電話帳破りの名人 ~ チャック サイプス ~
月刊ボディビルディング1969年4月号
掲載日:2018.02.09
チャック・サイプス
ミスター・アメリカとミスター・ユニバースの両タイトルを手中に収めたチャック・サイプスは、体力の秀れたビルダー達の中でも、図抜けた怪力の持ち主で、コンテストやショーのステージで数々の力わざを実演して、観衆を驚嘆させている。中でも好んで行なうのは、分厚い電話帳破りである。
ウェイト・トレーニングを始めてから、2、3カ月たって、そろそろ腕力に自信を持ちかけたころ、仲間の1人のビルが自慢する、力持ちの叔父に会うことになった。
衣服を透しても筋肉の盛り上がりのわかるような抜群の体格をした人物を想像していたのに、会ってみると、その叔父なる人は、彼よりいくらか背の高い、ごく普通のからだをしていたので、彼は少なからず失望した。ただ目についたのは、異常に太く大きな手であった。
初対面の挨拶がすむと、好奇心を抑えることができず、さっそく質問した。
「ビルから、あなたは大変力が強いとうかがいましたが」
叔父さんはちょっと驚いた様子で、「そんなことはないよ」とためらわず答えた。
するとビルが「叔父さん、スーツケースのトリックを見せてやりなさい」と促した。
彼は少しとまどったようだったが、姿を消してからまもなく、ごくありふれた柄の太いレザー製のスーツケースをさげて再び現われた。
「おいチャック、それをあげてみろ」とビルがいった。チャックはちょっと肩をすくめて近寄り、持ち上げようとした。だがわずかに床をはなれただけで取り落し、皆の失笑をかった。
こんなカバンを持ち上げる人なら、並々ならぬ力のある人に相違ない。チャックは型破りの力わざを見物することになった。ビルの叔父は太い柄の下に親指を入れて、軽々と持ち上げ、そのまま1分ばかり保持した。それから両手の各指1本1本で同じような動作をして、指力の驚くべき力わざをやってのけた。
全部終了してから、叔父は過去20年間、同じ金物会社のセールスマンを勤めてきたと告げた。
「私は、この重いサンプル・ケースをふだん持ち歩いている。その結果、私の手はだんだん強くなり、かつて困難と思われたことが何でもなくなった。今では、この程度のものを持ち運ぶのに、どうして他の人たちが難儀するのか理解に苦しむくらいだ」
*
「叔父さんは電話帳でも真2つに裂けるのだよ」とビルがいった。
「オレのところの電話帳はごめんだよ」とビルの父が言下に断った。だが彼らがあまりに懇願するので、ついに折れて承諾した。ビルが電話帳を持ってくると、叔父は非常に慎重に両手をその上においてから、アッというまに電話帳を2つに裂いた。そして「これをやるには、なかなか力がいるんだよ」といって、その半分を記念にチャックにくれた。
チャックはそれ以上じっとしていられず、大急ぎで家にかけもどった。家族の者が寝しずまるのをまって、電話帳を持ってきて、3カ月ばかりのウェイト・トレーニングで得た腕力を頼んで、やっきになって裂こうと何度も試みた。だが結局ダメだった。悪戦苦闘した電話帳は、目もあてられないほどずたずたにひきちぎられていた。翌朝これを見た父は、唖然として叫んだ。
「誰がいったいこんなマネをしたんだ?」
チャックは正直に自分がやったのだと答えた。父は別に怒るでもなく「まるでオノでたたき切ったようだ」と笑った。父は幸いにも裂く要領を心得ていたので、息子に教えた。チャックはその要領を覚えて、1度成功すると、矢もタテもたまらず電話帳が裂きたくなった。
彼は近所の電話帳をかたっぱしから裂いて回ったので、友人達は家に近づく彼の姿を見ただけで、恐れをなすようになった。
ウェイト・トレーニングを始めてから、2、3カ月たって、そろそろ腕力に自信を持ちかけたころ、仲間の1人のビルが自慢する、力持ちの叔父に会うことになった。
