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第60回男子・第32回女子日本ボディビル選手権大会講評 JBBF審査委員会委員長大会講評 中尾尚志の目

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[ 月刊ボディビルディング 2015年1月号 ]
掲載日:2017.06.01
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今年は、公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟となって二年目にあたりまた、今年度の男子日本ボディビル選手権大会は、第1回ミスター日本から数えて60回目となる記念すべき大会なのです。10月5日の日曜日、大阪の地に、今年度のJBBF主催大会の締めくくりにふさわしく、全国から大勢のボディビルファンを迎えて盛大に開催された第60回男子日本ボディビル選手権大会には、全国から総勢33名の強者どもが集い、日本一の栄冠を懸けて熱きバトルを繰り広げようと開始前より熱気ムンムンとなった!

男子日本ボディビル選手権大会は、JBBFでは唯一シード制を採用している選手権として、前年度のファイナリストは、第一次ピックアップ審査が免除されることになっている。今大会にエントリーしているのは11名で、相川選手の名が見当たらないのが残念だ!

午前から全国高校生ボディビル選手権大会がスタートし、引き続きJOCオリンピックカップ・日本ジュニボディビル選手権大会が行われ、若きビルダーたちの熱戦の余韻も冷めやらぬメルパルク大阪ホールに、女子日本ボディビル選手権大会と併催で行われた今年度の男子日本ボディビル選手権大会は、第一次ピックアップ審査から開始された。

男子ボディビル 第1次ピックアップ審査

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一次ピックアップファーストコール。左より山田、古志、岩尾、征矢、井上。かつてのファイナリスト井上はこの段階で呼ばれるという厳しい戦いだ

22名から12名を選出する第1次ピックアップのファーストコールに呼ばれたのは、山田、古志、岩尾、征矢、井上の5名。山田は久しぶりに充実した仕上がりだ! 古志は、今年の日本クラス別55kg以下級で優勝しているが、この中に入ると厚みを感じない。岩尾は完璧な仕上がりではないが、少し大きくなったか? 征矢もしり上がりに調子が上向いて、今日は気合も十分と見た。井上の皮膚感に厳しさが見えない。

セカンドコールは神田、井上、征矢、山田の4名。ファーストコールの古志と岩尾が抜けて神田が入った。神田の調整は不十分だ!

サードコールは伊藤、加賀、寺地、猿山の4名。伊藤の仕上がりはいつもよりかなりアマイ! 今年度の東京1位加賀と2位寺地が同時に指名された。共にワイド感には少々欠けるが、加賀の方が弱点は少ないかも? 好調を維持して猿山は、今回も調子が良さそうだ!

ラストとなった4回目の比較には、征矢、黒木、加賀、山田そして古志が指名された。初めて比較審査に指名された黒木は、今年長野県で優勝している。征矢の腹部の弱さが見え隠れし出した。

第1次ピックアップ審査の結果、木村、加賀、寺地、福田、小田、郷、征矢、猿山、小松、谷野、金井、井上の12名が選ばれた。満票で次に進むことになったのは、木村、加賀、福田、小田、郷、小松、谷野の7名。6票が、猿山と金井の2名。5票が寺地1名。残る2名は、4票の岩尾、征矢、井上の3名による同点審査で征矢と井上が勝ち残った。4度の比較審査に呼ばれたのは11名で、3度呼ばれたのが山田と征矢。2度が古志と加賀と井上の3名。後の6名がそれぞれ1度。比較審査で指名されて残ったのは、加賀、寺地、征矢、井上、猿山の5名。
左:伊藤一洋は例年より仕上がりが甘い/右:神田優作

左:伊藤一洋は例年より仕上がりが甘い/右:神田優作

左:寺地進一/右:今年の東京優勝者、加賀義和

左:寺地進一/右:今年の東京優勝者、加賀義和

左:今年の長野県大会優勝者、黒木健太郎/右:好調を維持しての出場、猿山直史

左:今年の長野県大会優勝者、黒木健太郎/右:好調を維持しての出場、猿山直史

第2次ピックアップ審査

シード選手の11名に、第1次ピックアップ審査で勝ち残った12名を合わせた23名から12名をピックアップする第2次ピックアップ審査が、いよいよ始まろうとしている。全体をとおしてみた規定4ポーズで、めぼしい選手を挙げてみることにするが、ここでは、確実に残りそうな選手に絞ってピックアップしてみた。木村、須江、佐藤貴、合戸、田代、鈴木、山田、木澤、須山の9名。あと3名は、この後始まる比較審査を観てみないと分からないが、強いて挙げるなら、加藤、小田、小松、谷野、佐藤茂、林の6名からと見た! 加藤、林、佐藤茂の3名は、昨年のファイナリストで、小田と谷野は、共に昨年次点で惜しくも入賞を逃している。まさに力のある選手ばかりである!

