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JBBAボディビル・テキスト③ 指導者のためのからだづくりの科学

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[ 月刊ボディビルディング 1973年10月号 ]
掲載日:2017.11.20
日本ボディビル協会 指導員審查会委員長
佐野誠之

<6>指導計画上の原則

 指導者はつねに「体力を維持増強するための運動の処方はいかにあるべきか」ということに対する解答を求められていることを自覚しなければならない。
 体力をつくるといっても,個人個人に具体的にどんなことを望んでいるかを聞いてみると,それぞれ考えていることや,目指している目標が違っていることがわかる。
 運動不足を解消したいという目的で来る人たちに,最初は練習に親しみ馴れさす意味で,身体のさび落しや,掃除の意味をもって,特定の目標を定めず,同じような一般的プログラムでトレーニングを開始し,馴れるに従ってこのプログラムの強度を増して続けてみると,年令や体質,その他の条件の違いによって,効果のあらわれ方が違っており,その体力パターンもそれぞれ相違する。
 現実の問題としては,大多数の人々がこのような過程を経て,なんらかのしかるべき結果に到達しているものであろう。このことは,他のいろいろのスポーツについてもいえる。同一のスポーツを実施したからといっても,その効果のあらわれ方は,個人個人によって違っている。
 以上に述べたことがらからもわかるように,少なくとも,性別・年齢・体質等の違いを考えたトレーニングが,その目的(目標)に応じて採用されなければならない。適切な目標を定めることなく,ただ漠然と同じようなプログラムで実施したのでは,不徹底な低次元の体力しか得られないということになってしまう。
 大人を小型にしたものが子供であると考え違いをしている人はないだろうか。染色体の異なる男女を同じように考えることは間違いであることは知っているだろう。これと同様に,大人と子供の場合でも,たんに大型・小型の違いだけではなく,その持っている内容が異なっている。体質についても同様である。
 また,このような知識をもっていても,いざ具体的な体力づくりとなるとそれを忘れている場合が多いのではあるまいか。体質が異なれば,体カづくりの運動の効果も違ってくるのは当然であり,同じ刺激に対しても,その反応は千差万別となることは,無理に学問的に究明しなくても,それぞれの経験した事実や結果が,なによりも確かな答えを現実に出している。

A 体質

 個々の体質の内容を科学的に明らかにするのは容易ではないが,できるだけ同類性を求めて分類し,各群ごとに基本的な原則を見出すことは必要である。概念的に大別すると,つぎの3つに分類できる。

①内胚葉型
  消化器系統の発達した肥満型で,胃腸型体質ともいわれ,肥満になりやすい体質。

②中胚葉型
  筋肉の発達が特徴で,筋肉型体質ともいわれ,運動適性の最もすぐれたもの。

③外胚葉型
  感覚器官の発達に特徴のある痩型で,神経質型ともいわれ,最も体力づくりの指導困難なもの。

 ではつぎに,この3つに分類したそれぞれの体質について,体力づくりを行う場合の原則的なことがらを述べてみよう。
 内胚葉型(胃腸型体質)は,激しい運動に対してはすぐ疲労し,中程度以上の運動をすると食欲が低下し,運動量が少ないほど食欲が盛んになる傾向がある。したがって,運動不足になればなるほど脂肪ぶとりになる。あまり強くない(エネルギー代謝率3~7程度)運動を,できるだけ長時間行わせることが原則で,それによって肥満を防止できる。もちろん,食事にも注意が必要であることはいうまでもない。
 中胚葉型(筋肉質型)は,運動することにより食欲が盛んになり,運動不足になると食欲が低下する。一般に,運動していると体重が増加するが,中止すると低下する傾向があり,強度のトレーニングにも耐える体質で,その効果も著しい。
 外胚葉型(神経質型)は,運動をしてもとくに食欲が盛んになることもなく,疲労しやすい体質で,安静にしていても食欲の亢進がない。痩せていて筋肉も脂肪も少ない無力型で,体力づくりを最も必要とする体質であるが,運動によって過労におちいりやすいので,細心の注意が必要である。
 この他,例外や中間的な体質もあり一概にはいえないが概要は以上のようである。

B 年令的考慮

 年令により,その持っている内容はずいぶん異なる。そこで年令を大きく次の6つに分けて,それぞれの特徴について考えてみたい。
 ①自立歩行から8歳前後まで
 ②小学生高学年(11~12才位まで)
 ③中学生(14~15才位まで)
 ④青年期(16~22才位まで)
 ⑤成人期(23~30才)壮年期(30~40才位まで)
 ⑥中高年(40才以上)
 では次に,これらの区分に従って考慮すべきことがらを個々に述べることにしよう。


