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[ 月刊ボディビルディング 1973年3月号 ]
掲載日:2017.10.18

パンプ・アップについて

Q
 上級者のトレーニング法や外国雑誌を見ていると「パンプ・アップ」という言葉がしばしばでてきます。この種目はパンプ・アップしやすいとか,パンプ・アップを長い時間維持すると効果的とか書かれていますが,パンプ・アップとはどんなことなのか,また,どのような効果があるのか教えてください。
 私はボディビル開始後4ヵ月の新米なので,ボディビルの専門用語について詳しく知らないものが多いので,よろしくお願いします。 (T・K)
A
 ボディビルの専門用語についてよく知らない,4カ月のボディビル経験者とのことですが,本誌46年8月増刊号の「ボディビル百科」の用語解説を参照されることをお勧めします。
 パンプ・アップに関するご質問は数多く寄せられていますので,それらを一括してお答えする意味で,まずパンプ・アップに関する広い範囲の説明をします。
 パンプ・アップとは,一定部分の筋肉,あるいは筋群が一時的に「張っている状態」をさしています。この「張り」とは,充血による一時的膨張なのですが,このメカニズムについて理解しやすいよう,簡単に述べておきましよう。
 筋肉が運動を行うと,筋肉細胞に酸素と栄養分を補給し,老廃物を除去するため血液が必要とされます。
 この血液の必要量は,運動の強度と継続時間に比例して多くなります。身体中の血液は一定量なので,安静時には血液量が少なく,運動時に多くなるというようには都合よくことが運びません。
 身体中の一定量の血液は,身体の要求に応じ,あるときは緩やかに,あるときは急いで,心臓を中心として身体中を循環しています。これがすなわち脈拍です。脈拍が早いときには,身体の筋肉細胞が酸素と栄養分を多く補給して,栄養分の燃焼(エネルギー)の結果生じた老廃物を除去する速度を早めてほしいと要求しているのです。このように酸素と栄養分の補給,および老廃物の除去は血液を仲介として行われます。逆に安静時にはこの循環の速度があまり要求されないので脈拍が遅いのです。
 この血液の循環は,全身運動なら文字どおり全身を駆けめぐり,部分的な筋肉運動なら,その筋肉部位に血液が多く動員されます。この部分的な筋肉に血液が大量に動員された場合には,ラッシュ時の道路と同様に血管がふくれあがります。だが,道路と異なり幹線の血管はそれほど膨張せず,身体中に網の目のように張られている毛細血管が,血液を多く抱えこんで膨張するのです。それが充血状態のパンプ・アップです。これを皮膚の上から見れば筋肉自体が膨張しているように感じられるわけです。
 よく鍛練されたスポーツマンの毛細血管の数は,普通の人より40~45%も多くなると医学書には書かれています。これは,短時間に血液を多く動員させるため,必要に迫られて毛細血管が発達したのです。
 したがって,鍛練された人ほどパンプ・アップしやすいといえるわけですが,体質などによっても異なるので一概に決めつけることはできません。
 筆者の現役時代には,上腕囲でコールド(平静時)とパンプ・アップ時では2.5cmの差がありました。ギリギリのパンプ・アップ状態でなくとも,コールド時に較べ2cmの膨張は容易にできたものです。
 パンプ・アップのメカニズムと,どんな状態なのかということは理解くださったと思いますが,その効果などについて具体的に説明することは現在のところできかねます。
 これは,説明が難しいということでもなければ,筆者がこの件に関して知らないということでもありません。医学界においてもまだ説明されていないということです。日進月歩の発達を遂げる医学のことですし,このウェイトトレーニングに関する研究も,10〜20年前とはまったく別のものともいえるほどになった今日なので,近い将来には解明されるかとも思われますが,現在のところはよく判っておりません。
 パンプ・アップが筋肉発達にどのような影響を与えるのかは,あるいはボディビル界千年の謎として永久に解明されないかも知れません。まして,現在このことに関して意見が分れるのは当然だといえましよう。
 だが,ボディビル界では,パンプ・アップが筋肉発達に効果があると信じている人が多いようです。この場合の筋肉発達とは,筋肉が大きくなるという意味に限定した場合です。筋肉の柔軟性,スピード,瞬発力増大などについては,パンプ・アップが有効と考えている人は極めて少ないと見受けられます。
 以上の理由から次の二つのことがいえます。
(1)体力増進,健康管理などを目的とする一般練習者にパンプ・アップは無用の長物なので,むしろ,パンプ・アップしないように,同一の種目を何セットも続けて繰り返さずにシークェンス・トレーニングなど巡回方式で練習することをお勧めします。
 一部分に血液が長時間停滞していると疲労しやすいし,次のセットに移行するのにも長い休息が必要になります。1セット行い次のセットまで3分ほど休むより,あまり休息をしないで次から次の種目とセットに移行した方が,スタミナ養成(循環器系統,呼吸器系統のスタミナも含めて)に役立ちます。
(2)筋肉発達を練習の主眼とするコンテスト・ビルダーは,パンプ・アップがその目的に効果的であると信じたら,迷わずパンプ・アップを重視した練習方法を採用することです。だが,パンプ・アップは筋肉発達にあまり効果を発揮しないと考えたら同じく迷わずに別の方法を採用すべきです。
 いずれの方法で練習するにしても,疑心暗鬼でセットを重ねても効果はあがりません。練習効果は常に精神状態と密着しています。効果を信じて練習に打ち込んだとき,はじめて最大限の練習効果が発揮されるものです。

