フィジーク・オンライン

アメリカで戦い続けるアスリート
K44 Keisuke Yoshida
特別インタビュー
止まらぬ進化・新たなる挑戦
Text by Yasuharu Nakajima

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[ 月刊ボディビルディング 2013年7月号 ]
掲載日:2017.08.05
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 1988年、JBBF神奈川選手権ジュニアの部にてコンテストデビューを果たし、同時に初タイトルを獲得してから今年で25年。今なお、アメリカでナチュラルボディビルダーとして戦い続けるアスリート、K44。

 ボディビルダーとしての進化は現在進行形であり、同時に昨年より新たな挑戦として、フィジークコンテストに出場し、大ベテランのアスリートにして、さらなる可能性を自らが引き出した。

 今回、ボディビルのメッカ、ゴールドジム・ベニスにて特別インタビューを行い、自身のこれまでのボディビルの取り組み方、そしてフィジークへの挑戦、さらにはアメリカのボディビル・フィットネスの現状を解説してもらった。

日本のレベルは高い

 K44は6年間のアメリカ武者修行の後、2000年に一時帰国。その4年後、永住権を取得し、本格的に戦いの場を本場カリフォルニアに置くことにした。

 日米両面のボディビルを熟知している彼はこのように語った。「日本のレベルはとても高いと思います。ドラッグユーザーが多いアメリカでそれをナチュラルにしたら、それほどレベルは高くありません。アメリカではスポーツクラブにいる普通のおじさんが丸太のような腕をして、巨大な身体をしています。でも、それは単に大きいだけで、ボディビルで望まれる実質的な大きさとはもちろん違いますから」

 アメリカでナチュラルビルダーとして戦い続けるK44ならではのコメントであるが、日本で頑張っているボディビルダーには嬉しい言葉ではある。
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理想のボディビル像

 これまで参加してきたコンテストのバックステージでは、他の選手を近くで見ていると、その場にいる自分が場違いな感覚を受けてきたという。しかし、いざステージに立てば、持ち前のプロポーションと個々に研ぎ澄まされた筋肉の完成度で、巨大なライバル達を次々と倒してきた。

 中学生の頃、ブルース・リーの引き締まった逆三角形の身体に憧れてトレーニングを始めたK44は、今でもイメージするボディビルは、単に身体をデカくする、筋量を増やすということを目的とはしていない。

  あくまで自分の持っているフレームの中で理想に近づける。筋肉を付けることだけのポテンシャルではなく、ビジュアルとしての美しさや、かっこよさを追求することを目的としている。

 元々、ウエストや関節が極端に細いプロポーションタイプだったため、ステージに立ったときに細身に見えるのではないかと心配した時期はあった。しかし、現在はアウトラインをある程度作ってしまったら細さを感じさせることはないという確信のもとで、引け目を感じることは無くなった。

 さらには、アウトラインと言っても、正面だけでなく横を向いた時のアウトライン、斜めを向いた時のアウトライン、全ての角度からのアウトラインを確立させてこそ厚みのある身体が形成されるということだ。

 理想のボディへの探求はこれからも続いていくことだろう。

目標になる人はいない

 ボディビルを志す者にとっては、例えばアーノルドだったり、ドリアンだったりと、大抵の場合、目標とするボディビルダーが存在し、その肉体に少しでも近づこうと考えるのが常である。

 しかし、K44はそのように目標や憧れの存在はいないと言い切る。

 その理由はいくら憧れを持ったところで、骨格や筋肉の付き方はそれぞれ異なるし、ましてやプロビルダーを目標にしても、特に骨格の細い自分がそのようにはならないのは分かっているからだと言う。

 だからこそ、自身のポテンシャルをいかに引き出すかが最も重要で、その中でいかにして勝つかというのが最大の目的であり楽しみでもあるということだ。
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ボディビルの未来は?

