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IFBB PRO期待のルーキー ベン・パクルスキー THE PAK-MAN BEN PAKLUSKI

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[ 月刊ボディビルディング 2013年8月号 ]
掲載日:2017.08.30
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 ミスター・オリンピアでは、毎年何人かのプロビルダーがデビューしているが、その多くはレベル的に満たないため、ファイナル・トップ15に残ることができない。しかも、オリンピアは初出場選手に対する評価が厳しい傾向があるからなおさらだ。

 そんな中、印象に残る新人選手が登場した。ベン・パクルスキーだった。ベン・パクルスキーは昨年初出場にもかかわらず11位に入賞を果たしているが、仕上がり面ではトップ10入りしてもおかしくないフィジークだった。

 彼は昨年前半の活躍で注目を集める存在であったが、その期待通り、オリンピアではインプルーブしたフィジークで登場した。そして今年はプロリーグ初戦のアーノルド・クラシックに出場。優勝候補の一人にも名が挙がったほどだ。

 そこで今回は、本誌Ben編集長イチオシの、フリーキーなプロボディビルダー、ベン・パクルスキーにスポットを当てていこう。

ハードコアなボディビルダー

 ベンは2005年に24歳からコンテストに出場し、2008年(27歳)にカナダ・チャンピオンシップスでオーバーオール優勝し、プロに転向。翌09年にはプロデビュー戦であるタンパ・プロで3位入賞、その年のミスター・オリンピアへの出場権も得る活躍をして、プロビルダーとして順調なスタートを切った。しかしオリンピアへの出場は見送り、翌年に勝負を賭けた。ところが10年のニューヨーク・プロでは7位、11年はアーノルド・クラシック10位、その後のオーストラリア・プロでも4位と期待外れの成績で、2年続けてオリンピアのクオリファイを得ることができなかった。この原因は、大きな脚に比べると上体のサイズが小さく身体のバランスが取れていないこと、そして仕上がりがハードではなかったことにあった。

 そこで、ベンはほぼ1年近いオフを取り、翌12年の初戦であるフレックス・プロ(以前のアイアンマン・プロ)にフォーカスした。結果は、フランスの新鋭ライオネル・ベイエケとの戦いの末2位。続くアーノルド・クラシックではブランチ・ワレン(優勝)、デニス・ウルフ(2位)、デクスター・ジャクソン(5位)などオリンピアトップクラスが出場したレベルの高いコンテストにも拘らず、イバン・セトパニ(3位)に続いて4位に入賞した。フレックス・プロで敗れたライオネル・ベイエケはこの大会では6位だったので、ライオネルを超えたことになる。

 このように、大きくインプルーブしたベンのフィジークは一躍プロボディビル界で注目されるようになったわけだが、この背景には〝チャンピオントレーナー〟として有名なチャド・ニコルズからのコーチを受けたことがある。IFBBでは、12年からのオリンピアのクオリファイは、プロコンテスト優勝者以外はポイント制となったのだが、ベンはこのポイントの総獲得数で待望のオリンピアへのクオリファイを得ている。

 こうしてオリンピア初チャレンジとなったわけだが、身長178cm、体重120㎏のフィジークは、上体がインプルーブしたことでバランスが良くなり、仕上がりもハードで、インパクトのあるフィジークになったため、トップ10入りもありうるとも予想されていた。しかし、結果は11 位。あのライオネル・ベイエケ(10位)との接戦となったのだが、ベンは仕上がりはハードだったものの、トータルなバランスでライオネルに及ばずトップ10を逃した。しかしこの時のベンの闘志むき出しの表情は、オリンピアに〝ハードコアボディビルダー〟なベン・パクルスキーを強くアピールしたのだった。

 今年はすでにアーノルド・クラシックにチャレンジした。デクスター・ジャクソン(昨年5位)を除けば、例年になくオリンピアのトップクラスの出場者がいないことから、昨年4位のベンにも優勝するチャンスがあったため、コンテストは予想通リ、デクスターとベンとの戦いとなった。

 結果は、昨年の12 月のマスターズ・オリンピアに優勝してフィジークをインプルーブさせているデクスター・ジャクソンを破ることができず2位。しかし、ベンはマスキュラーでハードなフィジークでモストマスキュラー賞を獲得している。そしてベンにとってはアーノルド・クラシックというメジャーなコンテストでの成績が大きな自信となったようだ。
Photo Ben

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昨年のオリンピア。左よりウルフ、ベイエケ、パクルスキー。この3人の中では一番順位の低かったパクルスキーだが、サイズ、全体のラインともに負けていない。むしろ下半身のバルクでは勝っているようだ。臀部のカットにも注目

