アーノルド・クラシック5度目の優勝 一度は頂点を極めた男!デクスター・ジャクソン

The Blade - Dexter Jackson
アンチエイジング
デクスターは2008年第12代ミスター・オリンピアである。しかしオリンピア優勝後は精彩を欠き、年々衰えていった。年齢も40歳を過ぎたことから、もう引退かと思われていた。しかし41歳になった2011年、彼のフィジークに変化が表れ、フィーボ優勝、マスターズ・プロ・ワールド優勝、12年オリンピア4位、マスターズ・オリンピア優勝。ボディビル界で初めてミスター・オリンピアとマスターズ・ミスター・オリンピアの両方の優勝者となった。13年はアーノルド・クラシック優勝(フレックス• ウィラーとタイ記録である通算4度目の優勝)、続くオーストラリア・プロでも優勝。デクスターのフィジークは完全に引退説を否定するもので、40歳を超えてなお身体がインプルーブしていると大きな話題となった。
そして45歳になった今年のアーノルド•クラシックでも優勝したことで、通算5度目のアーノルド• クラシック優勝新記録を達成している。デクスターはプロに転向して17年になるが、その間72のコンテストに出場し、優勝21回(ミスター•オリンピアとアーノルド• クラシック5回の優勝も含む)、トップ5入賞が62大会という輝かしい記録を持っている。そして、この記録は今後もまだ更新される可能性が高い。
そこで今回は、2008年に一度は頂点を極めながら、40歳を過ぎてからも“ジャクソン旋風”を起こしているデクスター・ジャクソンのアンチエイジングの真相をリポートしたい。
バンタム級からのスタート
1991年21歳の時にウェイトトレーニングをスタート。3カ月後に体重135ポンド(約61kg)でNPCローカルコンテストのバンタム(65kg以下)級に出場し、いきなり優勝。バンタム級はコンテストでは一番軽いクラスであるが、ヘビー級の選手を破ってオーバーオール優勝までしてしまった。ただこの時は、将来ボディビルで生計を立てるなどまったく思ってもいなかった。しかしその後5年間、デクスターはトレーニングに励み、ライト級、ミドル級、そしてライトヘビー級にまで体重を徐々に増加させた。これは小さい身体を大きく成長させるというボディビルのまさしく真髄であり、それをデクスターは体現したのである。
1996年ナショナルズ・ライトヘビー(90kg以下)級で6位だった。このときのヘビー級&オーバーオール優勝者はジェイ・カトラーだった。後年、この二人がオリンピアで争うなどとは誰も予想していなかっただろう。1998年ノースアメリカン・チャンピオンシップスではライトヘビー級&オーバーオール優勝し、29歳でプロカードを手にする。デクスターはこの時、決して忘れることができない経験をした。身体が痙攣してポージングが取れなくなったのだ。ステージでポージングができなければ当然ながら失格になるが、その時のジャッジは痙攣がおさまるまで十分な時間を与えてくれた。この時もし失格していたら、今日のデクスターはなかったかもしれない。
シャープな “ブレード”