ファーストコールは木村、小田、小松、谷野、林の5名。木村は、今年のジャパンオープン初出場で4位になり、センセーショナルなデビューを果たした。小松は、日本クラス別80kg以下級の1位で、昨年は、ジャパンオープンで優勝している。谷野と林は今年初めてであるが、共にベストな仕上がりだ! 今年の小田は、ここまであまり良いところが無かったが、最後にベストにもってきたのは昨年と同様で、あと少し厳しく仕上げていたらと思う!

セカンドコールは、ファーストコールの林と金井が入れ替わっただけの比較となったが、金井はカットは鋭いが、このメンバでは細さが目立つ! 小松の仕上がりのアマさと黒すぎるところが、何故か印象に残った!

サードコールがラストとなって、木村、小田、加藤、谷野、林の5名が指名された。3度の比較審査に指名されたのは7名で、3度が木村、小田、谷野。2度が小松と林。1度が加藤と金井。

第2次ピックアップ審査の比較審査を勝ち抜いたのは、木村、加藤、林の3名で、小田と小松の2人が、今年の次点となった。小田は、昨年に引き続き次点であったが、2年も同じ結果になった原因は、仕上がりの甘さにあったことを肝に命じてほしい!第1次・第2次と、2度にわたるピックアップ審査の結果は、次の12名が今年のファイナリストに選出した。木村、加藤、須江、佐藤貴、合戸、田代、鈴木、山田、佐藤茂、木澤、須山、林。
 
12名のファイナリストの中で、満票でなかったのは、6票の林と3票の木村の2名だけだった。

昨年との違いは、今年出場しなかった相川と、初出場の木村が入れ替わっただけで、シード選手の強さだけが印象に強く残った。
左:谷野義弘はなかなか良い仕上がりだったが…/右:今年の日本クラス別80kg級優勝者小松は2次ピックアップで姿を消した

左:谷野義弘はなかなか良い仕上がりだったが…/右:今年の日本クラス別80kg級優勝者小松は2次ピックアップで姿を消した

左:仕上がり厳しい金井だが、線の細さも目を惹く/右:小田は2年連続でぎりぎり予選通過ならず

左:仕上がり厳しい金井だが、線の細さも目を惹く/右:小田は2年連続でぎりぎり予選通過ならず

予選審査

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予選審査ファーストコール。左より山田、田代、鈴木、須山、合戸。今年の鈴木はすべてのポーズにおいて他を圧倒していた。田代に昨年までの厳しさが感じられない。合戸は50歳を過ぎてもなおインプルーブしているようだ

2回のピックアップ審査の次は、7つの規定ポーズによる順位付けの審査である。ここからの比較審査は、当然のように上位グループからとなる。ファーストコールがかかれば、指名された選手のアドレナリンのレベルは最高潮に達し、併せて観客の反応も一段と大きくなる。

比較審査に入る前に、全員でレベルチェックの規定7ポーズが披露された。ここで今回のファイナリストの状態を、ポーズごとに大まかに見ていくことにしよう。

全てのポーズで他を圧倒していた鈴木の安定感には目をみはるものがあった! フロントダブルバイセプススで意外に良さを見せていたのが佐藤貴。フロントラットスプレッドでは田代のバランスの良さと、須山の筋肉の凹凸感が目立った。鈴木のサイドチェストには誰もが納得するものがあるが、合戸の重量感たっぷりのサイドチェストも見応えがあった。もう一人サイドチェストで良かったのが山田。上下のバランスがとれて安定して見えた。バックダブルバイセプスでは、須江と須山が見事な広がりを見せて鈴木に対抗していた。バックラットスプレッドで見せる田代の平面的な広がりは、いつ見ても充実している。上体の広がりだけなら須江と須山も健闘している。サイドトライセプスで見せる合戸の上体の厚みの見事さは、鈴木に勝るとも劣らないが、下半身の安定感には少々欠ける。最後のアブドミナル&サイでは、合戸のアブドミナルのマッスルの厚みが印象的であった。

次にあまり感心しなかった点についても少し述べておこう。木村のバックダブルバイセプススは、両肩の位置が高いために、下部の弱さが出てしまった。サイドトライセプスでも上体をつめて厚みを殺してしまった。加藤のサイドチェストは、上下がバラバラな感じで安定感がなかった。山田のサイドトライセプスも木村と同じで、上体の厚みが表現できていなかった。木澤と須山のサイドチェストは、上体をつめ過ぎて胸の厚みがなくなっていた。佐藤茂は、バックポーズがどちらも反り過ぎで、フロントダブルバイセプスでは、腕の位置が高いために脇が空いて見えたし、サイドチェストでは、重心を低くとり過ぎて胴長に見えてしまった。見事な脚をことさら曲げることはモッタイナイと思うのだが!?

