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ポプ・ガイダとPHAシステム
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月刊ボディビルディング1968年10月号
掲載日:2017.12.08
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 このPHAシステムは開発されたばかりで,長所もあり欠点もある。その完成はこんごに待たなければならない。しかし,ボディビルダーが健康という面に目を向けるならば,この練習方法は必要不可欠なものであることはまちがいない。次に,できるだけ皆さんがわかりやすいように,従来のパンプ・アップ・システムと対照しながら練習方法を説明し,あわせて,その根底となる原理と効用を述べていこう。

PHAシステムのやり方

 ⑴ 従来の練習法と大きく異なる点は,PHAでは血液の循環をつねに一定に保って,過剰のパンプ・アップ(血液がある筋肉に過剰に送りこまれる結果,循環が阻害されて,血液により筋肉が膨振する現象)をさせないことである。
 1例をカールにとると,従来の方法では,まずカールを1セット行ない,1分から3分くらい休んで,ふたたび第2セットのカールを行なって休むという方法をくりかえす。したがって,セットがだんだんますにつれて,上腕二頭筋はパンプ・アップしてくる。そして,カールをひととおり終わって,次の種目に移ってからも,同様のくりかえしを行ない,筋肉をパンプ・アップさせる。
 ところが,PHAでは,これとは対照的に,まず,それぞれ異なった筋肉
をきたえる種目を5~6種目選び,1グループとして第1番目の種目が終われば,第2番目,そして第3番目へと1セットずつつづけて行なう。最後の種目が終わると,第1番目の種目にかえる。こうして,このサイクルをくりかえし,各種目の第2セット目に移るわけである。そして,このグループを所要のセット数くりかえすと,まったく休まずに,第2グループへ移っていくのである。
 具体的なプログラムをあげると,次のとおりだ。
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 上記のグループの①~③には,それぞれフクラハギ,肩,腹筋の種目が組み入れられている。このように,自分のウィーク・ポイントである筋群,あるいはとくに発達させたいと思う筋群の種目を各グループに入れて,専門的に鍛練することもできる。そして,PHAでは,1カ所だけに血液を蓄積させずに,全身の血液循環を高めながら,発達させるわけである。
 ⑵ 従来の練習法では,1セット終わるごとに休むが,PHAでは,後述する〝ミルキング作用〟を十分に活用して,血液をつねに循環させておくために,休息をいっさいとらない。いったん練習を始めたら,全部終了するまでぜんぜん休まずに行なうのである。
 もっとも,初めてPHAを採用するばあいはすぐ息切れがしてしまうので
①種目の選択に注意し,軽い種目(カーフ・レイズやリスト・カールなど)を多くとり入れる。②練習のペースを落とす,③重量を軽くする,などによって調整し,心肺・循環機能が増大するにしたがって,ハード・トレーニングにもっていく。
 したがって,PHAを採用すれば,休息時間がないので,従来のセット法に比較して,同じ時間に3~4倍の練習量がこなせるわけである。筆者の経験では,30分間に40セットこなすことはきわめて楽である。逆にいうと,同一の練習量を1/3から1/4の練習時間ですませられるということになる。
 ⑶ もう一つ,従来の方法といちじるしく異なる点は,ウォーム・アップである。従来の方法であると,時間をかけて十分にウォーム・アップするとかえって筋肉がパンプ・アップしなくなるとかいって,ウォーム・アップに時間をかける人がひじょうに少ない。しかし,これはきわめて危険なことである。
 ウォーム・アップが不足すると,筋肉はひじょうに非効率的な働き方をし,ちょうど空気量不足で石炭をたくように,疲労物質が多く蓄積し,回復にも時間がかかる。また。ウォーム・アップ不足による筋肉の損傷は70%以上を占めているといわれる。
 PHA練習法は,一種の持久力訓練法でもあるので,酸素負債(練習開始時には,心肺・循環系統がまだ調和されないので,筋肉が必要とする酸素量が不足すること)を早く返すためにも,十分なウォーム・アップが必要である。ひとたび酸素負債が返されると,いわゆる〝セカンド・ウィンド〟の状態,つまり,循環系統の調和がとれた状態にはいり,一定の速さでどんどん練習ができるようになる。
 PHAでは,ウォーム・アップが不足すると,すぐ息がつづかなくなってしまうが,PHA自体一つのウォーム・アップの方法でもある。最初の3~4サイクルをきわめて軽い重量で。若干高回数で行なえば,PHAで練習筋内群がウォーム・アップされる。ただし,ウォーム・アップのサイクルに含まれない筋肉群が第2のグループにはいっていれば,やはりウォーム・アッ
プする(これだけ最初の2~3セット軽い重量で行なうなどして)必要がある。
 ⑷ 最後に,PHAにおいて重要なことは,努責をしたりして息を止めないことである。これは,努責をすると,前述の酸素負債を多くして,息ぎれを生じさせるからであり,また,努責をすると,静脈の血流が細くなり,血液のすみやかな循環をさまたげるからである。

