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体力づくりの基礎知識
3 身体運動と筋肉

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月刊ボディビルディング1971年6月号
掲載日:2018.02.19
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東京薬科大学教授 坪井 実
 身体各部の運動とは、関節を軸として骨が動くことであり、骨は筋の収縮によって動く。そして、筋肉は1つ、または2つ以上の関節をまたいで骨に付着している。したがってこのような筋肉が収縮することによって、身体各部の運動がなされるのである。
 関節を大きく分けると、可動関節と不可動関節に分けられる。不可動関節というのは、前号に述べたように、頭骨などで、骨同志が固く結合して動くことのできないものである。可動関節とは、肩関節のように、ある程度自由に動くことのできる関節のことである。なお、関節の構造は、骨の凹んだところへ、現状の骨の頭がはまり込んだようのものや、車輪の軸受けと車軸のような形になったものなど、さまざまな構造のものがある。
 前者の運動は比較的自由で、どのような方向にも動くが、後者は、車軸状の骨の回りを回転するだけである。このように関節の構造によって、運動の範囲が制限されるわけである。

関節の構造と運動の方向

①球関節
 前述したように凹部と球部との関節面によって構成される関節である。肩関節がこれであって、腕や足を自由に動かすことができる。股関節もこれと同じような構造であるが、凹みが深いために、他方の骨の頭がスッポリと、はまりこんでしまう関係上、その運動は肩関節より制約される。
②蝶番関節(第1図参照)
 第1図のように、一方の骨が滑車となり、他方の骨が溝となって、ちょうど蝶番のような構造になったものである。したがって、運動の方向は、ドアーの開閉のようになる。肘の関節や、指の関節の動きを想像していただきたい。
第1図(蝶番関節の模型)

第1図(蝶番関節の模型)

③車軸関節(第2図参照)
 これも前項に述べた、第一頸椎と第二頸椎とによって構成される環軸関節がそれである。東部は、この関節によって左右に回転することができる。
④平面関節
 これは関節面の平面なものである。脊椎の関節がそれである。上下の脊椎骨が積み重ねられて関節を作っている。したがって、運動は著しく制限される。
⑤半関節
 関節面が小さな凹凸に富んでいて、お互いに噛み合って、ガッチリと結合している。したがって運動性はゼロに近い。仙腸関節、手根間関節などである。
⑥顆状関節
 関節頭面が楕円形のものである。
⑦鞍関節(第2図参照)
 関節面が馬の鞍状で、2つの互いに直角な方向に回転する(2軸性。母指の手根中手関節)。
以上関節の構造から考えられる運動の方向について述べたが、この他の関節の動きは、これを構成する関節包や靭帯、筋肉などの状態によって、さらに制限されるわけである。たとえば、環軸関節を例にとってみよう。この第一頸椎と第二頸椎によって構成される関節は車軸関節であるから、頭部はグルグル何回でも回転できるわけである。しかし、実際は靭帯や附着筋などのために制限されて、顔を後に廻すようなことはできない。

関節の運動

 身体の諸部の運動は、すべて関節の働きによってなされる。この関節はすでに述べたように、各関節の構造によって、運動のようすが異なっている。関節をつくる骨どうしの角度を変える運動としては、屈曲、伸展、内転、外転、回内、回外、描円、回転などの別がある。(第3図参照)
 