比較審査は都合7回行われたが、ラストの7回目を除いては、上位6名の選出と、それに次ぐ順位付けに終始する有様であった。

ファーストコールは山田、田代、鈴木、須山、合戸の5名。たぶんトップ5になるだろう人選だ! スリランカアジア選手権で体調を崩した山田もやっと本調子になってきた! 田代に昨年までのキビシサが感じとれない。一段と充実して見える鈴木! いつもながら、リラックスでは少々甘く見えるが、ポーズをとれば見違える須山。合戸はまたインプルーブしたようだ!
セカンドコール、左より山田、合戸、鈴木、田代、佐藤(貴)

セカンドコール、左より山田、合戸、鈴木、田代、佐藤(貴)

セカンドコールは、ファーストコールで呼ばれた須山にかわって佐藤貴が指名された。佐藤貴も調子が良さそうだ! 以前弱点だった腕のボリュームが、かなり増した感じがする。
サードコール、左より鈴木、田代、合戸、佐藤(茂)、須江

サードコール、左より鈴木、田代、合戸、佐藤(茂)、須江

サードコールは鈴木、田代、合戸、佐藤茂、須江。佐藤茂も良く健闘しているが、サイドポーズは2つとも重心が低すぎる。須江は、昨年より悪いとは思わないが、皮膚に鮮明さが無い! それと、バックダブルバイセプスで、今までより背中を詰めていたように見えたが?
フォースコール、左より鈴木、田代、須江、山田、佐藤(貴)。4回連続で抽出された鈴木だが、今回の出来を考えると続けて抽出する必要は

フォースコール、左より鈴木、田代、須江、山田、佐藤(貴)。4回連続で抽出された鈴木だが、今回の出来を考えると続けて抽出する必要は

フォースコールは鈴木、田代、須江、山田、佐藤貴の5名。比較に入ってから山田が、回を追うごとに良くなっている。佐藤貴のバックは、2つとも厚みに欠けるのか、この中では少し後れをとった感じだ!

ここまで4度の比較にすべて指名されたのが田代と鈴木。今日の鈴木の出来は、こんなに何回も指名する必要があったのかとさえ思えるほど完璧な仕上がりに思えたが!
フィフスコール、左より須山、山田、須江、佐藤(貴)、合戸

フィフスコール、左より須山、山田、須江、佐藤(貴)、合戸

フィフスコールは須山、山田、須江、佐藤貴、合戸の5名。田代と鈴木がぬけたと云うことは、この指名をした審査員は、田代と鈴木の1・2位を確信しているようだ! そして、このなかの誰かがベスト6に入れないと云うことだ! 今年の須山は昨年までと違い、弱点があまり目立たなくなっているが、鈴木や合戸や山田と比べると、皮膚感に厳しさが出ていない。山田はミドルセクションがやや弱いものの、やはり昨年より充実している。佐藤貴は、昨年健闘して7位になったが、今年は、バランスの良さを武器に、ベスト6入りも現実味を帯びてきた! 鈴木と田代をはずしたグループに合戸を入れたのは、合戸のポジションを決めかねている審査員がいるようだ!
シックススコール、左より合戸、山田、須山、木澤、佐藤(茂)

シックススコール、左より合戸、山田、須山、木澤、佐藤(茂)

シックスコールは合戸、山田、須山、木澤、佐藤茂。木澤と佐藤茂が、須山と比べてどうだろうか? また、須江や佐藤貴とはどうだろうか?
ラストコール、左より佐藤(茂)、木澤、林、加藤、木村

ラストコール、左より佐藤(茂)、木澤、林、加藤、木村

ラストになって佐藤茂、木澤、林、加藤、木村の5名が指名されて、佐藤茂と木澤のポジションが決まったようだ!
7度にわたる比較審査を経て出た予選の結果は、鈴木のパーフェクトな1位そして、同じく2位の田代。田代の2位が、これほど完璧な結果になろうとは予想もしなかった!

