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ランニングで〝老化〟を追放しよう

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月刊ボディビルディング1968年10月号
掲載日:2017.12.08
曽根将博

〝老化〟は脚と腰から

 男40才,女39才――なんとこれは,今年文部省が発表した男女の老化年齢だそうだ。
 迷信ではあるが,その昔,男の42は「シニ」といって厄年とされ,万病はもとより,あらゆるわざわいごとに,赤信号の歳であると伝えられた。それがこんにち,期せずして同じ年齢が,〝老化〟という形で表わされている。
 いまや70~80才にも寿命がのびているというのに,その半分くらいの年齢から,かく〝老化〟されていったら,何を楽しみに残りの人生を送るべきか? まことにナゲカワシキ現代ではある。
 県外の団地住宅から都会へ,満員の通勤電車にゆられること1時間あまり,会社に着くやゲンナリ。帰宅にもまた同量のエネルギーを浪費しなければならない。
 また,早く帰ったところで,万年床だけが待っている独身者は,紫煙くすぶるパイ一屋で飲んだり食ったり,みっともなくふくらんだタイコ腹をつき出して,「キミ,だいぶ腹が出たネ。たんまり残ったナ」腹の出たことを誇るようなこんな会話から,満足感に得々としたり,あるいは,夜ふかしマージャンなどで,不健康な毎日に,若さを失いかけている。これらが老化への第1歩である。
 休日には,家庭サービスが待っている。マイカー族は,早朝から国道○号線上,金魚のなんとかやらのカー・ラッシュに,いらいらと緊張と歎息に神経をすりへらし,あるいは,子供のおもりをしながら女房のウシロについてデパートへショッピング。階段を昇ったり降りたり,人ごみと息ぎれで,脚はガクガク。なんのための休日なりや?――と慨嘆する。
 運動不足による疲労度が増しつつ,〝老化〟を早める結果となっている。マイカー族にかぎらず,営業用タクシー,ダンプカーなどの車をあやつる人たちは,総じて,脚,腰が弱い。いわゆる人間の本体は,脚と腰から老化していくのである。

大いに走ろう

 では,どうしたら〝老化〟を防ぐことができるのか? 端的に答えるならば,まず〝走る〟ことである。
 ランニングは,あらゆるスポーツの基礎であり,いかなるスポーツも<ランニングに始まり,ランニングに終わる>とあるとおり,ランニングつまり〝走る〟ことは〝老化〟を防ぐ道なのだ。
 頭をウスくして「いまさら走るなんて」などとテレくさがらずに,胸をはって走ってみてはいかが? スピードは要求されない。歩幅をせまく,ゆっくりと,とび歩くていどの走法で,団地の周辺や遊園地の中で走ってみては? 心臓の丈夫でない人には,適当量の散歩をおすすめするが,これとても1万歩前後歩かないと効果はあがらない。
 腹のつき出た人は,まずシット・アップをーだぶついた腹を細くし,加えて“走る”ことを併用しなければ,腹の大きな人特有の病気が待ちかまえているばかりか,ますます“老化”へ
の道を早めてしまうだろう。
 だが,〝走る〟にしても,最近は,私道,公道を問わず,車の交通量のすさまじいこと……せまい路幅もなんのその,スピードを出して走る車また車……まさに交通戦争そのもの。車にはねられたら一巻の終りである。郊外地に住む筆者は,車を〝殺人車〟と呼んでいるが,その〝殺人車〟がくれば,電柱の陰に身をひそめ,気がねしながらも,30分ていどは毎日走っている。
 ボディビルは,あらゆるスポーツの基礎運動といわれるように,頭の先から足のつま先まで鍛えなければ,その本質はまっとうされない。筆者はその意味で,「ボディビルで体力づくりに汗を流している全ビルダー諸君よ! スタミナをつけるためのランニングを,ぜったいに除外してはならないと,あえて声を大にしていいたいのである。
ランニング・マシーンで走る筆者