ボディビルには興味がなかった

 ベン・パクルスキー32歳。〝パックマン〟のニックネームで呼ばれる彼は、1981年3月18日カナダのオンタリオ州トロント市で生まれ育った。現在は米国フロリダ州タンパ市在住。両親はポーランド人で、彼はポーランド系カナダ人である。子どもの頃のベンは多くのスポーツに親しむアクティブな少年であった。

 しかし12歳の時に〝肉を食べると身体に害がある〟ということを聞いたベンは、それから2年間は肉をまったく食べないベジタリアンであった時期がある。ティーンエイジャーの頃はいろいろなことを思い込むものであるが、その後これは間違った考え方であると知ると、15歳からはウェイトトレーニングをスタートした。するとトレーニング効果はすぐに現れ、そのためトレーニングが面白くなり、毎日ジムに通うようになった。周囲の人からも彼の身体の変化について指摘されるようになるとますますトレーニングが楽しくなり、自分自身にも自信が持てるようになったという。

 このようになると、普通はボディビルダーのような大きな筋肉に憧れるのであるが、当時のベンはボディビルには興味がなく、筋肉が適度についたアスリートのような身体を願望していた。そして数年後には目標であったアスリートのような身体にはなったのだが、するとその身体には物足りなくなり、「もっと筋肉をつけたい」と思うようになった。そこで、ベンはハードコアボディビルジムに入会し、本格的なトレーニングをスタートした。

 彼はそれまで、一般の人が多くトレーニングしているYMCAでトレーニングしていたため、ボディビルジムで、ヘビーウェイトでトレーニングしているボディビルダーの姿はまったく別世界で、それは初めて見る光景であった。そして、ベンも彼らのようにヘビーウェイトでトレーニングを始めた。ハードコアなボディビルジムの雰囲気は、彼をよりハイレベルなトレーニングの虜にし、彼の身体は毎日インプルーブしていった。彼はそこで自分の本当の情熱を発見したのだ。この時がベンにとっては本格的なボディビルとの出会いであった。

先輩ボディビルダーから学ぶ

 ボディビルジムに入会したベンは、まず先輩ボディビルダーから次のように教わった。

「建物は基礎の土台から、何層もの構造が重なることで成り立っている。人間の身体も、幾層もの構造でできあがっている。だから、基礎となる土台がしっかりとできていなければならない。身体の土台は脚であるから、まず脚を作り上げなければならない」

 この教えにベンは従い、スクワットやレッグプレスなど脚のトレーニングにフォーカスした。2年後には185㎏のスクワットを8回行なえるようになった。ちなみにこの時の体重は80㎏であった。ベンはカーフが良く発達したボディビルダーとしても知られているが、ボディビルをスタートした最初の5年間は、毎日カーフのトレーニングをウォームアップとして10〜12セット行なっていたという。これは脚の基礎であり、ボディビルダーとして成功するための条件にもなっている。

 その頃ベンは、カナダのプロボディビルダー、トム・ホール(故人)と出会い、彼から生物力学に基づいた正確なエクササイズの方法を学び、そしてボディビルダーとしてどのように食べ、なぜそうするのかも教わった。こうしてベンはハードトレーニングに励み、20歳の時には体重が115㎏まで増加している。
Photo Jason

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MI40システム

 ベンはボディビルダーになるために多くの先輩達から指導を受け、トレーニングに励んだが、大学に進学して運動学も専攻した。このことはボディビルダーとしてのキャリアに役立っている。

 彼は「ボディビル界には多くの間違った情報が氾濫している。単にヘビーなウェイトでトレーニングすれば良いということではない。10㎏のウェイトでも40㎏のウェイトを使ったと同じような筋肉を発達させることはできる。使用するウェイトは〝緊張を保つ時間〟の定義による」と語る。これは、〝筋肉に対して長時間緊張を与えれば、筋肉の成長を促す比率を高めることができる〟ということだ。そこで彼は〝MI40トレーニングシステム〟というものを開発している。

 MI(MassIntentions)40とは、ベンが開発した独自のトレーニング法で、彼のホームページ(www.benpakulski)でDVDが販売されている。

 このトレーニングシステムによれば、40日間で大きな筋肉を作り上げることができ、トレーニングを40分以上行なうとテストステロンレベルが低下していくことから、トレーニングは1日40分間以内で行ない、また筋肉を成長させるための1セットのベストな時間は40〜70秒である、というものだ。このようにMI40システムは科学的な根拠をもとにして作られたトレーニングシステムであると主張している。
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パワートレーニング

 ベンのトレーニングは、基本的にオフシーズンはヘビーウェイトかつ低回数で行なっているが、セットごとにウェイトを増加していき、最後はセットごとにウェイトを落とすドロップセットで追い込んでいく。

