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ツー・ハンズ・スナッチ

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月刊ボディビルディング1969年5月号
掲載日:2018.02.17
東京オリンピック重量挙フェザー級4位 福 田 弘
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 重量あげ3種目中、最も単純そうで難かしいのがスナッチでしょう。スナッチを行なうには、パワーと柔軟性が重要な要素ですが、スナッチの試技の成否を左右している原因の多くは、体調と気力の一致(バランス)にあるようです。

 ベテランリフターでもかなり軽い重量で失敗するのをしばしば見かけますが、こんな時のほとんどは体調と気力のバランスが乱れたためであり、特に気力の欠如(重量を軽視したり、やる気がない)によるものです。このような点から考えられるのは体調と気力のバランスがとれなければ極限の重量はあげられないということでしょう。

 スナッチの難かしさは力学的なバランスと、実はこの体調(肉体的要素)と気力(精神的要素)のバランスにあると考えられます。つまり力学的(フォーム)な研究と心身のバランス(精神による身体の高度なコントロール)なくして極限のスナッチはできないということです。

 それにしても多くのリフターは、スナッチのバランス(スナッチを行なうために必要な総てのバランス)に頭を痛め続けているのが事実です。

 3種目中どれが日本人リフターの得意種目かというと、スナッチです。わが日本の重量あげ界からは、三宅兄(バンタム、フェザー両級)を始め三木(バンタム)、一ノ関(バンタム)、大内(ミドル、L・ヘビー両級)桂川(フェザー、非公認)と多くの世界記録ホルダーを輩出している。

 そしてそれらのリフター達が成した世界記録更新回数は、延べ数10回に及び現在もバンタム、フェザー、ミドルの3階級の世界記録を保持している。

 このように日本人リフターがスナッチが得意なのは何故かというと、当然の事ながらスナッチを行なう際に要求される要素であるパワー、柔軟性、バランス(力学的、物理的、精神的なもの)等が優れているからに他ならないからであり、パワーは鬼も角(ウェイト制であるから)柔軟性は確かに優れており、柔軟性に恵まれているためにバランスもとりやすいからでしょう。

スナッチの動作

 バーベルを両手で握り、両脚を前後に開くか、曲げるか、何れかの明瞭な単一動作で一気に頭上へ両腕が完全に伸びきるまでひきあげる。ひきあげたらバーベルを両腕、両脚を伸ばし、両足を同一線上にそろえるか、又は適当な間隔に開いた姿勢に戻して支持し、そのまま動かずにレフリーの「ダウン」の合図を待つ。

反 則

 バーベルをひきあげる途中で一時停止したり、ハング・クリーン(途中でぶらさげてクリーンすること)をした時。バーベルをひきあげる際握っている両手の位置を動かした時。両腕が充分伸びきっていなかったり、プレスした時。両足を最終姿勢に戻す間に一たん伸びた両腕をゆるめた時。足裏以外の体の部分が床に触れた時。ひきあげる際バーベルを体のどの部分かに触れた時。レフリーの「ダウン」の合図の前におろした時。

 スナッチの反則として多いのはプレス・アウト(ひきあげたバーベルを頭上に押しあげる動作)であるが、国際競技会では厳しく反則をとり、筆者の経験では、僅かに片腕がゆるんだようだと思った試技で赤ランプ(2つ、又は3つついた時は失敗)が1つの判定を受けた程である。

 逆に国内競技会ではかなり甘く、同じく筆者の経験で、明らかに両腕が頭上で曲がり、おまけにバーベルが頭に触れ完全にプレス・アウトをしたにもかかわらず、白2、赤1で成功とみなされた。しかしこれは行き過ぎであり陪審から失敗として判定をくつがえされた。

 この両方の例は極端ですが、多少腕がゆるんでもよいと思うし、明らかにプレス・アウトした時は確実に反則をとるべきである。

 次いで多い反則は、ひきあげる際、体のどの部分にも触れてはならい、に対する反則である。このルールを犯しているリフターはかなりいますが、実際には全んど反則をとられていない。

 これに関しては反則の判定が難かしい点もあり、また触れることによりかならずしもバーベルをあげるのが容易になるとも限っていないので曖昧になってしまうのではないかと考えられる。