ランニング・マシーンで走る筆者

ランニング・マシーンの効果

 危険きわまる交通地獄から考えた筆者は,あるジムに関係した当初,室内ででも走れる器械〝ランニング・マシーン〟を設置した。これには多少の反対の声もあったが,結果的には大きなプラスになったことは,いなめない事実である。
 このランニング・マシーンは,登山家として,また運動器具の研究家として有名な進藤波男先生の設計になる〝ウォーキラン〟と称するもので,自分の脚で上面のキャタピラを踏み送ることにより,〝歩く〟〝走る〟を自在の速さで試みられる器械である。路上で走るばあいより,多少力が加わるので,たとえば,陸上で100mを15秒くらいで走れる人も,この器械の回転時速により,次のような数字が得られる
(距離)(スピード)(時間)
100m 8km 55秒
100m 10km 45秒
100m 12km 35秒
 このランニング・マシーンを試みるまえに,スクワットを3セットほどやると,脚がひじょうに軽やかに動き,軽快な走法ができる。付記した表は,スタミナをつけるために,ビルダーたちが,自分の思うがままに,ランニング・マシーンを試みたときの記録である。参考までにとくとご覧ねがいたい
 ♯3と♯7の「おやじ」とは,かくいう筆者自身のことであり、ランニング・マシーンではじめて試みた6分―520mと15分―1380mのときの時速は8kmであった。いまならコンスタントに6分―700mで走れる。驚異的な長時間を試みた♯6の五十嵐氏(1時間―5650m)と♯8の朝比奈氏(1時間05分―6220m)も,時速8kmていどのいわゆる長距離走法である。♯11の野中氏の15分―2330mと♯12の涌井氏の15分―2450mは時速12kmくらい。また,18才の若さにまかせて走った♯15,♯16の稲田氏のスピードは13.5km前後である。稲田氏は現在大学の卓球部に籍をおき,部員トレーニングでは毎日30分は走らされているとのことである。
●五十嵐文雄氏の場合
 27才,身長160cm。在校中登山をスポーツとしていたが,卒業したら1年間で6kgも太って68kg,腹囲81cmとなり,歩いていてもフラフラするので,ボディビルを志し,減量につとめた。練習時間約1時間半のバーベル運動のあと,かならずランニング・マシーンを使って心臓の調整をはかり,5分から10分間ゆっくりと流し,終わってサウナ・ボックスに15分間浸って汗をしぼったのだが,その効果はテキメン。現在,体重は6kg減って62kg,腹囲は5cmも減って76cmで,すこぶる好調だそうだ。さらに,真夏に試みた♯23の1時間05分―8340mは,陸上ならば2万mを走破した勘定で,まさに不滅の記録である。

●倉持哲也氏の場合
 21才,大学4年在学。身畏172cm,体重82kg,腹囲93cmの巨体の持ち主である。スポーツは卓球を主とし,毎日2~3kmは走っていた。ボディビルを始めた動機は,もちろん,減量のためで,ランニング・マシーンの大の利用者である。長そでシャツを2枚着こみ,その上から,ズキンつきのナイロン製アノラックを頭からすっぽりかぶり,練習のたびに30分はかならず走る。さらに,ビューティ・サイクルやシット・アップを休息なしにタップリ1時間。とにかくたいへんな運動量である。それで3カ月目の現在,練習を終えたときの計量で,体重76kg(6kg減),腹囲88cm(5cm減)と減量に成功したのだから,その努力には敬服のほかはない。社会人となる春にそなえて,氏はいまなお走りつづけている。

かさねて言わん

 以上の2人の例を見ても,〝走る〟ことがいかに大切であるかわかろうというもの。走れる人は,ヒザの屈伸がバネのように強く,立居振舞いはすこぶる敏しょうで,生活の中にあっても動作は活発である。
「オイ,オレの部屋から○○を持ってきてくれ」と,女房子供をアゴで使うよりは,自分で物事を処理したほうがことは早いし,1度で用が足せる。殿様気取りの日常の生活態度から〝老化〟が始まるのだ。
 かさねて言わん。
 人間は,脚と腰から〝老化〟する。
 走ることによって〝老化〟は防げると。
(筆者はボディビル協会理事)
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月刊ボディビルディング1968年10月号

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