屈曲-骨どうしの角度を少なくする運動。
伸展-骨どうしの角度を大きくする運動(足関節、すなわち足くびの関節などでは、屈曲を背側屈曲、伸展を底側屈曲とよんだ方が理解しやすい)。
外転-体肢を正中面から遠ざける方向の運動。上下肢の外転とは上下肢の外方に上げる運動。
内転-体肢を正中面に近づける方向の運動。上下肢ならば外方に上げたものをおろす運動。手足の母指の場合には、これと異なる。すなわち、手の指のときは中指を中心にして、これから遠ざけるのを外転、近づけるのを内転といい、足の指では、第2指を中心に内・外転を決める。
描円-以上の運動が総合されて、体幹や、体肢の一端で円を描くような運動をいう。(上肢を伸ばして円を描く場合)
回転-身体のある部の中軸を軸として、コマのように回転する運動で、その部の位置は変らない。内側回転とは内側に(正中面に近づくように)外側回転とは(正中面から遠ざかるように)回転することである。
 しかし、前腕の回転には特別なことばを用いる。すなわち、前腕をさし出して、手のひらを上に向けた位置(このときには墝骨と尺骨とは平行する)をとらせる運動を回外という。その手のひらを伏せるような位置をとらせる運動を回内という。右手でドアのハンドルを右にまわす運動は回外、左にまわす運動は回内である。
第2図(関節の模型)

第2図(関節の模型)

関節運動の障害

①捻挫と脱臼

 関節はその構造によって、運動に一定の制約をうけるが、ムリな外力が加わると靭帯が伸びすぎ、また裂けて捻挫をきたし、関節部の痛みや腫れを生じる。このため、関節運動が困難となる。
 外力がさらにはなはだしく働くときには、骨の相互の位置が乱れて、関節面がくい違い、または、まったく離れる。これを脱臼という。そして、脱臼がはなはだしいときには関節包が傷つけられる。脱臼がおこると関節運動が不能となる。ちょうど蝶番のはずれたドアーのようなものである。また関節の形が変わる。幼児はとくに脱臼をおこしやすい。あごがはずれるというのは顎関節の脱臼のことである。
 関節別の脱臼の頻度は、肩関節がいちばん多く、脱臼事故の半数はこれである。ついで多いのが、肘関節で、以下、手根関節と指関節、胸鎖関節、顎関節、股関節、足関節、膝関節という順である。捻挫の最もおこりやすいのは足関節で、すなわち、足くびの関節である。突き指は、指関節の捻挫である。
第3図(運動方向の命名)

第3図(運動方向の命名)

②下肢の変形
 O脚(内反膝)、X脚(外反膝)はビタミンD不足のくる病や、幼い子供をムリに歩かせるためにおこる。また先天性奇形に内反足があり、また長い立業に従事するものは扁平足をおこしたりすることがある。

③関節炎と関節強直
 種々の原因で関節炎がおこる。これには細菌性のものや、リュウマチ性のものがある。痛み腫れ、発赤、運動障害がおこる。また、化膿性の関節炎、淋菌性や結核性の関節炎の経過後に関節の強直をのこすことがある。このときには関節運動はまったく停止し関節としての用をなさなくなる。

4 筋の収縮とその方向

 筋または腱が、1つの関節をはさんで2つの骨の間で、収縮するときの運動方向がきりかえられる。また、1つ以上の関節と、滑車とをさしはさむ場合には、その運動方向は関節運動の総合となる。(深指運動:尺骨→手の第2~第4指および小指の末端)
 ※滑車とは、筋を支持つる靭帯または軟験で、筋の方向を変えるのに役立つ。

5 主な骨格筋とその作用

 筋の両端のうちで、体の中心に近い方を起始部、遠い方を停止部という。おもな骨格筋の起始部→停止(附着)部とその作用を次のそれぞれの図に示す。
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今月のカバー・ビルダー
'70 WBBG プロ・ミスター・アメリカ リッキーウェイン

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 リッキー・ウェインは、ビルダーとしてはもちろん、プロの歌手としてもよく知られている。16歳のときすでに上腕囲が38cmもあったというから天性の素質にも恵まれていたのだろうが、トレーニングも人一倍熱心に行なったようである。
 彼は現在、アメリカのトップ・シンガーの1人として高く評価され、テレビに出演したり、ボディビル雑誌に健筆をふるったりして忙しい毎日を送っている。
 なお、この写真は、フランスのカメラマン、グレゴール・アラ氏の撮影によるものである。
月刊ボディビルディング1971年6月号

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