第4回日本スポーツ栄養学会 取材レポート #2
掲載日:2017.10.20
企業ブースには多くの新製品が展示されていた
一般演題9 糖質摂取「運動後1時間以内の炭水化物摂取における筋グリコーゲン回復の違い」
講演:大内志織氏
大内志織氏、元永恵子氏、亀井明子氏、高橋英幸氏(国立スポーツ科学センター)塩瀬圭佑氏(福岡大学)大澤拓也氏(順天堂大学)田口素子氏(早稲田大学)
スポーツの現場では、運動後にできるだけ早く炭水化物を摂取することが推奨されていますが、先行研究では運動直後か2時間後の比較しかされていません。
尚、その検証の際は運動直後に炭水化物を摂取したほうが、その後2時間に渡って筋グリコーゲン濃度が高かったという結果が出ていますが、本件では実際のトレーニングや試合を想定し、運動後1時間以内に炭水化物を摂取するタイミングの違いが筋グリコーゲンの回復にどう影響するかという調査を行いました。
自転車(エルゴメーター)にて60分のタイムトライアル形式の運動後、ゼリー飲料とバナナにより体重あたり2gの炭水化物を摂取させました。
その結果、運動直後、運動終了30分後に炭水化物を摂取した方がインスリンが多く分泌され、30分以内の摂取のほうが運動2時間後までの回復が早く、1時間以内の摂取では運動4時間後までの回復は差が無い結果となりました。
しかし、これらはいずれも運動後4時間までの筋グリコーゲンの濃度に大きな差はみられず、このことから炭水化物の摂取は運動1時間以内の範囲では筋グリコーゲンの回復に違いがない可能性が示唆されました。
スポーツの現場では、運動後にできるだけ早く炭水化物を摂取することが推奨されていますが、先行研究では運動直後か2時間後の比較しかされていません。
尚、その検証の際は運動直後に炭水化物を摂取したほうが、その後2時間に渡って筋グリコーゲン濃度が高かったという結果が出ていますが、本件では実際のトレーニングや試合を想定し、運動後1時間以内に炭水化物を摂取するタイミングの違いが筋グリコーゲンの回復にどう影響するかという調査を行いました。
自転車(エルゴメーター)にて60分のタイムトライアル形式の運動後、ゼリー飲料とバナナにより体重あたり2gの炭水化物を摂取させました。
その結果、運動直後、運動終了30分後に炭水化物を摂取した方がインスリンが多く分泌され、30分以内の摂取のほうが運動2時間後までの回復が早く、1時間以内の摂取では運動4時間後までの回復は差が無い結果となりました。
しかし、これらはいずれも運動後4時間までの筋グリコーゲンの濃度に大きな差はみられず、このことから炭水化物の摂取は運動1時間以内の範囲では筋グリコーゲンの回復に違いがない可能性が示唆されました。
「アイスクリーム摂取は運動後の栄養補給法として適しているのか?」
講演:東郷将成氏
東郷将成氏、山口太一氏、佐藤未来氏(酪農学園大学大学院)瀧澤一騎氏(一般社団法人身体開発研究機構)保科圭汰氏(環太平洋大学)
運動後の筋グリコーゲン回復法として、糖質と脂質を摂取することの有用性が示されてきています。
消化管ホルモンであるGIPは動物性脂質を摂取した際にインスリン分泌を高めるため、動物性脂質を含む乳製品である牛乳はインスリンの分泌を促進し、運動後の筋グリコーゲン回復に有効であると考えられます。
さらに、運動後32℃の暑熱環境よりも22℃の常温環境で過ごすと深部体温が約0.4℃低くなり、4時間後の筋グリコーゲンが高値であったという報告から、高強度運動後のアイスクリームの摂取はリカバリーに有効である可能性があります。
アイスクリームはGIPやインスリン分泌の促進、血糖の筋への取込促進(血糖上昇の抑制)、体温の低下などの効果があることから運動後の筋グリコーゲンの回復に貢献することが考えられ、本研究ではそれらによる影響を観察しました。
男性競技者9名を25℃の環境で高強度の運動を行い筋グリコーゲン減少させた後に、
①スポーツドリンク(アイスと同等の糖質量になるように調整)
②アイスクリーム
を摂取させ、4時間の安静を保持した際の測定を行いました。
運動後の筋グリコーゲン回復法として、糖質と脂質を摂取することの有用性が示されてきています。
消化管ホルモンであるGIPは動物性脂質を摂取した際にインスリン分泌を高めるため、動物性脂質を含む乳製品である牛乳はインスリンの分泌を促進し、運動後の筋グリコーゲン回復に有効であると考えられます。
