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世界のビルダー●トレーニングの比較(2)
腹筋のトレーニング

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月刊ボディビルディング1971年5月号
掲載日:2018.05.13
高山 勝一郎

まえがき

 ウェストのサイズが片足の太股のサイズと同じ……と聞けば、読者はおそらく、そのような細い腹囲の持主がいるであろうか、といぶかるに違いない

 腹囲=腿囲=29インチ=74センチ……これは、三年連続ミスター・オリンピアの栄光に輝くセルジオ・オリバの偽りのない体位である。

「そもそも腕や胸に2時間を費やす者が、腹に10分か15分しか費やさないとしたら、彼の大成は始めから望みが無い」と彼は語っている。

「私が、1967年度ミスター・オリンピアのタイトルを紙一重の差でオリバにゆずらなければならなかったのは、〝キレ〟の足りなかった私の腹筋に原因があった」と語っているのはハロルド・プールである。

 また、フランク・ゼーンは「他の部位の運動はたとえやらなくとも、腹筋だけは毎日でも鍛えるべきだ。他の部分がどんなによくても、腹筋が悪ければすべてがムダになる」と指摘する。

 チャック・サイプスも「完成された体という概念は、シャープな腹筋から得られるものだ。また、これは外形の問題のみでなく、健康にも不可欠の要素である。腹筋を充分にきたえ込んだ時には、腕や胸の筋肉のつき方まで違ってくるものだ、ということに、あなたがたは気づいているだろうか」と述べている。

―夜寝ていても腹筋運動―
セルジオ・オリバ

 ウェストのトレーニングはウェイスト(無駄)ならず……と説くセルジオ・オリバは、一日少くとも20分を腹筋運動にさいているという。

 しかも彼は夜寝ている時でさえ腹筋運動を忘れていない……といえば変にきこ
えるが事実そうなのである。

 ベッドに入る時に、スリム・ガードをつけ、就寝中つけっばなしのままである。スリム・ガードとは、伸縮性のあるビニール・レザーで作った腹巻きの大きいやつで、腹部と同時にヒップの部分もカバーでき、これをつけていると発汗作用を促し、脂肪をとるのにも効果があるという。

 かの腹筋王、アーゼン・コゼウスキーもこのスリム・ガードの愛用者で、彼は、高回数のシット・アップ種目とレッグ・レイズ種目を毎日採用し、かつ一日中このガードルをつけて腹部を鍛練したと語っている。
(セルジオ・オリバは、このチンニング・バー・ニー・レイズを極限回数まで行なっている)

(セルジオ・オリバは、このチンニング・バー・ニー・レイズを極限回数まで行なっている)

 オリバも、コンテスト前7週間は、一日中このスリム・ガードをつけたままでいたといい、F・ゼーン、A・シュワルツェネガーもまた、この愛用者として知られている。

 いずれ日本でも売り出されると思われるが、百聞は一見にしかずか。

 さて、オリバの腹筋トレーニングを紹介しよう。

 彼は、ねらいとする筋肉部位をあらゆる角度から休みなく攻めたてるという、いわゆるジャイアント・セットを採用している。

 4種目以上、7種目ぐらいを一単位とし、各種目を1セットずつ全く休みをいれずに続けるやり方である。

 腹筋には次の5種目を採用している

①インクライン・レッグ・レイズ
 インクライン・ベンチを用い、顔の直上に爪先がくるまで足を上げつつ息を吐く、腹筋は緊張させたまま足をおろす。カウントは数えず極限まで行ない、そして、休みなしで次に移る。

②チンニング・バー・ニー・レイズ
 
 鉄棒にぶら下り、上体を動かさないよう注意して、息を吐きつつ膝を高く上げる。極限回数行なう。

③ツィスティング・シット・アップ

 頭の後ろに組んだ手の肘が、膝につく迄体をひねりつつ上体をおこす。べンチ斜角は15度で、上体をおろした時も背はベンチにかすかに触れる処で止めること。腹筋が痛みを感じる迄行なう。

④チンニング・バー・レッグ・レイズ

 足をまっすぐ伸ばし、水平よりやや高めにもってきたら3カウントの間そのままホールドしてからゆっくり下ろすのがコツ。

⑤インクライン・トウ・タッチ

 45度斜角のベンチで、シット・アップを行なう際、手をまっすぐ伸ばして上体を起した時に足指に手の指先をタッチさせる。常に腹筋の緊張をとかず極限まで行なう。
(インクライン・シット・アップ・タッチ・トウを行なうサイプス)