予選審査の結果は、審査員間でそんなに割れることも無く、3位山田、4位合戸、5位須山、6位佐藤貴、7位須江、8位佐藤茂、9位木澤、10位林、11位加藤、12位木村となった。

決勝審査

今年の決勝は、例年のギリシャ風の舞台から一変してセリ上がりで登場した選手が、スモークとともにシルエットを映し出すと云う趣向に替えられて、60回の記念すべき大会のファイナルを演出した。シルエットから実像となってポージング台に上がった選手一人一人がとる60秒間のフリーポーズが、今年度のボディビル日本一を決めるのである。

終わってみれば鈴木雅の横綱相撲! この一言につきる今年の男子日本ボディビル選手権大会。奇しくもレセプション会場で言われた玉利会長の一言と同じだった。鈴木に向かって言われた玉利会長の言葉を紹介すると、「今日の君は白鵬だ! 心・技・体すべてに横綱相撲だった」と。

今年3月のアーノルドクラシックで、共に3位と云う輝かしい成績を上げた田代と鈴木。2人のバトルを期待していたボディビルファンも多かったと思うが、2012年・2013年と2年続きで繰り広げられた二人のデッドヒートに比べてあまりにも違いを感じた。

個人的な思いで云うと、2012年の田代は鈴木を凌駕していた! ところが、田代の鬼気迫るポージングに押され気味だった鈴木が、1年後の2013年には巻き返しを果たした。この年は二人とも実に素晴らしく、甲乙つけ難かったのが正直な感想であった。この2年の二人の勝負には、何人も踏み込ませない世界があったが、今年は鈴木一人が別次元で、合戸、田代、山田、須山の4名で争っていたと云う印象が強かった! 鈴木の心・技・体は、動じない気持ち、隙のないポージング、一回りインプルーブした体に表れ、まさに横綱相撲であった。ピックアップ、予選審査、決勝審査全てにおいてパーフェクトな勝利であった。最後に一言苦言を呈するなら、背中にもっとワイド感を付けてほしい!

結果では、田代誠も全てのラウンドにおいてパーフェクトな2位だった。しかし、昨年までと比べると、少し小さくなったようにも見えたし、いつもの厳しい仕上がりではなかった? 合戸、山田、須山との差もそんなにあったとは思えない! 結果は別として、合戸の仕上がりは過去最高だったし、山田と須山もそれぞれの欠点をカバーして最高のパフォーマンスを見せてくれた。ポージングの上手い山田幸浩が、数少ないアンバランスなポーズを修正してきたし、ボリュームでも勝負できるようになってとった3位は、妥当なものだと云える。

合戸と須山を比べたら、スケールの大きさでは須山が有利だが、仕上がりや緊密度では合戸が勝っている。表現力豊かな須山のポージングは、観る側を惹きつけて、遠くから見れば鈴木に迫るかのように映っていたことだろう? しかし須山の仕上がりは、皮膚感までも完璧に調整はできていなかった。ややアマイが、大きなブロックのマッスルやワイドなフレームは、遠目には良く見えるものであるが、審査員の位置とは、そんなところまでも見ることが出来る場所なのである。ラウンドごとに汗も出て、調子をあげてきた合戸孝二が4位。比較では今一つ奮わなかったが、一人でとるフリーポーズが素晴らしかった須山翔太郎が5位。何度も云うようだが、田代、山田、合戸、須山の間には、審査結果で見るほどの差は無かったとおもう。鈴木を除く4名が、上位グループなら須江、佐藤貴、佐藤茂、木澤の4名は、中位グループと云える。

上位グループには一歩とどかない位置だが、良く健闘して昨年より一つ上げて6位に食い込んだのは佐藤貴規! ポージングセンスには定評があり、鈴木同様隙のない表現ができる数少ないビルダーだ。気迫では上位グループにも負けていなかった!

須江正尋も須山と同様遠くからみたら一際よく見える。とことんキビシイ仕上がりではないが、ワイドな体に大きなポージングそして、大きなブロックのマッスルが遠目には良く映るのである。そのうえ観るものを魅了するポージングテクニックをもっている。昨年より二つ落として7位と云う結果は、本人には不本意なものだったかもしれない?

佐藤茂男の8位は大健闘である。欠点もポーズの拙さもあることはあるが、それをカバーしてしまう脚部のバスキュラリティ! しかしことさら低くとるサイドポーズは、全体のバランスを壊してかえって大腿部の良さを殺してしまっていた。上体にワイド感がついてきたら一気に上に行きそうだ!

今年は9位に甘んじてしまった木澤大祐。年々ポジションを下げてきているが、本来こんなところにいる選手ではない。何か一つ、今の状態を打破するものが見つかれば、一気に良い方向に向かうはずだが? 仕上がり具合、ポージング、気持ち、重心のとり方、自分の良さの再確認また、欠点のカバー。これらがヒントになれば嬉しいのだが、今年の日本クラス別で相川を破った記憶も新しい! 次は今大会の下位グループとなった木村征一郎、加藤直之、林英二の3名。下位グループとは云うものの、全国のビルダーが、切磋琢磨して臨んだ日本選手権のファイナリストに入ったことは、それだけでも大変なことなのだ!

