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体力づくりと健康管理(3)

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月刊ボディビルディング1968年6月号
掲載日:2017.12.07
東京大学助教授・日本体育協会スポーツ医事相談所長
黒田善雄

運動器の傷害について

 運動による運動器(筋肉,骨,関節)の傷害は,年齢により若干の差があります。
 発育期にある人の骨は未完成で弱く,骨折を起こしやすいが,骨の発育が完成する20才代になると,筋と腱の損傷が多くなります。陸上競技の選手がよく起こす肉ばなれも,筋力があるていど以上強くなる年齢でないと起こりません。
 骨の長さの発育は,骨端部にある軟骨の中に骨端核という骨化点が現われ,この骨端核がしだいに大きくなることによって行なわれるのです。骨端核が大きくなるにつれて,軟骨がしだいに消失していき,軟骨が完全になくなったときが,骨の成長の終わるときです。
 また,骨の太さは,骨膜から骨芽細胞が出て,骨膜の内面に新しい骨質をつくっていくことによって,増していきます。
 発育期にある人の骨では,骨端部や骨膜が,抵抗が弱く刺激を受けやすい部分で,運動により骨端核のある部分に付着している筋肉が強く収縮したり,また,収縮がくりかえされると,その部分がひっぱられて,骨端核や軟骨にひびがはいったり,腫れが起こります。ひざの下が腫れて痛むオスグット・シュラッテル氏病や,腸骨積部の痛み,踵骨骨端痛などがこれです。
 また,筋肉の骨付着部の骨膜が牽引され,炎症を起こすこともありますし,さらに,強い筋力がくりかえし働くと骨折を起こすこともあります。過労性下腿骨膜骨炎や過労性腓骨骨折などがそのよい例です。
 子供のばあい,転倒して手をついただけで,前腕骨の骨折を起こすことがあります。
 これらの傷害は,いずれも骨の発育という特殊な点が関係して起こるわけです。したがって,この年代における体づくりでは,この点を考慮して,ある部分に強い力が加わるような運動や,ある一部にくりかえし力が加わるような運動は,できるだけ避ける必要があります。
 発育期の段階で,ある特殊な運動種目のみを専門的に行なうことは,このような点からも,つつしまなければなりません。
 これらのことは,骨ばかりでなく,筋肉や腱,関節についてもいえます。
 骨,関節の特殊な疾患として,骨・関節結核や骨髄炎があり,打撲,捻挫などの外傷が誘因となって,これらの疾患が発病することもあります。またこれらの疾患がなおったあとでも,運動負荷については,医師と十分に相談した上でこれを決めるべきです。

壮年期以後の健康管理

 人間の体力は,30才を過ぎると低下しはじめます。身体諸器官には,いやおうなしに老化現象が起こってきます。この事実を忘れてむりをすると,かならず故障が起こるものです。
 一般に,壮年期以後の運動としては,若いときからやってきたものをつづけるのが安全ですが,若いときにラグビーをやっていたからといって,ラグビーをというわけにはいきません。ラグビーやサッカーのように,はげしく,しかも自分一人のペースですることができないチーム・ゲームは,年をとってからはむりで,一人または二人で組んで,自分の体力に合わせてできる運動種目が適しています。
 年をとってから運動をふたたび始めるばあいは,若い時代の自分の体力や技術にまどわされずに,初心者のつもりで,ひかえめに行なうことが望ましいのです。
 医学的には高血圧,動脈硬化症,心臟疾患,糖尿病腎臟病,肝臟病などのいわゆる成人病に対する健康診断を,かならず事前に受けることが必要です。
 高血圧,動脈硬化症,動脈硬化性心臓疾患(冠動脈硬化症,狭心症など),糖尿病,肥満症などは,適切な運動によって予防することもできますし,治療にも有効です。
 ただし,医師の指示を厳密に守ることがたいせつで,興味につられて度を過ごしたり,むりをしたりすると,かえって悪い結果をまねくことがありますから,注意してください。
 年をとれば,疲労が早くくるし,その回復もおそいので,運動の強さや量をひかえめにしたほうがよいのです。
 また,骨折や筋肉,腱を傷害したときもなおりにくいし,機能の回復もむずかしいことが多いので,このような傷害を起こさないよう,十分に注意しなければなりません。
月刊ボディビルディング1968年6月号

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