フィジーク・オンライン

トレイニングで起こりやすい 傷害と安全管理

この記事をシェアする

0
[ 月刊ボディビルディング 1973年9月号 ]
掲載日:2017.11.17
グランプリ・トレイニング・センター
会長 滝沢新一
前号ではウェイト・トレイニングにおける指導者の役割の重要性と,練習者のトレイニングに対する正しい心構えの必要性を述べたが,今回はトレイニングの基本的な事柄である安全管理について考えてみたい。
いろいろなスポーツ(トレイニング)を実施するにあたって最もたいせつなことは,毎回のトレイニングを安全で効果的に行うことである。このことを念頭において筆を進めてみようと思う
スポーツは,正しく行われて始めて健康のためにも,また,体力の向上にも効果が現われてくるのである。そしてこれによって得た健康と体力は,われわれの人生を豊かにし,快適な生活をするうえに役立ってくれる。
しかし,健康を目指して始めたトレイニングが,その方法を誤ったためにかえって不健康体になったり,ケガなどの傷害でスポーツ活動を続けていくことができなくなったり,さらに最悪の場合は,生命すら落してしまうこともある。このように,スポーツは健康をもたらす反面,傷害を起こす危険性も秘めているので,指導者ならびに練習者は充分に注意してかからなければならない。
ウェイト・トレイニングは,現在数多くの人に行われており,これからはさらに広く行われると推測されるが,ここで大きな事故などを起こしたりして,ウェイト・トレイニングの普及発展のさまたげにならないように,トレイニングの安全管理について,基本的なことからいま一度考えてみる必要があるのではないだろうか。

◇器具による事故の防止

ウェイト・トレイニングには数多くの運動種目があるが,そのほとんどは重量器具を使用して行うので,練習中は安全トレイニングということにとくに気をつけなくてはならない。
最近は以前と異なり,多くの新しい器具も開発されてきた。もちろん,これらの器具は耐久性を考えてつくられてはいるが,長い間には,重量物による数多い使用のために,気がつかないところに故障が起こり,これが原因で突発的な事故になるということがよくある。器具の整備点検は日を決めて定期的に行うようにしたいものである。
また,管理者は各トレイニング器具が使いやすく安全な位置に置かれているかどうかを点検する必要もある。
練習者においては,それらの器具を正しい使用法でとりあつかっているかどうか反省してみる必要がある。とかく馴れてくると,ルーズになりやすいものである。
たとえば,固定式以外のバーベルを何人かの人が使用する場合,ひんぱんに重量を調節するため,ついめんどうになってカラー(止め金)を使わないで練習しているのをよく見かけるが,めんどうがらずにカラーを使用するくせをつけたいものである。
古くなったバーベル・シャフトはローレット加工をした部分が摩耗して,汗などかいたときはとくに滑りやすいので注意する必要がある。固定式のバーベルやダンベルは,グリス等をさして回転をよくし,手首に負担をかけないようにしておくべきである。
なお,ダンベルはカラーがゆるみ易いのでとくに注意を要する。

◇ウェイト・トレイニングによって起こりやすい筋肉傷害

<筋炎,筋肉痛>
経験のない者が,始めてトレイニングをした翌日などに筋肉が痛むことがある。これを筋炎といい,あまり鍛えられていない筋肉に強い負担をかけた場合に起こりやすい。トレイニングに馴れるまでは無理のない重さで,正しい運動姿勢をマスターすることに重点を置いて練習するようにしたい。

<筋痙攣>
カーフ・レイズの運動中や運動後に,よく腓腹筋が痙攣することがある。これは血液の流れが悪くなっているときに起こりやすく,一度起こすとクセになりやすいので,準備運動やマッサージを充分行なって防ぐようにする。