体力増進のための体重減少は可能か?

Q
 私は身長172cm,体重83kgと標準体重より約10kg多いのが近頃気になってきました。大学時代には卓球を猛練習していたので67~68kgでしたが,ここ1~2年の間に急激に体重が増加してきました。現在36才ですが,年齢の割には体力に自信があります。しかし,会社での立場上,仕事の内容はかなりきつく,残業のほか,自宅に書類を持ち帰って仕上げるということも珍しくありません
 これから仕事はますます激化すると思われるのですが,ドンと胸を叩いて「任しておけ」というほどの自信は残念ながらありません。これは仕事の内容ではなく,体力的に自信がないということです。年齢の割には体力に自信があるといっても,4~5年前と現在では格段の疲労度が感じられます。この最大の原因は肥満によるものと自分では思うのですが,さりとて減食も気が進みません。
 フアッション・モデルなら,よほどの減食をしても体重を減らすでしようが私はそんな気持をもっておりません。格好や見ばえのために減量を考えたことはありませんが,仕事に必要とされる体力を確保・増進するために標準体重に近づけたいと考えています。ボディビルを行うことによって,この目的が達成されるでしようか? 会社の部下に勧められたので,自分には場違いではないかと思いながらもご質問いたします。(足立区・早田哲郎)
A
 本誌には場違いではないかとのご質問ですが,決してそんなことはありません。8~10年前と異なり,ボディビルの実践目的と実践方法が隔絶ともいえるほど変化しました。あなたと同様の目的でボディビルに取り組んでいる人は,筆者の知る限りにおいても極めて多くいますし,今後その数は増加することは考えられても減少することは考えられません。
 現在ボディビルを行なっている人からのご質問ならば,どのように行なったらよいかという方法論的な内容になるものですが,ご自分の目的をはっきり述べられて,ボディビルでこの目的が達成されるかというのが筆者には面白く感じられました。しかし,これは裏を返していうならば,まだまだボディビルの広義な認識が世間でなされていない,ということなのでしょう。
 ボディビルとは,筋肉肥大や筋肉増強ばかりを目的とするものではなく,体力増進,積極的な健康管理を究極の目的としているのですが,一般世間の人たちからは,まだまだそのような受け取りかたをされていないものと痛感しました。
 あなたのご質問に対する答えは,改めて申すまでもなく「ボディビルであなたの目的が達成されます」ということです。しかし同時に,ボディビルのみがあなたの目的を達成させる運動方法ではないともいえます。
 学生時代には卓球の猛練習をなされたとのことですが,これから再び卓球をするのも一つの方法です。しかし,体力増進のための減量を目的とするならば,卓球よりもボディビルの方が効率がよいと考えられます。
 ここで,ご質問のなかにある標準体重ということに関して異議とご注意を申しあげたいと思います。
 あなたのおっしやる標準体重とは,身重(cm)から100を引いたkg数,あるいはそれに類似した算出方法によるものと推察しますが,それは一応の目安であって,決してその数字に振りまわされる必要はないということです。
 体形,体質,運動歴などにより差がでることも多いのです。ましてや,結婚前の女性や,格好よさを売りものにするヤングではないのですから。要は自分の体を思うようにコントロールでき,内臓諸器官に余計な負担をかけないものなら,それこそ「大きいことはいいことだ」とまではいわないまでも気にしすぎて思い患うよりは実害がありません。いやむしろ,パワーがあることに通じやすいのですから,取り越し苦労はやめたいものです。この標準体重というのに悩まされている人が相当数いると思われますので蛇足ながら付け加えました。
 しかし,学校を卒業して13~14年で15~16kgの体重増加はいただけません。卓球をやめて2~3年の間に5~6kg程度の体重増加なら驚くに値しませんが,毎年1kg以上の増加というのは要注意です。ましてや,最近1~2年の間に急激な増加を示したとのことですから。
 年齢の割には体力に自信があるといっても過信は禁物。このまま放っておいたら,標準体重にはあまりこだわらない私でさえも,赤信号を通り越して警報を発します。思い立ったが吉日,早速きょうからボディビル練習をなさってください。
(解答はJBBA事務局長,'68ミスタ一日本 吉田 実氏)

