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機能と形態による肉体美観
ビルダー・タイプとリフター・タイプ

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月刊ボディビルディング1971年6月号
掲載日:2018.02.22
早稲田大学体育局講師
加藤 清忠
 スポーツを少しでも行なったり、見たりしたことのある者ならすぐに、スポーツ種目によって、それを行なう競技者の体型に相当特徴があることに気づくであろう。運動を遊びやレクリエーションの手段としている人は別として、体力の向上や競技力の向上を目ざして、ある程度熱心に、しかも、長期間にわたって行なっている人の場合はそのスポーツの目的にあった体形が自然につくられていくのである。
 ある運動種目の優秀な選手になるために、まず問題になるのが「才能」である。これは、その人の生まれもった運動能力を意味しており、「才能」がその種目に適していなければならない。天賦の身体が運動能力に大きく影響するのである。
 次に問題になるのが「訓練」である。これは、その運動を通じてそれに適した身体をつくることを意味している。才能が先天的なら、訓練は後天的といえるが、このような相互作用によってスポーツマンの体形がつくられることになる。走る人は走るための、跳ぶ人は跳ぶための身体というように、その目的に合った合理的な身体ができあがるのである。
 このような観点から、同じバーベルによってトレーニングをするといっても、それぞれ目的の異なるボディ・ビルダーとウェイト・リフターの体型について述べてみたい。(ここにいうボディ・ビルダーとは、いわゆるボディ・コンテストを目指すビルダーのことであって、同じビルダーでも、パワー・リフティングを目指すビルダーは、ウェイト・リフターの範囲に入ると考えられる)

ビルダーとリフター

 どちらの場合もウェイトを用いての抵抗運動であり、しかも、その結果同じように筋肉隆々とした身体の持主となる。そしてちょっとその身体を見ただけでは、筋骨逞しい逆三角型の肉体美として、同一視されてしまうかも知れないが、もう少し注意深く観察すると、いろいろな面で異なることがわかる。
 まず、ビルダーの目的は、筋肉美を中心とした美しい肉体づくりであり、筋肉の調和的発達に重点が置かれる。これに対してリフターは、できるだけ筋力を強化して、重いバーベルを持ち上げるために全精力を集中する。
 また、ビルダーは筋肉をより効果的美的に発達させることを目的としてトレーニングをかさね、筋肉美による形態美の極限を目ざすのである。その結果、当然装飾的方向をたどることになる。これに対してリフターは、筋肉をより効果的、機械的に発達させるためのトレーニングをして、力の極限を目ざすのであるから、機械的方向をたどることになるのである。
 本来、バーベルやダンベルのようなウェイトを用いてのトレーニングでは「形」と「力」といった両方の効果が同時に得られるのであるから、当然、両者が一体となっているべきものであろう。肉体美の持ち主は力も強く、また逆に、力の強い人は筋肉美の持ち主であるというように。
 しかし、それがいつの間にか専門化され、分化されてしまったのである。「形」の面がボディビルディング、そして「力」の面がウェイトリフティングとして発達してきた。そこで、肉体の基本的立場から、形態と機能という両面を考えれば、ビルダーの場合は形態→機能、リフターの場合は反対に機能→形態という方向をとっているといえるだろう。
記事画像1

体型的特徴

 ビルダーは意図的に筋肉の調和的な発達を目的とするのであるから、まず見ばえのする筋肉(Showy Muscle)を特に強調する傾向がある。しかもそれが前面から見た場合の効果を中心としており、したがって、ビルダーは前面的な体型の印象が非常に強い。たとえば、上腕二頭筋、広背筋、大胸筋、腹筋、大腿四頭筋等の発達が著しく、とくに大胸筋、広背筋の発達に重点を置き、腹部をひきしめて、いわゆる逆三角形(V Shape)の体型をつくりだす。
 もちろん、究極的には、身体のどの筋肉もシンメトリカルに、充分に発達することを目ざしているのであるが、見る人に効果的印象を与えるという点から前述の諸筋肉を発達させることが非常に重要な要素となってくるのであると思う。
 しかし、リフターはバーベルを引きあげたり、頭上に押しあげたり、支持したりという機能力の発揮にともなって、僧帽筋、三角筋、上腕三頭筋、固有背筋、大腿四頭筋等の諸筋肉の発達がとくに著しく、ビルダーとは反対に胸囲と腹囲との差が比較的少ない胴太のズングリ型をしている。身体に厚みがあり、量的であって、その点、側面的な体型であるということができよう。
 つぎに、具体的に早大バーベル・クラブの磯村君と、ウェイトリフティング部の高林君の2人について比較ちてみよう。両君とも、トレーニング歴4年で、磯村君は1967年度のミスター関東学生チャンピオンであり、高林君は、ミドル級のリフターとして大いに活躍した選手である。
 ビルダーとしての磯村君は均斉がよくとれて、筋肉の外表度(デフィニション)にすぐれているが、体重がいかにも少ないように思う。しかし、上腕二頭筋、広背筋、大胸筋等がよく発達していて、腹囲と胸囲比の大きい、いわゆるビルダー・タイプをつくりだしている。
 高林君の身体は、一見して丸太のような感じのする、まさしくリフター・タイプである。僧帽筋、三角筋、上腕三頭筋、大腿四頭筋等の発達が目立ち、腹囲と胸囲比の少ないリフター・タイプの代表的な体型といえよう。
<第1表>

