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腹筋をきたえよう
中・上級者のための集中的トレーニング法

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月刊ボディビルディング1968年10月号
掲載日:2017.12.10
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太りたい人のために

 ボディビルを始めた動機――というと,貧弱な体をせめて人なみにしたい,体重をもう少しふやしたい,というのがいちばん多いようです。やせている人に多く見受けられるのは,運動
不足からくる胃腸の弱さ,あるいは胃下垂症ですが,胃腸が弱くて,食べたものがよく消化・吸収されないのでは,どんなに栄養価の高いものをとっても太れるわけがありません。
 腕や胸の筋肉を少しばかり発達させたところで,体重はそれほどふえるものではありませんから,まず初めには,筋肉を発達させることをめざすよりは,胃腸を丈夫にして内面から太るようにもっていかないと,体重の増加はあまり期待できません。

 それには,小手先の運動だけでなく体を大きく使う全体的な運動が必要ですが,そのなかでももっとも効果的な運動は,なんといっても,腹筋運動でしょう。これは,胃腸に刺激をあたえて,食欲を増進させ,消化・吸収の機能を高めます。

 1日何時間も車を運転する人が多くなったせいか,胃下垂症患者がふえてきました。この胃下垂は,先史時代四つ足で歩いていた人類の祖先が,後足2本で立ち上がって生活するようになったときから,人間につきまとう宿命的な病気といえます。胃腸は,心臓や肺臓が肪骨の中に固定されているのとちがって,腹腔の中に宙ブラリのひじょうに不安定な状態におかれています。腹直筋は機能的には脚を引き上げる筋肉ですが,腸胃を正しい位置に保持する役目もあたえられているのです。腹筋の力が弱くては,胃を正しい位置に安定させておくことができず,胃はどうしても下がってしまいます。

やせたい人のために

 最近は,生活水準が向上し,食料も豊富になり,体をあまり使わなくなったせいか,中年者ばかりでなく,小・中学生から青年にいたる肥満者も多く,社会的な問題にまでなっています。
 以前は,おなかにゼイ肉がついているのを,重役腹などといって自慢したものですが,バンドの穴一つ胴まわりがふえれば,それだけよけいに心臓に負担がかかって,数年寿命がちじまるということになると,出っばった腹をさすって悦に入っているわけにはいきません。

 消費カロリーを上まわるカロリーを摂取していると,その余分のカロリーが皮下に脂肪の形で蓄積されます。いわば栄養分の貯金のようなもので,これが肥満という状態をつくり出すのです。しかもそれは,肪骨がじゃましているので胸部にはつきにくく,腹部に多く集まるという傾向があります。いわゆる減食療法にたよらずに,この皮下脂肪を落とすには,摂取カロリーよりも消費カロリーが多くなるように運動して,不足カロリー分だけ皮下脂肪を燃焼させることです。つごうのよいことには,部分的に運動したばあい,他の部分に先んじてその部分の皮下脂肪が燃焼しますから,腹筋をよけいにトレーニングしても,胸や腕のバルクが落ちる心配はありません。
 カロリーをたくさん消費して皮下脂肪をへらそうというのですから,カロリーの消耗の多いハイ・レピティション(高回数制)で運動を行なうとよいでしょう。急な傾斜を使って6~8回運動するよりも,ゆるやかな傾斜でよいから,20~40回運動したほうが,早くゼイ肉が落ちます。

腹部の集中的トレーニング・スケジュールの1例

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以上を体力に応じて,セット数を増減し,隔日に練習する。

ビルダーのために

 みごとな腹筋をもつビルダーが日本に少ないのはなぜでしょうか。答えはいたって簡単――練習量が足りないからです。いや,足りないどころか,まったく少なすぎるのです。腹筋運動が楽な運動でないことはよくわかりますが,これをきらう人の多いのには,正直いって,あきれかえらざるをえません。
 最近,ボディビルに関心をもつ女性が急激にふえ,われわれ関係者は大いに鼻を高くしているのですが,その女性ですら,プロポーションをよくするため,また健康を増進させるため,歯をくいしばって腹筋運動にとりくんでいるのです。ボディビルを志し,その道をきわめようとするあなたが,あわよくばミスター日本の栄冠をねらおうという君が,これらのけなげな女性たちの後塵を拝していてよいものでしようか!

