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オリンピック・プレスとそのトレーニング法

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月刊ボディビルディング1969年4月号
掲載日:2018.02.18
福田弘
オリンピック・プレスの順序G・クリープランド(アメリカ)

オリンピック・プレスの順序G・クリープランド(アメリカ)

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バーベル運動の経験のない人達が集まって力くらべをする時に、必ずといってよい程行なわれるのがジャークとプレスの合いの子のようなプレスである。今月はそのプレス(オリンピック・プレス)のトレーニング法を紹介しましょう。

ルールと反則

その前に、オリンピック・プレスのルールを簡単に掲げておきます。
運動動作としては、バーベルをオーバー・グリップ(フックしてもよい)で握り、一気に胸、鎖骨辺りに引き上げ、脚を伸ばしバーベルを胸、鎖骨辺りにのせてレフリーの合図を待つ。レフリーの合図(拍手)と同時に、停止したり、下がったりすることなく、スムーズにバーベルを頭上に上げ、腕を完全に伸ばし、そのままの姿勢で静止する。レフリーの合図(ダウン)によりバーベルを静かにおろす。

反則としては、レフリーの合図(拍手)なしにプレスの動作を開始した時レフリーの合図の後に足を動かした時プレスを行なう際脚で反動を使った時ひざを少しでも曲げた時、胴体をひねった時、著しく後方に反った時、腕を交互に伸ばした時、両腕が伸びきっていない時、プレスの途中でバーベルが停止したり、下がった時、足が動いたり、踵や爪先が上がった時、レフリーの合図(ダウン)なしにバーベルを下ろした時等、一見単純に思えるプレスにこのように厳しい多くの反則ルールがあります。

しかし現実に行なわれているオリンピック・プレスにおいて、上記のルールを犯していないリフターを探すのは非常に困難なことである。特にプレスの際、脚で反動を使ったり、ひざを曲げたり、後方に上体を反らせることは「反則ではなくなった反則」のようになっている。

このような点に関する国際的レフリーの見解は「主観の相違」「レフリーの目は機械ではない」ということになっている。しかしルールからみれば明らかに反則であることが多い。やはり、この際ルールを現実に行なわれているオリンピック・プレスに合わせるよう改革するか、ルール通りに行なわなければ反則にするか、はっきりさせるべきであり、試合のたびにルールが変わっているのではないかと、リフターに不安を与えるのは好ましくないことである。

さて、プレスのトレーニング法を紹介するわけですが、ここで述べるのは現実に行なわれているオリンピック・プレスを強化するためのトレーニング法です。

オリンピック・プレスを強化するには、筋力、スピード、柔軟性、巧緻性等が要求され(もちろん精神的な要素も必要であるが、ここでは身体的トレーニングを述べるのであって、精神的要素は述べないことにします)、それらを合理的に強化向上させなければならない。多くの日本のリフターはオリンピック・プレスのみか、またはオリンピック・プレスにミリタリー・プレスを補助的に行なう程度が多い。もちろんその程度でも記録は向上するが、より優秀なリフターになりたいと願う者にとっては、まことにさびしいトレーニング法である。

トレーニング法の参考

そこで、プレスのトレーニングとして、次のように分けて考えてみるのも良いと思われる。
① 筋力――ミリタリー・プレス、インクライン・ベンチ・プレス、シーテッド・プレス、アイソメトリック・トレーニング等。
② スピード――筋力トレーニング種目を軽い重量で(ベスト記録の1/3程度)できる限り早く反復する。重い重量ではジャーク・プレスをすばやくスムーズに行なう。
③ 柔軟性――腰の硬いリフターは特に後方に反れるよう、柔軟体操を行なうべきであり、プレスの際意識し反るようにすると良いと思われる。
④ 巧緻性――これはオリンピック・プレスを行なう際、特に意識的に行なわなくても身に付くもので、意欲的でかつ冷静にトレーニングを行なう者に付くのではないかと考えられる。
⑤ オリンピック・プレスの集中トレーニング――これをやらなければより良い記録向上は望めない。このオリンピック・プレスも軽い重量でできる限り早く反復してみたり、つき出しの反復練習を行なったりするのも良い。