プロティンの効果と摂取法

Q
 私はボディビルをはじめてから約3年になります。最初は面白いほど発達したのですが,最近は停滞ぎみです。
 ボディビル誌,とくに外国誌などを見ると,プロティンをはじめ多くの栄養剤の広告などが載っていますが,どのような効果があるものでしょうか。また,もっとも有効的に摂取する方法等についても教えてください。
 武本さんは何回も外国にも行かれたし,その方面のことについても詳しいと思いますので,この回答はぜひ武本さんにお願いします。(H・M)
A
 まず,プロティンとは何かということを先に知る必要があると思います。なぜなら,プロティンというと,まだまだ日本では薬品のイメージが強く,どちらかというと否定的な見方をしている人が多いようです。
 プロティンとは,すなわち蛋白質のことです。つまり,栄養素の中でも最も大切な成分であり,血となり肉となり,爪,頭髪,内臓諸器官,皮膚,消化液,その他ホルモン,酵素のもとになるすべての生体組織の構成主成分が蛋白質なのです。
 そして,それらは常時,新陳代謝というやっかいな細胞の核分裂によって破壊されたり新生されたりしているのです。当然その原料である蛋白質,つまりプロティンは代謝の激しいほど多く要求されます。
 筋肉肥大をねらうビルダーにとっては,必然的にこれを補給しなければトレーニングの効率が悪いわけです。もちろん,運動をまったくしない人たちにも言えることで,運動しない人たちに蛋白を多くとらせると,必ず体の調子がよくなり元気になるはずです。
 疲労するとすぐビタミン剤を使用する人が多いが,ビタミンより蛋白の方が効果があると思われます。なぜならば,あらゆる食品に恵まれたこの時代に(物価は高いが)ビタミンが不足で病気になった,などという例は少ないと思います。というのは,人体が1日に必要とするビタミンの量は極めて微量であり,しかも,ほとんどの食品にはビタミンやミネラル等を添加して加工されているからです。
 その反面,蛋白質の1日の必要量は一般人で体重1kgにつき約1gとされています。先にも述べたように,その性質上からいっても当然多く要求されるわけです。
 これほど重要な栄養素が,あまりにもないがしろにされているのが実状です。つまり,高くつくし,炭水化物の食品のように手軽に調理できない不便さがあり,貯蔵もしにくいうえ,味がなく,まずいという欠点があります。とにかく手間とお金のかかる食品といえましょう。
 肉類を食べると筋肉がつくと思っている人たちも多い。しかし,肉類に含まれている蛋白質のパーセンテージは約20%ぐらいです。すなわち,100gにわずか20gぐらいなのです。よく,「きょうは肉を食べたから調子がいい」といっているのを聞くが,どのくらい食べたかたずねると,「スキヤキを腹いっぱい食べた」という。うすくすき透った肉を何枚か食べたのでしょ
うがそれでもなおかつ元気が出たように感ずるのは,日常いかに蛋白質が不足しているかがわかります。
 生卵をすすっていても「そんなに精をつけて…」と耳にすることが多い。生卵の1個や2個で精がついたら苦労するものかと腹立たしいことがあります。これほど蛋白質は理解されていないのです。一番大切な栄養素を気の毒にも……。
 では,ビルダーならばどのくらい蛋白質を摂ったらよいだろうか。少なくとも一般の人の2倍は摂ってほしい。つまり,体重1kgにつき約2gはとってほしいということです。蛋白質は余分に摂取した場合,分解されて排泄されますので,摂り過ぎの心配はありません。摂り過ぎると痛風などという病気もありますが,これは運動もしないで食べ過ぎるからであり,われわれのように日常激しい運動をしている者にとっては,そんな貴族病を心配することはありません。