昨年最下位だった林が、盛り返して10位になった。毎年の下位グループとは言え、日本選手権に常に入賞すること自体大したものである。当たり外れのない仕上がりや、皮膚感のきれいさにも衰えを感じさせないのは、日頃からの精進の賜物だろう!

初入賞で、それも9位と云う成績を残した昨年と比べると、今大会はやや低調で、いつもの弾けるような加藤の姿が最後まで見られなかった! 日本クラス別では70kg以下級を制したが、オーバーオールで競う日本選手権では少々厳しい評価をもらって11位。

JBBF初参加の年に、ジャパンオープンで4位になっていきなり全国区になった木村の活躍は、今大会で12位になったことからも今年のルーキーの筆頭だろう。フロントリラックスやバックダブルバイセプスで、両肩を上げ過ぎていたのが気になったが、筋密度の高さにものを言わせて大柄な選手に向かっていく様は、迫力さえ感じた!

ファイナリストの座を取り戻せなかった選手、惜しくもファイナリストに手が届かなかった選手、それぞれの想いを胸にこの大会を終えることだろう。男子日本選手権では、第2次ピックアップを通過できるかできないかの境目に、多くの選手がひしめき合っている。そのなかから抜け出すのは並大抵なことではない! でも頑張ってほしい。新たに入賞した選手も安閑としていては後れをとってしまう。これから1年後の来年のこの大会が、もっと素晴らしいものになることを願って、JBBF審査委員会委員長中尾尚志の講評としたい。
左から… 4位/合戸孝二(静岡) 3位/山田幸浩(東京) 2位/田代 誠(東京) 優勝/鈴木 雅(東京)

左から… 4位/合戸孝二(静岡) 3位/山田幸浩(東京) 2位/田代 誠(東京) 優勝/鈴木 雅(東京)

左から… 8位/佐藤茂男(東京) 7位/須江正尋(東京) 6位/佐藤貴規(東京) 5位/須山翔太郎(東京)

左から… 8位/佐藤茂男(東京) 7位/須江正尋(東京) 6位/佐藤貴規(東京) 5位/須山翔太郎(東京)

左から… 12位/木村征一郎(大阪) 11位/加藤直之(神奈川) 10位/林 英二(長野) 9位/木澤大祐(愛知)

左から… 12位/木村征一郎(大阪) 11位/加藤直之(神奈川) 10位/林 英二(長野) 9位/木澤大祐(愛知)

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ミス日本

今年で第32回になる女子日本ボディビル選手権大会が、第60回のメモリアル大会として注目の男子日本ボディビル選手権大会と併催で開催された。昨年までは、男子に比べて少なかった参加人数も、今年は男子を上回る35名を集めて、メルパルク大阪ホールは、大変な熱気につつまれた一日となった。

女子のボディビルが、どんどんフィットネス化の様相を呈している昨今、昨年からは、世界レベルで女子ボディビルがフィジークに替わってしまった。今年度のアジア選手権でも直前に女子フィジークに変更されると云うハプニングまであった。AFBFでは、準備不足で体重制のままで行われたが、今や女子の競技全てが身長制となった。

女子フィジークでは、体重制で行われていた従来のものに若干変更された点もあるが、体の仕上がりや厳しさについての審査レベルは何ら変わるところはない! 大きな変更点は、規定ポーズでアブドミナル&サイがなくなったのと、決勝のフリーポーズが30秒になったことである。

細かい点を挙げるなら、ダブルバイセプスではフロントもバックも拳を握らないし、フロントではスタンスを大きくとって片足を斜め前に流すこと。バックでもフロントと同じようなスタンスになるが、流す足は斜め後方になる。サイドポーズはサイドチェストとサイドトライセプスの二つで、どちらも審査員側の足を大きく前に伸ばす。サイドトライセプスの上体の型は従来と同じであるが、サイドチェストでは、両腕を伸ばして手首のところで交差させる型に変更されている。

世界選手権で行われているプレゼンテーションのやり方はまず、最初にクォーターターンでレベルチェックがあり次に、規定4ポーズで審査され、引き続き比較審査となる。ここまでが予選審査で、上位6名が決勝に進み、決勝審査では、1人30秒のフリーポーズとなる。興味深いのは、決勝に選ばれた6名が発表されて舞台にラインナップしたら次に、同時に60秒のフリーポーズを、ポーズダウンのようにとらせてレベルチェックがおこなわれると云うところである。