 胸・肩・広背・腕などのような,技術的にむずかしいため,狙いとする部分に確実な効果が出にくい部位とちがって,腹筋は,練習種目が技術的にひじょうにやさしく,練習すればするほど,努力に比例して効果のあらわれやすい場所なのです。このように練習の
やりがいのあるところは,ほかにあまりありません。
 毎日5時間も6時間も連続して,腹筋のトレーニングをするばあいは,話は別ですが,常識範囲内での練習ならば,腹筋にかぎって,オーバーワークの心配は無用です。他の部位の筋肉でしたら,練習した翌日には休養をあたえることが必要ですが,腹筋のばあいは,ほとんど毎日練習しても,害はありませんし,かえって,ますます磨きこまれて鋭さをまします。
 他の筋肉と同様,腹肉にもデフィニションとバルクが必要です。腹筋のバルクといっても,力士のタイコ腹のようなものとはちがいます。言葉ではちょっと表現できません。写真のへラクレス像をとくとご覧になるのが一番でしょう。この迫力,この力感なのです。へラクレス像が圧倒的な力強さを感じさせるのは!
 こう書いてくると,皆さんにたいへんな努力を要求しているように受けとられるかもしれませんが,私は年中腹筋運動に専心集中せよといっているのではありません。胸や腕を発達させるためには努力を惜しまないあなたなのですから,その努力の何分の1かを腹筋の練習にふり向けてくだされば,それでよいのです。

 腹筋運動は苦しい,などと弱音をはいていたのでは,ビルダーとしての大成はとうてい望めません。困苦に耐えぬき,自己との戦いに勝ちぬいてこそ,ビルダーとして,いや,人間として成長していけるのです。ここに,たんに筋肉をつくるばかりでなく,人間をつくる手段としてのボディビルの意義があるのだと私は思います。
へラクレス像

へラクレス像

注意すること3つ

 次に,腹筋のトレーニングで注意すべきことを3つあげておきます。

 ①運動中は腹部以外の部分の力をできるだけ抜くこと。
 顔から首すじ,肩,腕に力を入れすぎていて,かんじんの腹筋に力がはいっていない人が大部分ですし,ひどい人になると,顔をまっかにしながら起き上がっていますが,これではいけません。必要のないところに力を入れたのでは,疲労するばかりで効果はあがりません。

 ②他の筋肉と同様に,腹筋も多角的にきたえること。
 腹部の運動として,シット・アップだけしかやらない人が多いのですが,これでは下腹部に対してあまり大きな効果はありません。腹筋下部にとくに効果的なのはレッグ・レイズです。また腹筋も,まげるだけでなく,180度以上のばしてきたえる必要がありますので,ストレッチ・シット・アップも忘れずに。
 へラクレスの腹部の力強さは,大きく発達した外斜腹筋に負うところが多いと思いますが,日本のビルダーにとくに不足しているのが,この外斜腹筋の発達です。なかには,これをゼイ肉と感ちがいして,いくら練習してもこの肉は落ちない,などと嘆いている人がいますが,とんでもない! むしろ誇るべきものなのです。

 ③きつい練習方法は採用しないこと
 腹筋台を必要以上に急な傾斜にしたり,頭の後ろに重いプレートを持ちすぎるために,反動を使って起き上がったり,ひじょうに苦しそうに運動したりする人が多いのですが,こんなキツイ方法で練習するから,腹筋運動を敬遠したくなるのです。もう少し傾斜をゆるやかにするとか,保持するプレートの重量を軽くするとかして,もう少し楽な練習方法を採用してみてください。効果だって,そのわりにはあまり変わりません。

 腹筋は体の中心にあって,いちばん目立つところですし,腹筋運動は,ポディビルの数ある練習種目のなかでもいちばん健康に効果のあるものなのですから,この運動を欠かすことは許されません。同じやるなら,楽しく練習しましょう。楽しみながらやることはスポーツの本来の姿なのですから,これを練習にも生かして,もっとも効果のある方法で行なってください。
月刊ボディビルディング1968年10月号

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