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胸を厚くしよう
中・上級者のための集中的トレーニング法

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月刊ボディビルディング1968年11月号
掲載日:2018.02.24
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トレーニング・スケジュール

 コンテストをねらおうとする人たちのあいだでは,さすがにあまり見かけませんが,中級者のなかには,いまもって胸のトレーニングをべンチ・プレスだけに頼っている人が多いのには,まったくおどろかされてしまいます。
 ひどい人になると,べンチ・プレスを1日に20~30セットやる,などと自慢していますが,お世辞にもこれはほめられた練習方法とはいえません。
 上半身,とくに胸のバルクを獲得するには,ベンチ・プレスはもっとも効果的な運動種目であることはまちがいありませんが,1時代まえならともかく,こんにちのレベルでは,ベンチ・プレスだけに頼っていたのでは十分とはいえません。
 とくに胸の筋肉に限ったことではなく,どの筋肉にもいえることですが,バルク,デフィニション,形のよさなど,さまざまな条件をみたしてはじめて,美しく迫力のある筋肉ということになるのです。ただバルクがあるというだけではいけません。
 特別にバルクあるいはデフィニションだけをねらったスケジュールというのなら,話は別ですが,一般には,バルクをつける種目,形をととのえる種目,デフィニションを出す種目などのどれもが,スケジュールのなかに必要となります。
 しかし,そうかといって,胸,広背肩などのすべての筋肉の鍛練に,この条件をみたそうとすると,当然のことながらケタはずれのセット数になり,スーパーマンならいざ知らず,普通人の体力では,とうていこなしきれるものではありません。
 そこで,どの部分を重視するか,バルクとデフィニションのどちらをとるかなど,目的をきめ,その目的を達成するのに最適と思われる練習方法を選択して実行しなければなりません。つまり,トレーニング・スケジュールの決定です。
 もちろん,初級者のばあいはバルクをつけることが第一ですし,レベルが高くなればなるほど,形をととのえることに重点をおくようになりますからそれぞれの目的に応じて,強く打ち出すもの,犠牲にするものが生じてきます。
 トレーニング・スケジュールにはかならず狙いがありますから,それを生かすようにして練習しなければなりません。その狙いが生かせなかったとしたら,それは技術が劣っているか,あるいは練習にとりくむときの心がまえがまちがっているからです。

10代のビルダーのために

 現在の日本では,ボディビルに対する認識がまだまだ低いために,運動能力のすぐれた中・高校生は,たいてい他のスポーツ競技の選手になっていますが,あと何年かたつと,素質のある中・高校生がボディビルに本格的にとりくむようになると思われます。
 10代は成長期なので,正しい方法で練習すれば,他の年代と比較にならないほど身体の発達の度合いが大きい時期です。
 しかし,その反面,むりをしたり,あやまった練習をしたばあいは,まだ体力も十分でなく,体がきまっていないため,あとになってとりかえしのつかないほど,体をこわしてしまうこともあります。
 10代のトレーニングは,効果が大きい反面,その練習方法がひじょうにむずかしいのです。毒にも薬にもならないものならあまり問題はありませんが,ペニシリンなどの強力な治療効果をもつ薬は,その用い方をあやまると命とりにもなります。
 ウェイト・トレーニングは,ペニシリンのように強力な薬ですから,〝良薬口に苦く〟,また,その用法に慎重を期さなければなりません。よいトレーナーの指導も受けずに,やたらに練習することは禁物です。

胸郭を大きくしよう

 胸のトレーニングを行なうばあい,若いビルダーにとって大切な点は,大胸筋の形をよくしようとか,デフィニションを出そうとか,そういったことに気をとられずに,胸郭を中心にして全体的に大きさをつくることです。
 成長期にとくに発達が目立つのは骨格です。育ちざかりを過ぎてから,骨格を大きくしょうとしても,それは容易なことではありません。いまでなくてはできないこと,あとになってからでは不可能なことは,他に優先して行なうべきです。
 大胸筋をきたえることだけに力をそそいで,胸郭を大きくする努力をおこたっていたのでは,胸を厚く大きくするという目的は達せられません。大胸筋がどんなに発達していても,胸郭の大きさ,分厚さが足りないと,胸は貧弱に見えます。
 胸郭を大きくするには,スクワットなどの運動量が大きく,肺臓のガス交換(本誌9月号の〝不死身のネズミ〟を参照してください)が多く要求される種目を行なった直後に,胸郭を大きくするのに有効なプルオーバー系統の種目,とくにストレート・アーム・プルオーバーを,軽いバーベルを使って深呼吸のつもりで行なうと,効果的です。
 このスクワットは,脚をきたえるためではなく,胸郭の発達を目的としているものですから,ガス交換がより多く必要とされるように,12~15回の回数を行なうとよいでしょう。
 そのときに,しゃがみながら深く息を吸いこみ,さらにもう1度息を吸ってから立ち上がるという呼吸法は,いっぱんにはあまり使われていませんが,効果の大きいおもしろい方法です。下半身のバルク獲得を目的とするもの以外に,胸郭を発達させるためのスクワットを,スケジュールの中に組み入れるのも,おもしろいと思います。
 胸を中心とした運動では,胸郭がひろがったときに息を吸いこむのが基本です。ところが,ベンチ・プレスその他の運動で,1回1回呼吸せずに,息をつめたまま,何回も連続して押し上げている人を,初級者よりもむしろ中級者のなかに多く見かけるのですが,これはいけません。いまさら努責の弊害を述べるまでもありますまい。こんなちょっとした不注意が,胸郭を大きくすることにブレーキをかけているのです。

