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マイク宮本 第1回 212アーノルドクラシック

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[ 月刊ボディビルディング 2014年6月号 ]
掲載日:2017.09.11
左 よ り ビ ッ グ ・ ヒ デ 、 筆 者 、 ア イ リ ス ・ カ イ ル

左 よ り ビ ッ グ ・ ヒ デ 、 筆 者 、 ア イ リ ス ・ カ イ ル

 今年からアーノルドクラシックは、人気急上昇の212部門が創設されました。212(トゥー、トウェルブ)はポンドを表し、95.4kg以下の選手だけで戦われるプロ部門となります。その記念すべき第1回アーノルドクラシック212は、オリンピア以上の激しいバトルが繰り広げられました。第1回アーノルドクラシックで優勝したリッチ・ギャスパリは、26年経た今でもアーノルドクラシックチャンピオンの象徴のような存在となっています。当然選手は皆リッチ・ギャスパリのように、212の第1回記念大会に優勝し、後世自分の名前を刻もうと、死に物狂いで、戦地オハイオ州コロンバスの舞台に立ち、念願のタイトル争いが行われました。

 優勝候補筆頭は、昨年度及び2 0 1 2 年ミスターオリンピア212を2年連続で勝っている、フレックス・ルイス(30歳)。フレックスは、165cmの体に、全身バランス良く筋肉を付け、特にダブルバイセップスの際の大殿筋と背中の切れ、厚み、広がりは同じ95kg以下の選手同士でも群を抜いて目立っています。また前腕、カーフといった体の先端の筋肉も一番発達しているので、非常に重量感があるように見えます。コンディションもプロポーションも兼ね備えており、現役オリンピア212の風格もあります。

 その完全無敵と思える王者、フレックス・ルイスに、立ち向かう山岸秀匡は、彼のプロとしてのキャリアで初めての212部門の出場となりました。昨年のアーノルドでは、3週間前に手首骨折というアクシデントに見舞われながら、5位入賞を見事果たしています。その後手首の手術、リハビリを経ての復帰第一戦目となりました。当初は、昨年と同様プロのオープンクラスの選手として名前を登録していましたが、コンテスト1ヶ月前、ファンの強い要望から記念すべき第1回アーノルド212への変更をしました。過去最高に厳しく絞りこんできた体から、今回の優勝にかける意気込みが読み取れます。プロオープンクラスで3位になった、体重で20kg、身長で20cm大きいセドリック・マクミランを昨年破り、5位入賞をしています。そのことから、アメリカのボディビル界では「ビッグキラー」(体が小さくても、デカい奴を倒す事ができる選手に付けられるニックネーム)と呼ばれています。また一方で、168cmの体に96kgの鋼のような筋肉をまとっていることから「ビッグ・ヒデ」とも呼ばれています。今回の212の山岸選手は、間違いなく、「ビッグ・ヒデ」で、特にスイカの如く丸々と発達した肩、横から見たときの脚の厚みは群を抜いておりました。

 また今の212部門がまだ202(90.9kg)の時の2008年第1回オリンピア202で優勝しているデイビッド・ヘンリーも当然オリンピア、アーノルド両方とも初代チャンピオンになるべく過去最高のコンディションで臨んできています。

 25歳のプロ2戦目のアーロン・クラークは若さはちきれんばかりの筋肉の盛り上がりを見せています。1stコールは、フレックス、デイビッド、アーロン、ヒデとなりました。やはりフレックスの完成度の高い体は、均衡した212選手の中でも一際目立っています。デイビッドは上体の厚み特に、肩と腕はフレックスと同等もしくは角度によっては勝って見えますが、脚はカットがあって悪くはないのですが、フレックスに比べると細いので、厚みのある上半身が目立ち、逆に脚は弱々しく見えてしまいます。25歳のアーロンは、前評判では誰も1stコールに呼ばれると予想していませんでしたが、一つ一つの筋肉の盛り上がりがはっきりしており、かなり良く見えます。ヒデは212のクラスでは、非常に大きく見えました。212のクラスでは他の選手より背が高い為、ラットスプレッドを取った時は非常にスケールが大きく見えます。また手を腰において取るモーストマスキュラーポーズでは、脚から胸までカットが厳しく入り、まん丸の肩が浮かび上がってきて王者フレックスにも勝って見えます。

 1stコールは、審査基準では誰が勝ってもおかしくない非常に均衡した戦いが繰り広げられました。

 2ndコールは、優勝候補として名前が挙がっていたホセ・レイモンド。ホセは、若干ウエストが太いのがよく指摘されますが、血管がバリバリに浮き上がったハードコアな体は、アメリカのボディビルファンからは非常に人気があります。また日本人とアイルランド人とのハーフのスタン・マックウェイもいました。スタンは、ホセとは逆でウエストが細く、きれいな体のラインを形成していました。ホセとスタンは同じ212のクラスですが、タイプは全く違う体です。スタンは確かに筋量という点では他の選手と劣りますが、広い肩幅、きれいに浮き上がっている腹筋という点では、非常に目に付きました。