 次に日米の今後のボディビルの方向性について尋ねてみた。

 JBBFを中心にした日本のやり方はとても評価していて、多少、形は変わるにせよ、今後も残っていくものだろうと言う。それとは逆に、「アメリカのボディビルはどうなっていくんでしょうかね?」とモンスター化しているプロの現状に疑問を呈し、次のように語った。「アメリカでも一般の人がプロビルダーを見てその姿に憧れ、それを目指すというのとは違います。自分がボディビルを始めた頃活躍していた、例えば大河原さんなどは、まさに憧れの存在であり、少しでも近づこうとモチベーションにつながったものです。しかし現在のプロビルダーに対しては、目指しているものが違うので自分は憧れないし、一般の人も同様だと思います。だから、プロビルダーに関心のある人は特定の人達に限られてしまうのが現状だと思います」

 長きにわたってアメリカで生活し、そしてボディビルを実践してきたK44でさえも危惧するのが、アメリカ・ボディビル界の悲しき実情である。

新たな可能性を求めて

 近年アメリカではNPC等のコンテストで、ボディビルに加えてメンズ・フィジーク部門が設けられ、人気を博しているが、ボディビルと比べると出場者の敷居が遥かに低いため、参加者が多く、盛り上がりの要因となっている。

 そこで、一つのエピソードを紹介してくれた。それはバックステージでの違い。ボディビルダーは悲壮感が漂い、寡黙に過ごしているのに対し、メンズ・フィジークや女子のビキニの選手はノリが良く、選手皆で記念写真をとって楽しんでいるのだという。

 また観る側の抵抗感もなく、一般の人には純粋にカッコいいという評価で人気が高い故に、今後さらに重要なカテゴリーになるものであろう。

 K44は、もともとボディビルダーの中でも極端に細いウエストと美しいアウトラインを持つため、フィジーク向きの選手とも言えるが、昨年このフィジーク・コンテストに初めてチャレンジした。 昨年12月に開催されたNPCエクスカリバー・チャンピオンシップスのフィジーク部門にエントリーを果たし、初出場で5位入賞という一応の結果を得た。

 大会終了後、審査員や観客の声を聞くと、持ち前のフィジークは順位以上に高い評価を受け、また初めての参加でよくぞここまでフィジークに対応したボディメイクを果たしたという声も多数頂いたということだ。

 メンズ・フィジークの審査基準は現在のところ、まだはっきりしたものは確立されていないようだが、ボディビルダーとして築き上げてきたバキバキの筋肉の質感を出してしまうことはマイナス評価に働くようだ。

 このカテゴリーで勝つには、基本的なトレーニングは共通するものの、最終的な調整方法を工夫する必要があるようだ。絞りすぎても良くないし、マスキュラリティが凄すぎても良くない。 今回の調整では、そのあたりを念頭に置き、脂肪だけでなく筋肉すらもそぎ落とすような調整を行い、コンテストに挑んだ。

 しかし初参戦だけに、そのサジ加減がよくわからず、結果的には絞りすぎの感があったのではないかという。

 また、ポージングにおいても長年ボディビルダーとして力を込めたポージングを行ってきたため、フィジークで行う脱力ポーズは逆に難しく、また、ステージ上で戦っている感覚が乏しいので、自己アピールの仕方がわからないということだった。

 しかし、日々研究に余念がないK44はメンズ・フィジークでも活躍するポテンシャルは十分に持っているので、次回の参加が非常に楽しみなところだ。
難しかったというフィジークのポーズだが、写真を見る限り違和感なく脱力ポーズがとれている

難しかったというフィジークのポーズだが、写真を見る限り違和感なく脱力ポーズがとれている

やっぱりボディビルは凄い

 メンズ・フィジークに参加したことにより、逆にこれまで長年取り組んできた、ボディビルという競技の凄さを改めて知ることができたという。「ボディビルの厳しいダイエットは普通ではできません。勝ちたいとか、勝たなきゃいけないとか、何かの強い意志がなければできません。今後メンズ・フィジークが盛んになっても、ボディビルならではの『凄さ』を無くして欲しくないです」

 一般的には理解しがたい程の過酷さを持ち合わせるボディビル。しかし、あの領域までやり遂げたことでわかることがあり、裏を返せば、そこまでたどり着けた者のみが知りうる体験ができる、それがボディビルの最大の魅力である。

 また、そこで体感したことは、次代を担う若者達、また一般の人達に対する指導にも生かすことができるという。
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アメリカに渡った3 人の日本人ボディビルダー
左からNPC・ライト級で優勝経験のある久田博正氏、K44、
そして、ストロング安田氏

今後の活動は?

