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L-1チャンピオンが行く
筋肉浪漫街道
第2回 環境は与えられるのではなく、作るもの

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[ 月刊ボディビルディング 2014年4月号 ]
掲載日:2017.09.08
 私は、屈強なトレーニーだけが集うジムでも全然良かったのですが、世間一般の人々が抱いているであろうウエイトトレーニングや、筋肉に対しての間違った知識や思いだけは、どうしても払拭したかったのです。

 今から思えば、会社を起業するにあたり、大変な事の連続だった様な気がしますが、当時は若さも手伝ってか、怖いもの知らずと言いますか、経験知の無さが、逆にフットワークを軽くして、何の負い目を感じることなく会社設立に至りました。ただ、空手の現役をそのまま続行出来るほど、極真の世界は甘いものではなく、また、現役の空手選手を続けながら仕事を極められるほど、社会もあまくありません。そこで30歳で選手を潔く引退。そんな思いで挑んだ引退試合が、第16回全日本ウエイト制空手道選手権大会でした。心技体、どれを取っても、今までにない絶好のコンディション。悔いを残すことの無いように、きつい稽古にも耐え、万全の態勢で試合に挑んだのですが、残念ながら力及ばずベスト8で敗れ、私の全日本制覇の夢は敢え無く途絶えました。

 今まで、自分の全てを空手に注ぎ込んできたわけですから、現役を引退してからというもの、何かぽっかりと穴が開いたような、閉塞感を感じることもありました。しかし競技選手としては引退ですが、いち空手家として、第2の空手人生が始まるんだと思って、今まで以上にウエイトトレーニング、空手の稽古そして仕事に励みました。

 そんな頃、ワールドジムが移転するという話が私の耳に飛び込んできたのです。その移転に伴い、あぶれた中古マシンが出てくるとの事だったので、それならそのマシンを購入させて頂いて、マイジムを作りたい。またまた直感で行動してしまう私。早速杉田会長にお願いをして、それら中古マシンを格安で譲って頂ける様にお願いすると、快く了承して下さいました。今でも、その当時の杉田会長のご厚意には、感謝しています。そしてついに、念願のマイジムを作ることになったのであります。空手の現役引退と同時期に、会社を起業。その設立に際し、降りかかる難題の数々、加えて日々の業務にも追われ、トレーニングに十分な時間を割けない日が続くわけです。気のせいか、どんどん筋肉が萎んでいくように感じられ、気持ちが焦るばかり。そうなると仕事に対しても悪影響が出てくる始末。またワールドジムへ通うには、家からジムの往復に、2時間から2時間半を要していた為、筋トレを続けていくのにはまず、ジムの往来が容易にできる環境作りが必要だったのです。でも、短時間の移動で行けるジムが、私の地域には見当たらず、途方に暮れていたところ、この移転のお話が舞い込んできたのです。もう飛びつくしかないでしょ、そして環境は自分で作るしかないでしょ、って事でジムを自分で作る決心に至りました。月刊ボディービルディングの読者の方々なら、ウエイトトレーニングについて、ある一定の理解のうえに立って、思い考えることが出来ると思うのですが、世間一般的にはどうでしょうか。思いかなって、マイジムをオープンさせて感じたのが、本格的なトレーニング施設に対する、世間一般の人々の間違った思い込みによる、拒絶感でした。それは、筋肉に対する知識の無さが故なのか、筋肉に対する免疫力の無さが故なのか、分かりませんが、『こんなたいそうなマシンはいらない』だとか、『あんまり筋肉はつけたくない』だとか、ウエイトトレーニングの入り口が狭く感じられるネガティブトークばかりが耳に入ってきました。そんな事から、ごくごく普通の体型をした会員さんの入会は少なく、元々体を鍛えていたであろう、屈強な会員さんの入会が目立ったのです。

 私は、屈強なトレーニーだけが集うジムでも全然良かったのですが、世間一般の人々が抱いているであろう、ウエイトトレーニングや筋肉に対しての、間違った知識や思いだけは、どうしても払拭したかったのです。その為にも、実際にジムに入会して頂いて、ウエイトトレーニングは、老若男女誰でも簡単に出来るスポーツであり、健康増進を図れ、その事により、心身共に充実がはかれて、社会の中での自分にも自信を持てて、ポジティブなライフワークが約束される事を、感じて欲しいと強く思うようになりました。
昨年リスポで開催された倉川氏のセミナー。

