現代人の肉体美観
月刊ボディビルディング1971年5月号
掲載日:2018.05.22
早稲田大学体育局講師 加藤清忠
男性美と女性美
われわれは生まれながらにして性の区別を有している。そして、その性差は14~15歳の頃から著しくなり、青年期に完成するという成長曲線を描く。体の大きさ、形態、声、臭い、行動等のいわゆる第二性徴の男女の差が著しくなるのである。
男性は大きく、筋骨たくましく発達して、あくまで力強く、女性は乳房が大きくなり、臀部や大腿部に脂肪がたまって、丸味をおびて豊満になる。
男女の性差は、進化した文明人ほど著しいようであるが、近頃では男性でも長髪で女性のような服装をしたり、また、女性がショート・カットでジーパンをはいて歩いていたりして、外見だけでは男女の区別がつかなくなっている。しかし、いくら外見を装ってみたところで、生まれながらに得た自分の肉体的条件を否定することはできない。それぞれの性としての肉体を完成することが、幸福への道であり、そこに肉体の美しさを求める意味もあるといえよう。
そこで今回は、大学生男女の意識調査をもとに、身体的立場からの男性美と女性美という問題を考えてみたいと思う。
男性は大きく、筋骨たくましく発達して、あくまで力強く、女性は乳房が大きくなり、臀部や大腿部に脂肪がたまって、丸味をおびて豊満になる。
男女の性差は、進化した文明人ほど著しいようであるが、近頃では男性でも長髪で女性のような服装をしたり、また、女性がショート・カットでジーパンをはいて歩いていたりして、外見だけでは男女の区別がつかなくなっている。しかし、いくら外見を装ってみたところで、生まれながらに得た自分の肉体的条件を否定することはできない。それぞれの性としての肉体を完成することが、幸福への道であり、そこに肉体の美しさを求める意味もあるといえよう。
そこで今回は、大学生男女の意識調査をもとに、身体的立場からの男性美と女性美という問題を考えてみたいと思う。
肉体美に対する意識
これは大学で体育の実技を履修した男女学生それぞれ約50名について調査したのであるが、男性では45%、女性では70%の者が肉体の美しさに関心があると答えている。したがって男性よりも女性のほうが、肉体美についての関心が深いといえるだろう。そして、約90%が美しい肉体の持ち主でありたいと答えている。
以前、国立競技場トレーニング・センターの女子会員について調査したことがあるが、そこでも体力の向上よりも、むしろ女性的な美しい身体づくりに関心が示されていた。
しかし、現状ではどうかといえば、男女とも、現在の自分の肉体の美しさに自信がないと答えた者が多い。さらに、美しさからはまったくかけ離れていると答えた者が、男性では10人に1人、女性では5人に1人の割合となっている。女性にとっては問題は深刻である。
◇肉体への関心度
男性 女性
非常にある 10% 8%
かなりある 39% 63%
あまりない 50% 29%
全然ない 1% 0%
◇肉体美の持ち主でありたいと思うか
男性 女性
非常に思う 21% 38%
少々思う 46% 50%
普 通 27% 8%
あまり思わない 6% 4%
全然思わない 0% 0%
◇現在の自分を美しいと思うか
男性 女性
非常に思う 0% 0%
少々思う 4% 4%
普 通 37% 31%
あまり思わない 48% 44%
全然思わない 11% 21%
このように、普通の学生はかなり肉体美に関心があり、美しくなりたいと思っているが、その反面、自分の肉体にはまったく自信がないのである。
以前、国立競技場トレーニング・センターの女子会員について調査したことがあるが、そこでも体力の向上よりも、むしろ女性的な美しい身体づくりに関心が示されていた。
しかし、現状ではどうかといえば、男女とも、現在の自分の肉体の美しさに自信がないと答えた者が多い。さらに、美しさからはまったくかけ離れていると答えた者が、男性では10人に1人、女性では5人に1人の割合となっている。女性にとっては問題は深刻である。
