊張状態を保ってしまうのだ。

 現在までの研究によって、カフェインを含む刺激物が、眠りに落ちることを困難にし、睡眠の「質」にも影響することが分かっている。しかし科学者達の研究の結果を待つまでもなく、多くの人々が、サーモジェニック系の物質を摂取した後にリラックスできない、眠れないという問題を訴えているのを諸君はよく耳にすることだろう。特にトレーニングを夕方以降に行う人がサーモジェニックサプルメントを摂取した場合に、この問題は顕著なようだ。そして科学者達のアドバイスを仰ぐまでもなく、もしトレーニング後にリラックスできなかったり良い睡眠を得られなければ、理想的な筋発達や筋力アップが起こらないであろうことは言うまでもない。

 多くの読者諸君は、サーモジェニックサプルメントを摂取することによってエネルギーのレベルを上げてより高い強度でのトレーニングを実現し、より効果的に体脂肪を燃焼できるといった素晴らしい結果を上げていることだろう。しかしながら、強度の高いトレーニングの後に何らかの方法で精神的にも肉体的にもリラックスし、筋肉の緊張と脳内の興奮状態を収めない限り、強度の高いトレーニングの結果よりデカくて切れた身体を作り上げるどころか、バーンアウトしてしまう危険性が高いのが現実なのだ。
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いくらハードなトレーニングを科学的に行っていたとしても、その後の回復、特に睡眠をおろそかにしていては思うような筋発達をすることは無理である。

GHBとGABA

 現在までに述べてきた効用以外にも、テアニンは悪名高いGHB(Gamma-Hydroxybutyric Acid・γ - ヒドロキシ酪酸)に変わる安全なサプルメントとして、その名を知られることになるかもしれない。GHBは麻酔薬として開発された医薬品で、現在日本では法律で麻薬指定されているが、1 9 9 0 年代にボディビルダーの間で一時高い人気を誇った歴史がある。これは、GHBが眠りに導き、成長ホルモンの分泌を高めると言われたからだ。例えGHBが実際には成長ホルモンを分泌を高めず、体脂肪の燃焼を促進しなかったとしても、GHBが人々を眠りに導く効果を持っていることは確かだ。しかしながら、GHBを過剰に摂取した人々が一時的な発作を起こしたり、こん睡状態に陥ったりするなどのケースが報告された後、GHBはすぐに国によって禁止された。従ってGHBは現在では禁止薬物であり、その売買や保持は法律によって罰せられる。

 しかしGHBの興味深い点は、すべての哺乳類の脳内に存在する自然物質であるという点にある。特に冬眠中の動物の脳内では大量のGHBが確認され、脳が低い酸素レベルによってダメージを受けることから守る働きをしている。

 また、サプリメントのG A B A(gamma-aminobutyric acid・γ - アミノ酪酸)は、アミノ酸のひとつで、主に抑制性の神経伝達物質として機能している物質であり、脊椎動物の中枢神経系では、主に海馬、小脳、脊髄などに存在する。有名なカフェインやその他の刺激物が神経系の活動を活発にするのに対し、GABAは神経活動を抑制させる働きがある。そして今回の主役であるテアニンは、脳内のGABAのレベルを上げ、高いレベル、あるいは危険なレベルのカフェインなどの刺激物に働きかけ、そのレベルを下げる働きを持つのだ。その結果、テアニンの摂取はより睡眠時間を長引かせ、脳内の過剰な活動を抑え、毒素のレベルを大幅に下げるという効果をもたらすというわけだ。

 したがって、テアニンはアルファあるいはベータアゴニストとカフェインによって引き起こされる刺激的効果の強度と長さを抑えることが出来る。しかしテアニンの効果は、諸君がリラックスし、良く眠れるようにしてくれるばかりではない。脳内の興奮状態をすばやく安全にリラックスした状態に変え、ケミカルバランスを正常に戻すことにより、テアニンは我々の身体を翌日のトレーニングで受ける刺激に備えてくれるのだ。この結果、筋発達が促進されるばかりではなく、サーモジェニックサプルメントがより効果的にその効用を発揮できることにもなる。
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良質な睡眠が筋発達に繋がる

 ある興味深い実験では、200㎎のテアニンを摂取した人々の脳波を調べている。結果、実験に参加した人達の中で、高いレベルの不安感を持つ人達と低いレベルの不安感を持つ人達の両方で、明らかな「アルファ波」への脳波の移行が確認された。アルファ波は、人が目を覚ましている状態で、かつリラックスしている時に見られることで知られている。従って、多くの瞑想に勤しむ人々は、長い時間と鍛錬を経て、アルファ波を発している状態へと到達することを目指すのだ。アルファ波によって、集中力や学習能力が高まると言われ、テアニンに関する研究では、テアニンの摂取とこれらの能力の関連性も確認されている。またテアニンが月経前症候群に効果があるという報告もされている。

 テアニンは睡眠を助ける為の物質として認められているわけではないが、我々の多くはテアニンを摂取することによってよりリラックスでき、その結果、精神的にそして肉体的にベストな状態であるために必要な質の高い睡眠が得られることとなる。

 現代人の忙しい、ストレスの高い生活スタイルの中でボディビルディングやフィットネストレーニングに勤しむ我々にとって、最良なコンディションを保つ為に役に立つことは何でも取り入れるべきだろう。テアニンは、そんな我々にとって大きな助けとなる「武器」の一つだ。テアニンをサプルメントとして摂取することにより、より質の高い回復が効果的に得られ、トレーニングや様々なスポーツにおいて、壁を破って一つ上のレベルへと到達することが可能となるのだ。
[ 月刊ボディビルディング 2014年3月号 ]

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