 コンテストデビューから25年にわたり、ナチュラルビルダーとしてトータル32戦を戦ってきて、9つものタイトルも獲得してきた。人から見ればうらやむ程の実績だが、本人の気持ちの中では、しっかり結果を出せてないので全く納得がいかないのだという。

 今この状態でボディビルを辞めてしまったら、中途半端でスポンサーを含め、サポートしてくれたり、応援してくれたりする人達に申し訳ないという気持ちが強く、『勝ちたい』というのではなく、『勝たなければならない』という気持ちが強いという。

 また、ウエストや関節が細いという、恵まれた部分だけで、ただ勝負できているのであれば、それは全く受け入れ難いことで、自分のポテンシャルを引き出してそれを結果に結びつけていくことを目標としていて、まだまだ伸びる可能性を捨ててはいない。

 現段階でボディビルだけとか、フィジークへ転向などの限定した考えはなく、気力が続く限り、一人のアスリートとしてこれからも戦い続けていきたいと、その目の輝きは増すばかりだった。
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K44( K Forty-Four)よしだ・けいすけ
身長171.5 ㎝、体重75 ㎏~ 77kg(コンテスト時)、80 ㎏(オフシーズン)
コンテスト歴25 年
アメリカ・カリフォルニア州・アーバイン在住
http://www.MoveOn44.com

< K44 全戦歴>
1. 1988 JBBF Kanagawa Bodybuilding Championships, Novice, 1st
2. 1996 JBBF Kanto Bodybuilding Championships, Overall, 3rd
3. 1998 Musclemania World Natural Championships, Welterweight, NP
4. 1999 NPC Tournament of Champions, Middleweight, 2nd
5. 2005 NPC Border States Classic, Middleweight, 5th
6. 2005 NPC Tournament of Champions, Middleweight, 2nd
7. 2005 NPC Excalibur Championships, Middleweight, 3rd
8. 2006 NPC World Gym Classic , Middleweight, 1st
9. 2006 NPC Orange County Muscle Classic, Middleweight, 2nd
10. 2006 NPC California State Championships, Welterweight, 3rd
11. 2006 NPC Los Angeles Championships, Welterweight, 3rd
12. 2006 NPC Tournament of Champions, Middleweight, 2nd
13. 2006 NPC Border States Classic, Middleweight, 1st
14. 2006 NPC Excalibur Championships, Middleweight, 3rd
15. 2007 NPC Orange County Muscle Classic, Middleweight, 2nd
16. 2007 NPC California State Championships, Welterweight, 1st
17. 2007 NPC Los Angeles Championships, Welterweight, 3rd
18. 2007 NPC Tournament of Champions, Middleweight, 3rd
19. 2008 NPC Orange County Muscle Classic, Middleweight, 3rd
20. 2008 NPC Junior California Championships, Middleweight, 1st
21. 2008 NPC Los Angeles Championships, Welterweight, 3rd
22. 2009 NPC Los Angeles Championships, Welterweight, 7th
23. 2010 NPC Los Angeles Championships, Welterweight, 3rd
24. 2011 NPC Southern California Championships, Middleweight, 3rd
25. 2011 NPC Los Angeles Championships, Welterweight, 1st
26. 2011 NPC Tournament of Champions, Middleweight, 2nd
27. 2011 NPC Titan Grand Prix, Middleweight, 1st
28. 2011 NPC Excalibur Championships, Welterweight, 1st
29. 2012 NPC Los Angeles Championships, Middleweight, 4th
30. 2012 NPC Orange County Muscle Classic, Middleweight, 1st
31. 2012 NPC Tournament of Champions, Middleweight, 3rd
32. 2012 NPC Excalibur Championships (Men’ s Physique, Class B), 5th
[ 月刊ボディビルディング 2013年7月号 ]

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