PHAシステムの原理

 PHAシステムの原理は,有名な生理学者アーサー・スタインハウス博士により提示されたもので,大別して次の二つの原理より成り立っている。
 ⑴ 〝ミルキング作用〟(筋肉のしぼり出し作用)により,血液の循環を促進させる。人間は一つの心臓のほかに,696個の末梢の心臓をもっている。われわれの体にある筋肉が心臓すなわちポンプの役目をしているのである。
 筋肉が収縮するとき,老廃物で満たされた静脈血液はしぼり出され,栄養をいっぱい含んだ新しい血液が動脈からはいってくる。この筋肉のしぼり出し作用つまりポンプ作用は,〝ミルキング作用〟と一般的にいわれており,PHAシステムは,この作用を最大限に生かした練習方法といえる。使用される筋肉は,新しいエネルギー(酸素など)を動脈から供給され,筋肉内の化学反応で生じた老廃物を静脈を通して送り出されねばならない。
 しかし,静脈内の血液は,心臓の強いポンプの力を受けにくくなっている。また,静脈内の血液は,その重さに打ち勝って,心臓に送りこまれなければならない。そのためには,ミルキング作用の助けを借りなければならないのである。たとえば,下腿の静脈は,逆流防止弁をもっているが,下腿の静脈血液を心臓に送りもどすためには,筋肉のしぼり出し作用が必要となる。この作用が行なわれないばあいは,どういうことが起こるか,次の例で示すことができる。
 兵隊が〝気をつけ〟の姿勢で,長い間でじっと立っていると,脳貧血を起してばったり倒れることがよくある。
 それは,強度の緊張のため,ミルキング作用が欠けるので,血液の循環が阻害され,血液が下腿に蓄積されて,心臓へのもどりが不十分になるからである。心臓はポンプである。ポンプにはいる量が少なくなれば,出される量も少なくなり,必然的に脳へ行く血液量も減少し,脳貧血を起こすわけである。
 PHAシステムは,このミルキング作用を促進させ,静脈から心臓への血液のもどりは大幅に増大される。この心臓への十分な血液のもどりは,心臓の働きと血液の循環,および肺の機能を促進させ,健康の獲得に寄与するのである。従来のパンプ・アップ法であると,1セット終わると休息するため,このミルキング作用を停止させてしまい,血液の正常な循環に支障をきたす結果となる。
 ⑵ 中和物質をもっとも有効に利用する。人間の血液のPHは7.35,つまり弱アルカリ性である。人間の体はこのPHのバランスを保つことがきわめて大切であり,また,保つようなしくみになっている。これが中和物質の働きである。
 練習をすると,血液は乳酸等の生成により酸性に傾き,疲労が起こる。中和物質の作用で,これを中和してやらなければならない。この中和物質は,いろいろな種類があり,各筋肉の中に含まれている。しかし,一筋肉のもっている中和物質の量よりも,その筋肉が消費してしまう量のほうが多い。したがって,血液は多くの筋肉を通過しては,その筋肉内の中和物質をもらって酸を中和し,疲労を回復させようとする。
 PHAでは,血液の循環をよくし,この中和物質を最大限に利用することができる。したがって,PHAシステムを採用すると,疲労の回復がひじょうに早い。練習を行なっているそばから,どんどん回復していく。従来のセット・システムと同じ重量,同じくりかえし回数,同じセット数を行なったばあいの疲労感は圧倒的に異なる。PHAで練習したあと,ひじょうにすがすがしい気分になるのは,疲労が少ないためもあるであろう。また,従来のセット法では,セットを追うごとに筋肉がパンプ・アップしていくので,だんだんに重量をへらしていかなければならないが,PHAでは,過剰のパンプ・アップがないので,比較的重い重量でコンスタントに練習できるというのも特長の一つである。
アメリカ一流リフターのニップ(ミドル級)とべドナースキー(へビー級)を背にドンキー・カーフ・レイズをやるガイダ。