①自立歩行から8歳前後まで
  すなわち幼児期から小学生低学年までは,体格や体力の発達に非常に大きな個人差があり,成長するにつれて平均化してくる。したがって,少し発達がおくれているからといってあわてたり,早いからといって安心したりしてはいけない。
  とくにこの時期は,競技や競争という概念のもとに運動を行わせるべきではない。そして,自発的な運動(遊び)を制限しないことが大切である。
  危害予防を神経質に考えすぎて,自然の遊びをおさえることは,習慣的に運動をおさえる結果となる。じっとしていることを喜ぶような運動不足中毒状態にしてはいけない。とくに,疾病や異常がない限り,「遊び疲れ」による休養が自然に合理的に入ってくる自律調整能力が備わっているから,安心してワンパクをさすべきである。
  「走る」「跳ぶ」「ける」「打つ」「ぶらさがる」等の自然の遊びの中で,器用さの基礎づくりが自然につくられる時期である。小学生低学年は,胸囲や体重が発達する幅育期といわれ,幼児期につづいて反射神経や平衡感覚,巧緻性,敏捷性が発達する時期であり,人間ー生の間の器用さの60%程度が6~8歳ぐらいのこの時期に発達する。
  子供可愛さのあまり,干渉しすぎて遊びを制限することは,発育の芽をつんでしまうことになり好ましくない。元気いっぱい活動さす習慣をつけてやるべきで,それにより骨を刺激して増血作用を促進し,心肺機能や循環機能も発達し,発育刺激が強くなる。ただし注意すべきことはとくにトレーニング意識をもって,重量負荷がかかるような運動を強いることは慎しむべきである。体重の1/3%以上の重量負荷はとくに慎しまなければいけない。できるだけ遊びの中に自然に運動に親しむという習慣をつけるべきである。このような意味から,日曜日等にハイキングや水泳などを行うのは非常によい。
  またこの時期は,栄養面でも編食をしないように習慣づける良い時期である。


②小学生高学年(11~12歳位まで)
  男子は充実期,女子は第2伸長期に入る。低学年での運動習慣をさらに伸ばし,器用さづくりをさらに反復して,能力を高めるように注意することである。積極的に遊びを理解して,体育的な遊び(ボール遊び,うさぎ跳び,なわ跳び,かけあし等)をうまく取り入れて教えたり,一緒に遊んだりして,体を動かすことを喜ぶような習慣や,環境をつくることが大切である。
  低学年の場合と同様に,とくに重量負荷のかかる運動には充分注意しなければならない。重量負荷は体重の2/3%以内で,それも短時間で終わる運動に限るべきで,2/3%以上の負荷や長時間行うことは禁物である。


③中学生(14~15歳位まで)
  この時期は,多少の個人差はあるが,男子の場合は第2伸長期,女子の場合は伸長期の終わりから充実期に入りはじめる。
  この時期には,トレーニングという考え方を入れて実施してもよいが極端な怒責をともなう運動は避けた方がよい。特定なスポーツではなく幅広い運動,すなわち,オールラウンドの身体づくりを心掛ける時期である。重量負荷のかかる場合は,体重の3/4%以内で短時間でなければならない。まず身体的能力の機能面をつくることを考えるべきである。
  以上,中学校終了までは,直接われわれジムがたずさわるのではなく小中学校の体育科の先生方が指導すべきことである。ただ,父兄などから身体づくりの相談を受けた場合,指導の原則として認識しておいてもらいたい。肥満児対策として指導を依頼された場合は,とくに父兄の理解が必要なので,よく了解を得たうえ,特殊プログラムにて実施するようにしたい。


④青年期(16~22歳位まで)
  個人差はあるも,男子の場合,前半は第2伸長期,後半は充実期に入り,だいたい一生の間の体カはこの期間につくられると考えてよい。
  女子は成人期に入り,皮下脂肪がふえて女らしくなり,心肺機能の最も発達する時期である。
  思春期の前と後では,運動生理学的にみて大差があることに注意すべきで,思春期前の発育の段階では成熟に伴う臓器間のアンバランスという生理的な問題が潜在していることを考え,注意することが必要である。
  好むと好まざるとにかかわらず,いままでの運動経験や運動の適性の影響がクローズアップされてきて,体型,体格,得意とする運動等に分化が現われてくる時期で,特質を生かした体力づくりを考えねばならない。また,いずれにあってもスタミナを増す運動を中心に考えるべきである。お仕着せのプログラムで,画一化をねらうのは不適であり,慎しむべきである。