◇肉体への関心度
男性 女性
非常にある 10% 8%
かなりある 39% 63%
あまりない 50% 29%
全然ない 1% 0%
◇肉体美の持ち主でありたいと思うか
男性 女性
非常に思う 21% 38%
少々思う 46% 50%
普 通 27% 8%
あまり思わない 6% 4%
全然思わない 0% 0%
◇現在の自分を美しいと思うか
男性 女性
非常に思う 0% 0%
少々思う 4% 4%
普 通 37% 31%
あまり思わない 48% 44%
全然思わない 11% 21%
このように、普通の学生はかなり肉体美に関心があり、美しくなりたいと思っているが、その反面、自分の肉体にはまったく自信がないのである。
アンケートによる美しい体格
どんな体格の持ち主が肉体美であるかという問題は、一概には結論づけられないであろう。それは、社会人、一般学生、スポーツマン等それぞれ自分の置かれた立場をもとにして、美しい肉体を考えるからである。
しかし、あえて美しい日本人の青年男女の体格をあげてもらったのが次の表である。第1表は調査対象者自身の体格であり、第2表と第3表は美しいと考える男女の体格であるが、この表を見て感ずることは、みんなが考えている美しい体格と、調査対象者の体格がそんなに大きくかけ離れていないのである。自分が美しいと思っている体格が、実は平均を少し上まわっているにすぎないのである。
しかし、あえて美しい日本人の青年男女の体格をあげてもらったのが次の表である。第1表は調査対象者自身の体格であり、第2表と第3表は美しいと考える男女の体格であるが、この表を見て感ずることは、みんなが考えている美しい体格と、調査対象者の体格がそんなに大きくかけ離れていないのである。自分が美しいと思っている体格が、実は平均を少し上まわっているにすぎないのである。
第1表 調査対象者の現在の体格
第2表 美しいと思う男性の体格
第3表 美しいと思う女性の体格
ただ、もう少し細かくみれば、運動部員は一般学生とはやや異なる数字をあげていることがわかる。たとえば、バスケットボールとバレーボール部の女子は、背の高い男性を美しいと答えているし、ウェイトリフティングとバーベル・クラブの部員は、比較的体重のあるローレル指数の大きい者を美しいとしている。これはやはり、そのスポーツを通じての肉体の理解ということから、いわゆるスポーツマン・タイプの影響からくるものであろうと考えられる
つぎに、第4表と第5表は、自分の身体を美しくするためには、とくにどの部分を強調しなければならないか、という問に対してのものであるが、男性が腕・肩・胸を重視しているのに対して、女性は腕・肩・背以外の各部分を平均して重視しているのである。これは男性美の中心が上半身であり、下肢では大腿を重視しているが、女性美では胸から腹・臀、さらに下肢でも下腿までも重視しており、ほとんど全身にわたっているといえるようである。
つぎに、第4表と第5表は、自分の身体を美しくするためには、とくにどの部分を強調しなければならないか、という問に対してのものであるが、男性が腕・肩・胸を重視しているのに対して、女性は腕・肩・背以外の各部分を平均して重視しているのである。これは男性美の中心が上半身であり、下肢では大腿を重視しているが、女性美では胸から腹・臀、さらに下肢でも下腿までも重視しており、ほとんど全身にわたっているといえるようである。
第4表 美しくしたいと思う部分
第5表 美しくしたいと思う部分
競技者としての肉体美
スポーツマンはスポーツを通じて肉体を鍛えているのであるが、強くて優秀な競技者は、その競技における機能的な美しさ(性能美、極度美)だけでなく、肉体そのものが美しく発達しているのが普通である。肉体の発達をともなわないで、すばらしい機能力を発揮することは不可能である。