 私が、ボディビルをはじめたばかりの14年前の2000年、日本にゲストポーズで来ていて初めてスタンを見ました。同じ日本人の血を引き継いでいるのに、こんなに顔が小さくて、肩幅が広いのかと、驚いた事を鮮明に覚えています。またベテラン、チャールズ・ディクソンは、1stコールのグループの選手と比べると、すべての点において弱い印象ですが、2ndコールのグループでは、筋量もあり特に肩が良いので、プロポーションもよく見え、背後に回った時は、大臀筋にもカットが見えよく見えます。

 アーノルドクラシックの象徴である会場のコロンバスの退役軍人会館が、老朽化の為、取り壊すことになり、アーノルド・シュワルツネッガーをはじめセルジオ・オリバ、フランク・ゼーンといったボディビル界の伝説達も立ったことがある、歴史のあるこの舞台で212のトロフィーをもらえるのは、この第1回アーノルド212が最初で最後となりました。
優勝 フレックス・ルイス(イギリス)

優勝 フレックス・ルイス(イギリス)

2位 デイビッド・ヘンリー(アメリカ)

2位 デイビッド・ヘンリー(アメリカ)

3位 アーロン・クラーク(アメリカ)

3位 アーロン・クラーク(アメリカ)

4位 山岸秀匡(日本)

4位 山岸秀匡(日本)

 その最初で最後のチャンスを物にしたのは、やはり筋量、プロポーション、カットすべての点で申し分のないフレックス・ルイスが物にしました。フレックスが、まだDVDがない幼少時代、VHSでボディビル界のスーパースターであると同時に、アクションスターでもあるアーノルドの映画をテープが擦り切れるくらい見て育ったフレックスにとっては、かつて映画で見たヒーロー、アーノルド・シュワルツネッガー本人から直接トロフィーをもらえるのは、夢のような気分ですと話していました。オリンピア2連勝から、アーノルドと連勝街道を突き進むフレックスの牙城を崩すのは容易ではないと思われます。ただフレックスは、今年のオリンピアを最後に、212のクラスは卒業し、来年からはオープンクラスへの参加を試合後の記者会見で発表しました。今回も体重を212ポンドまで落とすのに非常に苦労し、そのため筋肉も犠牲にし、体に張りがなくなったとの事です。来年からは、体重制限がなくなり、さらに進化したフレックス・ルイスを見るのは、ファンは今から楽しみでしょう。

 2位は、大方の予想どおりデイビッド・ヘンリーとなりました。昨年のオリンピア、アーノルドとフレックスに、負けているデイビッドですが、2008年のオリンピアでは、フレックスを完全に打ちのめし優勝しています。フレックスの3連勝がかかる今年のオリンピアで38歳のベテランの意地を見せて30歳のチャンプにどのように立ち向かうのか、見所でしょう。

 3位は、弱冠23歳でプロカードを手にし、まだまだこれからの成長盛りの25歳アーロン・クラークとなりました。来年フレックスなき212クラスでは、次期王者になれる可能性を秘めている選手となるでしょう。

 4位は、手首骨折後の復帰第1戦のビッグ・ヒデとなりました。ヒデのコーチである、ミスオリンピアに9回輝いたアイリス・カイルは、過去最高とも思える仕上がりにもかかわらず、4位というヒデの成績に審査員に執拗に理由を聞いていました。
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 5位は、ホセ・レイモンドとなりました。限られた背丈に、可能な限り筋肉を詰め込み、血管もバリバリに出ていましたが、筋肉の張りがいま一つなく、5位に甘んじることとなりました。

 ファイナル出場者の枠は6位まででしたが、その最後の枠を仕留めたのが、チャールズ・ディクソンでした。

 7位は、大臀筋に関しては、フレックスと同じくらい切れていたチェコ出身のルーカス・オスラディールとなりました。

 8位は、フリーポージングで楽しませてくれた、リチャード・ジャクソンとなりました。

 9位は、スタン・マックウェイ。実は、スタンは12年前の2002年のNPCアマチュア最高峰のUSAチャンピオン選手権のミドル級(80kg以下)のクラスで、今回2位のデイビット・ヘンリーと5位のホセ・レイモンドと戦い勝利を収めています。2002年のアマチュア時代の結果は、1位スタン、2位デイビッド、4位ホセとなっています。プロでは、筋量不足という事で好成績はつけていませんが、スタンの均整のとれた体は、私にとっては14年前初めて日本で見たときと同様、いまも憧れの対象です。

 10位は、メキシコから唯一の出場のエンジェル・レンジェル・バルガス、11位は、ニューヨークからのマルコ・リベラ、12位は、ローリー・ウインクラーの弟のクインシー・ウインクラーとなりました。

 記念すべき第1回アーノルドクラシック212は、フレックス・ルイスの圧勝で終わりましたが、25歳の今後の212部門のホープ、アーロン・クラークの台頭、初代オリンピア202チャンピオン、ベテラン、デイビッド・ヘンリーの活躍、それに復帰第1戦で、順位は4位でしたが力強い復帰を印象付けた山岸秀匡の活躍で、オープンクラス以上の盛り上がりを見せてくれました。
[ 月刊ボディビルディング 2014年6月号 ]

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