 彼のトレーニングはパワーリフターがウェイトに抵抗をかけるために使うゴムバンドを使ってベンチプレスを行なうほか、ショルダー・プレスではチェーンを使って行なっている(YouTube でBenPakulski と検索すると、これらのトレーニングシーンを見ることができる)。

 彼の巨大な脚を作り上げたエクササイズの一つであるレッグプレスでは、多くのボディビルダーはたくさんのウェイトをつけて行なう。しかし、超ヘビーなウェイトは脚だけではなく、全身を使って挙げるわけで、扱うウェイトの限界は脚の筋力ではなく、身体が持ちこたえられなくなるためである。一方ベンはドロップセットで回数を多く行なっている。こうすることで、より使用しているウェイトに注意を集中させ、フォームを良く保ち、そして筋肉に対しての収縮も高めてくれる。レップ数は20回行なっている。

 ベンチプレスでは、ウォームアップセットを数セット行なったあと、1セット目から4セットまで、セットごとにウェイトを落としていくが、セット間の休息は取らない。ドロップセットをすることによって、4セットを行なっている間、胸の筋肉に対して常に緊張を与え続けているため、1セットごとに休息を取って行なう通常のセット法よりも長い時間筋肉に緊張を与えられるのだ。

 また食事法としては、基本的に白米などの炭水化物と、脂肪が少ない肉をメインにしたタンパク質を摂取している。肉は1カ月に約60㎏食べており、特に牛肉が好物である。そして、一日を通して多くのサプリメントも使用し、オフシーズン中の体重は140㎏以上にも増加している。トレーニング前には炭水化物とサプリメントを摂っているが、これはトレーニング中に身体がカタボリックになるのを最低限に抑えるためである。

オリンピアのトップ6

 以前のベンは、オフシーズン中はバルクアップして大きいが、コンテストとなるとサイズダウンしていた。しかし昨年はその印象があまり見受けられなかった。

 今後の課題としては、リラックスでのフロントは脚が大きいが、肩も大きいことから、バランスはそれほど悪くない。そのため肩を強調したり、モストマスキュラーなど絞り込むポーズでは迫力がある。一方で、両手を挙げたダブルバイセップスポーズを取ると、上体の広がりに欠けるために重量感がなく、そしてバックは背中にはセパレーションが出ているが、広背筋の広がりと密度とディテールがないために、フロントほどのインパクトに欠ける点が挙げられる。しかしながら、ベンのフィジークはすでにオリンピアではトップ10 に入る実力がある。さしあたって今年の目標はトップ6ではないだろうか。

 ベンのフィジークは、サイズが大きく、ジェイ・カトラーに似ているところがある。カトラーもプロになりたてのころは脚が巨大で、上半身のサイズがなかなかマッチできなかった。しかもカトラーもフロントは良いが背中は弱い部分であった。しかし、これらの課題を克服して、ミスター・オリンピアで4回優勝している。ベンのフィジークもまだこれからインプルーブできる要素と時間を持っているし、カトラーよりシンメトリーが良いことから、課題を克服していけば、将来的にはミスター・オリンピア候補になりうる。

 ベン・パクルスキーは今年32歳。現チャンピオンのフィル・ヒース(33歳)と同世代であることから、今後大いに活躍が期待できるボディビルダーである。


文/山口澄朗
パクルスキーとジェイ・カトラー(右) Photo Jason

パクルスキーとジェイ・カトラー(右) Photo Jason

ベン・パクルスキーのプロフィール
Benjamin Pakulski
1981 年3月18 日生まれ(32 歳)/カナダ・トロント出身/アメリカ・フロリダ州タンパ在住/身長:178㎝/体重116㎏(オン)、140㎏(オフ)/妻と子供2人/プロデビュー:2009 年タンパプロ(3位)/ http://benpakulski.com/

主なコンテスト歴
2013 IFBB Australian Pro Grand Prix XIII 3位
2013 IFBB Arnold Classic 2位
2012 IFBB Olympia Weekend11 位
2012 IFBB Arnold Classic 4位
2012 IFBB FLEX Pro 2位
2011 BCABBA BC Provincial Championships 順位なし
2011 IFBB FIBO Power Pro Germany 順位なし
2011 IFBB Australian Pro Grand Prix XI 4位
2011 IFBB Arnold Classic10 位
2011 IFBB Flex Pro Show 5位
2 0 1 0 I F B B N e w Y o r k P r o B o d y b u i l d i n gChampionships 7位
2009 IFBB Tampa Pro Bodybuilding Weekly 3位
2008 IFBB North American Championships 2位
2008 Canadian Championships 総合優勝
[ 月刊ボディビルディング 2013年8月号 ]

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