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トレーニング・スケジュール ~ その作り方と考え方 ③ ~

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月刊ボディビルディング1969年3月号
掲載日:2018.01.09
吉 田 実(第1ボディビル・センター)
 1年半以上も規則正しくトレーニングをすると、誰でも練習開始前とは較べものにならないほど体力がついて、技術的にも、初心者のころのようにむやみにバーベルを上げ下げするだけでなく、それぞれの運動の要領がわかって、理にかなった運動方法が身についてくるものです。

また、途中で挫折する人が多いなかで、1年半以上もその練習が単調なボディビルを続けてきた人は、精神面でもかなり忍耐強くなっているはずです。中級者とは、いうならば「心、技、体」がともに充実し始めた人のことです。
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中級者のトレーニング

 ボディビルをやり始めのころは、自分でもびっくりするほどよく発達するものですが、開始後1年半も経ちますとその発達のスピードは以前よりも緩漫になってきます。この時期になったら、今迄のような一般的な練習方法ばかりでなく、もっと刺激が強く効果の大きい専門的なシステムを、ボチボチ採り入れてもよいでしょう。

 昨年連載いたしました集中的トレーニング法を試みるのもよろしいでしょうし、これから月を追って解説していきたいと考えておりますスプリット・システム、スーパー・セッツ、オールタニット・セット・システム、フォースト・レピティション等を採用してもよいでしょう。

 体力と意欲がともに充実してくれば必然的に練習量が増えてくるものです。水準以上のレベルに達した人達のそれ以後の優劣の差をつける最大の要因は、トレーニングの質と量です。

 ボディビルに限らずこんにちのあらゆるスポーツの練習は、昔のようにただ経験に頼って、がむしゃらに行なうものではありません。科学的な根拠に裏付けされたハード・トレーニングです。

 他の人の3倍も練習しても、その方法が誤っているならば、いたずらに体力を消耗するだけで思ったほど効果はあがらないものです。また、その逆にどんなに秀れたトレーニング方法を用いてもその練習量があまりに少なすぎるのでは、他に抜きん出るなどという大それたことは、とても望めるものではありません。

 このページが対象としている「専門的にボディビルに取り組む人達」が一応の体になるかならないかの一番の勝負どころというのは、実はこの中級時代なのです。

 今までのように、コーチから指示されたスケジュールをただそのまま無我夢中でこなしているだけではなく、自分でもトレーニングの方法と効果について、あるいは、ボディビルの本質とそれに対する自分の姿勢などを考えてみることが必要です。

 何事によらず、どうしてその結果が出るのか? 他によりよき方法はないものだろうか? と疑問を感ずるところから進歩は生まれるものなのです。
“科学の進歩は疑問するところから始まる”。

 そうしてみると、この中級時は、指示されたものをそのまま行なうトレーニングから脱皮して、“考えるトレーニング”に移行しなければいけない時期と言えるのでしょう。

合理的な練習増加法

 では、どのようにしたら同じ体力内で無理なく練習量を増やして、そのトレーニングの効率がよくなるかということから考えてみましょう。

 スクワットをはじめとして下半身の運動種目は、カールやフレンチ・プレスなど小手先の運動と違って、全体的な運動量が大きいためにそのスタミナの消耗が激しいものです。初心者のようにスクワットを軽いもので2~3セット行なえばよいのでしたら大して問題はありませんが、一応の経験を積んでボディビルに意欲を燃やしている人の下半身の練習量は相当多くなっているはずです。

 トレーニングの始めのうちに、スタミナの消耗が激しい下半身の運動をしたのでは、その20~30分のちに疲れがドッと出てくるものです。これではそれ以後の練習に差し障りがありますので、下半身の運動はなるべくスケジュールの終りのほうに組み入れるとよいでしょう。

 また、腹部の運動は一般には腹筋を発達させて盛り上がらそうとするのではなく、ゼイ肉を落して腹筋の切れ、ディフィニションを出すのが目的です。もちろん、腹直筋から外斜腹筋などが、よく発達していなければ腹部の迫力は出てくるものではありませんが、それはある程度のレベルに達してこそはじめて要求されるものです。