プロデビューの99年NOC、3位だった Photo = Raymond

2008年のオリンピアでは、ジェイ・カトラーを破って念願の優勝を遂げた Photo = Ben
その後のナイト・オブ・チャンピオンズではサイズの小ささをシャープな仕上がりでカバーして3位に入賞し、オリンピアのクオリファイを得ると、オリンピアも初出場ながら9位に入賞した。このため、IFBBプロリーグ界でこの年最も活躍した新人プロボディビルダーとなった。翌2000年はアーノルド5位、オリンピアは再び9位。01年アーノルド5位、オリンピアは8位。02年にはアーノルドで3位に入るとオリンピアでも4位に上昇し、オリンピア後のイギリス・グランプリではプロ初優勝をなしとげている。
プロに転向してからのデクスターのフィジークは毎年着実にインプルーブしていった。03年はアーノルドでは4位だったが、オリンピアでは3位とついにトップ3入りを果たしている。しかし当時はロニー・コールマンやジェイ・カトラーといった大きなサイズの選手が主流の時代で、デクスターはオリンピアで3位になっても彼らのサイズにはまったく匹敵できず、オリンピアのタイトルはまだまだまだ遠くにあるものであった。
デクスターはプロ転向後も毎年コンスタントに約5ポンドの体重増加をしてきた。しかしそれでもロニー・コールマンやジェイ・カトラーのような大きなフィジークにはなれなかった。それに、無理に体重を増加させれば、シンメトリーを崩して彼の持ち味を消してしまう。過去に多くのボディビルダーがサイズを増やしてシェイプや仕上がりを失ってきたが、デクスターは仕上がりが保てる範囲内の体重増加に専念してきた。そのかいあって、デクスターの体重は220ポンド(約100kg)になっているが、仕上がりはシャープでカットは明確である。こうしていつしかデクスターのフィジークは、切れ味の良い刃、すなわち “ブレード” と称されるようになったのだ。
ウサギとカメの物語
迎えた翌08年のオリンピア。
サイズの小さいデクスターは自分ではジェイ・カトラーに勝てるフィジークを持っているが、決してミスター・オリンピアで優勝することはできないと思いながらジェイ・カトラーと最後までステージに残っていた。
「優勝者は…デクスター・ジャクソン!」
彼の名を呼ぶアナウンスはまったく予想していなかった。ミスター・オリンピアになれることなど夢にも思っていなかった。バンタム級からスタートして実に17年後、デクスターは39歳でついにボディビル界の頂点を極めたのだ!
ジェイ・カトラーとデクスターのふたりの戦いは、まるでウサギとカメの童話である。ジェイ・カトラーは素質を持ったエリートボディビルダーで、ウサギのようにどんどん飛び越えていったが、デクスターはカメのようにコツコツと毎年歩み続けて、ついに勝利をつかんだ。そしてアーノルド・クラシックでは05年、06年、08年、13年、15年と通算5回優勝し、新記録を樹立したのだ。
怪我をしない

トレーニンブではしばしばベーシックなエクササイズであるコンパウンド種目を行なうべきと言われるが、サイズが大きくなってからはそれほど必要ではない。身体の反応に耳をかたむけ、関節にできるだけ負担をかけないようにし、少しでも痛みを感じるようだったらその部位のトレーニングはやめる。デクスターのトレーニングの基本はヘビーなウェイトで少ないセットを行なうものではなく、やや軽めのウェイトで筋肉に感じながら多くのセットを行なうボリュームセット法である。
ボディビルダーの中には怪我によって選手生命を終えなければならない人もある。その点デクスターはこれまでほとんど怪我をしたことがなく、トレーニングの効果を得つづけている。彼が長年トッププロボディビルダーとして生き残っている秘訣は、怪我をしないことにもあるのだ。
デクスターは自身のトレーニングだけでなく、オリンピア前になるとチャンピオントレーナーとして有名なチャールズ・グラスからトレーニングのコーチを受けるため、フロリダからカリフォルニア・ベニスのゴールドジムに長期滞在している。「トレーニングならどこでもできるではないか」と言われることもあるが、ホームタウンであるフロリダ州ジャクソンビルのジムにはプロビルダーがおらず、刺激もなくモチベーションが上がらないためである。
一時は引退も?

ファラーはデクスターに二つのアドバイスを授けた。まず、食が細いデクスターの食事は一日2食と4回のシェイクを飲むだけだった。つまり食事よりもサプリメントの摂取量が多かったのだ。それを一日5食と1回のシェイクにして、食事の量を増やすようにしたのだ。次に、デクスターはもともと代謝が速い体質であるため、オフシーズンだけでなくコンテスト前でもカーディオ運動をまったく行なわず、コンテスト6週間前からダイエットをして出場するだけであったのだが、ファラーはデクスターにカーディオ運動を定期的に行なうことを指示した。ファラーからのアドバイスに、デクスターは当初は半信半疑だった。それまでダイエットに入つたら、食べる量を減らし、特に炭水化物をカットすることで、カーディオ運動なしでも仕上げられていたからである。しかしファラーは逆に食べろというのだ。
しかしながらファラーから指導を受けるようになって、デクスターのフィジークは劇的にインプルーブした。これは11年以降の彼の成績が証明している。一度は錆びたブレードが、名匠の手によって再び研ぎ澄まされたのだ。
錆びないブレード

デクスター・ジャクソンの成功の秘訣は、サイズは小さいが、ウエストが細く抜群のシンメトリーを持っていたことにある。ボディビルダーはサイズがあることはもちろんであるが、シメトリーも重要である。ウエストの太さは生まれながらに決まっており、デクスターはシンメトリーに優れているため、彼はボディビルダーとしての素質を持ち合わせていたことになる。体重わずか60kgそこそこからスタートして実に22年間で107kgまで、決して焦らずに体重を増加させたことで、シンメトリーを保ってきたのは、忍耐と努力の結晶である。また、彼の岩のように堅いロックハードなマッスルは、一つ一つの筋肉のセパレーションが深くかつ鮮明で密度が高くディテールがあり、立体感に優れている。
デクスターは「私はサイズが大きくなく、ベストなボディビルダーではない。しかし、フレームいっぱいの筋肉とクレージーなコンディションを保っていれば、少しでも甘いコンディションで出て来たチャンピオンの座を奪うことができる。だから、コンテストに対してはいつもベストなコンディションを保って出場している」というポリシーを持っている。もしチャンピオンがミスをすれば、再びデクスターが頂点を極める可能性はあるということだ。