⑤成人期(23~30歳)および壮年期(30~40歳位まで)
  青年期より成人期にかけては最も運動効果の望める時期で,あらゆる面における機能の完成を目指して努力してよい時期である。
  30才を過ぎる頃から除々に体力低下をきたし,40才頃を境にして外からわかるほど,急に体力が衰えると常識的に考えられているが,このような考え方は修正さるべきである。
  青年期以後,年とともに体力測定値が低下を示すからといって,それを生理的必然性に結びつけるのは早急ではあるまいか。
  30才代のほとんどの人は,20才代の人に比べて,自己の体力を維持しようと心掛け,あるいは高めようとする意欲が少なく,そのために必要な時間的余裕を持っていないか,または無関心で過している。したがって,努カする意思と時間を持ち,合理的なトレーニングを継続すれば,高水準の体力を持続することが可能である。
  この持続可能の年令は,理論的には被トレーニング性が消失するまでは可能である,と考えられる。ただし,いったん低下したものを回復するのは相当な努カを要する。
  人間の筋肉は,徐々に1つの運動の形式に適応するが,形式が変わると,前と同じ強さの運動であってもすぐには適応しない。したがって,1つのプログラムに対しては,最低3カ月程度を目標に実施すべきで絶えず,あれこれ変えることはよくない。
  また,精神的な緊張状態の仕事をする人は,仕事が終わってから身体運動を行うことによって,緊張を緩和するのに非常に効果がある。運動を行う「時間」「時刻」を自身の仕事や,必然性に合うよう計画し,定期的に行えばさらに有効である。


⑥中高年(40歳以上)
  それまでに体力の維持に注意し,努力をはらってきた人は,それを維持すればよいが,まったく無関心で過ごしてきた人の場合は,俗にいわれているように,体力が衰え,徐々に身体が堅くなり,力もスタミナも低下してきて,次第に無理がきかなくなってくるので,手入れをしてやる必要がある。
  いったん低下した体力をもとの状態に戻す努力は,低下させないための努カより困難である。しかし,著しく低下した者でも,質的には区別される必要があっても,現有体力の維持,すなわち,それ以上の低下を防ぐという考え方においては基本的に変わりはない。被トレーニング性が消失してしまわない限り,回復も望めるので,ここに中高年者に対するからだづくりの原則がある。
  少しでも早くから,青年期・成人期で獲得した体力を持ち続けるよう心掛けるべきで,自分の現在の身体の状態を得るのに(または体力の低下に)何年かかっているかを考え,効果の早きを望みすぎないよう,少なくとも3~4週間程度,身体のさび落しや運動に馴らす意味で余分に日時がかかっても,問題にすべきでないことを認識さすべきである。
  中高年者に限ったことではないが効果を急ぎすぎて行うことは,かえって障害をまねく危険がある。
  なお,被トレーニング性の消失はおおむね70才前後であるとみている学者が多い。

C 身体上特殊条件の場合

 以上で体質,年令等による基本的な適用の概要は大まかに理解できたと思うが,つぎに,その他の特殊条件について考えてみたい。


①虚弱な身体の人
  先ずトレーニングに入る前に,必ず医師による健康診断を実施すること。病的原因は医者にまかせ,病的原因でないストレス的なものは,先ず現状の認識の上に細心の注意をもって指導すべきである。
  最初からレジスタンス・エクササイズやウェイト・トレーニングは慎しむべきで,身体を動かすことにより,精神的緊張をとくことが第ーの要件である。
  このような人たちほど,疑い深く効果を否定しやすいので,指導者としては最も困難な対象である。たんなる運動の指導よりも,指導者の人格の厚みが要求されるもので,指導者に対する信頼による継続性が大切である。
  いかに忍耐強く,そして楽しく実施させるかが基本的な要件であり,なにか1つ自信を持たせることができれば,第一着手は成功である。指導者自身も忍耐を要求されるもので必ずマンツーマン方式で指導すべきである。