衣服を透しても筋肉の盛り上がりのわかるような抜群の体格をした人物を想像していたのに、会ってみると、その叔父なる人は、彼よりいくらか背の高い、ごく普通のからだをしていたので、彼は少なからず失望した。ただ目についたのは、異常に太く大きな手であった。
初対面の挨拶がすむと、好奇心を抑えることができず、さっそく質問した。
「ビルから、あなたは大変力が強いとうかがいましたが」
叔父さんはちょっと驚いた様子で、「そんなことはないよ」とためらわず答えた。
するとビルが「叔父さん、スーツケースのトリックを見せてやりなさい」と促した。
彼は少しとまどったようだったが、姿を消してからまもなく、ごくありふれた柄の太いレザー製のスーツケースをさげて再び現われた。
「おいチャック、それをあげてみろ」とビルがいった。チャックはちょっと肩をすくめて近寄り、持ち上げようとした。だがわずかに床をはなれただけで取り落し、皆の失笑をかった。
こんなカバンを持ち上げる人なら、並々ならぬ力のある人に相違ない。チャックは型破りの力わざを見物することになった。ビルの叔父は太い柄の下に親指を入れて、軽々と持ち上げ、そのまま1分ばかり保持した。それから両手の各指1本1本で同じような動作をして、指力の驚くべき力わざをやってのけた。
全部終了してから、叔父は過去20年間、同じ金物会社のセールスマンを勤めてきたと告げた。
「私は、この重いサンプル・ケースをふだん持ち歩いている。その結果、私の手はだんだん強くなり、かつて困難と思われたことが何でもなくなった。今では、この程度のものを持ち運ぶのに、どうして他の人たちが難儀するのか理解に苦しむくらいだ」
*
「叔父さんは電話帳でも真2つに裂けるのだよ」とビルがいった。
「オレのところの電話帳はごめんだよ」とビルの父が言下に断った。だが彼らがあまりに懇願するので、ついに折れて承諾した。ビルが電話帳を持ってくると、叔父は非常に慎重に両手をその上においてから、アッというまに電話帳を2つに裂いた。そして「これをやるには、なかなか力がいるんだよ」といって、その半分を記念にチャックにくれた。
チャックはそれ以上じっとしていられず、大急ぎで家にかけもどった。家族の者が寝しずまるのをまって、電話帳を持ってきて、3カ月ばかりのウェイト・トレーニングで得た腕力を頼んで、やっきになって裂こうと何度も試みた。だが結局ダメだった。悪戦苦闘した電話帳は、目もあてられないほどずたずたにひきちぎられていた。翌朝これを見た父は、唖然として叫んだ。
「誰がいったいこんなマネをしたんだ?」
チャックは正直に自分がやったのだと答えた。父は別に怒るでもなく「まるでオノでたたき切ったようだ」と笑った。父は幸いにも裂く要領を心得ていたので、息子に教えた。チャックはその要領を覚えて、1度成功すると、矢もタテもたまらず電話帳が裂きたくなった。
彼は近所の電話帳をかたっぱしから裂いて回ったので、友人達は家に近づく彼の姿を見ただけで、恐れをなすようになった。
この電話帳裂きは、ステージ上でもステージ外でも一番喜ばれる力わざで、1度その要領を覚えれば、普通の体力を持つ者ならば、だれにでもできるトリックである。
これは余談になるが、これまで数えきれぬほど多数製作されたターザン映画の中の1つの主役に選ばれたあるスターが、ターザンの表看板である超人的な力わざを演技しなければならぬことになった。彼はせっぱつまって、ストーブで電話帳をあぶり、いいかげんもろくなったところでひき裂いたと告白している。
これは余談になるが、これまで数えきれぬほど多数製作されたターザン映画の中の1つの主役に選ばれたあるスターが、ターザンの表看板である超人的な力わざを演技しなければならぬことになった。彼はせっぱつまって、ストーブで電話帳をあぶり、いいかげんもろくなったところでひき裂いたと告白している。
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