デクスター・ジャクソンの主なコンテスト歴
2015 IFBB Arnold Classic Australia 1st
2015 IFBB Arnold Sports Festival 1st
2014 IFBB Dubai Pro 1st
2014 IFBB Olympia Weekend 5th
2013 IFBB Tijuana Pro Show 1st
2013 IFBB Olympia Weekend 5th
2013 IFBB Australian Pro Grand Prix XIII 1st
2013 IFBB Arnold Classic 1st
2012 IFBB Masters Olympia & Pro World 1st
2012 IFBB Olympia Weekend 4th
2012 IFBB Arnold Classic 5th
2011 IFBB Pro World Masters Championships 1st
2011 IFBB Olympia 6th
2011 IFBB FIBO Power Pro Germany 1st
2010 IFBB Olympia 4th
2009 IFBB Olympia 3rd
2008 IFBB Romanian Pro Grand Prix 1st
2008 IFBB Olympia 1st
2008 IFBB New Zealand Grand Elite Pro 1st
2008 IFBB Australia Pro Grand Prix 1st
2008 IFBB Arnold Classic 1st
2007 IFBB Olympia 3rd
2007 IFBB Australia Pro Grand Prix 1st
2006 IFBB Olympia 4th
2006 IFBB Arnold Classic 1st
2005 IFBB Arnold Classic 1st
2004 IFBB Olympia 4th
2004 IFBB Grand Prix Australia 1st
2004 IFBB San Francisco Pro 1st
2004 IFBB Iron Man Pro 1st
2003 IFBB GNC Show Of Strength 1st
2002 IFBB Grand Prix England 1st
2002 IFBB Olympia 4th
2001 IFBB Olympia 8th
2000 IFBB Olympia 9th
1999 IFBB Olympia 9th
1999 IFBB Arnold Classic 7th
1998 IFBB North American Championships 1st
1996 NPC Nationals 6th
1995 NPC USA Championships 1st
- Dexter Jackson(デクスター・ジャクソン)
1969年11月25日生まれ
フロリダ州ジャクソンビル市出身/身長168㎝ 体重107kg(コンテスト時)
<主なコンテスト歴>
2015 IFBB Arnold Classic Australia 1st
2015 IFBB Arnold Sports Festival 1st
2014 IFBB Dubai Pro 1st
2014 IFBB Olympia Weekend 5th
2013 IFBB Tijuana Pro Show 1st
2013 IFBB Olympia Weekend 5th
2013 IFBB Australian Pro Grand Prix XIII 1st
2013 IFBB Arnold Classic 1st
2012 IFBB Masters Olympia & Pro World 1st
2012 IFBB Olympia Weekend 4th
2012 IFBB Arnold Classic 5th
2011 IFBB Pro World Masters Championships 1st
2011 IFBB Olympia 6th
2011 IFBB FIBO Power Pro Germany 1st
2010 IFBB Olympia 4th
2009 IFBB Olympia 3rd
2008 IFBB Romanian Pro Grand Prix 1st
2008 IFBB Olympia 1st
2008 IFBB New Zealand Grand Elite Pro 1st
2008 IFBB Australia Pro Grand Prix 1st
2008 IFBB Arnold Classic 1st
2007 IFBB Olympia 3rd
2007 IFBB Australia Pro Grand Prix 1st
2006 IFBB Olympia 4th
2006 IFBB Arnold Classic 1st
2005 IFBB Arnold Classic 1st
2004 IFBB Olympia 4th
2004 IFBB Grand Prix Australia 1st
2004 IFBB San Francisco Pro 1st
2004 IFBB Iron Man Pro 1st
2003 IFBB GNC Show Of Strength 1st
2002 IFBB Grand Prix England 1st
2002 IFBB Olympia 4th
2001 IFBB Olympia 8th
2000 IFBB Olympia 9th
1999 IFBB Olympia 9th
1999 IFBB Arnold Classic 7th
1998 IFBB North American Championships 1st
1996 NPC Nationals 6th
1995 NPC USA Championships 1st
- text:
- Sumio Yamaguchi