(インクライン・シット・アップ・タッチ・トウを行なうサイプス)

 以上のジャイアント・セットを通常2セット、コンテスト前は5~6セットくり返すのである。

―月木・火金・水土法―
チャック・サイプス

 月月火水木金金とは、戦時中の一週間休みなしの訓練を謳歌した歌だが、チャック・サイプスも腹筋にはこれに近い重労働を課している。

 一定の望みの細さになったら週4回におとすが、集中トレーニングの際には週6日休み無く続けるのである。

 しかも週6日を月木・火金・水土の3グループに分け、違った刺戟を得るよう工夫している。

「外腹斜筋は大きすぎてはいけないが、充分筋肉質でハッキリ出ていること。下部腹直筋は平たく固い感じに仕上げ、出ていてはいけない。上部腹直筋はカットを美しくつけ、その形を左右対称にととのえること、というのが彼の理想腹筋である。

◇月曜・木曜

①フロント
 パーを肩にしてこれに両腕をかけ、上体をまげた時肺から全空気を吐き出して、戻しながら息を吸う。ウォーム・アップ用になるべく早い速度で行なうとよい。50回×4セット。

②サイド・ベンド
 ①と同じ姿勢。①が前に上体を倒したのに対し、今度は横に、手の肘がわき腹に深く入る迄曲げること。左右交互に50回×4セット。

③インクライン・シット・アップ
 10kgぐらいのウェイトを後頭部に支持して、腹筋を緊張させたままゆっり行なう。10回×4セット。

◇火曜・金曜

①チンニング・バー・レッグ・レイズ
 腹に充分圧力がかかるよう足を伸ばしてゆっくり上下させる。

②チンニング・バー・ニー・インズ
 ニー・レイズに同じ。腹に膝がつく迄あげ、ゆっくり下ろすのがコツ。

③ジャンプ・ロープ
 いわゆる〝なわとび〟である。パランスのとれたリズムで行なう。

 この①②③の種目は、1セット1分間続け、4セット行なうが、このように1セットを回数でなく、秒または分の時間で(もちろんおおよその時間観念でよいが)考えることもできるわけである。
(サイド・ベンドで外腹斜筋を鍛えるプール)

(サイド・ベンドで外腹斜筋を鍛えるプール)

◇水曜・土曜

①インクライン・シット・アップ・タッチ・トウ
 手を伸ばしたままで20回×4セット

②シット・アップ
 なるべく斜角を急にして20回×4セット。

③インクライン・レッグ・レイズ
 足をおろした時ベンチにのせて体まぬよう3cmぐらい余してとめること。15回×4セット行なう。
(こんなリラックスしたポーズにも、ヘイスロップのすばらしい腹筋がうかがえる)

(こんなリラックスしたポーズにも、ヘイスロップのすばらしい腹筋がうかがえる)

―腹が焼けるように痛む迄―
ハロルド・プール

 世界の著名ビルダーの多くが、腹筋運動でカウントを数えるなどはナンセンスだと主張している。

 カウントを数えていると、心理的にも早く疲れ、また、カウントに気をとられて充分な効果が出ないものだと彼等はいう。

 では1セットをどのくらいの回数やるのかというと腹がやけるように痛み出し、痙孿し始め、もうこれ以上とてもやれないという時点になる迄続けよというのである。いわゆる極限回数とは、その時点に到達する迄の回数なのである。

 ミスター・ユニベース2位、プエルト・リコのジョニイ・マルドナードもこの
提唱者の一人である。

 彼はインクライン・シット・アップ(ウェイトを後頭部に支持)、シット・アップ・オン・フロア(床にねて高回数行なう)、ローマンチェア・シット・アップ(足先と膝を支点にして)を腹筋がバーン(焼ける)してくる迄行なって効果を上げている。

前述のセルジオ・オリバもカウントをとらないし、今から紹介するハロルド・プールも同様である。

彼のコンテスト前の集中トレーニング種目は次の通りである。
(ゼーンは、ツィスティング・シット・アップをニ〇〇回も行なう)

(ゼーンは、ツィスティング・シット・アップをニ〇〇回も行なう)

①ローマンチェア・シット・アップ
 ローマンチェアに足先を固定し、大きくそらした上体をツィスティング・モーションを加えながらおこす。これは余分の肉をけずり上中部の腹筋に非常に効果的である。