◇プロティンの上手な摂取法
 いままで述べてきたことは,ハイプロティンとはどういうものか,ということですが,あなたのご質問の趣旨がコンテスト・ビルダーを目指している者のハイプロティンの上手な摂取法と推察されますので,そのような観点に立って説明いたします。
 蛋白質はその性質上,一度に多量に採取してもロスが多く,上手に摂取するには,1日に何回かに分けて摂るのが効果的です。したがって,朝などめんどうがらずに必ず欠かさないようにすれば,1回分多く摂ることができま寸。
 私がアメリカで見たビルダーのほとんどは,ポケットにタブレット(錠剤)のプロティンを忍ばせ,随時ボリボリかじっていました。これもいま述べた何回にも分けて摂るという方法の一つです。純度の高いものほどまずく,しかもクセのある味がするものです。彼らのかじっていたのは,このまずい純度の高いものでしたが,体の発達のためには常にこのように補給しているのです。
 一昨年のコンテストの折,コロンボやエド・コーニーたちの食生活を見てきましたが,ほとんど肉中心の食事にもかかわらず,まだその上にプロティンで蛋白質の補給をしているのにはおどろきました。


◇コロンボのプロティンの摂取例
(朝)食後,プロティン大サジ山もり2杯,ミルク1本,タマゴ2個をミックス。
(昼)練習後,プロティン大サジ山もり2~3杯,ミルク1本,タマゴ2~3個をミックス。(夜)食後,プロティン大サジ山もり2杯,ミルク1本,タマゴ2個をミックス。
(寝る前)プロティン大サジ山もり2杯,ミルク1本,タマゴ2個をミックス。
 そのうえ,朝は総合ビタミン剤をびっくりするほど飲んでいました。もちろん,これらの栄養剤の摂り方は医師に相談して,処方してもらったものだそうです。
 ここにあげた例は,私が直接見たままを書いたのですが,たまたまコンテストの時期でもあったので,いつもより少しは多目に使用していたのかも知れません。
 私自身は,朝,プロティン大さじ2杯,ミルク1本,タマゴ2個のミックス。夜,プロティン大さじ3杯,ミルク1本,タマゴ2個のミックスです。昼も使用したいのですが,ジムにミキサー等の器具がないのであきらめています。アメリカでは,どこのジムにもジュース・バーがあり,必ず練習後飲めるようになっています。
 一般的には朝,夕(できれば昼も)大さじ2杯前後が補充食として良いのではないかと思われます。タブレット(錠剤)があれば便利ですが,日本には残念ながらまだありません。
 日本で販売されているものでは,フオーミュラー7とスーパー・プロ101がありますが,フォーミュラー7は高カロリー食として適しています。私はどちらかというと肥える体質なので敬遠しておりますが,短期間で体重を増加させたいという人には効果的だと考えられます。
 スーパー・プロ101は,高カロリーに蛋白質をプラスしたもので,私も夏期に84%プロティンと併合してみましたが疲労度が少なく効果的だったと感じました。
 私の場合は,シーズン中もシーズン・オフも朝食がめんどうなので,プロティン・ジュースですませています。しかし,シーズン・オフにはシーズン中ほど無理をしてまで使用することはありません。
 私のような体質は運動をしないと,すぐ肥るタイプなので,カロリーの低い84%プロティンが適していますが。それぞれの体質によって,適宜組み合わせて応用してみるのも重要な使用法の一つです。(解答は’70ミスター日本 武本蒼岳氏)
[ 月刊ボディビルディング 1973年3月号 ]

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