②高年者
  高年者の老化の程度は個人差が非常に大きいので,事前に医師の健康診断が絶対に必要である。
  壮年期や中年期と同程度の体力を望むことは無理であるが,自然に則した生き方を体操に応用することが健康を得る唯一の道である。
  また,骨の状態ももろくなってきているので,ごく軽微な動作を自然に無理なく実施すべきで,とくに,ウェイト・トレーニングやレジスタンス・エクササイズは慎しむべきである。そして,前項の場合と同様にマンツーマンで指導すべきで,一般指導者には非常にむずかしい指導対象である。


③肥満对策
  超肥満者の場合は,それが身体的故障によるものかどうか,医師による診断が必要である。
  肥満により起こる病気もあるので現状の健康状態を先ず適確に把握すること。そのうえで食事指導が重要である。基礎代謝を現在の体重および標準体重との両面より検討のうえ,低カロリー食を指示すべきこと。これもその状態により,極端ではなく漸減的になすことである。
  運動量は中程度のものを長時間行う方が効果的である。食事療法と規則的な運動の継続が必要で,まずこの認識を持たすことが大切である。1カ月最高2~4kg程度の減量を目標とすべきで,極端に大きい減量数値を望むことは危険であり,練習の継続は望み難い。
  脚腰のトレーニングと腹部のトレーニングを併行さすべきで,腹部のトレーニングのみでは充分な効果は望み難い。そして,全身運動的な中程度の強度の運動を継続するのが効果的で,極端な特殊例を望まないこと。


④女性に対して
  女性を特殊例とするのは間違いかも知れないが,身体の構造が男性と異なり,微妙な点があるのでこの項に入れた。
  肩や腰の廻りの筋肉に,つねに健康な状態や強さを与えるよう,また脚の機能を考えた運動に重点を置くとともに,次の諸点に留意するようにしたい。

 ①姿勢を矯正するための伸展運動。
 ②身体の各部を支えるのに必要な筋肉の強化。
 ③立ったり坐ったりするのに最も能率的・経済的な動きのできるような練習。

  以上がトレーニングの要点であるが,これの実施にあたっては,
 ①柔軟体操型式のもの
 ②リズミカルな身体の動かし方に重点を置いた型式のもの(バレー,舞踏形式のもの)
 ③適当な抵抗運動も必要であるが,これはあくまでも重点的な部位にとどめ,容姿を整えることに重点を置いたもの。

  以上の諸点に留意する。そして,これらを本人の目標に合うように配分して実施すれば,身体各部に適当な刺激を与え,ベランスのとれた容姿をつくりあげることができる。余分な皮下脂肪の燃焼を心掛けることも必要で,個々の目標により適当に運動の配分を考えるべきである。

D スケジュール立案の要点

 各人の目標をはっきりさせることで「漠然と実施させるのではなく,それぞれの運動の正しいやり方と,そのねらいとする効果を理解させ,自主的に意欲を持たすこと」が運動継続につながることを知るべきである。


<立案の要点>
① いままで正式な体操(運動)をしたことがない人でも,極めて簡単にでき,しかも効果的な特殊な計画も必要である。(中高年,肥満対策,虚弱者,女性对象)

② なんの抵抗もなく入っていけるもの,すなわち初歩的トレーニングで,身体のそうじ,さび落とし,運動に馴れさすためのもの。(一般的)

③ 安全のための一般的注意事項を理解させること。また,計画がこれらの注意事項を守ったものであること(一般的)
 以上の3点を基礎として,次は各種運動の配分による考慮をする。

○イ 全身の筋肉を円満に発達させるために,全身的なバランスを考えたスケジュール。(10種目程度以内の構成)

○ロ 弱体な部位(または専門スポーツを行なった場合,最も疲労を感じる部位)を強化するため,種目の構成を数種目にとどめて行うスケジュール。

○ハ 専門のスポーツに必要な個々の筋群を強化するためのスケジュール。(8種目程度)
 以上,○イは一般的,○ロ○ハは特殊な補強補助的なものであるが,一般的な場合に,さらに具備すべき要件として次の諸点に留意する必要がある。

○a 運動が一部にかたよらず全身的であること。
○b 生理的に無理のないこと。
○c 心身の発達段階に応じたものであること。
○d 運動は簡易なものから漸次困難なものへと進めていくこと。
○e 運動が継続されること。

