フィジーク・オンライン

腸内細菌と短鎖脂肪酸~断食で太るメカニズム~

この記事をシェアする

0
掲載日:2018.07.05
記事画像1

腸内細菌と短鎖脂肪酸

短鎖脂肪酸という言葉が出てきました。この章は糖質に関する章ですが、少しだけ脂肪についても触れることとしましょう。前述のとおり、酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸はエネルギーの材料として利用されます。
しかしそれだけではありません。短鎖脂肪酸は体内のエネルギー状態の指標ともなり、交感神経系を介してエネルギー恒常性の維持にかかわることがわかってきています。

そしてこのときは、「脂肪酸受容体」が介在します。脂肪酸受容体の一つ、GPR41には上記のような作用があることがすでにわかっていましたが、2013年の5月に発表された研究(※36)では、GPR43という脂肪酸受容体について調べてみたところ、非常に面白いことが発見されました。

腸内細菌が産生する酢酸などの短鎖脂肪酸を認識する脂肪酸の受容体「GPR43」に、体脂肪の蓄積を抑制し、肥満を防ぐ機能を持っていることが発見されたのです。腸内細菌が肥満を防ぐとは、いったいどういうメカニズムなのでしょうか。

GPR43の遺伝子を欠損させたマウスは、肥満する傾向にあります。そこでGPR43を脂肪組織内に大量に発現させたマウスをつくってみたところ、次のようなことがわかりました。
・痩せる傾向にある
・高脂肪食を与えても、インスリン抵抗性が起こらない
・腸内細菌が存在しないマウスだと、GPR43が欠損していても肥満が起こらず、GPR43が大量発現していても痩せないし、高脂肪食だとインスリン抵抗性になってしまう。
・GPR43は筋肉や肝臓では働かず、脂肪組織のみにおいてインスリン感受性を下げる。

脂肪組織においてだけインスリン感受性を下げるということは、脂肪組織に栄養がいかないということです。つまり体脂肪が増えにくいということ。そして筋肉や肝臓のインスリン感受性を高め、身体全体のエネルギー消費を増やし、トータルとして太りにくい身体をつくるということになります。

しかし腸内細菌がないマウスだと、こういうことは起こりません。つまり最初に腸内細菌が短鎖脂肪酸をつくる必要があります。このとき、食事量が多かったりして体内のエネルギーレベルが高いと、短鎖脂肪酸はGPR43を活性化させます。そして身体全体のエネルギー消費を増やすという流れです。

腸内環境が悪化していると、短鎖脂肪酸の産生もスムーズにはいかなくなります。そしてGPR43も活性化されず、脂肪組織のインスリン感受性が高まり、太りやすい身体になってしまうのです。
断食などをして短鎖脂肪酸ができなくなると、むしろ太りやすくなるというメカニズムがお分かりいただけたでしょうか。
  • 山本 義徳(やまもと よしのり)
    1969年3月25日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
    ◆著書
    ・体脂肪を減らして筋肉をつけるトレーニング(永岡書店)
    ・「腹」を鍛えると(辰巳出版)
    ・サプリメント百科事典(辰巳出版)
    ・かっこいいカラダ(ベースボール出版)
    など30冊以上

    ◆指導実績
    ・鹿島建設(アメフトXリーグ日本一となる)
    ・五洋建設(アメフトXリーグ昇格)
    ・ニコラス・ペタス(極真空手世界大会5位)
    ・ディーン元気(やり投げ、オリンピック日本代表)
    ・清水隆行(野球、セリーグ最多安打タイ記録)
    その他ダルビッシュ有(野球)、松坂大輔(野球)、皆川賢太郎(アルペンスキー)、CIMA(プロレス)などを指導。

  • アスリートのための最新栄養学(上)
    2017年9月9日初発行
    著者:山本 義徳


[ アスリートのための最新栄養学(上) ]