さらに、運動後32℃の暑熱環境よりも22℃の常温環境で過ごすと深部体温が約0.4℃低くなり、4時間後の筋グリコーゲンが高値であったという報告から、高強度運動後のアイスクリームの摂取はリカバリーに有効である可能性があります。
アイスクリームはGIPやインスリン分泌の促進、血糖の筋への取込促進(血糖上昇の抑制)、体温の低下などの効果があることから運動後の筋グリコーゲンの回復に貢献することが考えられ、本研究ではそれらによる影響を観察しました。
男性競技者9名を25℃の環境で高強度の運動を行い筋グリコーゲン減少させた後に、
①スポーツドリンク(アイスと同等の糖質量になるように調整)
②アイスクリーム
を摂取させ、4時間の安静を保持した際の測定を行いました。
その結果、アイスクリーム摂取群はスポーツドリンク摂取群よりも6時間に渡ってGIPは高くなりましたが、インスリンと血糖値はスポーツドリンク摂取群ほど上昇せず、30~45分後には特に低値になりました。
また、体温の低下と血中乳酸値は同程度であり、目立った差はみられませんでした。
以上のことから、アイスクリームの摂取はインスリン分泌の点ではマイナスの影響があるために一概に回復食とは言いにくいですが、運動後の糖質の利用を抑制することでエネルギー基質利用の点ではグリコーゲンの回復に貢献することも考えられるため、パフォーマンスへの影響も含めて今後も現場レベルでの検証を続けて行きます。
また、体温の低下と血中乳酸値は同程度であり、目立った差はみられませんでした。
以上のことから、アイスクリームの摂取はインスリン分泌の点ではマイナスの影響があるために一概に回復食とは言いにくいですが、運動後の糖質の利用を抑制することでエネルギー基質利用の点ではグリコーゲンの回復に貢献することも考えられるため、パフォーマンスへの影響も含めて今後も現場レベルでの検証を続けて行きます。
シンポジウム5「脂質によってパフォーマンスは向上するのか?-効果的な脂質摂取法の開発に向けた萌芽研究-」
東京大学 大学院総合文化研究科 生命環境科学系 寺田新氏
昨今、健康を害したりパフォーマンスを悪化させたりするなどとして脂質が悪者にされてしまうことが多く見受けられます。
また、多くのスポーツ栄養学の教科書には「1日の総エネルギー摂取量の20~30%内にすべき」とありますが、それだけの割合を占めているのにもかかわらずその機能にはほとんど注目がされていないのが現状です。
脂質は毎日必ず摂取する栄養素であるため、摂取方法を工夫することで健康増進やパフォーマンスの向上に繋げられる可能性があります。
まず、糖質だけではなく、脂質を同時に摂取することで消化管ホルモンの一つであるGIPが多く分泌され、それにともないインスリンの分泌が増強されることが分かっています。
このような糖と脂質の混合物の摂取により、運動後のグリコーゲン回復が促進されることが動物実験で明らかとなっています。
また、同じような作用を持つ食品として牛乳が挙げられます。
牛乳には、消化されやすい乳脂が多く含まれています。その牛乳と糖質の混合物摂取により、糖質を単独で摂取した場合に比べて、GIPおよびインスリンの分泌が促進され、運動後のグリコーゲン回復が促進することを私たちは報告しています。
ヒトでも、同様に糖質と牛乳の同時摂取でインスリンがよく出るようですが、その反応には個人差もあるようです。
最近、ユニークな生理機能をもつ「機能性脂質」の一つである中鎖脂肪酸に着目して研究を行っています。
中鎖脂肪酸は、身体に体脂肪として蓄えられにくい脂質として知られていますが、たんぱく質代謝に対しても好ましい効果をもたらすことが知られています。
例えば、高齢者の低栄養状態においてよくみられる「低アルブミン血症」と呼ばれる症状を改善する効果や、手術後のたんぱく質の異化作用を抑制する効果があることが知られています。
このようなたんぱく質代謝に対する好ましい効果に着目し、私たちも動物実験を行いました。
その結果、中鎖脂肪酸には、ギプス固定にともなう廃用性筋萎縮を一部軽減できる可能性があることが明らかになりました。
近年、アルツハイマー型認知症患者が急増しています。
その一つのメカニズムとして、脳の糖代謝機能の低下が挙げられています。
その際、ケトン体が脳で代替エネルギーとして利用され、病状の進行を予防できるのではないかと言われています。
中鎖脂肪酸は、肝臓でのケトン体生成を高めます。