肉体美はまた、その競技の性質によっても異なってくる。走る競技は走るための肉体づくりであり、跳ぶ競技は跳ぶのに適した肉体、投げる競技は投げるに適した肉体とならなければならない。最近では、オール・ラウンドな身体づくりの重要性もさけばれるようになり、いろいろなトレーニング法も研究されているので、均整のとれた美しい肉体美のスポーツマンも多く見られるようである。
しかし、競技はあくまでも競争であり、競技者は勝つために全力を発揮して努力する。したがって、競技者の肉体美は、ただ静的な状態におけるよりも、競技の場で全力を発揮する姿にあるといえよう。機能的な、効率のよい身体づくりのために、ある程度かたよった肉体の競技者でも、自分の競技を行なうと、それが自然で、見ていても美しく感ずるものである。
またこの調査で、美しいと思う競技者をあげてもらったが、男性の競技者では、大きくて、力強く、しかも機敏であること。女性では、しなやかで、かろやかな競技を競う者が選ばれている。(第6表、第7表参照)
肉体美はまた、その競技の性質によっても異なってくる。走る競技は走るための肉体づくりであり、跳ぶ競技は跳ぶのに適した肉体、投げる競技は投げるに適した肉体とならなければならない。最近では、オール・ラウンドな身体づくりの重要性もさけばれるようになり、いろいろなトレーニング法も研究されているので、均整のとれた美しい肉体美のスポーツマンも多く見られるようである。
しかし、競技はあくまでも競争であり、競技者は勝つために全力を発揮して努力する。したがって、競技者の肉体美は、ただ静的な状態におけるよりも、競技の場で全力を発揮する姿にあるといえよう。機能的な、効率のよい身体づくりのために、ある程度かたよった肉体の競技者でも、自分の競技を行なうと、それが自然で、見ていても美しく感ずるものである。
またこの調査で、美しいと思う競技者をあげてもらったが、男性の競技者では、大きくて、力強く、しかも機敏であること。女性では、しなやかで、かろやかな競技を競う者が選ばれている。(第6表、第7表参照)
第6表 美しいと思う男性の競技種目
第7表 美しいと思う女性の競技種目
女子学生が選んだバスケットボールの競技者は、非常に背が高い者が多くしかも競技では敏捷性が要求され、また、競技中ほとんど身体的接触がなく激しさの中にもスマートさがあるスポーツである。同じように激しいスポーツでも、サッカーとなると、あのダイナミックな動きの中に極度美のような要素があるようだ。
女性の競技者の中では、男子学生、女子学生とも、圧倒的に体操競技とフィギュアスケートを肉体美の上位にあげている。どちらも激しさの中に、女性らしい美の追求と、舞踊的要素が要求されるものであり、競技者の肉体そのものよりも、むしろ、そうした競技の性質が重要視されているようである
体操競技の選手についていえば、男女とも背が低く、日本人の平均的身長よりも低いとさえ思われるような者が多いにもかかわらず、それがいったん競技を始めると、まったく力強く、あるいはリズミカルなしなやかな美しさを発揮し、体の小さいことなど忘れさせてしまう。
男性は、胸や肩や腕の力強い筋肉美を、女性は腰から脚にかけてのしなやかな脚線美を見せる。ユニフォームの工夫も、体操競技者の肉体美の発揮に一役かっているのである。
女性の競技者の中では、男子学生、女子学生とも、圧倒的に体操競技とフィギュアスケートを肉体美の上位にあげている。どちらも激しさの中に、女性らしい美の追求と、舞踊的要素が要求されるものであり、競技者の肉体そのものよりも、むしろ、そうした競技の性質が重要視されているようである
体操競技の選手についていえば、男女とも背が低く、日本人の平均的身長よりも低いとさえ思われるような者が多いにもかかわらず、それがいったん競技を始めると、まったく力強く、あるいはリズミカルなしなやかな美しさを発揮し、体の小さいことなど忘れさせてしまう。
男性は、胸や肩や腕の力強い筋肉美を、女性は腰から脚にかけてのしなやかな脚線美を見せる。ユニフォームの工夫も、体操競技者の肉体美の発揮に一役かっているのである。
ボディビルダーの肉体美