 つまり中級者の腹筋運動は、筋肉を発達させようとする「プラス方向」の練習ではなく、現在ついているゼイ肉を落そうとする「マイナス方向」のものです。マイナス方向の練習ならば、体が少しくらい疲労しているときに行なっても、その効果はそうでないときに較べてさほど劣らないのではないでしょうか。

 以前、筋肉優先法のところで述べましたが、筋肉を発達させようとするのには、各部筋肉にエネルギーが満ちあふれているときが効果的です。疲労している筋肉に刺激を与えるのはあまり効率がよい方法とは申せません。

 この、エネルギーが満ちあふれていてどの筋肉を発達させるのにも効果的なときに、いつ行なってもさほど効果の変わらない、マイナス方向の腹筋運動をしてスタミナを消耗するのは、実にもったいない話ではないでしょうか。

 しかし、これは必ず下半身と腹部の運動をあと回しにしなければいけないと言うのではありません。

 逆に、スクワットやシット・アップを最初に行なうと、体が温まって発汗を促し、調子がよくなったりするものです。また誰にでもその傾向はあるものですが、疲労したあとではその練習がつらい下半身や腹筋運動はやる気にならず、ついサボってしまうことがあるので、これらいやなものを先にすませ、肩の重荷をおろしてから次に進もうとする人も多いものです。

 このあたりは多分に各人の好みの問題もありますので、あなたの考え方と異なっているときには、それが吉田流の練習方法かと、軽く読み流していただいてよいところです。

中級者のトレーニング・スケジュールの1例

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 以上を体力に応じてセット数を増減し隔日に行なう。練習量が多くて無理だと思う方は※印の種目を省略する。ただし、途中の順番を⑥⑨⑩⑪⑦⑫と変えて下さい。

トレーニングの効率

 特別に腕の発達を狙ったスケジュールならば話は別ですが、一般には肩、胸、広背などの練習のあとに腕を鍛えるとよいでしょう。腕、肩、広背などのトレーニングはすべて腕を用いて行ないますので、さきに腕を疲労させてしまったのでは、それ以後の練習が思うように出来ずに、全体的なトレーニングの効率は落ちてくるものです。

 それから、腕の種目とセット数を多くした場合にはそれほどでもありませんが、そのセット数が少ないときには腕の種目だけをポツンと単独で行なわずに、同じ筋肉を使う運動種目の直後にもってくると効果的です。

 例をとって説明するならば、フレンチ・プレスなどを単独で1種目だけ運動するよりも、同じ上腕三頭筋を使うプレス系統の種目。あるいはバー・ディップスなどのあとに組み合わせれば、そのセット数以上の複合的な効果が期待できようというものです。

 また同じ筋肉を鍛えるのにも、特に力を必要とする種目と、さほどでないものとがありますが、そのときには当然力が必要とされる種目をさきに行なうべきです。たとえば、胸の種目としてべンチ・プレスとべント・アーム・ラタラルの2種目を行なうのでしたら、ベンチ・プレスを先にするということです。

 一概には申せませんが、スクワットベンチ・プレス、デッド・リフト、スタンディング・プレスなどバルクをつける種目が前者に属し、ハック・リフト、プルオーバー、スタンディング・ラタラル、ベント・アーム・ラタラルなどディフィニションを出したり、形を整える種目が後者に含まれることが多いものです。

 練習の効率をあげるためには、胸、肩、脚などの種目をただ雑然とチャンポンに並べただけではいけません。

 初心時は同じ筋肉を続けて使うと、その筋肉の疲労が激しいので、異なった筋肉を使う運動を交互に組み合わせることもありますが、1年半以上もトレーニングを経験した人ならば、フラッシング法を採用すべきです。

 つまり、ある部分の運動をするときには、そこを鍛える種目を全部集めて行ない、次にまた、他の部分の種目をまとめてトレーニングするという方法です。

 このフラッシング法で行なうと、鍛えているその部分に血液が多く集まって、筋肉はよく発達するといわれております。
月刊ボディビルディング1969年3月号

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