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トレーニング・スケジュール
その作り方と考え方④

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月刊ボディビルディング1969年4月号
掲載日:2018.02.23
吉田実
(第一ボディビル・センター)

個性と矯正

 人それぞれ性格や顔だちが異なる如く、からだつきにも個性があるものです。

 厚みはあるが横幅に欠けるからだ、その逆に、横幅はあるが薄いからだ、バルクはつきやすいがディフィニションが出にくいからだなど、さまざまです。

 1年半もトレー二ングを続けてきた人のからだには、その個性がなお一層はっきりと現われてきて、自分自身でも長所・短所を識別できるようになります。ミスター日本などのコンテストを狙おうとするビルダーのみならず、誰しも、欠点がなく美しいからだを夢見ない人はありませんが、生まれながらにして理想的な体形を授かっている人は、殆んどいないといっても過言ではないでしょう。

 ボディビルはすべての人が体力を増強させ、肉体的にも精神的にも健康な生活を営なんでもらおうとする、国民体育としての性格を持つと同時に、美的感覚からする造形的肉体改良法としての性格をも併せ持っているものですから、外形的にアンバランスなからだを矯正して、均整のとれたからだに作り変えることができます。

 また、肉体の外形上の欠陥、あるいは貧弱さからくるコンプレックスを消し去ることもできるので、その悩みを持つ練習者は、体形の欠点を矯正する運動種目を中心にしてスケジュールを作成し、出来るかぎり欠点の少ないバランスのとれたからだを作るように心掛けるとよろしいでしょう。

練習は楽しく長期的に

 だが、専門的にボディビルに取り組んで、将来ビルダーとしての大成を望む人ならば、この練習経験1年半ぐらいの時には、弱点を補って平均的なからだを作ろうとすることに、あまり多くの精力をついやしてはいけません。

 なぜならば、人間の性質として、先天的な素質に恵まれたところを伸ばすのは案外と簡単なものであるが、その逆に、不得意なものを伸ばそうと努力しても、思ったほどその成果があがるものではないからです。

 生まれつきの音痴で、音階を正しく判別する能力がない人が、立派な音楽家になろうとして人一倍勉強したところで、成功することはきわめて難かしいでしょう。同じ努力をするのならば、成功する可能性のあるものに、その精力を注ぎ込むのが合理的というものです。

 しかし職業の選択などとは違って、ビルダーは自分のからだの弱点を、不得意なところだからといってそのまま捨て去ることが出来ないので、話は少しややこしくなってまいります。

 弱点を克服しなければ立派なからだになれる道理はありませんから、遅かれ早かれ、いずれはそこに手をまわさなければならないのですが、今はその時期ではないのです。

 ボディビル開始後1年半くらいのときは、自分でも面白いほど筋肉が発達してきたそのスピードが急速に鈍って、1つの壁に突き当たる時期なのです。

 こんなときには、誰しも弱気になるもので、ここが自分の限界ではなかろうか? 私には素質がないのかしら? などと将来を悲観したり、ひどい場合には、自己嫌悪に陥いる人もあるものです。

 このようなスランプ状態のときには、いくら練習しても微々たる変化しか示さないので不得意な箇所のトレーニングに、体力と情熱を傾けるのは得策とはいえません。


 中級者の部類に首を突っこんだとはいうものの、経験1年半ぐらいの人達では、ボディビルに取り組む心構えも、まだ、テコでも動かないほどの不動のものには固まっていないでしょう。

 夢よもう一度と、急速な進歩を望む甘い気持がまだ抜け切ってはいないものです。こんな気持でいるときに、いくら努力しても効果が少なかったのでは、よほど土性骨がしっかりした人でなければ脱落していくでしょう。

 長期間トレーニングを続けていれば誰でも必ず一応のからだになるものです。よしんば、外形的にはさほど発達しなかったとしても、そのトレーニングの過程において体得したものは、何物にも換えがたい貴重な栄養として、必ずやその人の社会生活にプラスになることでしょう。

 近代オリンピックの創始者クーベルタンの言葉は「オリンピックは勝つことよりも参加することに意義がある」で終るのではなく、こう続くのです。「ものごとは征服することが大事なのではない。征服しようと努力するその過程に意義がある」

 そうしてみるとこの時期は、楽しみながら練習できてしかもその発達の度合いが大きい、自分の長所たるところを中心にトレーニングして、それを伸ばせるだけ伸ばすと良いといえます。