小さくまとまるな

 若いとき,またはボディビルをやりはじめたころは,盆栽のように,小さくまとまった体をつくろうなどと考えてはいけません。大地にしっかと足を踏まえ,大地の養分を吸いとって,大木になろうと心がけなければなりません。
 小さくまとまってしまった体は,あとで大きくしょうとしても,なかなか大きくできるものではありません。ビルダーとして大成を望むなら,完成に少々時間がかかるかもしれませんが,まず胸郭を中心にして,全体的に大きさと厚みをつくることです。
 人間の体には,だれでも個性があります。横に広い人やせまい人,厚みのある体やうすい体,さまざまありますが,はじめのうちは,弱点の矯正をねらうよりも,長所を思いきって伸ばすとよいでしょう。
 個性まる出しの体から,弱点を克服し,いちおうまとまった体をつくる時期がきて,次に,そのまとまった体の中から,その人の個性が大きく押し出されてくるようになると,もう一流ビルダーといえます。

大胸筋は疲れている

 先月号で,すばらしい腹筋をもつビルダーが日本に少ないのは,腹筋の練習量が少なすぎるためであると述べましたが,胸のトレーニングについては日本のビルダーはけっして練習量不足とはいえません
 一生けんめいに練習しているのに,胸が発達しないとしたら,それは先に説明したように,練習方法があやまっているか,あるいは,胸の練習がオーバーワークになっているからでしょう
 だれもが,胸を重視するあまり,大胸筋の練習に,他の部位の筋肉に対するよりも多くの時間と労力をついやしていますが,それがかえってアダとなって,発達の障害となっていることもあります。年中,胸の練習を数多くやっていると,結果的には,集中練習を1年中つづけているのと変わりありません。
 広背筋の集中的トレーニング法のところで,「刺激が強く,練習量が多いほど,筋肉の疲労は大きくなりますから,集中的トレーニングは長期間つづけるべきではありません」と述べたことを思い出してください。
 
 それからもう一つ,考えてみなければならないことがあります。それは――いつも強い刺激を受けていたら,筋肉がそれに慣れてしまって,強い刺激としては感じなくなり,次から次へと,それ以上の強烈な刺激をあたえないと,発達しにくくなるのではないか
――それではとどまるところがなく,キリがないのではなかろうか――ということです。
 チーティング・スタイル,スーパー・セッツ,フォースト・レピティション,ピーク・コントラクション等々,名称や方法はちがっていても,そのどれもが,より強い刺激を求めて生まれたものです。
 映画や歴史でよく知られている水戸黄門は,「1合で酔った酒も,つづけて飲んでいると,2合飲まなければ酔わなくなり,また,その次には,3合飲まなければ酔わなくなる。これをつづけていたのではキリがないので,3合飲んで酔わなくなったら,しばらく酒をやめると,また1合の酒でも酔うようになる。酒とはこのように飲むものだ」といい,それを実践したそうですが,ボディビルのトレーニングにもこれと同じことがいえるのではないでしょうか。
 酒飲みが酒を一時中断するのと同じで,大好きな胸のトレーニングを休むのは,つらいこととは思いますが,たまに1カ月間くらいは,胸に休養をあたえるべきです。
 〝休養も練習のうち〟――次に飛躍するためには,休養はぜったいに必要です。休養の方法を知らない者はまた練習の方法も知らない,といえるのです。

胸の集中的トレーニング・スケジュールの1例
以上を体力に応じてセット数を増減し,隔日に練習する。

以上を体力に応じてセット数を増減し,隔日に練習する。

月刊ボディビルディング1968年11月号

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