さらに、最近、私たちが行った研究では、脳内の星状膠細胞(アストロサイト)と呼ばれる細胞においても、中鎖脂肪酸がケトン体に変換され、神経細胞へとエネルギー源として供給されている、という可能性が示されています。
以上のように脂質には興味深い機能があり、今後、スポーツパフォーマンスや健康の維持増進における脂質の利用法や機能性脂質の新たな生理機能に関する研究が進むことが期待されています。
昨今、健康を害したりパフォーマンスを悪化させたりするなどとして脂質が悪者にされてしまうことが多く見受けられます。
また、多くのスポーツ栄養学の教科書には「1日の総エネルギー摂取量の20~30%内にすべき」とありますが、それだけの割合を占めているのにもかかわらずその機能にはほとんど注目がされていないのが現状です。
脂質は毎日必ず摂取する栄養素であるため、摂取方法を工夫することで健康増進やパフォーマンスの向上に繋げられる可能性があります。
まず、糖質だけではなく、脂質を同時に摂取することで消化管ホルモンの一つであるGIPが多く分泌され、それにともないインスリンの分泌が増強されることが分かっています。
このような糖と脂質の混合物の摂取により、運動後のグリコーゲン回復が促進されることが動物実験で明らかとなっています。
また、同じような作用を持つ食品として牛乳が挙げられます。
牛乳には、消化されやすい乳脂が多く含まれています。その牛乳と糖質の混合物摂取により、糖質を単独で摂取した場合に比べて、GIPおよびインスリンの分泌が促進され、運動後のグリコーゲン回復が促進することを私たちは報告しています。
ヒトでも、同様に糖質と牛乳の同時摂取でインスリンがよく出るようですが、その反応には個人差もあるようです。
最近、ユニークな生理機能をもつ「機能性脂質」の一つである中鎖脂肪酸に着目して研究を行っています。
中鎖脂肪酸は、身体に体脂肪として蓄えられにくい脂質として知られていますが、たんぱく質代謝に対しても好ましい効果をもたらすことが知られています。
例えば、高齢者の低栄養状態においてよくみられる「低アルブミン血症」と呼ばれる症状を改善する効果や、手術後のたんぱく質の異化作用を抑制する効果があることが知られています。
このようなたんぱく質代謝に対する好ましい効果に着目し、私たちも動物実験を行いました。
その結果、中鎖脂肪酸には、ギプス固定にともなう廃用性筋萎縮を一部軽減できる可能性があることが明らかになりました。
近年、アルツハイマー型認知症患者が急増しています。
その一つのメカニズムとして、脳の糖代謝機能の低下が挙げられています。
その際、ケトン体が脳で代替エネルギーとして利用され、病状の進行を予防できるのではないかと言われています。
中鎖脂肪酸は、肝臓でのケトン体生成を高めます。
さらに、最近、私たちが行った研究では、脳内の星状膠細胞(アストロサイト)と呼ばれる細胞においても、中鎖脂肪酸がケトン体に変換され、神経細胞へとエネルギー源として供給されている、という可能性が示されています。
以上のように脂質には興味深い機能があり、今後、スポーツパフォーマンスや健康の維持増進における脂質の利用法や機能性脂質の新たな生理機能に関する研究が進むことが期待されています。
「微量栄養素の欠乏・過剰と運動パフォーマンスとの関連」
滋賀県立大学 人間文化学部 生活栄養学科 東田一彦氏
運動やトレーニングにより多くのエネルギーを消費するとそれに見合ったエネルギーや栄養素を食事から補給しなければならず、三大栄養素だけでなく、微量栄養素の摂取不足がコンディショニングやパフォーマンスを低下させることは周知の事実です。
そして近年の研究から、これまで知られていなかった微量栄養素の機能が徐々に明らかになってきています。
従来、骨形成に重要といわれていたビタミンDは、最近では筋力の調節にも深く関わることが分かり、亜鉛の欠乏は筋損傷からの回復が遅くなるという報告があります。
さらに、ビタミンCやEといった運動による酸化ストレスに対抗する抗酸化ビタミンを多量に摂取しすぎると運動による効果が阻害されてしまうのではという見方があります。
酸化ストレスは悪者のように扱われますが、運動による酸化ストレスが筋を適応させるため、酸化ストレス自体はとても重要なものです。
抗酸化サプリの使用は筋の適応の全てを止めたり抑制するわけではなく、複数のルートのいくつかを抑えるだけで一応筋の適応はするとの報告があります。
そのため、運動中の発汗や食事制限等に伴って、パフォーマンスをしっかりと発揮するためには微量栄養素の摂取不足だけでなく過剰摂取にも十分に配慮すべきであると言えます。