<筋肉の強直>
運動中に起こるパンプ・アップではなく,筋肉が何日も堅く強直していることがある。これは,練習によって高まった筋肉の緊張が継続しているのであって,そのままその部分の筋肉運動を続けると,肉離れなどの傷害を起こすこともある。マッサージや休養によって,筋肉の緊張をほぐすようにしなければならない。

<肉離れ>
前項のような場合のほか,冬などの気温が低い場合,寒さのために筋肉が緊張したままの状態で急に強い筋力を出したりすると肉離れを起こしやすい。
冬期の練習や,室外での練習,あるいは体質的に体の堅い人などは,とくに十分なウォーミング・アップと保温に注意しなくてはならない。スクワットの練習中に起こった場合など非常に危険である。

◇骨と関節の傷害

<骨折>
普通の練習では起らないが,慢性的な重量負荷によって,関節部分に小さなヒビや骨折が起こることがある。異常を感じたら,トレイニングを中止して専門医に診断してもらうことが必要である。

<脱臼,捻挫>
あまり起こらないが,以前脱臼をしたことのある人は,悪い姿勢や無理なトレイニングをすると再発することがある。

◇軟骨と靭帯の傷害

重い重量のスクワットで立ちあがるとき,重さのために膝を内側に寄せて挙げている人がいるが,このような場合,関節の内側にある軟骨が無理に伸ばされ,正常な元の位置に戻らなかったり,急に膝関節に重い負荷をかけると,水がたまることがある。(写真1参照)
〔写真1〕このように膝を内側に曲げて行うスクワットは,膝関節の軟骨,靭帯の傷害につながる危険性がある。

〔写真1〕このように膝を内側に曲げて行うスクワットは,膝関節の軟骨,靭帯の傷害につながる危険性がある。

◇腰の傷害

ウェイト・トレイニングの練習者に最も多く起こる傷害で,バーベル等を不安定な姿勢で引きあげようとしたときや,長期間にわたって脊柱に重い負荷をかけていた場合などに起こる。
また,腰部が十分に鍛えられていない初心者が,ベント・ローイングや,横にあるダンベルを片手でヒョイと持ちあげようとしたときなどにも起こる。(写真2参照)
〔写真2〕

〔写真2〕

〔写真2〕各種目とも腰が曲った悪い姿勢である。このような姿勢で練習を続けていると,軽い重量でも長期間にはー定部分に無理な負担がかかり,腰部の傷害の原因となる。
以上にあげたような傷害は,練習中に起こることが多いが,長い間に少しずつ関節や筋肉に負担がかかっていると,あるとき突然,日常生活の中で起こることがある。また,次のような状態のときにも傷害が起こりやすいので注意されたい。

<オーバー・ワークのとき>
長期間のトレイニングや,短期間で強いトレイニングをした後など,疲労が回復しないまま運動を続けていると,体重が急に減り,トレイニングに対する意欲もなくなってくることがある。これはオーバー・ワークの状態である。このようなときにも傷害を起こしやすい。オーバー・ワークだと思ったら,ためらわずに長期間の休養(レイ・オフ)をとり疲労が回復し,トレイニングに対する意欲がわいてきたら再開すべきである。

<精神的に不安定なとき>
いろいろな悩みや心配事のあるときなど,練習をしようか休もうかと迷うことがある。このようなときには,思いきって休んでしまう方がいい。無理にトレイニングを行なっても,集中できないので効果がないばかりか,ウワの空になったりして事故を起こす危険が多い。

以上の他,直接の練習以外にも,あらゆることが傷害の誘因とる。ほんのちょっとした心のゆるみが大きな事故につながるのである。
トレイニングは安全でかつ効果的に行うものであり,決して効果のみを先行させてはならない。あくまでも安全を第一に考えるべきである。
そしてこのような傷害には「いくらすぐれた指導者よりも,練習者自身が最も有能な安全管理者である」ということを,練習者一人一人が自覚することが最良の防止法なのである。
[ 月刊ボディビルディング 1973年9月号 ]

Recommend