 このうち○bの場合は,男女それぞれの生理的,心理的特徴に適しているということと,無理の少ない自然運動からはじめるという2つの意味が含まれている。
 ただし,準備運動,整備運動を本運動と分けて考える人もあるが,これは別々に考えず,準備・整備の両方を含めて〔準備運動→本運動→整備運動〕として1つのスケジュールと考えて立案実施することを強調したい。
 以上が保健体育の目標に沿うスケジュール立案上の要点である。

E 保険体育の目標

<1>なにを求めているか

 保健体育の目標については,大きく分けて,
○イ 日常生活からくる好ましからざる幣害を矯正するため。
○ロ 未発達部分の刺激促進を求めるため
○ハ 必要な部分の補強促進を求めるため
○二 身体の部分使用のバランスをとる補償の意味で。
などが考えられる。
そして,それぞれの目標によって,実施上の方法も当然異なってくるが,全体として体育の目指しているところを具体的にあげてみると次のようになろう。

○a 身体の円満な発達に必要な運動刺激を与えること。
○b 健全な生理的機能が発達維持されること。
○c 生活全体の基礎的体力として,柔軟性・巧緻性・敏捷性・筋力・平衝性・忍耐力等を養うものであること。
○d 身体的異常を矯正し,姿勢を正しく美しくすること。
○e 克己,自信等の精神的要素を養うこと。

  このように,保険体育的にトレーニングすることの意味は,日常生活の中にいろいろの動きをとり入れて,常に健康的な生活を送るためではなかろうか。そして実際に日常生活に直結させるためには次のようにすべきである。

○a 常に姿勢を良くするように心掛ける
○b 全身を均等に動かすように心掛ける
○c 緊張と弛緩を上手におりまぜる。
○d 環境,条件の利用を上手にはかる。

 これらのことは,ちょっとした心掛けでいつでも,どこでも行えるので,指導者は究極的にはこれら生活への直結を理解実行させるべきである。


<2>刺激の与え方
 身体はすべて適当な刺激が加わることによって興奮し,その機能が高められるが,刺激がないと萎縮消耗して,その機能を低下させる。また,異常な刺激に対しては,その機能を高めることなく,かえって疲労困憊におちいってしまう。
 では,適当な刺激となるための基本的要素の概念について考えてみよう。
(詳しくは各論にて述べる)

①適当な刺激とは,骨格筋肉に対しては収縮刺激であること。
②適度で漸進的であること。
  刺激の与え方が過少すぎてはほとんど効果がなく,また過大すぎると疲労するだけで,ときには障害さえ生ずることがある。そして,これらの問題を考えるとき,刺激の強度,刺激を与える時間,頻度の3つの要件について検討する必要がある。

○イ 刺激の強さ
  これは議論のたたかわされるところであるが,ある程度の範囲内の強さの刺激(この範囲については各論で詳しく述べる)であれば,強弱の度はさして問題にならないといわれているが,その求める水準によって,必要な刺激の強さは異なってくる。
  一般にその人の筋力の1/3での動的トレーニングでは,動的持久力を養うといわれているが,ただたんに,現在能力の何%というようなことではなく,その人の体質なり,社会活動の内容なりの諸条件を基に,または,初期水準と現水準とがどのような関係にあるかを考えて決めなければならない。

○ロ 刺激時間
  1回の刺激に反応して生ずる興奮は,間もなく消失してしまう。すなわち,生理的な刺激効果は永続性を持たないので,反復して継続的に加える必要がある。これが刺激時間の問題である。

○ハ 頻度について
  効率よく効果をあげるためには,刺激問題のとり方に注意しなければならない。すなわち,反復継続がいかなる間隔で行われるかによって,効果の出方がまったく違ってくる。これがリズムのとり方で,このリズムの工夫が必要である。

  筋肉生理学的に考えれば,絶対反応期の中に入るような刺激は無効であり,間隔が開きすぎれば不完全強縮となり収縮が安定しない。
  このことは,1回の練習の中での開題だけでなく,数週間,あるいは数カ月を通じての間隔等を考えなければならない。毎日練習する効果を100%としてプログラムを組めば,隔日では90%,2日おきでは70%,1週2日では40%(現状維持)2週間に1回では0となる。すなわち月に1回や2回の実施では効果はまったく望めないということになる。以上がいかなる運動においても一般的に考慮しなければならない原則である。

×××

 次号は<6>のF「休養と栄養」および<7>体力づくりの方法論(要点)について記したい。
 紙面の都合上,参考文献については総論の終わりに列記紹介します。
[ 月刊ボディビルディング 1973年10月号 ]

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