 しかし、この反則で失笑したのは、ある国際競技会で、ある外国リフターがスナッチを行なった時、ひきあげるバーベルが頭上にあがる瞬間“毛”に触れた、ということで反則をとられたことである。いかに体に触れてはならないといえども、毛に触れて反則とは少々厳し過ぎる判定であったと思う。
(アメリカのベドナースキー選手のスナッチ)

(アメリカのベドナースキー選手のスナッチ)

トレーニング法

 前回のプレス同様、スナッチのトレーニングも各人各様で、このようなトレーニングが最上とはいいきれませんのでやはり参考としてみてください。

① 肩部、股間部等の柔軟体操
② ハイ・スナッチ  Xkg×3回×6~8セット
③ ツー・ハンズ・スナッチ  Xkg×3回×6~8セット
④ ハイ・プール  Xkg×3~5回×5セット
⑤ アップ・ライト・ロー  Xkg×5回×3~5セット
⑥ ジャンプ  10回×3セット

 スナッチ強化としては上記のようなトレーニング法で充分でしょう。その他には大内選手が愛用しているショウルダー・シュラッグ、東欧の選手達が好んで行なうグッド・モーニング・エクササイズもスナッチ強化に好ましい補助運動です。

 申し遅れましたが、スナッチには、スクワット・スタイルとスプリット・スタイルの2つの挙上法があります。かつてはスプリット・スタイルが多く行なわれていましたが、最近はかなり少なくなり、特に日本のリフターでは稀にしかみられなくなってきました。

 この2つのスタイルのどちらが有利かと問われることがありますが、運動距離の短かい点でスクワット・スタイル、安定性ではスプリット・スタイルが優れていますが、いずれにしてもスクワットの方が有利であることは確かです。現在の世界記録は総てスクワット・スタイルによるのであることでも証明されています。しかし骨格、柔軟性による場合は一概にはどちらがよいといいきれない点もあるようです。

 技術的な面で注意しなければならないことは先ず充分に引きあげること、この場合は肘をできるだけ高くあげることにより技術的に解決できる。次にひききった後素早く体をバーベルの下に入れること。遅い人はハング(ぶらさげること)して一瞬にひきあげ素早くバーベルの下に体を入れる練習をすること。

 重量はベスト記録の70%前後がよいでしょう。それと両足の開きに注意すること。広すぎても、狭すぎても、又両足のつま先が外に向きすぎたり、平行になりすぎるのも安定性に欠ける。それらは各自の経験で最も安定がとれる位置にもってくるよう注意するとよい。靴のかかとは股関節、足首の柔軟なリフターは低目で、逆に硬いリフターは高目が安定をとりやすい。

 前述のようにスナッチは非常にバランスをとるのが難かしく、多くのリフターの頭を痛めているのですが、このバランスの技術的な面を積極的に改善したリフターがおり、ダック・ウォーク(うさぎ歩き)といえばピンとくるリフターもいることでしょうが、外国ではベリヤエフ(ソ連ライト・へビー級)日本では若松茂選手(現役当時バンタム級スナッチで105kgをマーク)がこのダック・ウォークを上手に行なうリフターである。

 特にベリヤエフはミドル級で世界記録を破っており、現在はライト・へビー級の世界記録を保持している。ダック・ウォークはどのようなものかというと、通常のようにスナッチを行なうが、バーベルが頭上にきて体を沈めスクワットした時に、バーベルの重心が前にかかったと思った瞬間、右又は左足を一歩前に出し次いで片方の足を前に出しスクワットしたままバランスをとり立ちあがる。

 ベリヤエフは時には2~3歩前進することがあり、ダック・ウォークにかけては彼の右に出るリフターはいないでしょう。ベリヤエフはこの技術により成功率、安定度が高まっているが、まだまだこの技術を取り入れるような思い切ったリフターは少ない。しかし安定性に自信の無いリフターはベリヤエフのダック・ウォークを採用してみる位の積極性は必要と思われます。

スナッチの記録

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 尚バンタム級は1965年に中共の叶浩波が115kgの世界新記録を樹立している。しかし中共は世界連盟(IF)に加盟していないという理由で世界連盟から公認されていない。
月刊ボディビルディング1969年5月号

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