運動やトレーニングにより多くのエネルギーを消費するとそれに見合ったエネルギーや栄養素を食事から補給しなければならず、三大栄養素だけでなく、微量栄養素の摂取不足がコンディショニングやパフォーマンスを低下させることは周知の事実です。
そして近年の研究から、これまで知られていなかった微量栄養素の機能が徐々に明らかになってきています。
従来、骨形成に重要といわれていたビタミンDは、最近では筋力の調節にも深く関わることが分かり、亜鉛の欠乏は筋損傷からの回復が遅くなるという報告があります。
さらに、ビタミンCやEといった運動による酸化ストレスに対抗する抗酸化ビタミンを多量に摂取しすぎると運動による効果が阻害されてしまうのではという見方があります。
酸化ストレスは悪者のように扱われますが、運動による酸化ストレスが筋を適応させるため、酸化ストレス自体はとても重要なものです。
抗酸化サプリの使用は筋の適応の全てを止めたり抑制するわけではなく、複数のルートのいくつかを抑えるだけで一応筋の適応はするとの報告があります。
そのため、運動中の発汗や食事制限等に伴って、パフォーマンスをしっかりと発揮するためには微量栄養素の摂取不足だけでなく過剰摂取にも十分に配慮すべきであると言えます。
日本スポーツ栄養学会受賞者講演
「糖質摂取のタイミングの違いが運動後の筋グリコーゲン回復率に及ぼす影響」
講演:寺田新氏
稲井真氏、西村脩平氏、浦島章吾氏、野中雄大氏、寺田新氏(東京大学 大学院総合文化研究科)木村典代氏(高崎健康福祉大学 健康福祉学部)
1日に複数回の試合やトレーニングが行われる場合において、糖質の摂取による速やかな筋グリコーゲンの回復が必要になります。
従来、それらに関して運動後30分以内に糖質を摂ることが推奨されていますが、その科学的根拠は明確に示されていません。
そこで、本研究では糖質摂取のタイミングの違いが運動後の筋グリコーゲン回復率に及ぼす影響について、動物実験を用いて再評価することを目的としました。
マウスに60分のトレッドミル走行を行わせた後に体重1gあたり2mgの糖質を運動直後と30、60、120分後に分けて摂取をさせ、筋グリコーゲンの回復率を検討しました。
その結果、糖質を運動直後に摂取した場合に比べて、30、60、120分後に糖を摂取したときの回復率はいずれも低かったという結果が得られました。
また、回復期間中の血糖値の変動から、運動直後に糖質を摂取した場合のほうが、小腸での糖の吸収が促進され、より多くの糖が骨格筋に供給され、その結果、グリコーゲン回復が促進されるという可能性が示されました。
今回の研究は、現場で活動されている栄養士の方からの質問がきっかけでスタートしました。
私たち基礎的な研究者と現場で活躍されている栄養士・コーチの方がコミュニケーションをとりながら、効果的な食事・栄養素の摂取法の確立に向けて協力できればと思っています。
1日に複数回の試合やトレーニングが行われる場合において、糖質の摂取による速やかな筋グリコーゲンの回復が必要になります。
従来、それらに関して運動後30分以内に糖質を摂ることが推奨されていますが、その科学的根拠は明確に示されていません。
そこで、本研究では糖質摂取のタイミングの違いが運動後の筋グリコーゲン回復率に及ぼす影響について、動物実験を用いて再評価することを目的としました。
マウスに60分のトレッドミル走行を行わせた後に体重1gあたり2mgの糖質を運動直後と30、60、120分後に分けて摂取をさせ、筋グリコーゲンの回復率を検討しました。
その結果、糖質を運動直後に摂取した場合に比べて、30、60、120分後に糖を摂取したときの回復率はいずれも低かったという結果が得られました。
また、回復期間中の血糖値の変動から、運動直後に糖質を摂取した場合のほうが、小腸での糖の吸収が促進され、より多くの糖が骨格筋に供給され、その結果、グリコーゲン回復が促進されるという可能性が示されました。
今回の研究は、現場で活動されている栄養士の方からの質問がきっかけでスタートしました。
私たち基礎的な研究者と現場で活躍されている栄養士・コーチの方がコミュニケーションをとりながら、効果的な食事・栄養素の摂取法の確立に向けて協力できればと思っています。
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