ボディビルダーの誇る肉体美が、一般にはどう受取られているのであろうか。
前述のように、女性は一般的に背の高い、スラリとした男性を好むようでスポーツマンでは、バスケットボールの競技者ということになる。そして、筋肉隆々とした肉体には案外冷淡で、無理解であるようだ。これに反して、男性は常に強者にあこがれ、弱い自分に劣等感を抱いている者が多いようだ。それがため、ボディビルダーの筋肉美にも、驚きと羨望の目を向けているのである。したがって、ボディビルダーは女性より、むしろ男性にアッピールするのではないかと思う。
そして、疑問点をあげた者は、極度の筋肉の発達によって、自然美と矛盾するのではないかと述べている。適度な発達はよいが、あまり過度になると人為的で、かえって不自然を感ずるという。また、機能美という点において欠けるのではないかと指摘している。
一方、ボディビルダーの肉体美を賞賛する者は、筋肉のすばらしい発達が古代ギリシャの彫刻でも見るようであり、力強くて逞しさを感ずると述べている。
ボディビルディングは、本来肉体をつくることであるから、自然美というより、むしろ人工美の創造であるといえるだろう。自分の持っている肉体をより強く、より美しいものにするという意味においては、他のスポーツと同じであるが、ボディビルディグの場合は、より意図的にこれを創造しているのである。したがって、その肉体美の発揮も意図的であり、それが、より美しいボディビルダーの肉体の完成につながっているのである。学生たちのもっている疑問は、確かにボディビルディングの一面を指摘している。そして、そのことが今後の研究課題ともなろうが、多くのボディビルダーが、逞しく鍛えた力強い肉体と、トレーニングによって養われた不屈の精神を、如何にして社会生活に有意義に生かすかということが、この疑問を解決する糸口になるのではないだろうか。
前述のように、女性は一般的に背の高い、スラリとした男性を好むようでスポーツマンでは、バスケットボールの競技者ということになる。そして、筋肉隆々とした肉体には案外冷淡で、無理解であるようだ。これに反して、男性は常に強者にあこがれ、弱い自分に劣等感を抱いている者が多いようだ。それがため、ボディビルダーの筋肉美にも、驚きと羨望の目を向けているのである。したがって、ボディビルダーは女性より、むしろ男性にアッピールするのではないかと思う。
そして、疑問点をあげた者は、極度の筋肉の発達によって、自然美と矛盾するのではないかと述べている。適度な発達はよいが、あまり過度になると人為的で、かえって不自然を感ずるという。また、機能美という点において欠けるのではないかと指摘している。
一方、ボディビルダーの肉体美を賞賛する者は、筋肉のすばらしい発達が古代ギリシャの彫刻でも見るようであり、力強くて逞しさを感ずると述べている。
ボディビルディングは、本来肉体をつくることであるから、自然美というより、むしろ人工美の創造であるといえるだろう。自分の持っている肉体をより強く、より美しいものにするという意味においては、他のスポーツと同じであるが、ボディビルディグの場合は、より意図的にこれを創造しているのである。したがって、その肉体美の発揮も意図的であり、それが、より美しいボディビルダーの肉体の完成につながっているのである。学生たちのもっている疑問は、確かにボディビルディングの一面を指摘している。そして、そのことが今後の研究課題ともなろうが、多くのボディビルダーが、逞しく鍛えた力強い肉体と、トレーニングによって養われた不屈の精神を、如何にして社会生活に有意義に生かすかということが、この疑問を解決する糸口になるのではないだろうか。
月刊ボディビルディング1971年5月号
Recommend
-
-
- ベストボディ・ジャパンオフィシャルマガジン第二弾。2016年度の大会の様子を予選から日本大会まで全て掲載!
- BESTBODY JAPAN
- BESTBODY JAPAN Vol.2
- 金額: 1,527 円(税込)
-