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カゼはビルダーの強敵

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[ 月刊ボディビルディング 1973年2月号 ]
掲載日:2017.10.02
(国立予防衛生研究所 ボディビルクラブ代表)後藤 紀久

(国立予防衛生研究所 ボディビルクラブ代表)後藤 紀久

カゼにもいろいろある

 冬はカゼに悩まされる季節だ。日本人は1年間に平均7回もカゼをひくという。いかに頑健な体をしているビルダーとて,カゼが強敵であることには違いはない。
 昔から〝カゼは万病のもと〟といわれており,他の病気を誘発することがあるからこわい。
 普通,一般的には悪寒・発熱・頭痛・鼻炎・咽頭炎・気管支炎・くしゃみ・咳・関節痛などの症状をもたらすものを称してカゼと呼んでいる。
 これをいま少し細かく分類すると,ライノウイルス(鼻カゼ),インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,RSウイルス,アデノウイルス(のどカゼ),レオウイルス,エコーウイルス,コクサッキーウイルスなどによるものがある。
 この他に,本来カゼではないが臨床的にはカゼと間違われやすいものにアレルギー性鼻炎がある。
 カゼは寒冷や乾燥などの季節的因子により呼吸器粘膜組織などが侵されると感染の感受性が高まるわけで,寒冷そのものは一過性に鼻づまりなどを起こす働きしかしないが,それに必ず病原体が関与する。

最も恐いインフルエンザ

 種々の病原微生物のうちで最も恐いのが,皆さんもよくご存じのインフルエンザウイルスです。私はインフルエンザ・ワクチンの研究を仕事の一つとしているので,これらについて少しふれてみたい。
 まず,大流行の例をあげると,1918年~19年にスペインカゼといわれる大流行があり,ほとんど世界中にまんえんし何百万という犠牲者が出た。このときは,わが国でも火葬場が大混乱するほどの悲劇だったといわれている。
 次に,1957年に中国の奥地に発生し半年間に全世界に流行したアジアカゼや,最近の香港カゼ,競馬ウマのインフルエンザ(A型)は,まだ記憶に新しいと思う。

カゼが流行する要因

 インフルエンザウイルスはA型(人・ブタ・ウマ・ニワトリなど),B型およびC型(人のみが感染)があり,このうち,C型ウイルスは比較的軽症で散発性です。
 インフルエンザウイルスは変異(ウイルスの構造が変わる)しやすいため先に獲得した免疫が役立たず,周期的に大流行を起こし,やっかいな人類の敵といえる。
 インフルエンザが冬季に流行する要因の一つとしてあげられるのが部屋の密閉です。
 どこのジムでも冬は窓をしめたまま練習していることが多いが,練習生の1人がカゼにかかっていると,その人がクシャミや咳をすることにより,ウイルスがジム中に浮遊し,これを吸入することによって,いわゆる核感染が起こる。さらに,それを町中,乗り物の中,家庭,職場へとばらまき,知らぬ間に大流行が起こるのです。したがって,冬は寒くてもときどき窓を開けて換気をするようにしたい。
 また,もしカゼをひいたらジムに来ないということが,スポーツマンのマナーです。よく耳にする学級閉鎖は,人の集合を避け,流行を阻止する方法の一つです。

冬に大声をあげるのはマイナス

 予防の一つとして,冬は大声をあげないことがだいじです。練習中によく大声をあげる人がいるが,これは咽の粘膜に過度の緊張によるストレス(本誌47年3月号35ページ参照)を生じ,粘膜の抵抗力を弱める原因となる。
 口の中には,咽に炎症を起こすぐらいは〝朝めし前〟の微生物が常在していて,抵抗力の弱くなった咽で活動をはじめ,炎症を起こす。そして,炎症が気管支から肺へと波及し,恐ろしい肺炎を招くということもある。
 大声を出す,あるいはドナルということによる力学的ストレスと,冷い空気という寒冷ストレスとが協同するために炎症を起こしやすくするわけだ。大声をあげて,気合を入れることにより,たとえ,より重いバーベルが持ちあがったとしても,炎症による発熱などで,トレーニングを休むようなことがあってはマイナスとなってしまう。

カゼの一般的な予防法

 カゼの予防で最も効果的なものにワクチン接種があるが,残念ながら現在ではインフルエンザウイルスによるカゼに対するものしか製造されていない。しかも,さきに述べたようにインフルエンザウイルスは変異しやすく,またワクチンはその年の流行型を予測してつくられてはいるが,すべてのインフルエンザに万能ではないのです。しかし,完全には防げなくても,ある程度軽くすませることはできます。
 一般的な予防法としては,冬は睡眠と栄養を充分にとり,ウガイを励行し粘膜の弱い人は空気を温めて送るためにマスクをし,大声をあげないように気をつけることです。
 また,発病した場合は,安静にして対症療法(薬局で売っている薬は,この対症療法を目的としている),二次感染防止のための抗生物質服用,他人への伝播の機会を極力へらし,流行の防止につとめることです。
 以上のことを守り,この冬をベストコンディションで乗りきってください。
[ 月刊ボディビルディング 1973年2月号 ]

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