世界レベルで女子のボディビルが、フィジークになった以上JBBFも、来年度からプレゼンテーションをIFBB方式に替えなければならない。日本クラス別、ジャパンオープン、日本マスターズ、日本女子チャレンジカップそして、日本選手権とJBBF主催大会のプレゼンテーションの見直しが必要になってくるが、一部から、女子日本ボディビル選手権大会だけはこのまま残してほしいと云う声も出ている。男子日本ボディビル選手権大会が、本来IFBBルールにはない大会ながら、JBBFでは特別な位置づけをされていることを思えば、女子の日本選手権も特別な大会にと考えられないこともない。

出場者が35名と男子より多くなった今年の女子日本ボディビル選手権大会を、男子同様ピックアップ二回のシード制にしたらどうかと云う意見もあったが、時間的にルール変更には無理があり、本来のピックアップ方式一回のままでプレジャッジが開始された。

ピックアップ審査

ピックアップ審査でコールされた選手

左から… 安田敦子/堀 結華/湯澤寿枝/石澤静江

左から… 安田敦子/堀 結華/湯澤寿枝/石澤静江

左から… 愛宕珠子/田中久美/大森恵美子/久野礼子

左から… 愛宕珠子/田中久美/大森恵美子/久野礼子

左から… 惠良律子/山田純子/秋山千香子/種村みつき

左から… 惠良律子/山田純子/秋山千香子/種村みつき

まずラインナップの段階でレベルチェックしてみよう。入賞確実なところでは恵良、大澤、佐藤美、久野、山野内、足立、清水、澤田、相馬、高原の10名。続くのが秋山、種村、湯澤、愛宕、大森の5名。秋山の調整がややアマイ! 種村は華奢に見える! 湯澤はいつも通りの仕上がりだ! 愛宕にハリが感じられない。脚部に弱さの見える大森。この5名の中の誰が予選に進むことが出来るのか? 規定4ポーズをじっくり見ることにしょう。

ファーストコールは石澤、湯澤、堀、安田、久野。石澤と安田の仕上がりがアマイ。湯澤は確かにボーダーラインだ! 堀の皮膚感にハリが見えない。ここまでは納得いくが、久野がこのグループに呼ばれるとはお思わなかった。

セカンドコールは久野、大森、湯澤、田中、愛宕。久野がまた呼ばれたが、たしかにいつもの元気さがないか? 大森も湯澤同様ボーダーラインにいるようだ! 腹筋はきれいに見えている。田中もアマイ。愛宕はボーダーラインにも見えるし、それ以上にも見える。

サードコールは種村、秋山、石澤、愛宕。ラインナップでは華奢にみえた種村だったが、昨年よりはボリュームがついたようだ! 秋山の甘さは特に脚に出ていたし、腹筋のポーズが不安定だった。愛宕のポーズに広がりが見えない。

フォースコールは山田、恵良、石澤、大森、愛宕。山田は、日本女子チャレンジカップで1位になっているが、同じオープンでも日本選手権では厳しいようだ。恵良が呼ばれたのは不思議だが、確かにこの時点ではあまり目立った存在ではなかった。

フィフスコールに田中、愛宕、大森の3名が指名された。愛宕は4回連続の指名である。

ラストも3名だけの比較となって山田、種村そして、石澤が指名された。石澤も愛宕同様4回の指名を受けている。そのほか指名の多かったのは、大森が3回、湯澤、久野、田中、種村そして、山田が2回。ピックアップ審査では、ボーダーラインに近い選手ほど指名される回数が多くなるが、反対に指名される回数が少なかったり一度も無かった場合は、当然選ばれるか見込みが無いかのどちらかである。1度しか指名されなかったのは、堀、安田、秋山、恵良の4名。

6回の比較審査を経て予選通過者が決定した。満票で通過した恵良、大澤、佐藤美、山野内、清水、澤田、相馬、高原の8名と、6票の久野と5票の足立、そして、4票の種村と愛宕を合わせた12名となった。昨年のファイナリスト以外の選手は種村、佐藤美、澤田、相馬の4名で、なかでも種村と澤田は初入賞である。湯澤と大森は次点と云う結果となったが、悔しい思いを来年に繋げて欲しい。何度も指名されて選ばれなかった石澤にも頑張ってほしい。

予選審査

決勝では規定ポーズ審査がないので、予選審査が規定ポーズの見納めとなり、予選審査では、5つの規定ポーズで12名の順位を付けることになる。予選審査の比較はピックアップ審査と違い、ファーストコールがそのまま上位の順位に反映されるので、選手も観客も、もっともヒートアップする瞬間を迎えることになる。

最初に呼ばれたのは次の5名で、高原、清水、山野内、大澤、相馬。おそらくベスト5間違いなさそうな面々であるが、相馬のバックが少しノッペリして見える。後の4名は万全の仕上がりのようだ!