 たとえば、胸、広背、肩は発達しやすいのだが、脚と腕の発達は思わしくないという人は、得意なところを何の心配もせずに思い切って発達させましょう。

 そしているうちには今迄不得意だったところも、他につられて伸びてくることもありますし、そうでないときでも、その部分を発達させる効果的な練習方法が判ってくるものです。

 いずれにしても、理想を追うあまりに、現実のおのれの姿に失望して途中で自分自身に見切りをつけないように、夢のある楽しいスケジュールで、長期間トレーニングを継続できるように配慮することが、最も必要なことといえましょう。
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積極的に弱点に取り組め

 しかし、いくら楽しく練習できるからといっても、専門ビルダーとしてより大きな進歩を望むならば、いつまでも弱点をそのままに放置しておくことは許されません。

 弱点を克服して全体的に一応まとまった体を作らなければ、一人前のビルダーとは呼べないものです。

 2~3年以上の経験をもつビルダーであるならば、どんなに多くの練習をしても、肉体というものは初心時のように飛躍的には発達しないものであるということを、イヤというほど思い知らされているでしょう。

 しかしそれと同時に、ボディビルは外面的には、肉体を鍛え、発達させていくものではあるが、その練習の過程において得られるものは、人から教えられた知識などではなく、自分から道を切り開いて創造していった者のみが得られる、とてつもなく大きな「何か」がある、ということにも気がついているはずです。

 ボディビルがこんなに深遠なものであるならば、青春の一時期をそのトレーニングに没頭しても後で何ら悔いるところがない、いやむしろ、こんなに素晴らしいボディビルを知った自分は幸福であったと、改めてボディビルに惚れ直した人達は「ボディビル道53次」も、お江戸日本橋を出発して早や藤沢の宿場あたりに差し掛かったといってもよいでしょう。

 この精神レベルにまで達したビルダーならば、安穏よりも、むしろ進んで苦難を求めるべきです。いや、そこまで要求するのはまだ早いとしても、体形的な弱点を他と同じレベルにまで引き上げて、全体的にバランスのとれたからだを作るトレーニング・スケジュールを組んで、自分の不得意なものに敢然と挑戦する強い心構えが必要です。

 いつまでも逃げ腰でいたのでは、一流ビルダーに成りたいというあなたの夢はかなえられません。


 いや、それどころか、ボディビルに情熱を傾け、その花が咲いた青春時代が過ぎさったあとに当然要求されるものは、トレーニングで培ったからだと心を如何にして社会生活に生かすかということが、スポーツの最大の命題であると私は信じております。

 自分の不得意なものにいつも背を向けて、それを積極的に克服しようとする努力が出来ないふがいない男では、どうして社会的行動力のあるビルダーに成り得ましょうか。

個性を生かせ

 だが、先天的にまったく欠点のない体形の持主ならばいざ知らず、一般にはどんなに努力しても、持って生まれた体形を変えて、欠点のない理想的なからだに作り変えることは、至難のことで、あるいは、完全にそれを行なうことは不可能であるかもしれません。

 世の数多いビルダーの中には、どこといって欠点がないが、どこもかしこも平均点で、個性のない規格的なからだの所有者がいるものです。だが、そういうからだはなぜか魅力に乏しいもので、有名ビルダーの中にはあまり見当りません。

 ラリー・スコット、スティーブ・リーブス、レジ・パーク、ビル・パールなどファンが多いビルダーは、みな他の人にない強烈な個性を持ったからだをしています。

 もちろん、これらのトップ・ビルダー達は自分の体形あるいは体質の短所たるところを良く克服してはおりますが、それでもスティープ・リーブスは横幅に比較して厚みが足りないし、ラリー・スコットは三角筋は良く発達しているが肩幅が狭く、ビル・パールはバルクは大きいがディフィニションに欠けるなど、最高峰のビルダーにしても理想的とはいい切れないところがあるようです。だが、いずれも自分の持ち味は良く生かしております。

 弱点を補ってまとまったからだを作ることは、ビルダーとして一人前になるためには非常に大切なことではありますが、個性を殺してはいけません。

 他の人にはない、自分だけが持っている個性を生かしたからだを作ってこそ、はじめて魅力的な生きた芸術品となることができるのです。
月刊ボディビルディング1969年4月号

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