②レッグ・レイズ
 フラット・ベンチに仰向けとなり、下半身をべンチの端から出して大きく上下させる。下部腹直筋に効く。

③インクライン・シット・アップ
 アブドミナル・ボード(腹筋台)の傾斜を大きくして用いる。

④ハンギング・レッグ・レイズ
 チンニング・パーにぶら下がり、まっすぐ伸した足をゆっくり上下させる

⑤サイド・ベンド
 両手にダンベルを持って行なう。外腹斜筋によい。

⑥ツィスティング・シット・アップ
 左肘が右膝につくように、また右肘が左膝につくようにツィストしながら行なう。スムースなウェスト・ラインを作るのに効果的。

⑦シザー・レッグ・レイズ
 50度以上のインクライン・ベンチを用い、両足を交互にあげるが、腰をべンチからやや浮かせるようにするとヒップをひきしめるのにもよい。

―食事も腹筋運動のうち―
ジム・へイスコップ

 美しいウェスト・ラインはトレーニングもさることながら、摂取する食物による効果が大であると説くのは、オリバであり、ロイ・パロット(英国のトップ・ビルダー)であり、ジム・へイスロップである。

 ロイ・パロットは、10kgプレートを持って行なうインクライン・シット・アップを60回×5セット、サイド・ベンドを50回×5セット行なうだけで、あとは食事の調整であれだけの細いウェストを得た。

 ジム・へイスロップは、オルタネイト(交互)レッグ・レイズ、シット・アップ、サイド・ベンド(片手にダンベルを持って)、シッティング・ツィスト(10kgパーを肩に持って)、ライイング・ニー・ツー・チェスト(アイアン・シューズを足につけて)、チンニング・バー・レッグ・レイズ、ツィスティング・シット・アップと種目こそ多いが、小セット・システムで、やはり食事に重きをおいている。

 彼等はいう。炭水化物の一日の摂取量は、80グラム以内に押えるべきだ。糖分・脂肪・澱粉の含有率ができるだけ低いもの、そして、魚・肉・卵等の蛋白質、野菜、果物等を充分とるように心がけることが大切である……と。

―朝タ2回の倍増システム―
フランク・ゼーン

 ところが、コンテストが近づくと、たらふく食べて体重を一週間に1ポンドづつ増やそうというサムライもいる。

 ミスター・ユニバースのフランク・ゼーンである。

 いきおい蛋白質と同時に炭水化物の摂取量も多くなる。

 同時に彼は腹筋運動を朝タ2回に倍増させるのである。

「バルクを増やす努力をしている時には、必ず腹筋のトレーニングを増やすことを忘れてはいけない」と彼はいう。しかも、次に述べる各種目を1セットあたり100回と大変な高回数を行ない、これを少くとも2セットは続ける。

①クランピング・シット・アップ

 130cm程の高い台にフラット・ベンチの端をピッタリつけ、これに仰向けにねて、足を垂直に伸ばし、踵を台の端にひっかける。そのまま上体を10度程おこす。これをくり返すと、上腹部に痙孿を生じる程で、上部腹直筋や肋間筋に非常に効果的である。

②ツィスティング・シット・アップ
 ローマンチェアに腰をかけ、足を垂直におろして足先をかけ、上体を静かにおろしひねりながらもどす。

③シーテッド・ツィスト
 ベンチに座りバーベル・シャフトを肩にし、充分腰にひねりを加える。

④ライイング・レッグ・レイズ
 足を上げる時に、頭と肩の部分も少しおこすようにすると、テンション(張力)が増して効果的である。

 いずれにしても腹筋運動は腹部のトリミングを主たる目的とする以上、高回数多種目こそ最も効果的な原則といえるであろう。あとは食事の調整と、トレーニングの頻度を高めていくことで、世界のビルダーたちは腹筋を征服していったのである。

今月のカバービルダー

記事画像6
'70ミスター日本
末光健一
 私の食事は、1回の量は極めて少ないが、回数は1日5~7回(午前8,10,12時,午後3,5時,夜11時,夜中の3時)と非常に多い。
 内容は、野菜を全然とらず、すみやかに栄養を体に吸収させるためにプロティーンを愛用している。また肉1日1kg、玉子20個、牛乳1000~2000cc、トマト・ジュース大カン2本を必ずとるようにしている。そして、こはん、パンなどの炭水化物を控え目にして、バター、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品を多くとる。
 とにかく、胃腸の消化・吸収能力を高めることが大切だと思う。
月刊ボディビルディング1971年5月号

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