セカンドコールは澤田、高原、山野内、清水、大澤の5名。ファーストコールに呼ばれた相馬と澤田が入れ替わっただけの比較である。このメンバーの中でも澤田のマッスルの質感が目立っている。

サードコールは澤田、相馬、大澤、高原、足立の5名。澤田のサイドチェストに、上体の厚みを感じない! 高原の腹部に弱さが見える。足立にいつものハリがない!

フォースコールで久野、佐藤美、足立、恵良、愛宕が指名された。久野に少し元気が出てきたようだ。佐藤美も悪くない! 恵良にいつものハリを感じない。愛宕は調整に少し無理をしたのか腹部に少しタルミが見られた。ここまで見た限りでは、大澤、山野内、清水のベスト3は決定したようなものだ!

フィフスコールは足立、久野、種村、愛宕。たぶん本日の下位グループの順位付けのようだ! 種村はバランスに優れ、女性らしさも表現できる選手であるが、オーバーオールでは少し華奢に見えてしまう?

シックスコールは大澤、清水、相馬、高原の4名。これで予選の比較審査全てが終了する訳だが、ここに山野内が入ってないと云うことは、この指名をした審査員の頭ではトップがすでに確定しているようだ!予選審査の結果トップ3は、山野内がパーフェクトに近い1位、清水が2位そして、3位が大澤。山野内に2位が1票、清水に3位が2票そして、大澤には1位も2位も4位もあった。高原4位、2年ぶりの相馬が5位そして、初入賞ながら大健闘の澤田が6位。佐藤美と恵良は同点だが、上位点の多かった佐藤美が7位、恵良が8位。9位足立、10位久野、11位愛宕そして、12位に種村となった。
予選審査ファーストコール。左より高原、清水、山野内、大澤、相馬

予選審査ファーストコール。左より高原、清水、山野内、大澤、相馬

セカンドコール。左より澤田、高原、山野内、清水、大澤。初出場の澤田だが、この面子の中でも十分な存在感を現している

セカンドコール。左より澤田、高原、山野内、清水、大澤。初出場の澤田だが、この面子の中でも十分な存在感を現している

サードコール。左より澤田、相馬、大澤、高原、足立。今年は足立にいつもの張りがないようだ

サードコール。左より澤田、相馬、大澤、高原、足立。今年は足立にいつもの張りがないようだ

フォースコール。左より久野、佐藤、足立、惠良、愛宕

フォースコール。左より久野、佐藤、足立、惠良、愛宕

フィフスコール。左より足立、久野、種村、愛宕。種村は女性らしさとバランスに優れた選手だ

フィフスコール。左より足立、久野、種村、愛宕。種村は女性らしさとバランスに優れた選手だ

ラストコール。左より大澤、清水、相馬、高原。山野内が一人抜ける形となった比較である

ラストコール。左より大澤、清水、相馬、高原。山野内が一人抜ける形となった比較である

決勝審査

今年の女子日本ボディビル選手権大会は、今村不在、神田がエントリーしていない、廣田も出ていない! だが、その穴を埋めるように相馬の出場そして、日本クラス別の優勝者が5名も出場している。そのうえ出場者の数は男子を上回る35名! 近年稀に見る大会のファイナルを盛り上げてくれるのが、次に挙げる12名のファイナリスト達である。
左から… 4位/高原佐知子(東京) 3位/大澤直子(東京) 2位/清水恵理子(東京) 優勝/山野内里子(愛知)

左から… 4位/高原佐知子(東京) 3位/大澤直子(東京) 2位/清水恵理子(東京) 優勝/山野内里子(愛知)

左から… 8位/惠良律子(東京) 7位/佐藤美由紀(東京) 6位/澤田めぐみ(東京) 5位/相馬貴子(神奈川)

左から… 8位/惠良律子(東京) 7位/佐藤美由紀(東京) 6位/澤田めぐみ(東京) 5位/相馬貴子(神奈川)

左から… 12位/種村みつき(愛知) 11位/愛宕珠子(千葉) 10位/久野礼子(東京) 9位/足立晃子(東京)

左から… 12位/種村みつき(愛知) 11位/愛宕珠子(千葉) 10位/久野礼子(東京) 9位/足立晃子(東京)

予選、決勝を通じてほぼパーフェクトな内容で連覇を成し遂げた山野内里子。6月に行われたスリランカアジア選手権のフィジークでは優勝こそしたものの当地で体調を壊し、その後1か月足らずで日本クラス別に臨んだのであった。52kg以下級で優勝はしたものの万全ではなかった体調を、3か月で見事に仕上げてきた。山野内には、一回りスケールアップした印象をうけたし、フリーポーズも以前のように多すぎることも無く、気負いも感じさせなかった。

昨年同様山野内に後れを取った清水恵理子。素晴らしい仕上がりで臨んだ今大会で、特に悪いと感じるところはなかった。しかしながらポージングでは、未だに清水と云うビルダー像を確立するまでには至っていない。大会毎に工夫を重ねているが、試行錯誤を繰り返しているように思える。そろそろこれと云ったものを見つける時期にきているのではないか!