<第1表>

リフターの高林君(上)とビルダーの磯村君(下)

リフターの高林君(上)とビルダーの磯村君(下)

記事画像4

体型の美的効果

 このような体型の異なるビルダー・タイプとリフター・タイプが、肉体美の上からどのような美的効果をもたらすか、ということについて述べてみたい。
 両タイプの最も大きな違いは、腹部と胸部との関係にある。腹部には消化器官が内在しており、しかも身体の中心部に位置しているから、それが大きいということは、身体に安定感や量感を与える。そして、それが緊張感や精力感につながることになるが、あまり過度になると、不活発で、しかも滑稽的な印象を呈してしまうことにもなるのである。
 これに対して、腹部をひきしめ、呼吸循環器官に代表される胸部を強調することは、活動的な力強さ(力動感)とともに、男性的な情動効果(男らしさ)を大きくすることにもなる。したがって、ビルダーが動的であるなら、リフターは静的な体型であるといえよう。つぎに両タイプを比較対照させてみたのが前ページ第1表である。
 この表の中にある姿勢型(Apparent Posture)とは、身体の見かけの姿勢のことであって、ビルダー・タイプでは、上背部よりも胸部の発達が著しくしたがって後伸的であるといえよう。そして、その美的効果は、外向的で能動的印象を与える。しかし、リフター・タイプでは反対に、胸部に比して、上背部が非常によく発達しており、その姿勢型は前屈的である。そして、内向的で受動的な印象を与える。
 このような、ビルダー・タイプとリフター・タイプの傾向は、世界的なビルダーとリフターにおいても明らかである。1967年度ミスター・アメリカになったデニス・ディネリーノと、重量挙ミドル級世界チャンピオンであるソ連のビクトル・クレンツォフを比較すると、どちらもすばらしい身体の持ち主であるが、ディネリーノがいかにも静的な肉体美であるのに対して、クレンツォフは動的で機能的な印象が強い。
 要するに、ビルダーは最初から肉体美をつくることが目的であり、事前的意図的に肉体を形成するのであるから、その肉体美もより形式化することによって一層効果的に発揮されるのである。静的美(Static Beauty)として静的な肉体に動勢とか、男らしい力強さを暗示すること(静中動)、すなわち有用であるように見せることによって、より美的効果を生むことができるのである。
 リフターの場合は、機能力の向上にともなって、いわば事後的に形成された肉体であるから、その肉体美は静的に見せることではなく、機能化されることによって発揮される。全力を出しきる姿において、いわゆる動的美(Dynamic Beauty)として、動きの中でこそ、より美的存在となることができるのである。(動中静)。
 もちろん、すべてのビルダーとリフターが、この両タイプに属するという意味ではない。ボディビルディングを行なっている者の中にもリフター・タイプがいるであろうし、ウェイトリフティングを行なっている者の中にもビルダー・タイプがいると思う。しかし全体的にみて、充分経験を積んで優秀になればなるほど、この傾向が著しくなるのである。経験年数1~2年でこの傾向が現われはじめ、4年ぐらいすれば非常に顕著になるのが一般的傾向である。
デニス・ティネリーノ(上)とビクトル・クレンツォフ(下)

デニス・ティネリーノ(上)とビクトル・クレンツォフ(下)

月刊ボディビルディング1971年6月号

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