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PHAシステムに対する評価

 これでだいたい,PHAシステムとは何か,どのように行なうのか,おわかりいただけたと思うが,最後に,世界各国で採用された結果,このシステムがどのように評価されているかを述
べておきたい。
 ⑴ 明白な効用――健康増進に最適である。これがPHAシステムのもっとも有意義な点である。従来の練習法は,なるほど,力と筋肉の大きさをつけるには大きな効果があったが,トレーニングを通して健康の増進をはかるということは,ほとんど忘れられていた。
 ①心肺・循環機能が増進される。これは,前述したとおり,筋肉,筋力,筋持久力に加えて,全体的なスタミナが増大するということである。持久力養成を加味した練習法は,血管,心臓肺によい影響をあたえ,いわゆる長寿につづく健康をもたらすのである。日本のある生理学者は,PHAシステムは西式健康法の推賞する温冷浴と同じ効果を循環系統にあたえるといっている。
 ②回復力が早められる。最近の米国のボディビル専門誌には,しばしば〝ボディビルダーははたして健康であるか〟といった問題が論議されている。日本でも一部には〝ボディビルをやるとカゼをひきやすくなるのではないか?〟という疑問をもっている人もある。これらの疑問に対する答えは,パンプ・アップ法を採用しているかぎり,きわめて悲観的である。
 パンプ・アップ法では,もちろん筋肉は発達するが,それ以外に,血液を強引に筋肉内につめこむため,血管やリンパ管は異常に膨張し,組織は過労して傷つきやすくなり,また,循環が阻害されるので,老廃物の除去がすみやかに行なわれず,組織内にたまりやすくなる。組織が多く傷つけられ,老廃物が多くたまるほど,回復に時間と労力を要することになる。
 カール・リッチホードによれば,ハード・トレーニングのあとは,約500ccの血液を失ったと同じくらい体力が低下するという。こうしたいろいろのことから,ボディビルダーは,静脈炎その他の循環器障害にかかりやすく,ばい菌の侵入に対して抵抗力が落ちているので,感染性の病気にもかかりやすい。また,パンプ・アップ法で行なうと,十分な酸素の供給がさまたげられるので,筋肉内の酸素負債が大きくなり,筋肉のひきつけや肉ばなれの原因となる。
 これに対して,PHAでは,血液の循環がすみやかに行なわれ,酸素,エネルギー源や中和物質が十分送りこまれ,老廃物はすみやかに除去されるので,上述の欠陥が改善され,回復が早
められ,人体はより早く抵抗力のある正常な状態へ帰るのである。パンプ・アップ法では,回復に時間がかかるので,現在ではスプリット法が採用され同一筋群には,2~5日の回復期間をあたえる練習法がとられているのは,ご存知のとおりである。
 PHAで同一の練習量を消化するばあいは,毎日行なっても,オーバーワークにならない。ただし,PHAでは疲労感が少なく,かつ,一定時間内の練習量は3~4倍になるので(ガイダ
はミスター・アメリカ・コンテスト出場直前は,毎日200~300セットを消化した),逆に,オーバーワークの危険が大きい。この点は注意して,練習量を調節する必要がある。
 ⑵ 明白な効用――時間が大幅に節約される。ボディビルダーは,自分できたえあげた身体を,社会生活に生かしてこそ意義のあるものである。またもちまえの体力,スタミナを原動力として,普通人の倍くらいは,社会に貢献できるはずである。PHAで30分練習すれば,35~50セットはこなせる。PHAで短時間に練習効果をあげ,ビジネスに,趣味に,レジャーに,幅広く活躍したいものである。
 ⑶ 明白でない点――PHAはバルクをつけるか? デフィニションをつけるか?
 ミスター・ユニバース優勝者であるジョーン・シトローンは,PHAで短期間に15ポンドの体重増加を見たというし,ラルフ・クローガーは,ミスター・アメリカにそなえ。デフィニションを得るため,PHAを行なったと報告されている。また,デフィニションとスタミナは圧倒的についたが,筋肉の太さは増さなかったので,アフリカのアキレス・カルロスのように,PH
Aとセット法を交互に行なっている者もいる。
 短期間で発達したものは,練習をやめると,短期間で元にもどるといわれているが,今のところ,パンプ・アップ法に軍配があがるのではないかと思われる。しかし,デフィニションの点では,従来の方法にくらべて,PHAでは筋肉のサイズを落とすことなく,少ない疲労で達成できるといわれている。
 多くのトップ・ビルダーは,例外なく,バルクとデフィニションは,練習方法よりも,高たんぱくを中心とした栄養面の調整によって得られるのだといっている。この点は,こんごの研究に待つほかはないであろう。
トイスティング・シットアップ

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