昨年リスポで開催された倉川氏のセミナー。

日々空手の修行に励む仲間たち

日々空手の修行に励む仲間たち

 しかしながら、極真空手の世界に於いてでさえも、ウエイトトレーニングに対する考えは、善悪を二分していましたから。極真空手とは、実際に相手の体にコンタクトするわけです。鍛え上げた拳足を駆使して、相手にダメージを負わせ、戦闘不能状態に追い込む作業の繰り返しです。相手の攻撃を、己の五体で受けるわけですから、少しでもダメージを残さないようにする為に、ウエイトトレーニングで身体を鍛え上げ、ビルドアップさせる事が必要不可欠となってくるわけです。事実歴代の極真強豪戦士に名を連ねる選手は、皆揃って大柄な身体つきをしていました。鍛え上げられた者同士の、ど突き合いだからこその、迫力、凄さ、説得力があったように思えました。しかしいつの日か、極真の試合における判定基準が、スタミナにものを言わせた、突き蹴りの連打など、手数を有効とみなすような風潮になってきてからは、筋持久力のある細い体つきの選手でも、上位もしくは優勝出来るスタイルとなっていきました。そんな頃、『空手にウエイトトレーニングは不必要』、『体が大きくなり過ぎて動きが遅くなる』『百害あって一利なし』とまで揶揄されるようになりました。私が現在取り組んでいるゴルフでいえば、ウエイトトレーニングを本格的に取り入れている日本のトーナメント選手なんて、ほとんど居てないのではないでしょうか。昔、芹沢プロのゴルフ番組に出演させて頂いた時にも、『胸の筋肉がつき過ぎで、プレーンにシャフトがおりてこないから、いい球が打てない』『一度、千代の富士親方を教えたことがあるのですが、よく似た体型ですね。この体型でゴルフはきついですね。やっぱり、もっと痩せたほうがいいですよ』的な事を言われた記憶があります。

 果たしてそうなのでしょうか。日本国内ではそうかも知れませんが、欧米各国に目を向けてみますと、どのスポーツ選手も、ウエイトトレーニングを、取り入れているように感じます。先月号でも書きましたが、極真の海外勢の体は、半端ないくらいデカく、ビルドアップされています。ゴルフに目を向けてみますと、タイガーウッズにしてもそうですが、多くの海外選手で、僧帽から肩、背中、腕、胸、脚と、万遍なく鍛えていることが、ウエアーの上からでも分かりますものね。そのうえで、彼らは結果も残している。日本を代表するプロゴルファー石川遼選手は、海外選手とのドライバーの飛距離の差に、愕然としたそうです。石川遼選手は、ドライバーによる飛距離日本一を決めるL-1 グランプリに毎年チャレンジする程、ドライバーの飛距離については思いを寄せている選手なのですが、海外選手の圧倒的な飛距離を目の当たりにして、パワーの無さを痛感したそうです。それもこれも、ウエイトトレーニングが取り持つ、パワーバランスの差ではないでしょうか。私は空手選手としての現役を退いた後、ドラコンという競技に出会い、日本一のドラコニストになるべく日々鍛錬を続けているのですが、飛距離に対してのアドバンテージは、空手時代から鍛え上げてきたウエイトトレーニングによるパワーの賜物だと信じています。小手先のテクニックは圧倒的なパワーの前では通用しない事を実体験しているだけに、より早く、より遠くに飛ばす為にも、ウエイトトレーニングは必須アイテムだと思っています。どの競技においても共通する事は、ウエイトトレーニングで、体幹を鍛え、スピードとパワーを身につける事は、間違いなくアドバンテージになるということです。だからこそ、自分のジムを通じて、ウエイトトレーニングの必要性を、多くの人たちに理解してもらえるべく、まだまだ微力ではありますが、伝えていけたらと思っています。


文/西田謙司
[ 月刊ボディビルディング 2014年4月号 ]

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