さて、上記のようにプレスのトレーニングを分けて考えているだけではなんにもならない。やはりそれをまとめたトレーニング・スケジュールを組み実践しなければならない。しかし個々の体質、好みにより、適当にアレンジする必要があるが、それを一つ一つ取り上げるには紙面が足りないので、次に示すスケジュールは参考として考えて下さい。なお、これはオリンピック・プレスのためのトレーニングだけであり、3種目強化のものではないことを頭に入れておいて下さい。
① オリンピック・プレス 30×5×1 50×5×1 60×3×1 70×3×1 80×3×1 85×3×1 90×2×1 95×1×1
② ジャーク・プレス 60×5×1 70×3×1 85×3×1 90×2×2
③ インクライン・ベンチ・プレス 30×10×1(早く反復する)50×5×1 60×5×1 70×5×1
80×3×1
④ フレンチ・プレス 40×8×3
⑤ 腰の柔軟体操
(注)オリンピック・プレスのベスト記録が100kgと仮定したものです。60(kg)×5(回)×1(セット)です。

また次のようなスケジュールも参考になるかと思います。
① 腰の柔軟体操
② オリンピック・プレス 30×5×1 50×5×1 60×3×1 70×3×1 80×3×1 90×2×3 80×3×2
③ ミリタリー・プレス(ナロー・グリップ)60×5×3
④ ミリタリー・プレス(ワイド・グリップ)70×5×3
⑤ インクライン・ベンチ・プレス(早く反復する)35×15×3

上記のトレーニング・スケジュール以外にいくらでも変えることができますので、前述のように個々に合うようアレンジして下さい。

技術的な話になりますが、現在行なわれているオリンピック・プレスは大きく分けて2つの型があり、プレスする瞬間に上体をあおるようにゆすって上げる型と全身のバネを瞬時に出しバーベルをはね上げる型に分かれるようです。日本の選手で例をとれば、前の型は大内、三宅兄弟、後者の型は一ノ関、八田の各選手があげられると思います。しかしその中間的な上げ方をするリフターもいますので、2つの型と中間型があるといえるでしょう。技術的にみた場合はどの上げ方が有利かというと、その辺は非常にむずかしく、骨格、体質等によって違うのではないかと思われる。技術のむずかしさは瞬時にはね上げる型の方が大きい。
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重量感あふれるへビー級シェマンスキー(アメリカ)のプレス

重量感あふれるへビー級シェマンスキー(アメリカ)のプレス

ビルダーとオリンピック・プレス

ボディビルダーがジムでオリンピック・プレスを行なっているのをときおり見かけることがありますが、危険に思う点が2、3あります。最も気になるのは、狭いジムの中で行なっていることです。これは本人自身、また回りにいるビルダー達は怪我をしないようよく気をつけて行なってもらいたいと思います。

次に思うことは、危険というわけではありませんが、ボディビルのトレーニングとして行なうスタンディング・プレスの時にオリンピック・プレスまがいの動作で行なっているビルダーを時々みかけますが、これはボディビルダーのトレーニングとしては決して有効なものではありません。確かにより重いバーベルを軽く上げることはできます。しかしそれは全身の反動と筋力を用いたから上がるのであって、部分的に鍛えることの多いボディビル・トレーニングにとってはあまり効果的ではありませんし、手首、腰を痛めやすいものです。特に初心者はこのような上げ方は行なうべきではありません。

それと、日頃行なわないような重いバーベルをいきなり上げることは腰を痛める可能性が多分にあるので、これも絶対禁物です。いずれにせよ、狭いジムの中で重量挙3種目を行なうのは危険です。行なう時は周囲に気を配りむりな重量は使わないで下さい。
月刊ボディビルディング1969年4月号

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