3位も昨年と同じ大澤直子。昨年はカムバックしていきなりキレのあるポージングを披露して脚光を浴びた。今年に入ってからはボディフィットネスにも挑戦し、飽くなき向上心を見せてこの大会に臨んできた。ポージングは以前から変わらぬスタイルで、シャープなアウトラインを表現する素晴らしいものであった。ベストアーティスティック賞は、とって当然の結果だと思う。

昨年6位だった高原佐知子が4位に上がってきた。以前より上下のバランスがとれてきたのが幸いした結果だと思うが、男性的にも見えるポージングも、何故か高原の魅力にさえ思えてくるのが不思議だ! 日本クラス別の時より余裕のある仕上がりでベスト3に迫っていた。

2年ぶりの相馬貴子だが、それなりに結果は残した。規定ポーズで無駄なプレアクションもあったが、フリーポーズでは得意なポーズで上手く纏めていた。肌は白いが、皮膚感の滑らかさは以前と変わらない。仕上がり具合に部分的な差があったので、今後の課題にしてほしい!

ルーキーと云える澤田めぐみが、日本クラス別55kg以下級並びにジャパンオープンを制し、満を持して日本選手権にチャレンジして見事6位の座を獲得した。ポージングには未熟な点も多々あるが、天性とも思える稀に見るマッスルの質感を武器に、今後どんな変貌を遂げるのか楽しみな存在だ!

7位になった佐藤美由紀は、日本クラス別49kg以下級4位、ジャパンオープン3位と、今年度徐々に調子を上げてきた。昨年は、決勝に残れず悔しい思いをしたことだろうが、今大会のポジションは、こつこつ努力した結果ついてきたもので、胸を張ってほしい。

恵良律子にいつものハリとハツラツとしたものを感じなかった。フリーポーズは例のややコミカルな味のあるもので無難にこなしていたが、目をみはるようなものではなかった! 昨年より一つ落として8位と云う結果になったが、次はいつもの恵良を見せてほしい。

足立晃子も少々元気がなかった。昨年までは、上下のバランスにすぐれ、女性らしくボリュームのある大腿部でスケールの大きなポージングを見せていたが、今年は、そのすべてに少し翳りが見えていた。昨年の5位と比べると悔しいだろうが、また調整して巻き返してほしい!

久野礼子は日本クラス別49kg以下級で大澤に次ぐ2位だったが、その時より体調は良く見えた。ポージングに対する向上心は人一倍強く、常に工夫して臨んでいる! 今大会のポージングもだいぶ整理されてスッキリしたものになっていたが、昨年より2つ下げて10位。

昨年いきなり9位になって存在感をしめした愛宕珠子だったが、今大会は11位と云う結果に終わった。昨年と比べると、仕上がりが肌に表れず、ハリのなさを見せてしまった。筋量も質感も素晴らしかった大腿部も、心なしか細くなったのではないか?

種村みつきは、日本クラス別46kg以下級優勝と、ジャパンオープン2位と云う輝かしい戦績で臨んだ日本選手権は、12位と云う結果に終わった。たぶんファイナリストの中では最軽量で、華奢に見えてしまうのは止むを得ないが、バランスのとれたきれいなアウトラインや、ポージングのバランスの良さは評価できる。
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今年の女子世界選手権は、カナダのモントリオールで10月17日~20日に開催されるが、今大会で優勝した山野内里子が、フィットネスの山下由美、ボディフィットネスの阿部美早そして、役員の齋藤円と共に、フィジークの選手として参加することになった。
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  • 中尾尚志(なかお・たかし)
    1945年京都市生まれ
    (公社)日本ボディビル・フィットネス連盟専務理事・一級指導員・一級審査員
    IFBB(国際ボディビルダーズ連盟)国際審査員
    日本体育施設協会トレーニング指導士
    (公社)日本ボディビル・フィットネス連盟審査委員会委員長
    京都府ボディビル・フィットネス連盟相談役

10月5日(日)
メルパルク大阪
写真:
徳江正之& Ben
[ 月刊ボディビルディング 2015年1月号 ]

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